ミラに着いたばかりのとき、ラオさんの魂は死んでしまったも同然だったのですよ。それが最近は何か目的を見つけたようではつらつとしていらっしゃる。私はそれが嬉しいのです。
ラオチームの古参兵 ザイデン

スクショ? ・・・本当に撮り忘れました。
アヴァランチの破戒僧
先日千切れた腕が新品になったので、今日も今日とてお仕事です。
そういえば、マ・ノンの人たちは母艦ごとNLAに引っ越すことになりました。
あの人たちテクノロジーは地球人よりもグロウスよりも発達しているはずなんですが、どうも根っからの能天気らしくって、兵器開発が苦手なんだそうです。あの立派な艦も、ビーム兵器への防御は完璧なのに前時代的な質量弾対策は考えてもいなかったとかで、とてもじゃないけど自衛できないと。
私たちが彼らの安全を保証する見返りに、こちらは技術供与を受けるって互助関係になったわけです。

パトロール中にいろいろ聞こえてきたんですが、あちらの星では産業の大部分をオートメーション化していて、みんな一日の大部分が余暇の時間みたいになってるんだとか。・・・楽しそうだけど、それはそれで持て余すなあ。
ただ、享楽的な暮らしをしている割には娯楽文化があまり発達していないみたいなんですよね。NLAに来てからなんかちょっと尋常じゃないくらいピザが大ブームになっているらしいんですけど、それも母星じゃ食事を楽しもうって発想自体がなかったからだとかなんとか。
自分の家を持つって文化も無くて、寝るのはいつも狭いカプセルの中。地球人が家に家具とか癒やしグッズとか置きたがる意味がわからないみたいです。
じゃあせっかくの有り余る時間をいつも何して過ごしてるのかっていうと、ひたすら新技術の研究をしているっぽい。だから、どう見ても研究職じゃない人たちまで先進技術に堪能なわけです。
喩えるなら惑星丸ごとビッグテックの本社ビルみたいな感じなんですかね? 好奇心って偉大。
さて。今回の任務は孤立したブレイド隊員の救出です。ボウズさん?ってベテランの人と一緒に行くことになりました。士官学校の元先生だそうです。
東洋思想にハマっているらしくって、なんか精神的な話をいっぱいしてきます。私、割とあからさまにテキトーな相づちを打っているはずなんですが、全然気にしてなさそうというか、むしろ楽しそうというか。いや、逆に気に入られつつあるというか。なかなか“強い”人です。
マ・ノン人が理系の最右翼集団みたいなところありますから、文系のこの人はちょうど正反対というか、一周まわってそっくりな印象すらあります。主に、私では価値観レベルでついていけそうにないところなど。
世のなかこういう人たちばっかりだったら楽なのになあ。ある意味自分の世界に浸ってるというか、他の人のやることにはちょっとやそっとじゃ動じない懐の大きさがあるというか。
・・・と。
私がそのようなことを考えながら歩いていると、突然ボウズさんの顔が険しくなりました。
視線の先にはケガをして道ばたに座り込んでいるマ・ノンの人。
「知ったことか。俺たちには救わねばならぬ者がいるのだ。このような異星人になど構ってられん」
ああ、なるほど。
つまり私はボウズさんにとって「身内」だったんですね。
この人は「身内」と「それ以外」をはっきり分けて考える人で、だから身内である私にはとことん優しくしてくれる。反対に、異星人である目の前の彼にはまだ何もされてなくても最大限警戒して当たる。うん。私としては得したなーって感じです。
ただ、私って一応コンパニオンなんですよ。NLAの住人たちの悩みや相談事を聞くのがお仕事。
で、このあいだ地球人とマ・ノン人の偉い人同士が話しあって、彼らは新しいNLAの住人として一緒に住むことになりました。だったら私はその方針に従うだけです。
助けます。地球人も、マ・ノン人も。

「――わかった。従おう。俺は異星人など助けようとは思わんが、オヌシと言い合う気もないよ」
そこは、ボウズさんもいつか私の考えかたをわかってくれると嬉しいんですが。
だってほら、世のなかそういう人だらけになってくれたほうが、絶対私が楽できますし。
パスファインダー
物資不足で立ち往生したパスファインダーチームの救援任務を受けました。
パスファインダーといえば、まだ誰も到達していない惑星ミラの未開拓地域にいち早く進出し、データプローブを打ちこんでNLAへ情報を届ける、いわば開拓事業の最前線。サバイバルのプロフェッショナル集団です。
それが物資不足で帰って来られなくなるだなんて珍しい話。
しかも、その立ち往生したチームというのが、よりにもよってラオさんのところなんだそうです。
地球時代に一緒に仕事をしていたっていうダグさんの話によると、ラオさんはまさに英雄と呼ぶにふさわしい人。あのマジメなダグさんが頼りにするくらいですから、優秀なのは間違いないはずなんですが・・・。
いざ物資を担いで駆けつけてみると、そこにラオさんはいませんでした。
ラオさんはひとりでどこかに行ってしまって、部下の3人だけで任務に当たっていたんだそうです。どうやら最近よくあることのようで。
「いや、お嬢さん。それは私らのミスなんですよ。あの人が足手まといを放っておいて単独行動してしまうのは、昔からよくあることなんですから」
でも、3人ともラオさんへの不満はほとんど口に出しません。というか、これだけないがしろにされていても心から彼を信頼しているみたいです。
私も相当だらしない人だっていう自信はありますが、そんなふうに任務を放って誰かに迷惑をかけるようなことをするかというと、しない。うん、しないと思う。
だって面倒くさいもん。あとであちこち謝ってまわるのとか、信頼を取り戻すために人一倍がんばっているところを見せなきゃいけないこととか。それくらいだったら地道にコツコツやってたほうがマシ。
ラオさん、いくら周りを理解者で固めているとはいえ、挽回しなくてもいつまでも尊敬を集めていられるって考えるほどお花畑さんだとは思えないんですが・・・。
「ラオさん自身は自分の能力を生かすために白鯨に載ったわけではないのです」
「ラオさん、奥さんと娘さんを白鯨に乗せたかったんですよ。自分の能力があれば、家族にも乗船券を手に入れてやれるかもって。でも――」
話によると、ラオさんは地球から逃げるときに家族を失ってしまったんだそうです。それで一時期、抜け殻になったみたいに落ち込んでいたって。
なんだか、イヤだなって思います。
まるで風船をつなぎ止めていた糸が切れて、今にもどこか遠くに飛んでいってしまいそうな、イヤな想像をしてしまいます。せめて、この人たちの優しい気持ちがラオさんの心に少しでも引っかかってくれていたらいいんだけど。
タツの家族
タツの家族に会いに行くことになりました。
タツというのは、えー、なんというか、一緒のブレイドホームに住んでいる居候です。

ノポン族という、この惑星ミラの先住民みたいな・・・? 知的毛玉生物みたいな。グロウスに食べられそうになっていたところを私たちが保護しました。
よくわからないですが、ブレイド隊には所属していないっぽいです。仕事も特に命じられていないっぽいのですが、よく私たちの任務についてきています。私が聞き流していただけで、もしかしたらそれが仕事なのかもしれません。あんまり興味ないけど。
たまに人の神経を逆なでするようなことを言うので、リンさんなんかはよくイラッときているっぽいです。私も混ざってその都度反撃しているんですが、一言二言イタズラし返したあたりでなんとなく「このくらいにしといてやるか」みたいな気分になるのは人徳ってやつでしょうか?
実際、別に嫌いじゃないです。居るのと居ないの、どっちがマシかっていったら、うん、僅差で居てくれてもいいと思う。
タツはグロウスに捕まる前、家族と一緒に各地を転々としながら行商をしていたんだそうで、最近たまたま元いたキャラバンが夜光の森でキャンプを張っていることがわかりました。せっかくだし会いに行ってみようという話ですね。
「あ、トーチャンだも!」「トーチャン!!」「トーチャン! お腹すいたも!」「トーチャン、土産くれだも!」
キャラバンに到着すると、タツの周りに小さな毛玉たちがまとわりついてきました。
まさかアレで5児の父親!?
にわかに凍りつく私たちでしたが、すぐに子どもたちのお母さんが出てきて誤解を解いてくれました。本当は彼らはタツの弟妹なんだそうです。なるほど。テキトーというか何というか、・・・ちょっと気が合いそうな気がしてきました。
タツのお母さん、カカさんが言うには、タツがグロウスにさらわれたときキャラバン自体も散り散りになっていたんだとか。一歩間違えていたらタツだけでなく家族まで命を奪われていたかもしれません。そう思うと、これ結構奇跡みたいな光景なんだろうなって――。
・・・隣でリンさんがうるうるしています。そっとしておきましょう。
タツには13歳の誕生日になったら受け取る予定だったお父さんのメガネがあったんだそうです。
ただ、カカさんタツが死んじゃったと思っていたものだから、手向けとしてそのメガネを海に流しちゃったんだって。
【想い出よりこれからだと語る】
と――。リンさんがまるで人でなしを見るみたいな冷たい目をこちらに向けました。
あれ、何か間違えた・・・?
あとで聞いた話なんですが、リンさんはご両親を事故で亡くしているんだそうです。
ふたりとも優秀なエンジニアだったそうで、私たちが乗っていた宇宙船・白鯨の建造プロジェクトでも大きな役割を果たしていたと。リンさんはご両親の功績のおかげで白鯨クルーに選んでもらえたところもあると考えているみたいで、今でもすごく誇りに思っているそう。
だから、こんなに私のことを怒ったんですね。
知らなかったとはいえ、うん、たしかに倫理観に欠けたことを言ってしまいました。反省。
リンさんの年齢を考えたら、だってただでさえ13歳ですもんね。お父さんお母さんへの愛着がひときわ強い年頃だってこと、気づいてあげられなきゃダメでした。リンさんがいくら普段すごいしっかり者に見えたとしても。
リンさんとタツにしっかり謝って、それから私たちはお父さんのメガネを探しに行きました。
リンさんとてもはりきっていました。
そのあとひとつ、腰が砕けるようなオチがついたのはまた別のお話。
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