ふん。こいつらグロウス連中も使い捨ててやるつもりだったんだが――、イライザとお前のせいでうまくいかないものだ。
エスニックナショナリスト アレックス

Switchのバッテリーのふくらみは日に日に酷くなる一方なのですが、このたび私はSwitch 2の抽選に無事【落選】しました。
・・・早くこのゲームクリアしなきゃ。
NLAパトロール記録
獅子奮迅
セントラルライフでの決戦の少し前から、NLAはラース人とも友好関係を築いていました。
独立勢力となった彼らが再びグロウスに味方しない確約が欲しいという打算ありきの友好条約でしたが、医療物資などの支援を行ったこともあり、結構真心の通った関係を築けていると思います。
今回はラースの技術を盗用して製造されたというグロウス製ドールの破壊任務に協力することになりました。
こちらも、私たちにしてみれば今後どうせヴォイドの配下に入ることが明らかなんだから、今のうちに潰しておきたいという計算あってこその共同任務でした。
ミラにいるラース人勢力は母星を失った亡命政府。彼らは義を重んじる民族だとはいえ、養わなければならない非武装市民を抱えている集団でもあるので、少なくとも表向きは友好関係にあることのメリットを常に提示しておきたいというのが暫定政府の判断です。現場レベルでは正直貸し借りなんて面倒くさいだけだと思っているんですが、着せられる恩はできるだけ着せておかなければなりません。

「ふむ。借りをつくったままというのは面白くない。地球人よ、早く窮地に陥るがよい。楽しみに待っているぞ」
任務完了後、私がわざとらしく恩着せがましい報告をすると、ガ・デルグ王太子殿下は愉快そうに笑って物騒な皮肉を返してきました。どうやら小粋なジョークとして気に入ってもらえたみたいです。
私たちの関係はこれでいいんだろうな、と私も思います。
ピュア
商業エリアで暇そうにしているグインさんとミトスさんを見つけました。
何しているのか聞いてみると、イリーナさん含め3人でディナーに行くつもりだったのが、予約の時間まで少し時間があるということで、イリーナさんひとりで買い物に行っちゃったんだそうです。それでふたりとも待ちぼうけ。
そんなに暇ならイリーナさんへのプレゼントでも買ってきたらいいんじゃない? と提案しておきました。
ちょっと前にリンさんに教えてもらったんですが、どうもグインさん、イリーナさんのことが恋愛的な意味で好きらしいので。
「プレゼントって・・・。と、特別な日でもないですし、渡す理由がないですし、イリーナ中尉も訝しむに違いないですよ! でも、イリーナ中位の今度の誕生日には任務の報酬を全部使って、すごいものをプレゼントしようと考えているんですよ。サクラバ重工の最新のアサルトライフルを!」
言い訳が長い。
言われるまでグインさんの気持ちにまったく気づかなかった私が言うのもなんですが、この人ダメみたいです。
ディナーに誘われた相手を放って自分の用事をこなしているイリーナさんも大概なので、もしかしたら一生このままかもしれません。

ふと横を見ると、ミトスさん死んだ魚のような目をしていました。死後何日経過しているんでしょう。もうほとんど腐りかけみたいな、濁りきった目でどこか遠くを眺めていました。
たぶん、この人も軽く背中を押してやるつもりだったんでしょうね。それがなぜか自分も付き添うハメになって、しかもこんな不毛なラブコメを見せられている・・・。
イリーナさんがお店から出てきたみたいです。私は急いでその場から離脱しました。
商業エリアを出るまで、いつまでもいつまでもミトスさんの恨めしそうな視線が背中に突き刺さっている気がしてなりませんでした。
謀略のミーア
「実はこの前から潜入捜査していたんです。サクラバ重工からの依頼で、新兵器の情報を盗もうとしている不届き者を捕まえるって任務だったんですよ」

工業エリア、夜更けの人気の無い路地裏で、2人の男たちが地面に転がっているのを見つけました。すぐ傍にはブロンドをショートカットにした小柄な女性の姿。ミーアさんでした。
なんというか・・・、あまりにもミーアさんらしい任務に取り組んでいたみたいです。
「どうやらセンパイも驚かせちゃうくらいに私は成長したみたいですね! でも、今回はサクラバ重工の協力もあったからできたこと。もっともっとすごい任務をひとりでこなして、センパイに追いつくからね!」
凄惨な絵面に全く似合わないハイテンション。夜空に浮かぶ月どころか太陽よりもはるかにまぶしい笑顔を見て、正直私は引き気味だったんですが、ミーアさんはそんな私の様子に気づくことなくやる気いっぱいでした。
たぶん、とっくに追い抜かれています。
Phat Man
「君には一番見られたくなかった・・・。秘密の特訓をしていたらたまたま犬が寄ってきたんです。今日が初めてなんですよ、犬を撫でるなんて!」
住宅エリアを歩いていると、突然挙動不審なエリートさんが話しかけてきました。
どうやらすぐそこの路地でうちのペットの犬をかわいがってくれていたみたいです。全然気づきませんでした。

「君の犬だったんですか!? そうか、どうりで僕が秘密の特訓をしていると邪魔をしに現れるわけだ」
知らない、知らない。
たしかに、ときどきエリートさんが路地裏とかで腕立て伏せしているところに出くわすことはありますが、それは私がコンパニオンで、街のなかをくまなくパトロールしているからであってですね・・・。というか、なんでわざわざ外で筋トレしてるんですか、この人。ジムでやれ。
「そうだ。以前の発言をひとつ撤回させてくれませんか。少し前の僕は間違っていました。NLAは休息する場所ではなく、自分を鍛える場所だと言っていましたが、犬と触れあっていると気づいたんです。僕たちブレイドがNLAにいるときにすること、秘密の特訓ももちろん大切なんですが、僕たちが守るべきものを確認することも大事だとわかったんです! でなければいくら使命感が強くたって、何のために戦うのかが曖昧になってしまいます! 僕たちブレイドが努力するのは、この惑星ミラに地球のような環境をつくり、生きていくことなんですよね――! 今日はいい日ですよ。この犬に出会えたことに感謝です。ついでに君にもね!」
知らない、知らない、知らない。
まるで自分の尻尾を追いかけて遊んでいる犬みたいに、なんかエリートさんひとりで興奮して、ひとりで盛り上がって、ひとりで演説しはじめました。
・・・というか、ここイシュメルヒルズ(高級住宅地)ですよ!? 誰か助けて!
あとでヴァンダム指令に呼び出されたのは言うまでもありません。
家族はいる方がいいじゃない

リンさんと一緒にブレイドホームへ帰る途中、コレペディアンのマードレスさんが猫を撫でている場に遭遇しました。
切れ長の目をした美人さんなんですが、とにかくお金にがめついって、とんでもなく評判が悪い人です。こんな優しい目をしているのは私も初めて見ました。
視線に気づいたマードレスさんがこっちを振り向いたので、とりあえず「ノラ猫同士で毛づくろいしているみたいでかわいかったですよ」って正直な感想を言ってみました。
リンさんに後頭部をはたかれました。
マードレスさん、にやーって怪しく笑って、
「今の私にはぴったりかもしれないわね。でも、ノラ猫はさびしいわ。ふらっとどこかへ行ったりして、家に帰ってきたときにいなくなっていたら心配になるでしょ」
そう言ってスタスタ去って行きました。
私とリンさんは顔を見合わせて、思っていた以上にかわいい人なのかもしれないって話をしながら帰りました。
ちきゅう
「あなたの故郷、地球はどんな場所だったんですか? よければ教えてほしいです」
セリカさんとロックさんが公園を散歩しているのを見つけました。
まだときどきロックさんの大きさを見てギョッとする人はいるみたいですが、それでもだいぶ馴染んできたみたいです。
セリカさんは公園の緑が気に入った様子でした。地球人と同じ祖先を持つクリュー星系の出身なだけあって、地球から運んできた木や花も故郷のものとよく似ているんだそうです。
懐かしそうに目を細めるセリカさんから、地球はどういう星だったのか尋ねられました。
・・・私にそういう情緒が問われる質問をされても困る。
とりあえず、陸と海の割合は3対7だったらしいですよ、とだけ答えてみました。

「へえー。・・・あれ? それだけですか?」
困惑していました。
「・・・それでどんな星だったかは私が想像すべきってことですね!」
あげく、なんかいいように受け取ってもらえました。
ロックさんとふたり、セリカさんが一生懸命想像をふくらませる地球の物語を聞きながら、しばらく和みました。
いやあ・・・、この人本当に顔がいいなあ。
街

「ミルストレアはこの街をどう思う?」
パトロール中、商業エリアを視察中のナギ長官に出くわして意見を求められました。
私は、お偉方にヘタなこと言って自分の見解がブレイド本部の方針に何か影響を及ぼしてしまったらたまったもんじゃないと思ったので、できるかぎり頭を空っぽにして、見たまんまのことを答えました。
あそこにあるのは地球人の服飾店です。最近マ・ノン人が開発した香水も置くようになりました。今通り過ぎたのはバイアス人の大樹の一族。向こうから来たのは岩窟の一族。よかった。ケンカは起きずに済みました。そこで街路樹を食べているオルフェ人には後で注意しないといけません。今ラース人を連れて裏路地に入ったノポン族は何かしらの悪徳商法に勧誘するつもりです。私は関わりたくないので他のコンパニオンに通報してください。――そんな具合に。
「嬉しいことだ。目のつけどころが俺と同じだな。――街を行き交う地球人と異星人。この自然な光景を見ていると、希望を再確認できたんだ。宇宙も捨てたものじゃない、とな」
ナギ長官は眩しげに目の前の光景を見つめて、うんうん頷いていました。
なお、ノポン族への対応はきっちり私がやらされました。
整理と記憶

ダグさんに相談を受けました。ラオさんがMIAと認定されたので、友人としてブレイドホームの整理をしているんだそうです。
ラオさん、重罪を犯してしまったので、他のブレイド隊員と違って肉体を蘇生してもらえる見込みがありません。もはや私物を残しておく理由もなく、近いうち全て押収され、処分されてしまうんだそうです。
だからダグさん、本部にお目こぼししてもらえる程度に最低限だけ遺品をちょろまかしておこうと考えているんだとか。
「お前な・・・。こんなときに冗談はよせよ。酒は俺がもらおうと思ってたんだぞ!」
ラオさんは英雄と呼ばれた人だけあって、結構お高いお酒のコレクションを持っていたはずです。それを何本か譲ってほしいと言ってみたら、さすがに怒られました。
盗るなら自分が飲む、と言うあたりがさすがダグさんです。
もしラオさんがNLAに帰ってきたら一緒に酌み交わすつもりだというので、そのときは私も誘ってほしいと言っておきました。
たぶん、そんな日は来ません。
万が一ラオさんが生きていたとしても、帰ってきた瞬間営倉入りです。
それがわかっていてもラオさんのことを思う。ダグさんのそういう夢想家なところ、私はカッコいいと思っています。
理想
先日、市民活動家のイライザさんが暗殺されかけるという物騒な事件があったんですが、その後の調査により指名手配中のテロリスト、アレックスさんが黒幕だったことが判明。ノポン族の情報網を使って彼の根城を突き止めました。
NLAが異星人と共存する都市になったことが許せない彼はデフィニア人勢力の残党と結託、NLAの武力制圧を企てていたようでした。
NLAに異星人が住むようになったことを当初快く思わなかった地球人は少なくありません。特に、命がけでNLAを守ってきたインターセプターからの反発はひときわ大きなものでした。
デフィニアも、先日女王フォルトゥンが確保されたばかりですが、その後の彼女たちの去就は自由意志に委ねられていました。当然、全員が全員スリエラさんみたいな平和主義者になるわけではありませんでした。引き続きグロウス側に与する人たちは少なからずいるようでした。

アレックスさん、先日言葉を交わしたかぎりではけっして悪い人とは思えませんでした。むしろ高潔で、仲間思いな人。もし、ほんの少しだけ巡りあわせが違っていたら、彼は私たちの頼もしい味方になってくれたかもしれません。
とはいえクーデターを企てているのであれば私には止める以外の選択肢はありません。彼個人がどんな人間であったとしても。
「こちとら黄泉への道が見えかけているというのにずいぶんと余裕だな。仲間が潜んでいて不意打ちをするとか、考えたりせんものか。――お人よしめ」
・・・そんな発想、私の頭では思いつくこともできないことです。
以前、ノポン族とマ・ノン人を大量虐殺されたときもそうでした。私はこの人を素直に信じて、まんまと騙されました。この人の経験と着眼点は常に私の上をいきます。
ああ、本当に。この人が味方のままでいてくれたら、きっと私なんかよりもっと多くのNLA市民の命を守れたはずなのに――。
「私は・・・、このような結末を迎えたかったのか・・・? イライザ。あやつとは、最初、理解しあえていたというのに――」
そう呟いて、ただのテロリストである彼は無念そうに息を引き取りました。
同情の余地などありません。
ただ、悲しくありました。
紅き死神の挑戦
工業エリアの端、いつ来ても誰もいないひっそりした裏路地にザリガニのぬいぐるみが落ちていました。
ちなみにサボろうとしていたわけではありません。
はて・・・? と、首を傾げていたら発信者不明の通信が入りました。
「かちこちかちこち聞こえてくるよ。お前の背後に忍び寄る死神の足音か? それとも死刑台を登るお前自身の足音か? どちらにしてもお前は終わり。終わりの始まり。おはよう! おはよう!」
ぬいぐるみを投げろと言われたので未建設区域に放り投げてみると、山なりに飛んだちょうど頂点くらいで爆発しました。
爆発半径15mってところでしょうか。おそらくはサクラバ重工製のハンドグレネードを改造したもの。ブレイド隊員なら誰でも気軽に買えるサブウェポンなので、出処の特定は難しいでしょう。
「俺はブラッドロブスター!! お前の命の恩人! だけど俺はNLAの死神! 非戦闘員だろうが異星人だろうが関係ない! この腐った方舟に縋ってる連中は船ともども等しく爆破! 皆殺し! おい! おいおい! 聞いてんのか? この街にこのかわいーいぬいぐるみを100個! 仕掛けてプレゼント! 頼みの綱はお前だけ! 他の人間に相談すればその場でドカン!」
「ミルストレア!! お前がお前であるかぎり、かちこちかちこちカウントダウンは止まらない! さあ走れ! 足掻け! 逃亡不能の協奏曲、スタートだ!」
ということで、今日のお仕事は爆弾魔との対決です。
シリアルキラー(暫定)にこういうこと言うのもなんですが、言っていることがすでにムチャクチャです。
さっきはなにかの罠かもしれないと思ってろくに確認せず投げちゃいましたが、彼の主張を信じるならぬいぐるみには時限装置が組み込まれているそうです。なのに彼はタイムリミットを宣言しませんでした。
また、仕掛けられた爆弾は遠隔起爆することもできるようです。さっきもタイミングよすぎるくらいいいタイミングで爆発したので、おそらく間違いないでしょう。
犯人の要求も不可解です。芝居がかった犯行声明は劇場型の犯罪者を思わせますが、その割には私ひとりで対応しろという。爆弾なんて派手な凶器を選んでいるくらいです。普通はむしろ衆目を集めたがるものでしょうに。
だいたい、この広いNLAに100個? 全部見つかるまでいったい何日かかるのやら。
といっても、遠隔起爆ができるなら犯人の要求に従うしかありません。
私は一瞬考えて、リンさんに通話を繋ぎました。「極秘任務を任されたのでしばらくブレイドホームに帰らない。エルマさんにも伝えておいてほしい」と。
あの人たち、連絡しておかないと心配して私を探しに来ちゃうので。どうせ監視しているのだろう犯人に聞こえるようわざと声に出して説明して、私は爆弾探しを開始しました。
緊張感がないように思われるかもしれませんが、実際そこまで思い詰めていません。
犯人の目的が何なのかわからないのが一番恐いところで、人を殺す意志があるかどうかも未確定。だから素直に要求を飲むしかないわけですが、ただし、時間はあります。時限装置はおそらくフェイク。私が慌てふためく様子を見たいならタイムリミットをはっきりさせたほうが効果的ですから。
だから、今のところはB.B.の活動時間の長さに甘えて、犯人を怒らせないよう何日かかってでもじっくり付き合ってやるつもりでいます。
「お前は誰だい? 自分が何者か知ってるかい!? ひゃーっはっはっはっは! 知ってるよ! こんなくだらなーい街を守るつもりで駆けまわってる! 今日はこのブラッドロブスターが、そんなピエロにプレゼントを用意したよ!」
「残り50個! 早く集めないとこの何倍もの人間が死ぬことになるぞ! 急げ! 怒れ! 泣き叫べ! これは全てはお前がお前であるせいなんだ! 終曲に向けて駆け抜けろ!!」
3徹目。爆弾解体の技術なんて持っていないので、見つかったはしから爆弾をNLA下層の緩衝液にポイポイ放り投げていたところに、犯人から2度目の通信が入りました。
同時に、商業エリアの方角から爆発音と、コンパニオン全体への一斉連絡。
・・・ついに犠牲者が出てしまいました。
こうなってほしくないから犯人を刺激しないようにしていたのに、どうやらこの人はちょっとした気まぐれで良心の呵責なく殺戮を行えてしまう人のようでした。
私を犯行現場に立ち会わせないようにしたのは、まだまだ遊ぶつもりだという意志表示でしょうか。
ラーラさんかヴァンダム指令あたりに事件との関連を疑われたら、ここ数日の私の不審な動きに気づかれてしまいますもんね。
「ああっ! 私はそんなあなたが・・・、大嫌いだよ! もう少しでお前を直接ぶっ殺してやる! おい! おいおい! 楽しみにしてろよ!? 最後のロブスターベイビーはこのNLAのクソ市民の誰か――、正義を愛するピエロにプレゼント! ドカンと爆発する前にそいつを探し出せ!」
7徹目。・・・ついに尻尾を見せましたね。
かれこれ98個もの爆弾を回収していますから、いいかげん彼の狙いも見えてきます。
仕掛けられていた場所はびっくりするくらいテキトー。あえていうならマ・ノン船内の密度が高かったですが、光源のそばに目立つように置かれていたり、大勢集まるホールのまんなかに堂々と鎮座していたり。一番簡単でした。もうこれだけでも、いつぞやのアレックスさんみたいに異星人を狙っての犯行ではないことは想像がつきました。
地上のほうも、大通りの鉢植えや住宅の屋根の上、大型建設機械など大惨事が予想される場所に置かれたものもあれば、反対に休工中の区画や、下層、はたまた外壁の上と、どう考えても何の被害ももたらさない場所に設置された爆弾もたくさんありました。
簡単にいうと――、何のポリシーも読み取れないんですよね。この爆弾で何をしたいのか、誰を殺したいのか、何の意図も感じられないんです。
たぶんこれ、私1人を狙った犯行です。
こんなに派手な犯行なのに、本当に巻きこみたいと思っている相手は私だけ。
私に爆弾を探してほしいだけ。8日間も必死に駆けまわる私の姿を見たいだけなんだと思います。
その証拠に。

「ん? 君はいつぞやの正義の味方じゃないか。血相変えて・・・、いったいどうしたんだい? ロブスターのぬいぐるみ? ああ、そういえばさっきそんなぬいぐるみが送られてきたな。・・・え!? これがNLAに仕掛けられた爆弾!? このNLAに100個仕掛けられてて、全て君が集めたって!? そうか。そういうことなら持っていってくれ。そして唯一無二の正義の味方として、そんな悪人には天の裁きを加えてやるんだ!」
この人はジャスティンさん。私と同じコンパニオンです。私がNLAに来たばかりのころ一緒の任務を受けたことがありました。正義感が強い――、というか、アメコミオタクみたいなところがあって、前々から顔を合わせるたび私のことを正義の味方だとか呼んでいます。
「正義を愛するピエロ」ってヒントでこの人に行き着くのなんて私くらいのものです。この人、勤務態度はいたってマジメですが、はっきり言ってそこまで目立つ活動をしているブレイドじゃないですから。
曲がったことが嫌いって意味なら、普通ならヒメリさんとか、エルマさんとか、もしくはいっそナギ長官あたりの有名人の顔が真っ先に思い浮かぶはず。
犯人は間違いなく私の知人関係をよく知っています。
「さあ仕上げといこうじゃないか。俺は敗北せしマヌケな傀儡――、デフィニアどもの基地にいる。早く来い! 今こそブラッドロブスターの真の姿、見せてやろーうじゃないかー!」
ジャスティンさんの手から最後の爆弾を回収すると、白々しくも犯人からまた通信が入ってきました。
寝不足でいいかげん腹が立っていたのでこの通信は私のほうから雑に打ち切りました。お前の正体なんてとっくにわかっている。
「今のはその犯罪者かい? 絶対に負けるんじゃないぞ。君は僕のなかじゃ最高のヒーローなんだ。現実でも僕の夢見た物語と同じように、善なる者が必ず悪に打ち勝つって証明してくれよ!」
ほとばしる好意が可視化されそうな勢いのジャスティンさんに応え、私は告げました。
安心してください。私のドールはフレスベルグです。戦うとなれば正直降りたほうが早いくらいですが、こと飛行速度に限っては他のどのドールにも負けません。最速。黒鋼の大陸なんて一瞬です――。

「なんだい呆然として。まったく気がつかなかったかい? それとも、予想どおりだったのかい?」
や。よく追いついてこられたなあって。
黒鋼の大陸にある地下基地で私を待ち受けていたのは、案の定、ジャスティンさんでした。
「本当に君はステキだ・・・! ああ! 胸が高鳴ってきたよ! この時のためだけに僕はデフィニアと手を結び、罪なき人々を殺してきたんだ。君に恥じないような悪人になるため、最高の勧善懲悪のドラマを実現し、絶対的な善人によって殺されるため・・・! さあ、物語を締めくくるとしようじゃないか!」
デフィニア人ってそんなに高速な移動手段を持っていたんですね。ひょっとして短距離ワープでしょうか?
今度リーゼルさんとアリシャさんを連れて、スリエラさんに話を聞きに行ってみてもいいかもしれません。フレスベルグはもっと速くなるかもしれませんね。
もうすっかり白けちゃいましたし、虎の子のデフィニア製ドールもめった刺しにして無力化してやりましたし(※ 槍だけに)、適当に聞き流して私はそろそろ帰ることにしました。さすがに眠たい。
「な・・・。何故だ!! 僕は罪なきNLAの人々を、ただ君に殺されるためだけに殺したんだぞ! それだけじゃない! NLAの犯罪者どもにデフィニアの武器を流し、数々の混乱も起こしてやった! ときには凶悪な殺人鬼をそそのかして事件を起こさせたこともあった!」
「ほら! 完全な悪人だろ? こんな悪いやつはどこにもいないさ。・・・おい! なんでだよ! なんで僕を殺してくれないんだよ!! こんな悪人がのさばったままだなんて、絶対にあっちゃいけないことなんだ!! あああああああ!!」

知ったこっちゃないんですよ。
勧善懲悪? 悪を懲らしめることで誰が得をするんですか?
それで悔い改めて、社会復帰するならまだ別ですよ。でも罰で殺しちゃったら後に何も残らないじゃないですか。そもそもジャスティンさん反省する気ゼロじゃないですか。殺し損ですよ。
事件の一部始終はヴァンダム司令に報告します。協力者だったというデフィニア人はもう統制が取れていません。ジャスティンさんは今後もう何もできません。私はそれで充分です。
私にとって大切なのはNLAの人たち。悪人のことなんて興味ないです。
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