ゼノブレイドクロス Definitive Edition プレイ日記その14 第13章前編 調査率79.20%

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お父様。お母様。見ていて。みんなの力をたくさん借りることになるかもしれないけど、必ずエフィンジャー家を再興するわ。このミラの大地でね。

コレペディアン マードレス

このブログはあなたがプレイ済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

ミラの守護者

 新しいドールを買いました。エクスカベーターという機種です。
 ドールマニアのアクセナさんにオススメされました。アクセナさんのお気に入りということは絶対どこか実用性に難があるということだと思いますが、まあそこはいいでしょう。「テキトーにそこらに生えた木でも引っこ抜いて振りまわすだけで強い」だそうです。

 今まではB.B.の身体が強靱なのをいいことに、ひたすら走って走って敵の攻撃を全部躱しながら戦うスタイルでやってきました。だからマトの大きなドールをあえて戦闘に使うことなんて考えもしなかったんですが、残念ながら次の任務の攻撃対象は上空はるか高みにいるそうです。
 じゃ、ジャベリンだったら理論上空も翔べるはず・・・! 棒高跳びの要領でジャンプして、飛ぶ勢いで一緒に槍も引き上げて、地面に落ちるスピードより速くもう一度棒高跳びするだけだから・・・! ――なんて言って渋ってみたんですが、エルマさんが真剣な顔してメンテナンスセンターに連絡しはじめたので観念しました。

 くそぅ。これでまた本部から回されてくる仕事が増える・・・。

 「命を統べる者はこの惑星ミラの守護者であり、不浄な生命を刈り取るといわれています。かつてこれを倒しえた者はいません」

 というわけで、今回の任務は原生生物の狩猟です。
 タツの友達のトラというノポン族曰わく、秘伝のカンポー薬をつくるのにこの原生生物のウロコがどうしても必要なんだとのこと。
 リスクの高すぎる任務に気乗りはしませんでしたが、人命がかかっているのであれば仕方ありません。

 目標は夜光の森の最奥に生息しているんだそうです。
 夜光の森の奥にいて、ものすごく強くて、空を飛ぶ生きものといえば、以前一度会ったことがあります。私たちが凶暴な原生生物に襲われていたところを助けてくれたんです。
 言葉こそ通じませんでしたが、彼はあっという間に原生生物を絶命させたあと、私たちのことを値踏みするように見つめ、そのまま攻撃せず去っていきました。
 もしかしたらわかりあえそうな相手だっただけに、そちらの意味でも気が重くなります。

 戦いは――、いいえ。まったく勝負にもなりませんでした。
 エクスカベーターの火器管制システムがびっくりするくらいポンコツだったというのもありますが、エルマさんやリンさんの機体もすぐ落とされていたのでどのみち、といったところでしょう。

 命を統べる者は私たちが無力化したのを確認すると、トドメを刺そうとはせず、悠然と高空へ舞い戻っていきました。
 空からキラキラとしたものが1枚だけ降ってきます。――鱗でした。

 「私たちが不浄な生命ではないと認めてくれたのかしら」

 少なくとも生物的な本能以外の理由で私たちを見逃してくれたことは明らかでした。
 もし不必要な殺生を好まないというのであれば、いつかわかりあうことさえ可能なんじゃないかと、改めて思いました。

 なお、NLAに帰ってカンポー薬を調合したあとのことは・・・、思い出したくもありません。
 あえて一言いうなら、戦いの苦手なノポン族にこんな素材を使った秘薬が伝わっている時点で・・・、気づくべきでした・・・。

巫女の使命

 「君にはお礼を言わなくちゃね。私の大切なかわいい妹、セリカ・クリカを助けてくれたんだってね。本当にありがとう」
 「わ、私がニール様の妹だなんて、そんな、畏れ多いです・・・!」

 セリカさんがニールさんと連れだって私に声をかけてきました。

 セリカさんと初めて会ったとき、どこかで見た気がする顔だなあとは思ってたんですが、なるほどニールさんでしたか。
 考えてみれば2人ともクリュー星系の出身だって言っていました。どちらもはっとするような美人。クリュー人といえばエルマさんもそうなので今でこそ印象深い言葉になっていますが、ニールさんに自己紹介された当時はまだそんなこと知らなかったので、覚えてなかったんですよね。
 そういえばエルマさんの本当の姿も、肌の色こそ違いはすれ、2人と同じく目が覚めるような美形だったなあ。NLAの外で活動するのに生身だと危険だってことで、またすぐB.B.に戻っちゃいましたけど。

 今回はニールさんが私に依頼したい任務があるということで来たそうです。
 ニールさんの依頼といえば・・・、あれのことですね。だいぶ前、ニールさんから受けた最初の依頼のときに所属不明のドール2体に襲われたんですが、ニールさんが言うにはどこかで見覚えがある機体だったそうで。一度調べてからもう一度声をかけると言われたきりでした。

 「突然だけど――、自分を絶対に裏切らない人って誰だと思う?」

 クイズとして考えるなら「自分自身」と答えるべきところなんでしょうが、あいにく私は自分のことをあまり信用していないので、私だったらエルマさんとリンさんって答えますね。
 私、やりたくない用事のことはすぐ忘れちゃいますし、朝も起きたくないので目覚まし時計をかけるところから放棄しちゃっていますし。エルマさんとリンさんと一緒じゃなかったら私の生活は秒で破綻しています。

 ニールさんは面白そうに、セリカさんは呆れた顔で私の話を聞いていましたが、ともかく正解は「自分自身」で合っていたそう。
 あの所属不明機はクリュー星系でかつて特別な神職“託宣の巫女”の護衛を任されていた機体なんだそうです。絶対に裏切らないように、ということで託宣の巫女自身の人格をトレースしたAIで動作しているんだとか。
 かくいうニールさんこそが今代の託宣の巫女。ただし、この機体を使っていたのは何世代も前の話だったから調べるのに時間がかかったというわけですね。

 古代サマール人が残したオーバーテクノロジーの数々は、直系の子孫である地球人やクリュー星系人の文明圏をはるかに超えて、宇宙各地に広まっているそうです。
 クリュー人はサマール人の血筋の末裔として、そのテクノロジーが正しく使われているかをひとつひとつ確かめ、もし間違った使われ方をしていればそれを正す活動をしてきたんんだとか。その活動の中心的な役割を担うのが、託宣の巫女。

 前回の任務で調査した忘却の渓谷の巨大リングはテラフォーミング装置で、それが悪用された結果、あの大陸は人間にとって住みにくい不毛の大地につくり変えられてしまったといいます。双子の護衛機はその調査をしに来た私たちを襲撃しました。
 また、ニールさんが調べたところによると、最近黒鋼の大陸であの2機の攻撃を受けたというブレイド隊の報告が急増しているんだそうです。おそらくは2機が護衛している本丸があの大陸にあるのでしょう。パスファインダーならともかく、テスタメントやランドバンク、コレペディアンといった調査部隊があの大陸に進出するようになったのは先日の決戦でグロウス戦力が弱体化したあとのこと。今になって被害報告が上がるようになったのはそのせいだと考えられます。
 つまり、何代か前の託宣の巫女は黒鋼の大陸に拠点を置き、忘却の渓谷にあった文明と戦争していたことになります。広範囲の惑星環境を激変させるテラフォーミング装置の軍事転用は、地球人の感覚でいうと原子爆弾で絨毯爆撃をしかけるようなもの。きっとよほどのことがあったのでしょう。

 ニールさんからの依頼はその2機のドールの破壊でした。

 任務内容自体はそこまで無謀なものではありません。一度戦って向こうの戦力も明らかになっていますし、私なら問題なく対処できるでしょう。
 ただ、セリカさんの表情が曇りました。

 「ニール様。本当によかったのでしょうか? たとえ壊れかけの機械でも、あのドールたちはニール様の――」

 ニールさんがやろうとしているのは前代の巫女が行ったことの否定です。ニールさんは忘却の渓谷の調査のときもテラフォーミング装置の使いかたに批判的でした。
 あの装置を使った当時の巫女にも、当時の正義があったんでしょう。それを現代の感覚で現代の私たちが好き勝手に論評することはあまり望ましいことではないかもしれません。
 ですが、ひとつ言えることは、黒鋼の大陸の文明も忘却の渓谷の文明も両方滅んだ今、あの巫女の護衛機2機は無関係の私たちに無用の被害をもたらしてしまっているということです。

 セリカさんが言うには、今代の巫女であるニールさんは本星で急進的すぎるという評価を受けていたようです。
 クリュー人にとって古代サマールのテクノロジーは一種の信仰対象。なるべくなら保全するべきもの。そしてクリュー人の大半は本星の外に出ていきません。ここ惑星ミラで異星人相手に巫女の護衛機が攻撃を繰り返していても、彼らにとってはそこまでの重大事と実感しにくいわけです。
 今回の判断は託宣の巫女としてのニールさんの立場をいっそう悪くしてしまう可能性があるわけです。

 セリカさんは悩んで、悩んで、それでも結局ニールさんの考えに納得してくれました。
 セリカさん自身、ロックさんという異星人の友達ができた身ですしね。古い伝統を破ってでも今生きている人たちのことを優先したい。クリュー人と異星人たちが協同できる新しい宇宙をつくっていきたい。少なくともセリカさん個人になら、そういう考えかたができる素地がすでに整っていました。

 「神官のなかにはニール様の巫女としてのありかたを“異端”と呼ぶ者もいました。本当は、ニール様こそクリューの――、私たちの行く末を案じてくださっていたというのに」

 そうと決まればやることはひとつ。
 少しでもニールさんへの心証がよくなるように、異星人である私たちが頼もしく信用のおける味方であることを証明してみせるだけです。

イエルヴの相棒

 「あいつの両足、左腕――。ここまで見つけてくれたんだな、相棒。あとはあいつの体と頭だけ、だな。実はよ、右腕は俺が持ってるんだ」

 慈しむような瞳で猟奇的なことを言っているこの人はイエルヴさん。ライフポイントやその他白鯨の残骸を集めることを任務とするテスタメントの所属です。
 NLAにいるときはノラ犬みたいに路地裏ばかりうろうろしています。たぶん裏表は無いタイプだと思うんですが、ときどき突拍子もないことをしはじめるので、どこまで本気で言っているのかイマイチわかりません。少なくとも顔はいつも真面目くさっています。

 「白鯨が墜落するとき、爆炎に消えるあいつのドールを見てよ、あいつとはもう二度と会えないんだって覚悟を決めたよ。だけどな、墜落の衝撃で気を失って、目が覚めたら、俺を守るみたいに身体の上にこの右腕が乗っかってやがったんだ。本当に面倒見のいいやつだよ。そんなやつがよ、俺を見捨てて勝手に先に行っちまうわけがねえだろ」

 何度か一緒に任務をこなしていてわかったんですが、この人、白鯨が墜落したとき生き別れた幼馴染みを探しているらしいです。
 生き別れたっていうか、・・・死に別れた? 念のためリンさんにも聞いてみたんですが、手足が千切れた状態でB.B.が長期間何の処置もなく活動を続けられるなんてことはありえないんだそうです。私の左腕がもげたときも生体循環液がバーバー出てましたもんね。
 セントラルライフから蘇生させるっていう話ならまだわかるんです。でも、この人が探しているのはB.B.なんですよね。意味がわかりません。
 NLAでたびたびよくわからないトラブルを起こしていることといい、もしかしてこの人精神的におかしくなっちゃってるんじゃないかと思うこともあるんですが、私よりも長い付きあいらしいエレオノーラさんに相談してみても「大丈夫ですよ」としか言わないんです。・・・不可解!

 まあ・・・、こんな人を放っておくわけにもいかないので、私としては今回も付いていくしかないんですが。

 いよいよ幼馴染みが見つかるはずだと鼻息を荒くしているイエルヴさん。
 胴体が落ちたと思われる座標はエレオノーラさんが割り出してくれました。・・・本当に? 幼馴染みさん、死ぬ直前ドールに乗っていたそうですが、そんなきれいに両手両足が千切れますかね? 手足のどれも、近くにドールの残骸などは転がっていませんでしたよ。どんな状況? どのくらいの高度で千切れたのかもわからないのに、これだけのヒントで本当に胴体の場所なんて割り出せるものです?
 イエルヴさん的には何の違和感もないようなのですが――。

 エレオノーラさんが割り出した座標には真っ黒に焦げたドールの残骸がありました。おそらくは単独で大気圏を突破したときの焦げ跡なのでしょう。
 イエルヴさんとエレオノーラさんが言っていること、少なくともそのあたりには錯誤は無いようです。

 「おい! あれ、人じゃないか? やっぱりあいつ――、生きてたんだ! こんなところでひとりでタフによ!」

 たしかに、残骸の近くに誰かいます。
 イエルヴさんがはじかれたようにして駆けだしました。

 待って!

 あれが幼馴染みの人のはずがない! だって、その人の手と足は――、ここにある!

 慌てて追いかけてイエルヴさんの横っ腹を全力で蹴飛ばしてやると、間一髪、コンマ数秒前まで彼の頭があった空間をエネルギー弾が掠めていきました。
 謎の人影の正体はたまたま斥候に来ていたグロウス残党だったようでした。

 敵を沈黙させて、改めてドールの残骸を検分すると、中から幼馴染みの人が出てきました。

 「これが・・・、あいつ? あいつの最後の身体――」

 イエルヴさんも今度こそ認めざるをえなかったようです。
 だって、幼馴染みさんのB.B.、頭と胴体が真っ二つに分かれていましたから。

 イエルヴさんショックだったみたいですが、意外に取り乱すことはありませんでした。
 本当はとっくに事実を受け入れていて、認めるための最後のきっかけだけ、自分の外に欲していたように見えました。

 さて、何て声をかけるべきでしょうか?
 幼馴染みの死を受け入れたとはいえ、まるで突然の夕立にズブ濡れになった仔犬みたいにしょんぼりしています。ここで彼を放って帰ったら、またリンさんに人でなしって言われちゃうでしょうか?
 ・・・というかホント、この人どこまでも犬っぽいな。

 少し悩みましたが――。

 「・・・あいつもそんなことを言ってたような気がする。『自分がこの戦場で倒れても涙なんか見せずに笑って生きろ。強い兵士は、寄りかかることも一人で歩いていくこともできるんだから』って。思えば、あいつは自分がいなくなったとき俺がやってけるかずっと心配だったのかもな」

 それまたずいぶんドライなんだか、むしろ過保護なんだか。

 結局、私はイエルヴさんを突き放すことにしました。
 飼えないものは飼えません。私はNLAの人たちの相談を受けるだけで手一杯です。
 それに、イエルヴさんだって私が生きているはずがないって何度言っても信じられずに、こうして壊れたB.B.を見ることでやっと幼馴染みの人の死を受け入れたんです。私じゃこの人の代わりになんかなれません。

 というか、イエルヴさん自分で思っているより強い人です。私の話を聞き入れないままこうなったってことは、それってつまり、ほとんどひとりで今回の件に耐えきったってことなんですから。

 相棒呼びは――、まあ許します。今後も一緒に任務を受けることはあるでしょう。
 私たちは同じブレイド隊の仲間です。
 私も、これからは半分病人扱いみたいな失礼なおせっかいは焼かず、あくまで対等な仲間として彼に接していけるよう努めたいと思います。

このミラの大地でね

 マードレス(murder【殺人者】+ress【女性接尾語】)を通り名にしているとんでもないブレイドがいます。・・・地球人らしくない名前の私ミルストレアもあんまり人のことは言えませんが。
 その名に違わず悪辣な性格で、最初に会ったときは任務報酬のうち現金だけごっそり独り占めされちゃいましたし、このあいだは賞金首を生け捕りにするって話だったのに拳銃バカスカ撃って虫の息で本部に引き渡しちゃいますし、といった具合でまあ評判の悪い人です。
 ただ、幸いなことに犯罪だけは――、ああいや、違法賭博色々やってたな。背信行為も日常茶飯事だな・・・。ええと、殺人だけはまだやっていないはずです。私の知る限り。

 さて、ここ数日で8人もの連続殺人事件が起きました。
 被害者は全員ブレイド。何かと評判がよくない人が中心で、男性はいずれも足の甲とこめかみを撃たれ、女性はいずれも右太ももと眉間を撃たれて死んでいました。どう考えても見立て殺人です。

 被害者全員マードレスさんとの間にトラブルがあったということで、私個人は彼女を疑っているわけじゃないにしろ、さすがに事情聴取しないわけにはいきませんでした。
 ただ・・・、一緒に任意同行を求めに行ったコンパニオンの仲間があからさまにマードレスさんを疑う発言をして怒らせてしまって、なんとも紆余曲折あって、喩えるなら『走れメロス』的なサムシングがあって、なぜか私とマードレスさんで犯人を捕まえる流れになってしまいました。
 ちなみに、もし私がマードレスさんをうっかり逃がしてしまったらイリーナさんが代わりに営倉に入ることになるそうです。・・・なんで?

 とりあえず捜査方針を決めたくてこれまで調べたことをひととおり共有したところ、いきなりマードレスさんの顔色が変わりました。

 「・・・わかったわ。犯人の名前までね。――デイル・ギボン。私の両親を殺した男よ」

 どうやら見立て殺人はマードレスさん個人へのメッセージだったようです。
 足の甲とこめかみを撃たれたのはマードレスさんの父親と同じ死因。右太ももと眉間を撃たれたのはマードレスさんの母親と同じ死因。そして8人という犠牲者の数もデイル・ギボンが地球で行った殺人の数と同じ。

 殺人犯が何を考えているのかはまったく理解できませんが、少なくとも彼はマードレスさんに会いたがっているのでしょう。
 先日のザリガニ男と同じです。今回の連続殺人もマードレスさんに何かを伝えて初めて完成する。なら、まず間違いなくマードレスさんが追いかけやすいところで待っているはず。

 私たちはエレオノーラさんに問い合わせて、8人目の被害者が見つかった前後の日以降、NLAを出立してまだ戻ってきていないブレイドを調べてもらいました。

 「その名で呼ばれるのは久々だな。ようやく見つけてくれたか、お嬢様。俺は熱心にラブコールを送ってたのに、ちっとも気付きやしなかったよな」
 「冗談でしょ。あなたの殺気に気付けないほど私は鈍感じゃない。私に気付いたのは最近のことね」

 「刑務所のなかにも腐ってる人間はいるのさ。もちろん白鯨のなかにもな」
 「死ぬのが怖くて逃げだしたのね」
 「当然さ。俺は殺すのが専門であって、死ぬのは専門じゃない」

 「B.B.になっても顔を見ればわかった。そっくりだよ。あのときおもらしをしてガタガタと震えていたお嬢様になあ。それから俺は希望が湧いてきたぜ。エフィンジャー家のお嬢様を殺すっていう夢を見はじめたんだ」
 「あなたの夢になれるなんて光栄ね。だけど、あと数分もすれば私はあなたの悪夢になってるわ」

 なんか――、仲よさげじゃない?

 ある意味ではお互いこのミラの大地において最大の理解者同士。
 マードレスさんとデイル・ギボンは皮肉を交わしあい、それぞれ殺意を高めていきました。

 あ、やっぱり仲よしじゃないわと実感したのは決着がついてから。

 「あなたのことは殺したくなるほど憎んだ。だけど、皮肉にも無力なお嬢様だった私を強くしたのは殺人者であるあなたの存在だった。その憎き名を冠して、負の力を糧にここまで生きてこられたのよ」
 「なら、俺を助けてくれるだろ? お前が今ここにいるのは俺のおかげなんだから」
 「クソつまんない冗談を吐かないで。ここにいるのはエレオノーラやイリーナにミルストレア――、こんな私を信じてくれる人のおかげ」

 デイル・ギボンはマードレスさんのことを幼い時分までしか理解していませんでした。
 彼女がスラムに落ちたあと、どういう思いを抱き、誰と出会い、何のためにここまで這い上がってきたのか――、そこに関してはまったく理解が及んでいませんでした。

 きっと、幼いころは本当にデイル・ギボンへの仇討ちだけを生きる望みとして生き延びてきたんでしょう。
 でも、やがてマードレスさんはあの真っ直ぐな性格のイリーナさんと出会いました。復讐なんてやめてしまえ、もっと意味のあることのために生きろと何度も何度もちょっかいをかけられたのでしょう。
 私の名前を挙げてもらえたのは光栄ですが、多少なりとも生活に余裕がある人ならみんな似たようなものです。復讐なんてほの暗いものを人生の目的にしている人なんて世のなかそうはいません。一度這い上がってしまえば、マードレスさんの目に映った景色は、おそらく復讐なんてものがバカらしく感じられるくらい呑気なものだったんだと思います。

 あの悪辣なマードレスさんが、それでもスレスレでブレイド稼業が成立するくらいには社会に適応できているのがその根拠です。
 かつてマードレスさんは人を殺すために生きていたかもしれませんが、今はそんなの二の次。
 かつてマードレスさんは人殺しのおかげで生きる力を手に入れたのかもしれませんが、今その立場にいるのは別の人。

 時が経って変わっていったマードレスさんのことを、アナクロニスト<生ける骨董品>のデイル・ギボンは何ひとつ知りません。

 「・・・もともと私は殺人者ではなかったでしょ。今回もそこからは逸脱しない。スレスレの方法をとるだけよ。私は手を下さない。――でも、デイル・ギボンは死ぬのよ。このミラの大地でね」

 背中を向けて去っていくマードレスさんに向けて、デイル・ギボンは誰のことだかわからない女性の名前を叫びます。
 だけど、その名前を呼ばれて振り返る女性は今、このミラの大地の上にいません。

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