・・・話はこれだけで終わらないんだ。あの日――、激しい雨の中ピザを届けに行った妻に、アクアルはトドメのクレームをつけたのさ!! 「サラミが前より3枚足りない。取り替えてくれ」ってな。そんな言いがかりで彼女の繊細な心を破壊したんだ!! ――おい! サラミってのは人の命よりも重いってのか!?
『アーミーピザ』店長 パウエル

代表選出
「我々は強制的に彼の失脚を画策することにした。これは選挙というシステムの公平性を傷つける行いかもしれない。だが、我々としても初めての政治への参画で意に沿わぬ者を送りこみたくはないのだ。ぜひとも協力を願えないだろうか」
とんでもない任務を振られてしまいました。
そろそろNLA暫定自治政府に地球人以外の主張も取り入れるべきだという話が持ち上がりまして、代表者を選出するための選挙管理委員としてオルフェ人のスンボイトンさんが指名されました。
私も異星人の事情に詳しいということで手伝いに派遣されています。


現在NLAに住んでいる地球人以外の住人として1番人口が多いのがマ・ノン人、2番手がノポン族です。順当にいけばマ・ノンを支持母体とするアダッピン候補が代表になると予想されますが・・・、彼はNLAの食料と通貨を全てピザに変更しようというあまりにも大胆な政策を掲げているんです。
ちなみにノポンを支持母体とするコポポ候補も、ノポン族にだけ大幅な税制優遇を求めると主張していて、こちらもスンボイトンさんの胃痛の種になっているみたいですね。

それで、スンボイトンさんは選挙管理委員自らこれら候補者を裏工作で失脚させてしまおうってラリったことを言いだしたわけです。
そもそも種族ごとに文化もニーズもまるで違う異星人の代表者を1人だけ選べというオーダーに無理があるんですよね。
そこは私も任務を持ってきた暫定政府の人に説明したんですが、現政府自体そもそも少人数で運営されていて、各異星種族それぞれ1人ずつ代表者を受け入れただけでもパワーバランスがおかしくなってしまうみたいなんです。
・・・いや、私の知るかぎり母星でまともな統治機構を経験してるのはラースくらいだったはずなので、やっぱりやめといたほうがいいと思うんですけどね。現状のNLAの人口比で彼らに政治参画させないことのほうが問題だって、むしろ暫定自治政府の人たちが地球の常識に囚われすぎてるんじゃないかと思います。
そうなんですよね。オルフェ人もオーヴァの意志のもとで自然にまとまってきた人たちなので、政治とはどういうものか、スンボイトンさん自身よく知らないはずなんですよね。
仮にアダッピンさんやコポポさんが異星人の代表になったとしても、あそこまでムチャクチャな政策だと政府内で提案を通せるわけがないんですが、そういうのわかんないですよね。
心配しすぎだとは何度も伝えたんですが、なかなか信じてもらえなかったので(これは私の日頃の言動のせい)、じゃあいっそのことスンボイトンさん自ら立候補したらいいんじゃないかって提案してみました。
スンボイトンさんは支持母体となるオルフェの人口の少なさを気にしていたんですが、NLAにいる人たちも最近はもうかなり相互理解が進んできているので、いうほど種族の違いだけで投票先を選ぶ人って多くないと思うんですよ。
「多くの街の人々の支持を得て異星人の代表に就任することができた。これからは対立候補であったコポポやアダッピンとも力を合わせて、このNLAをどの星の者も平等に暮らせるユートピアへと変えていきたいと思う。見ていてくれ、ミルストレア。君たち地球人がこの星で起こしたような奇跡を、今度は我々が起こしてみせるぞ」
正直、地球人の私が選挙に横槍を入れること自体どうかと思っていたんですが、結果的には種族に囚われず一番多数派の意見を汲み上げられる人が選ばれた、という事実が全てを表していると思います。
ボゼの抱えし無明

「それがな、道中妙な異星人に襲われたのだが、これまた妙な異星人にもらった物に助けられてしまってな。感謝していいのか憎めばいいのか、どうにもすっきりせん気分なんだ。なあ、俺は異星人どもをどう思えばいいんだ?」
討伐任務を完了したとき、ボウズさんが難しい顔をしていました。
任務自体は何の変哲もない普通の原生生物退治で特に問題はなかったんですが、道中デフィニア人部隊の残党に絡まれたんです。
彼女は大樹の民に化けていました。グロウスに襲われた哀れな被害者を装い、私たちを罠にはめようとしていたようです。
ボウズさんはもともと異星人全般が嫌いな人なので無視して先に進もうとしたんですが、私がお願いして強く引き留めました。
彼女の言動に多少の胡散臭さは感じつつも、コンパニオンとして、救える民間人はできるかぎり救いたかったんです。仮に罠だったとして、それならそれで失われる命は最初から無かったということなんだからいいじゃないか、と打算含みで。いえ、慢心ですね。
結果罠で、しかも地球人にとっては未知の空間歪曲技術を使った大がかりなものだったようなので、あやうくボウズさんを危険に晒してしまうところでした。私たちが生きて帰ってこられたのは、以前助けたジェジェバさんというマ・ノン人がお守りだと言って譲ってくれたジャマーのおかげです。

さすがに反省。
ボウズさんは身内にとことん優しい人なので笑って許してくれましたが、人命最優先が仇をなして思考停止してしまっていたのは自分で自分を許せません。これまでも、ちゃんと考えなかったせいで救えたはずの命を取りこぼしてしまったことが、何度もあったはずなのに――。
と、まあそんなことがありまして。
私の個人的な反省とはまた別に、ボウズさんも考えることがあったようです。
ボウズさん、身内とそれ以外をはっきり区別して、菩薩と鬼神の面を使い分ける人なので、今のところ敵認定の異星人をどう扱ったらいいかわからなくなってしまったんですね。
私は――、とりあえずジェジェバさんに感謝ですね、と返事しました。
ボウズさんならたぶんそこまで飲みこみにくい話ではないと思いました。“異星人”なんて大雑把すぎるくくりで考えるから色々例外ができちゃうんです。そうじゃなくて、ジェジェバさんはジェジェバさん、敵の人は敵の人。ちゃんと個人として見分けたら、今までと同じ身内かそれ以外かの二元論でも問題なく世界を見渡せるんじゃないかって。
ボウズさんって生まれた国になかった仏教文化を受容できた人じゃないですか。それと同じです。ひとつひとつちゃんと考えていけば、自ずと自分にとって大切なものはどれかわかってくるはずです。
・・・自分にも刺さる話を、何をエラそうにって感じではありますが。

「ああ――。俺は大きな恩を受けた。あのマ・ノン人とかいう異星人にな。やつらは地球を襲った連中とは違う。そんな単純なことすら見失っていたのか・・・」
ボウズさんの顔は晴れやかでした。
できればマ・ノン人なんて大きなくくりじゃなく、ジェジェバさん個人に感謝したほうがいいんじゃないかなと思うところはあるんですけど、ひとまずはこれでいいのでしょう。私とボウズさんとではものの見かたがちょっと違います。それが当たり前です。
もし次また葛藤するような出来事があったときは、そのときまた評価を改めたらいいんです。
一番悪いのはたぶん、最初の信念のまま頑として偏見を持ちつづける、思考停止状態でしょうから。
ニェポンの商人

「ふふ。ニセモノをつくってそれを渡してしまえばいいんですも。たしかに渡すお金はニオのものでなければいけないと、あの契約書には書いてありましたも。しかしどこにおケケがニセモノではいけないと書いてありましたも?」
ヴェニスの商人だこれー!?
ニオさんっていう行商人のノポンがいます。黒鋼の大陸のドロンゴキャラバンに所属しているらしいんですが、婚約者のポポさんが白樹の大陸の景色がお気に入りってことで、むしろよくドパーンキャラバンで見かけることが多かった人です。
このたびついにご成婚なさるということでして、ポポさんにナイショでウェディングドレスを買いたいという話。ところがニオさんの財産は現在黒鋼の大陸から商品を運んでいるノポヒッポの背の上。
どうせもうすぐ到着するからということで、ニオさん焦って高利貸しのジャロロさんからお金を借りました。
そこまではよかったんですが、なんと借りたお金でドレスを買った直後、ニオさんのノポヒッポが何者かに倒され、財産を根こそぎ喪失したとの知らせが届きました。このままではお金を返せません。結婚どころじゃなくなってしまいます。

ジャロロさんとの間で交わした契約書には「期日までに金を返せなかったら頭の毛を全部ジャロロに渡す」とありました。
頭の毛はノポンの誇り。この毛を失うと商人としての信用を失い、二度とキャラバンで商売ができなくなってしまうんだそうです。(初めて聞いた・・・)
そこで婚約者のポポさんが一計を講じます。
本物の毛の上からカツラをかぶり、そっちの毛をジャロロさんに渡してやればいいじゃないか。ジャロロさんは詰めの甘い男。この程度の単純なトンチでも簡単に騙されてくれるはず。
ノポン族は書面での契約を大事にしますが、契約書を読む限り、このやりかたでも反故にしたことにはならないこともしっかり確認しました。

果たしてジャロロさんはみごとに騙され、ニオさんは九死に一生を得ました。
あとは結婚指輪さえ手もとにあればよかったのに・・・。残念なことに、結婚指輪は財産と一緒にノポヒッポで運んでいたそうです。青い貴重な石がついていた唯一無二の代物だったそうですが――。
「なんですも? ポポに何か渡したいものがあるんですも? ――この青いキラキラ、これはもしかして! まさにニオが買った結婚指輪だも!!」
このあいだ混絶のイグニートっていうオーバードを討伐したんですが、私の戦法だと開幕からオーバークロックするため事前にB.B.の慣らし運転をしておく必要があります。普段なら戦闘が始まってからでもマインドコンバートを繰り返して暖機運転することができたんですが、体の大きなオーバードってデバフが通りにくくてなかなか・・・ゲフンゲフン。
なのでまあ、ちょうど手近なところにはぐれヒッポを見かけて、ちょうどいいやって思って、・・・つい、うっかり。うん、本当にうっかり。なんでこんな指輪を持っていたのか不思議ではあったんですよねー・・・。
ニオさんポポさん大団円ムードだったので大らかな気持ちで許してもらえましたが、ホント、ちゃんと色々考えて活動しないとなあ。

コンパニオンアクアル
「遅い遅い遅いですよ!! あなた! 私を餓死させるつもりですか! ・・・ん? 謝罪の言葉もないのでしょうか! 信じられませんね! ――ムキーッ! マ・ノンだと思ってバカにしてるんですか!? あなたはとても失礼な人ですね!!」
「・・・ふう。おいしかったです。お腹いっぱいになって心も落ち着きましたよ。やはりグレネードピザは最高ですね。えっと――。先ほどは空腹のあまり我を忘れてしまって申し訳ありませんでした」
最近人手不足のアーミーピザで宅配の手伝いをしてひどい目にあった帰り道、高層ビルの屋上からマ・ノン人が落ちてくるのを目撃してしまいました。

捜査担当のコンパニオンはこちらもマ・ノン人のアクアルさん。地球人以外のブレイド第1号ということで、入隊当初ちょっとした話題になっていた人です。仕事ぶりも真面目で熱心だともっぱらの評判。たしかマ・ノンと地球人の間に入って良い関係を築いていきたいと言っていましたっけ。
アクアルさんが言うには、このところNLA内でマ・ノン人の死亡事件が相次いでいるとのことです。
被害者がマ・ノン人だということ以外犯行の共通点がまだ見つかっていないこともあって、公式に連続殺人事件だと認められたわけではありませんが、単純に数が多すぎるのと、自殺にしては怖がりのマ・ノン人が絶対選ばない方法で死んでいるという点で、アクアルさんは連続殺人という前提で捜査を進めているんだそうです。私もアクアルさんの見立てで合っていると思います。
マ・ノン人を狙った犯行・・・、となると容疑者を絞るのは少し困難です。
というのも、マ・ノンはNLAに入植してきた最初の異星人で、今でこそだいぶ落ち着いてきましたが、当初はトラブルが頻発していたからです。その悪印象を引きずって、今でも反異星人移民を掲げるヘイトクライムがマ・ノンを標的にするケースはあとを断ちません。
被害者個人に憎しみを抱いているのか、マ・ノンという種族への攻撃を企てている政治犯か、異星人全体を嫌う反移民主義者か、いずれの可能性もあるわけです。
地道に調べるしかありません。ひとまず私はジェロームさんという地球人男性に聞き込みをしてみることにしました。
この人は最近何度か暴行未遂事件を起こしている強硬な反移民主義者で、先ほどの滑落事件の被害者であるドゥドゥマさんともトラブルを起こしているという目撃証言がありました。
「これはいったいどういうことだ! ワシがなぜこんな目に遭わねばならん! クソッ! クソッ! なぜだ!! マ・ノンの連中か!? きっとそうだ! これもきっと連中の仕業なのだ!」

ジェロームさんは普段誰も入らないNLAの下層部で見つかりました。
後ろ手に手錠をされていて、しかもそこには時限式の爆弾がセットしてありました。
ただちに爆弾解体を試みつつ、ジェロームさんを落ち着かせて事情を聞いてみると、セイブパークの隅のベンチで昼食を取った直後に猛烈な眠気があり、目が覚めるとここにいたということでした。犯人の目的が見えませんが、ずいぶん手が込んだ犯行です。
たまたまブレイドエリアでヒマしていたメカニックに教えてもらった、にわか仕込みの解体技術でしたが、なんとか爆弾は解除できました。
と――。

ジェロームさんはそのまま目を醒ますことがありませんでした。
検死を依頼したところ、胃のなかから昼食と思しきピザと毒物が検出されたそうです。
もはや口封じとしか思えない、念には念を入れた執拗な殺意。・・・本当に、ずいぶん手が込んだ犯行です。
アクアルさんから連絡が入りました。
新たにマ・ノン人2名の死亡を確認。1人は半日前に私がピザを運んだミカルさん。もう1人は・・・、アクアルさんのガールフレンドのユユさんでした。
ミカルさんは変死につき死因の特定困難。ユユさんは毒殺のうえ原生生物の巣に吊されて、危うく捕食されるところだったそうです。
「犯人はボクのことを知っているやつだったんだ・・・。それでユユちゃんをこんな目に遭わせた・・・。次のターゲットは、きっとボクだ。こいつはボクを殺そうとしているんだ。――ボク、もしかしたら犯人が誰かわかったかもしれない」
ゾッとするほど冷たい声でアクアルさんは独り言を呟き、そのまま通信を切りました。
きっとひとりで犯人のところに向かうつもりです。
幸い、私も目星が付いていました。急行します。

「おお、お前はこの間の! たしか――、ミルストレアといったか? ちょうどいいところに来た。またひと仕事手伝ってくれないか。このマ・ノンの死体を埋めなきゃならないんだが、なかなかの重労働でな。困ってたんだ」
「はは。はははははははははは! このノロマが! 一足遅かったな! アクアルなら俺の特別性のグレネードピザを食べてくたばっちまったぜ!!はははははは! とことんマヌケな連中だぜ! ピザと見れば怪しむこともなしに食っちまう!」
この事件が起こる前から、私はジェロームさんと面識がありました。
ジェロームさん、昔からのアーミーピザの大ファンだったそうです。
マ・ノン人がNLAに入植する前、いつ来ても閑古鳥が鳴いていたころからの常連客。
それが、ひいきのお店に毎日大勢のマ・ノン人が押しよせるようになって、いつも苦々しげな目で遠巻きに店頭の様子を観察するようになっていました。私、そのころに何度か声をかけていました。クレームを聞いていました。
あの人が反移民主義の過激派になってしまったの、そのせいだって知っていました。
今のアーミーピザは押しも押されぬ人気店。ジェロームさんはマ・ノン人の顔を思い出すからって、他の店も含めて久しくピザを食べていなかったはずです。
それが、最後の昼食にはピザを食べていた。そのピザに毒物が混入されていた。
・・・どうしてですか、店長さん。
「マヌケはどっちだ、パウエル。今の自白、しっかり録音させてもらったからな」
アクアルさんが体を起こしました。凶器は毒物と特定できていましたからね。
おおかた、マ・ノン人の名医スタカッタさんあたりに中和剤を調合してもらっていたんでしょう。あの人も似たようなことをしていましたから。

「・・・お前たちマ・ノンはいつもそうだ。薄汚いやりかたで地球人に取り込んで、全てをメチャクチャにしちまうんだ! 許さんぞ。お前たちが奪った妻の命。――その死をもって償ってもらう!」
店長さんは明らかに正気を失っていました。
この人がマ・ノン人に複雑な思いを抱いていたのは知っています。
奥さんが自殺して、それ以来ずっと苦悩していたことも知っています。
結局最後まで何もしてあげられなかった私の罪でもあります。任務の合間を縫って、ときどき配達の手伝いをすることしかできませんでした。
私はいつも気付くのが遅くて、行動するのが遅くて、NLAの人たちのことを助けたいって思っているはずなのに、死なせてしまった人の数はもう両手の指じゃ数えきれません。
店長さん。どうしてジェロームさんまで殺してしまったんですか。
マ・ノン人の感性は地球人のものと少し違います。
ただでさえ店長さんの憎しみはこの人たちが理解するには難しいものなのに、これでさらに難解なものになってしまいました。アクアルさんたちはあなたのことを狂気の連続殺人犯としか認識していないはずです。
メッセージ性の強いテロリズムに正義があるとは私も思いません。殺人は殺人です。でも、少なくともあなたは大切な人を失った悲しみをこの人たちに思い知らせたかったはずじゃないですか。

「でもさ、なんでパウエルはこんなことをしたんだろうね? 誰も彼の妻を手にかけてなんかいないのに。ただ、死んでいったマ・ノンたちも、ジェロームも――、みんなアーミーピザが大好きだっただけなんだよ・・・」
もはや全て手遅れでしかありませんが、せめて私が彼らに説明したいと思います。
何日かかってでも、何年かかってでも。わかってもらえるまで。繰り返されることがなくなるまで。
それであなたの無念がなくなるとは思いませんが、せめてあなたの名誉を取り戻すために。

「パウエルさんってただの怖い人じゃなくて、やっぱりすごい人だったんだね。だってね、マ・ノンの人たちがどんなムチャなトッピングピザを求めてきたって『それを出すのがプロだ』って言ってつくっちゃうの。一度メロンにケチャップとチーズたっぷりのスペシャルピザをたのまれたときだって、結構おいしい感じに仕上げちゃうんだもの!」
今となってはもう確認する術はありませんが、あなたにマ・ノン人たちへの好意がまったくなかったとは、私にはどうしても思えないんです。
ミラで生まれた子
人間と同じように、文化というものもまた、どこかで生まれ育つものだということを実感する出来事がありました。
「オーレロン! なぜゴルボッガを軽んじるような発言をするんですか!? 我々はゴルボッガに従い、ボルタントをリボルタントするためだけに生きているのです。あなたは我々の存在意義全てを否定するつもりですか!」
「うっぜーな。リボルタントっていったって、そんなもんただの食事みたいなもんだろ。適度にやりゃあいいんだよ。それを使命だなんだといちいちさ。トラクロさんたちは古くせーんだよ!」
「な・・・! オーレロン! 訂正しなさい! 我々の気高き使命を侮辱するなど言語道断! 許されませんよ!」
ザルボッガ人にはゴルボッガという名の創造主を信仰する固有の宗教があります。
そこらじゅうにあるボルタント(有害物質)をリボルタント(無害化)しているだけで、あとは何もせずとも生きていられるザルボッガ人です。生きるうえでの葛藤が少ないぶん、文化を多様に分岐させていく動機がなかなか芽生えなかったのでしょう。みんな同じように敬虔にゴルボッガを崇拝しています。

実は最近ゴルボッガの正体を知る機会があったんですが・・・、どうやら彼らは高度な科学力を持ったサマール系の人類だったようですね。母星を汚しつくし、その浄化のための人工生命体を創造してどこかへ消えていった種族。
でもまあ、その正体が知れたところでザルボッガ人の信仰は揺らぎません。いずれにせよボルタントをリボルタントして生きる、彼らの生活様式に変わりはないのですから。その生活を精神面で裏打ちする宗教は、彼らにとって欠かせない大切なものです。
さて。ところがごく最近NLAで生まれたばかりだというオーレロンさんにとっては事情が異なるようで。
彼はゴルボッガに従い生きるザルボッガ人らしい生活様式を体得する前に、地球人やノポン族のような異星の文化に触れました。
私たちが生きるうえで必要だと感じる価値観はザルボッガのものとはどうしても異なります。たとえば自由。個性。自発的意志。多様で危険な環境に晒され、集合知でもってひとつひとつの問題に対処していかなければならなかった私たちにとって、それらは当たり前に必要なものでした。
オーレロンさんはそういう、これまでのザルボッガ人にはなかった感性を学んでしまったわけですね。

「やめてください、やめてください! 汚らわしい言葉を聞かせないでください! もう私ではあなたを管理できません! ザルボッガとしての誇りを失っているあなたを、仲間だとは思えないですよ」
彼は同胞たちから疎まれてしまいました。
別に嫌われたわけじゃないはずです。あの人たち、マイペースで何を考えているのかわかりにくいですけど、いつもゴルボッガのために生きることを考えているだけあって、みんな誰かの役に立ちたいという気持ちを持つ心優しい種族ですから。きっと、戸惑っているだけなんだと思います。
「心配してくれんのか? いやー、あんたくらいだよ。そんなふうに理解してくれんのはさ。さっきのだってトラクロさんだけじゃないんだよ。他のザルボッガの連中も、俺がゴルボッガをバカにしてるだ、リボルタントを軽視してるだ――、なーんか邪魔者扱いするんだよな。ひどくね? 価値観なんて人それぞれだろ」
うんうん、わかる。
オーレロンさんはやはり私たちの文化の影響を強く受けて育ったみたいです。
たぶん、ザルボッガ人よりも地球人や他の異星人のほうが彼を容易に理解して、受け入れてあげられると思います。ですが――。

「ちぇっ。少しくらい肩を持ってくれてもいいじゃん。――俺だってみんなのことは好きなんだ。なのに『仲間と思えない』なんて言われてさ。俺はいったいどうすりゃいいんだ? なあ。あんたならこういうとき、どうやって仲間に接するんだ?」
オーレロンさんはあくまでザルボッガ人の仲間と仲よくしたいと思っているんです。
だったら、今の状況はよくない。
でも、安心してください。だってほら、私は地球人ですが、ザルボッガの人たちともそれなりに仲よくさせてもらっていますよ。
オーレロンさん。地球人はどうして「人それぞれ」の価値観を尊重しているんだと思いますか? それは、自分と異なる文化を持つ人ともわかりあえるようにするためなんですよ。
これはザルボッガには無い文化です。だからこの点で向こうに配慮を求めることは現実的ではありません。あの人たちと仲よくなりたいなら、まずこちらから歩み寄っていかなければ。
もちろん、なんでもかんでも譲ってばかりじゃ「人それぞれ」になりませんけどね。譲りたくないところは時間をかけてでもわかってもらう努力を尽くさなければ。
難しいことだと感じるかもしれませんが、幸い、オーレロンさんが学んだ文化にならそれができるんです。
仲よくなりたいなら、仲よくなれる。それが私たちのつくりあげた文化です。
「ふーむ。そうだな・・・。使命なんてどうでもいいが、少しは気合入れてリボルタントでもしてやっかな!」
「トラクロさん! 俺、みんなが話してた黒鋼の大陸の汚染地帯をリボルタントしたぜ。どうだい? 俺だってちゃんとしたザルボッガなんだ。――これで俺のこと、仲間って認めてもらえないかい」
「そのために、あなたは・・・。あなたのその覚悟、きっとゴルボッガも褒めてくださることでしょう。だからすぐにNLAへ戻ってきてください。今、大切な仲間を失うわけにはいかないのです」
きっとオーレロンさんのこの問題解決能力は、ザルボッガ人にとって新しい風となるでしょう。
ここは彼らの母星ベトゥンじゃありません。あちらに比べれば惑星ミラにあるボルタントの量はかなり少ないと聞いています。また、近いうちに私たちはまたさらに別の宇宙へ旅立つことになる予定です。
今後、おそらくザルボッガ人も生きるために新たな文化を創造していかなければならなくなるはずです。
そうなったとき、彼らの中心となって活躍してくれるのは――。

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