カースティさんに「データプローブを宇宙の果てへ立てに行く準備はできてる?」っていきなり聞かれたんです。どうしたんですかね・・・?
ブレイド男性

テレシアには手を出す気がないので、調査率はこれが最終です。
新しきフロンティア
「ねえ、あなたトビアスとは面識がある? あのね、データユニットの解析を進めていたら、6枚目のデータユニットがあることがわかったんだけど、そのありかを辿ったらなぜかトビアスのところに辿りついたのよ。もし知り合いなら交渉して譲ってもらってきてくれないかしら」
新白鯨が飛び立つ前にどうしても、とカースティさんから連絡がありました。
この人はミラで散々お世話になったフロンティアネットを開発してくれたチームのひとりなんですが、亡くなった仲間たちがすでに次世代のフロンティアネット開発に着手していたらしいということで、ここのところずっと過去の研究資料を調べていた人です。

任務の内容は2つ。新白鯨出発前までにここでしか採れない万能素材ミラニウムを指定量確保することと、研究資料の一部が収められたデータユニットをトビアスさんが持っているらしいので譲渡交渉してくること。
私が設置したフロンティアネット用データプローブの半分には地下資源の自動採掘オプションをつけてあるので、少し時間をもらえればミラニウムはすぐに集まるでしょう。(改めて考えてみるととんでもないシステムですよね)
トビアスさんはまあ、あの人とまともに親交があるのはたぶん私くらいなので、カースティさんが私に依頼してくるのもわかります。話してみれば若干いい人なんですけどね。お金にガメつすぎてブレイド仲間からの評判が地の底なだけで。せめて美形だったらマードレスさんみたいにちやほやしてくれる人もいたんでしょうが。
身も蓋もない人物評に不安そうな顔をするカースティさんを背に、私はとりあえずトビアスさんに会いに行ってみることにしました。
カースティさんが見つけた研究中の次世代フロンティアネットは、現在の惑星内でのネットワークに留まらず、それどころか星系の枠すら越えて、全宇宙の情報と物資をつなぐ大規模ネットワークを構築する構想だったそうです。
たとえば地球にいながら火星や金星にある資源を採掘したり、遠く離れたこの惑星ミラと相互に連絡を取りあったり――。そういう夢のある計画だったわけですね。
まもなく私たちはミラを離れ、新たな居住可能惑星を探して別世界の宇宙をさまようことになります。
その惑星が地球やミラのように資源豊かな星だとは限りません。酸素や水があるだけでも御の字。万能素材ミラニウムみたいな便利なものがまた見つかる可能性は少ないでしょう。
カースティさんが今すぐこの研究に着手したいと逸っているのも、近い将来確実に必要になるものだと確信ができたからなんでしょうね。
と、一応ざっと事情を説明してみたんですが、トビアスさんは相変わらずの調子。堂々と大金をふっかけられました。
「データユニットFN098!? てめえその話をどこから聞いた! ・・・って、カースティだと? あの偽善野郎、ついにそこまで辿りついたってのか。そういう話なら譲ってやってもいいがな、ざっと100000Gは必要だな。それだけの価値があるものなんだ、こいつは」
ちなみに今回の任務でカースティさんから支払われる予定の報酬は49000G。仕事の経費としては予算オーバーなんてレベルの話じゃないです。さすがにこれはカースティさんに相談しても予算を増額してもらえる見込みはないでしょう。
払えるかどうかでいったら、払えます。私はね。トビアスさん、過去に何度か収益力競争をしたこともあって、私にそれなりの蓄えがあることを知っているんですよね。足元を見てふっかけているのは間違いありません。
問題は、こういうの労働倫理としていかがなものかというところだけ。私、ヒメリさんに「タダ働きは他のブレイドのためにもよくない」みたいなこと言っちゃってるんですよね。
うーん。
・・・まあ、私としても、これからしばらく宇宙船暮らしになるんですから現金だけ持っていてもしょうがないんですよね。そんなお金にものをいわせて豪遊できるほど物資に余裕があるはずもなし。
それに、トビアスさんなら遊ぶ金に浪費することもないでしょうしね。何に使うつもりかは知りませんが、投資のつもりで素直に払うことにしました。
くれぐれも本部には黙っておいてくださいね。万が一バラしたら、私もこれまでのトビアスさんの悪行全部晒し上げますからね。
何はともあれ話はまとまったということで、データユニットを受け取ったあと、私は少し寄り道してミラニウムの輸送の手配を済ませてから、カースティさんのところに戻りました。
なんか、カースティさんとトビアスさんが言い争っていました。
「ハッ! 何がやりやすくなっただ。フロンティアネットのネットワーク構築はてめえの専門外だろうが! そういう知ろうとの勘違いが一番怖いんだよ! 宇宙規模のインフラを整備するってのに、何を甘い見通しでいやがんだ、てめえは」

あのー。そういうの、間に入った私の立場が悪くなるのでやめてもらえませんかね。
とはいえ、思っていたよりは険悪な雰囲気じゃなさそう。むしろカースティさん目を白黒させて、たまに反論しようとしては即座に言い返されつつ、最終的にはトビアスさんの言うことひとつひとつにコクコク頷いていました。
しばらく横で聞いていて、だんだん話が見えてきました。
実は以前、私はトビアスさんも仲間が残したプロジェクトを引き継いだんだって話を聞いていました。それがまさにこの次世代フロンティアネット構想だったんだそうです。
つまりトビアスさんとカースティさんは同じ研究チームの元同僚同士。もともと結構な人数のチームだったのと、白鯨落下時のゴタゴタでトビアスさんのB.B.の人相が変わってしまったのとで、カースティさん全く気づいていなかったんだとか。天然か!
・・・天然だったわ。そういえばこの人、こう見えても守秘義務がある情報をその場のノリでうっかり漏らしちゃう人だったわ。
「だから甘ちゃん野郎なんだよ、てめえは。研究にかかる資金はどうするつもりなんだ? こんな途方もない計画、当面本部はゼニなんて出してくれるわけないぜ。今まで溜めこんだ俺様のゼニをてめえの口座に送っておいた。そいつを開発資金に充てろ。それと、ネットワークの研究に反しては俺が引き継ぐから、てめえはおとなしく専門のデータプローブ研究でも始めやがれ!」
ついさっきトビアスさんに渡した私の100000Gを含む多額の資金がカースティさんの口座に入金されました。
で、そこから今回の任務報酬の49000Gが私の口座に振り込まれました。
さすがに釈然としなかったので、私はこの場で2人の研究のスポンサーに名乗り出ることにしました。
目の前でトビアスさんが腰砕けになるくらいのお金をカースティさんの口座に振り込んでやりました。ざまあみろです。
見返りは、データプローブの試作品ができるたび私にもいくつか提供すること。
どうせ次の惑星でも司令やエルマさんたちにこき使われるんです。せっかくだから開拓の最前線でテストしてやりたいと思います。

NLAパトロール記録
わかりあえて
地球人コレペディアン メイ
「NLAに帰ってきたとき、勇気を出して入口にいたトマスさんに話しかけてみたんです。そしたら私の知らないドールの使いかたとか色々教えてくれてですね、今度トレーニングまでしてくれることになったんですよ! 私、これからももっといろんな人に話しかけて、みんなで協力しあって、任務を解決していこうと思います!」
だいぶ前に忘却の渓谷でドールが故障して立ち往生していたところを助けてあげた人です。
本人はものすごい幸運の持ち主で才能もありそうなんですが、極度の人見知りで、ずっとひとりで任務を受けていました。
その件をきっかけにチームで動く重要性を痛感したみたいで、最近は自分からいろんな人に話しかけているみたいです。
最初に声をかけたのがイーストゲートのトマスさんだったのも良かったんでしょうね。あの人すごい親切で、私もこの街に来たばかりのころいろいろ教えてもらいましたし。今度肩でも揉んであげてください。
オルフェ人テスタメント カンオトナム
「私はずっと地球人を油断ならないものと思っていましたが、考えを改めましたよ。異なる種族の我々やマ・ノン人に対し、同族である地球人と変わらぬ扱いをしてくれるのです。このような待遇を受けた記憶は私のオーヴァにありません。地球人自らの使命もあるというのに、他者をも救うなどグロウスでは考えられませんよ」
オルフェ人は荒事が苦手だそうですが、冷静で分析力に秀で、引き際を見極められるぶん実は生存率も高いということで、最近ブレイド隊からの人気が高いんですよね。
その人気に火をつけたのがこのカンオトナムさんです。任務中のトラブルから生き延びただけでなく、チームの新人まで連れ帰ってくれたんです。
本人は地球人は変わっていると言いますが、最初に仲間を救ってくれたのはこの人自身。オルフェ人は考えかたが合理的すぎて自分ではなかなか気付けないみたいですが、私からするとカンオトナムさんも仲間思いの優しい人だと思いますよ。
地球人コンパニオン トレーシー

「まだまだザルボッガ人に偏見を持ってる人はいると思うけど、そんなやつらはこのトレーシーさんが許さないから! 見た目で判断するなんて人としてサイテーよ! ・・・え? 私もそうだったって? 過去のことは忘れましょ。うしろを振りかえってたら前には進めないわよ」
お騒がせコンパニオンのトレーシーさんです。
窃盗事件の現場周辺をうろついていたってだけで証拠もなくザルボッガ人を逮捕していたので、私が間に入って説得したんですが、今ではこのとおりの手のひら返しっぷり。
ウワサによると他にもカップルの痴話喧嘩をストーカー事件と勘違いしたなんてこともあるそうで。・・・地球では刑事をしていたって本当なんです?
でもまあ、ガンコに思い込みを正さないよりはよっぽどいいですよね。たしかに。
素行不良な地球人 ダート
「あの事件でマ・ノンのやつらが地球人に反撃してくるんじゃないかって思ってたが――、『いつものピザが食べられなくなってベリーサッドネー』なんてほざいてるだけなんだぜ!? どんだけ器がでかいんだよ。・・・いや、ただ底抜けにお人よしなだけか?」
マ・ノン人連続殺人事件に巻きこまれて亡くなったジェロームさんの取り巻きの人です。一応ブレイド隊で、所属はランドバンク。
以前からたびたびマ・ノン人を狙って恐喝騒ぎを起こしていた厄介な人なんですが、最近やっと落ち着いてくれたみたいです。
ちょっと気付くのが遅いですよ。
過去何度もトラブルを起こしていたのに私が口頭注意で留めていたのって、絡まれてたマ・ノン人たちが自分が恐喝されていることを理解せずのほほんとしていたから、立件したくてもできなかっただけなんですからね。
地球人メカニック バイロン
「趣味でアランと一緒に、メッセージボトルならぬ消息不明の移民船へ向けてのメッセージ付き小型ロケットをつくっているんですけどね。そんなバカげた夢に協力してくれる技術者が現れたんですよ。ブレナっていうアランの同僚なんですけど、とっても優秀な技術者で――、美人なんです。なんだか週末のロケットづくりが前よりずっと楽しくなってきましたよ」
ブレイドエリアでドールの整備の仕事をしているバイロンさんです。
アランさんとブレナさんっていうのは、先日リンさんと一緒に6連装ビームカノンを完成させたサクラバ重工のエンジニアですね。もともとは意見が合わなくて言いあいになっていたふたりですが、どうやらあれをきっかけに仲よくなったみたいです。
それにしても・・・。プライベートまで一緒に過ごす仲になったんですか。大丈夫? バイロンさん、勝ち目あります?
地球人建築士 ベルナート
「仕事をしながらロックに建築のイロハを一から教えてやってるんだ。あいつ、セリカと一緒に住む家をつくれるようになるんだって張りきってるし。それで――、まだ先の話だろうが、もしあいつがいっぱしの図面を描けるまでに成長したら、みんなでそいつをかたちにしてやろうって話してんだ」
ロックさんはもうすっかり職場の人たちと打ち解けたみたいです。話によると、頻繁に様子を見に来るセリカさんもアイドルみたいな人気が出ているらしいですよ。

人気者2人の新居を建てる工事ってどんな感じになるんでしょう。想像することしかできませんが、きっと楽しい仕事なんでしょうね。たとえるなら何ヶ月も続く結婚披露宴みたいな?
勢いあまって、マードレスさんのエフィンジャー家より大きくなっちゃったりして。
NLA生まれのザルボッガ人 オーレロン
「最初は『ザルボッガ人ってのは使命に縛られてばっかのかわいそうなやつら』って思ってたんだけどな。NLAでたまにいる、目的を失って自暴自棄になってる地球人なんて見るとさ、『そういうシンプルな生きかたも有りかな』なんて思うようになったよ。だって、ボルタントさえあれば俺の親、アラセニカンなんて本当に幸せそうで、他の悩みなんて何もないんだぜ」
たしか地球人にも同じことを言っている人がいましたね。
オーレロンさん、最初はザルボッガの人たちに遠巻きに見られていましたが、最近はだいぶ打ち解けてきたみたいです。
なにせこの人、利発ですからね。ちゃんと自分が何をしたくて、そのために何をすればいいのか筋道立てて考えられる人です。私も少しだけお手伝いしましたが、今の人間関係があるのはほとんどオーレロンさんが自分で成し遂げたものだと思います。
自分と異なる考えかたを受け入れるのって結構大変なので、まだ生まれたばかりなのにそれができているこの人はすごいなって思っています。
ちなみに、ザルボッガ人は単為生殖で、リボルタントをたくさん行ったときに口から子どもを吐き出すそうですよ。
ドロンゴ・キャラバンの見張り番 ルリリタ
「ヒメリはみんなに頼られるのが幸せなのかも? なら、ルリリタがいーっぱい頼ってあげちゃうも! もちろんタダ働き――、なんてことはしないも。しっかりお礼をするも! このかわいいルリリタちゃんを好きなだけモフモフしていいも。すばらしくて最高のお礼だも!」
黒鋼の大陸からわざわざNLAに通ってまでヒメリさんに雑用を頼みに来るルリリタさん。
ガメツいのはノポン族特有のものなので、もう本当にどうしようもないんですが、なんだかんだでこの人もヒメリさんのことを大切に思ってくれているんですよね。そこだけは私、この人のことを誤解していました。お父さんの日記を探した件のときはお世話になりました。
ただ――、無報酬でヒメリさんに仕事をさせるのは下手するとあの人の立場を悪くしかねないので、できればせめて現物での支払いをですね・・・。
コイバナ
地球人アームズ ミカとカンバー

「テストが失敗したあと、すぐにグロウスがやってきたんだ・・・。私はなんとか逃げつづけて、もうダメだと思ったときにアクセナが助けに来てくれたの。カンバーには二度と会えないと思ってた・・・。もう絶対に離れたくない」
「よ! こないだは助けてくれてありがとうな。ドールのほうもアクセナが完璧に直してくれたし、すぐ現場に戻れそうだよ。ホント世話になっちまった。今度アイツにはメシでも奢ってやらないとな。・・・いや、アクセナへの礼ならドールのパーツでも贈ったほうが喜ばれるか? はは。きっとそうだな。アイツは食い気や色気よりドールだもんな」
アームズで主に新装備のテストの仕事をしているミカさんとカンバーさんです。もうひとり、アクセナさんっていう恋愛不感症の人と合わせて仲よく三角関係をやっています。
カンバーさん、いいかげんにしないと近いうち刺されますよ?
ちなみにアクセナさんは爆破されかけました。
ドールオタク アクセナ
「暫定自治政府からの発表でアームズカンパニーのほうも上から下まで大騒ぎだよ。まあ、ブレイドのみんなはもっと大変そうだけどね。私にできることはあるかな?」
そのアクセナさん。
待って。
あなたアームズ所属ですよ。立派なブレイド隊の一員ですよ。もっとドール以外にも興味を持って。
大樹の民(25歳家事手伝い) デュナ

「ずーっと理想のダーリンをこの街で探してたんだけど、ついについに――、見つけたんだナ! あんたたちに司令と呼ばれてる、筋肉ムキムキの超マンドスかっこいい地球人の男で! なんとそいつゲートに近づいたシミウスを素手で追いはらっちまったんだよ! あんな強くてイケてる男、初めて見たナ。デュナ、・・・あの人のお嫁さんになりたいナ」
そういえばヴァンダム司令って結婚はされているんですかね?
バイアス人のなかでも有数の大家族の長女、デュナさんです。
少し前まで行き遅れだって言われることを気にしていたんですが、弟のネマドさんが結婚してからはそういう話題すら避けられるようになったそうで、どっちにしろ年中あせっています。
そっかあ。枯れ専かあ・・・。それでかあ・・・。(たぶん違う)
ネマドさんと結婚したヘプタナさんもそうでしたが、なんかバイアスの女の人ってマッチョ好きほど案外相手が見つからない傾向がある気がします。バイアス人で力自慢の未婚男性とかちらほら見かけるのに・・・。目が肥えているってことでしょうか?
ラース人細工師 セザ
「こうして見張りをしているときも、ご飯を食べているときも、探索へ行くときも、そして寝るときも――。ジユの傍を離れず生きていこうと思っています。それこそ銀の腕輪の誓い。今、私とっても幸せです」
束縛強めなセザさんです。気持ちはわからないでもないんですけどね。お相手のジユさん、復讐のためって言って遠くの大陸で命を落としかけましたし。
ちなみにジユさん戦士なんですが、どうやらちょっとした外出も許してもらえていない様子です。たぶん、セザさんひとりの稼ぎで養ってあげるつもりなんでしょうね。もうひとつちなみに、2人とも女性です。
オルフェ人植物学者 モンボイトン
「ナズさんに殴打されるユンオトナムを見ているとき、何故だか私はそれを羨ましいと思っていたのです。この感情はいったい――。私は、どうしてしまったのでしょうか? ああ・・・。今、私のなかで恐るべきものが芽生えようとしています・・・」
オルフェ人ってああ見えて意外とグルメでして、食用植物の品種改良と栽培技術を研究している専門家が結構いるんです。この人もそのうちのひとり。
どうやら相当に優秀な人のようで、一度食べただけの木を成分合成で再現することさえできてしまいます。その技術でバイアス人にとって宗教的に重要な意味を持つ“大いなる木”を復活してくれました。
・・・まあ、要するに一度食べちゃったんですけどね。
そのとき木の守り手であるナズさんの渾身の怒りがこもった拳を受けて、なんだか変なスイッチが入っちゃったみたいです。
モンボイトンさん自身も湧きあがる感情に困惑しているようですが、私も困惑しています。
なにせナズさん35歳でモンボイトンさんはまだ0歳。うーん。地球にいたら絶対見ることができなかった歳の差カップルです。ちょっとワクワクしますね。
地球人コンパニオン ネリー
「あなたが勧めてくれたハニースモークボール、最高のスパイスです! 料理のとき、隠し味に砕いて小さじ1杯入れたら、ハニースモークボールが持つ甘い香りと軽い酸味が食材が本来持つ旨味と絶妙にマッチして、プロ級の味になりました! 彼も『料理の腕が上がったね』って褒めてくれたんです!」
以前ルーさんのお店を手伝ったことがありまして、そのときのお客さんです。
ルーさんは煙幕弾としてつくったらしいハニースモークボールですが、私の見立てどおり、料理にもバッチリはまってくれたみたいです。さすがルーさんの発明品は唯一無二!
材料として原生生物の糞を使っていることだけは口が裂けても言えません。
ルーさん、商品開発のときどうしてタンブル糖の土じゃなくウータン粘土を発注したんだろ?
病弱(だった)ノポン族 ヘナヘナ

「栄養満点のコッセ豆はもちろん、忘却の渓谷のウィルピーマンやチャルバ葉! 白樹の大陸でしか取れないエメラルドグレープという珍しい果物や、夜光の森で取れるリーフバナナというあまーい葉っぱもたくさん食べたも! ぜーんぶボラボラが旅先から送ってきてくれたものなんだも。うふふ。つまりヘナヘナはボラボラの愛でこんなに大きくなったんだも!」
体格差!
お相手のボラボラさんは恋人の虚弱体質を治すためにミラ中を駆けまわって様々な食材を集めた愛の流浪人です。
ヘナヘナさん、地球の医学で劇的に体質改善するまではコッセ豆を1粒食べるだけでも1週間かかっていたんだそうです。それがすっかり元気になった今はバケツ1杯を3秒で丸飲みできるほどに。
・・・うん? ということはつまり――、・・・ほ、本当の意味で、愛だけでこんなに大きくなったということですね! 食べる量まで劇的に増したからって、今後さらに巨大化するペースが増していくなんてことはないでしょう。全ては愛の力なんですから! うん!
β体オルフェ人 ネンオサラグ
「安心して。面白い調査対象を見つけたから、もうしばらくはNLAを出たりしないわ。――実はね、ナンオサラグのことなの。彼ったら私に気があるみたいなのに、どうも根本的にその考えかた自体を理解できてないみたいなのよ。オルフェ人って原生生物なんかより面白いわ。彼をサンプルに、どういう考えかたをしてるのか研究してみたいわね」
オルフェ人は分裂によって数を増やし、分裂元の知識や意思を継承して生まれてくるので、みんなだいたい似たような性格をしています。
ところがNLAに来てからはときおりイレギュラーなオルフェ人が生まれるようになりました。赤い肌に、奔放な気質、ときにオーヴァにすら疑念を抱く確固とした自律意思。やがてオルフェ人は従来の自分たちをα体、異質さを感じる彼らをβ体と呼び分けるようになりました。
ネンオサラグさんはそのβ体の第1号です。話に出てきたナンオサラグさんから分裂しました。
とはいえ地球人視点だとβ体も充分オルフェ的なんですよね。発想が学者的なところとか、あと、ギリギリまで余裕ぶろうとするところとか。
・・・β体の人って、どういうわけか分裂元の人に恋をする傾向があるっぽいんですよね。
どうしようもない人たち
精霊 ノポポン

最近、深夜に住宅エリアからブレイドエリアの方角を見上げるとウィルオウィスプが見えるという噂が広まっていまして、調べてみるとノポポンさんでした。
よくわからないですが普通のノポン族とちょっと違う存在らしくって、なんか光るんですよね、この人。
NLAの街に興味が湧いて眺めていたそうで、せめて昼間にしてもらえないか頼んでみたんですが、「精霊は人々に直接関わることができんでおじゃるも」だそうです。
「変なマンプクヤモリみたいな生物に我が消し去られるところだったでおじゃるも! アイツ『ユーレイなんて存在しない』とか言って、電気ビリビリの武器を使って・・・」
案の定、肝試しスポットになりつつあるみたいだし・・・。
話を聞いてみると、どうやらマ・ノン人のルルデュさんのことみたいですね。ザルボッガ人からゴルクァを盗んで自分でリボルタントを試してみて、死にかけた人。あの人もたいがい懲りない人です。
せっかくだから反省してもらおうかともちょっと思ったんですが、あの人最近毎日トロイランさんにボルタントを渡されて相当参っているはずなのに相変わらずなわけですから、たぶんもう一生こんな感じなんでしょうね。
ノポポンさんを調子づかせるのもそれはそれで癪ですし、ここはテキトーにウソをついておきましょう。
「ユーキューの時を生きしこの我を怒らせるとどうなるか思い知らせてやるでおじゃるも! この地に住まいし精霊よ! 我が力に応じ、NLAのピザというピザをルルデュのもとに・・・! ふももー! テンバツテキメーン! でおじゃるも」
ところでこの人、もしかして新白鯨に乗ってからも24時間光りつづけるんでしょうか?
地球人コレペディアン ラーラ兄弟とユーソフ

「私は双子の兄、ラーラ・ナーラ」
「私は双子の弟、ラーラ・メーラ」
「麗しのコンパニオンブラザーズとは私たちのこと。ウフフ。気づいてたかしら?」
もちろん気づいていました。なにせ私もコンパニオンの同僚ですし。
憲兵みたいなハードな仕事をしているラーラさんが兄のラーラ・ナーラさん。スリエラさんの件は本当にありがとうございました。
弟のラーラ・メーラさんは普段ハンガーに詰めていて、半分アームズかテスタメントみたいな物資調達の仕事をしています。
「この間ラーラが2人いるって通報があって、ついにデフィニア人を逮捕、――と思ったら、どっちも本物のラーラでびっくりしたよ。双子の弟がいたんだな。でさ、よくよく話を聞いたら、弟さん、俺の部屋に何度か遊びに来てたらしくて。・・・くそ。どのときのラーラだ?」
コワモテですが情の濃い人たちなので結構モテるんですよね、2人とも。
実は茶目っ気もある人たちです。お兄さんのほうのカレシのユーソフさん、困ってましたよ。
ところでですね、弟さんのほうもつい最近戦死されたカレシさんがいたはずなんですが、・・・んー???
『オルフェ・パルフェ』技術者 サンエイブ
「グロウスが完全にいなくなり、それほど武装する必要がなくなったら、私たちがつくっている生体部品の用途も広げていかなければなりませんね。そうですね――、生体部品により水を使わないシャワーなどどうでしょうか? うねりながら身体の汚れを拭い取りますよ」
製品化したらセクハラで訴えますね。
ノポン族の商人 ナルとラナ
「ナルの妹、ラナがとんでもないことをやらかしたも。ドロンゴ・キャラバンだけじゃなくミラ中のノポンの間でウワサになってるも・・・。子どもができたって言って男を騙す悪女、そんな言われかたしてるも! だいたい合ってるも。我が妹ながら恐ろしい子だも」

まさかそんなところに血のつながりがあるだなんて。
惑星ミラで目覚めてから私が一番最初に騙されたのが、このナルさんです。グロウスに脅迫されててこのままだと皆殺しだー!って言うので上納品集めを手伝ってあげたら、おかわりを要求されました。
ノポン族が商売の話をするときは信用しちゃいけないって、私このとき学びました。
ちなみに妹のラナさんはNLAに来ているキャラバンの隊長さんの奥さんなんですが、部下と不倫したうえ、妊娠したふりをして駆け落ち(未遂)しました。
ノポン族は商売の話以外であっても信用できない場合があるって、私あのとき学びました。
「前まではラナのかわいさがラナの自由な生活を苦しめてたんだけど、今はラナのかわいさを生かして商売を始めればいいんじゃないかって思うようになったも。ラナと握手するのが100G! ラナをもふもふするのが10000G!! ラナとお散歩するのが1000000G!!! すばらしい大儲け計画だも! ラナ、バリバリ働くも!」
妹さん、現在は何事もなかったかのように旦那さんのところに戻っています。
あの一周まわって思わず許したくなる図太さも、ナルさんそっくりです。
『ファクトリー1.21』社員 グレイアムとヴェヴェン
「ねえ、ヴェヴェン君。君だけ生き残るなんてズルいよ。一緒に行こう、負債も責任もない世界へ――」
「お、落ち着いて! グレイアムさん! まだ何かあったって決まったわけじゃないんだから」
「だって全然連絡ないじゃないか! 未来にトンズラしちゃったのかな!? 何だろうが終わり! もう終わりだよ! ふふふ。ねえ、そこの君も一緒に行こう? ここにいたっていいことなんて何もないよ・・・」
ある日、自動車ディーラーのグレイアムさんが目を真っ赤に血走らせて何事か喚いている場面に遭遇しました。
うっかり話しかけられてしまったのですが、私、こういう冷静さを欠いている相手は無闇に刺激してはいけないってどこかで習った気がしたので、「そうだねー。一緒に死のうねー」ってテキトーに返事したんですよね。
「って! アンタまでヤケになるなよ! 何かイヤなことでもあったの? 元気出せよ、前向きになろうよ!」
ヴェヴェンさん、相変わらずマ・ノン人らしからぬツッコミの切れ味です。
私、この人のツッコミすごい好き。ほれぼれしてしまいます。
「そうだ、ミルストレア! 白樹の大陸に行ってドクを連れ帰ってきてくれない? な、いいだろ? グレイアムさんにも俺にもドクが必要なんだ!」
あ、もちろんちゃんとお手伝いしましたよ。コンパニオンとして。
グレイアムさんもヴェヴェンさんも若干不安そうな顔でしたけども。
普通に考えたら冗談だってわかりそうなものですが、なんか私が言うと本気に取られてしまうことがちょくちょくあるんですよね。
リンさんに相談しても「それはあなたが悪いです」としか教えてくれないし。
まあ、よくわからないですけど、私が悪いならもうしょうがない。じゃあそれはきっと私の性分です。直しようがありません。たぶん。
ちなみにこの事件のあと、正気に戻ったグレイアムさんはドクターBによって半ばムリヤリ『ファクトリー1.21』の社員にさせられていました。「借金の返済を心配しているなら一緒に働いて稼いだほうが確実だろう」みたいなムチャクチャなことを言われて。
あのときのグレイアムさんのドクターBを見る目、私、すごく既視感がありました。
絶望を越えて
地球人テスタメント イエルヴ

「ミルストレアか。 ・・・黄昏れてたわけじゃないさ。アイツが生きてる可能性はもうゼロなんだなって、ちょっと考えてただけだ。――はっ。俺に感傷は似合わないって? ハタから見るとそうかもしれねえ。でも、自分でもおかしいとは思うが、俺のなかにはいつの間にかアイツのことしかなかったんだ。今じゃミルストレアやブレイドの仲間がいるけどよ」
幼馴染みのバラバラ死体を集めていたイエルヴさん。
私と同じ記憶喪失なんだそうですが・・・、あんなに一生懸命幼馴染みさんを探していたのって、自分のルーツを探るためでもあったんですね。
私は運がよかったのかもしれません。なにせ私が覚えていたのって、嬉し恥ずかしハイスクール時代、結局書きもしなかったオリジナル小説の主人公の名前だけだったんですから。
イエルヴさんは幼馴染みさんと再会できませんでした。最後まで記憶も戻りませんでした。
だけど顔を見るとなんだか晴れやかです。初めて会ったときは裏路地を雨に打たれながらうろつくノラ犬みたいな近寄りがたい空気だったのに、最近じゃ表通りの日当たりがいいところで寝そべってるノラ犬くらいにはやわらかい雰囲気をまとっています。
次の星ではアヴァランチに転属するんだってエレオノーラさんと話しあってるらしいですよ。じゃあこれからは猟犬って呼びますね。
マ・ノン人コンパニオン アクアル
「パウエルに殺されたマ・ノン人の家族のなかには地球人を憎んじゃってる人もいるけど、ボクが間に入って誤解を解いていけたらいいなって思ってるんだ。・・・いや、ボクだってユユちゃんのことで地球人が嫌いになったときもあったんだよ。でも君がいてくれたから、地球人は絶対に悪い人たちじゃないって思えたんだ!」
アクアルさんは今日もマ・ノン人と地球人の間を取り持とうと奔走しています。
感性は相変わらずマ・ノン寄り。でも、そういう人だからこそ私はありがたく思っています。地球人だってまだまだマ・ノンの人たちの考えかたを完璧に理解できているとはいいがたいです。そんなとき、身近にあちらの立場に立って話しあえる人がいるっていうのはすごく助かりますから。
いつかアクアルさんにも私たちの考えかた、ものの感じかたを知っていってもらえたらいいなと思います。・・・店長さんのためにも。
きっと私とアクアルさんの間から、それぞれの種族全体にまでお互いの理解が広まっていくと思うんです。
責任重大です。
『サンシャインカフェ』バリスタ ラッテ

「あ、ミルストレアさん! もしかしてカフェラテを飲みに来てくださったんですか? でも、ごめんなさい・・・。エスプレッソマシンなんですが、またやっちゃいまして」
何かするたびにお店の備品を壊してしまうという、不思議な不幸体質のラッテさんです。
いつもすごい一生懸命で好感が持てるお人柄なんですが、明らかにお店の利益を上回るペースで全てを破壊しつくしていることだけが玉に瑕。私、このお店でコーヒーを飲めたことがありません。
あ。でもこの日はちょっと違いました。
「今はプラスチックのドリッパーでペーパードリップしたコーヒーのみお出しできます! ・・・これなら落としても壊れないだろうって、教会でお世話になったレトリックさんが。なんだか救われた気分です」
レトリックさんというのは住宅エリアにある教会の管理人をしている人です。牧師さんではないらしいですけど、悩みを聞いたり懺悔を聞いたり、結構そんな感じのことをしているみたいです。
ラッテさん、そそっかしいってだけじゃ説明がつかないレベルの体質だからか、教会にはよく通っているらしいですね。私もレトリックさんからそのあたりの話は聞いていました。
始めて飲むラッテさん渾身の一杯は、上品な香りと深い苦みのなかにほのかな甘味が感じられて、とてもおいしかったです。
地球人ハウスキーパー ウェディ
「向かいの家のルシアがしつこく誘うから夜の集まりに参加してあげたのさ。女子会だなんて言ってたけど、異星人のゲテモノ会って感じだったね。――息子が死んで塞ぎこんでた私を心配してくれてたんだって。・・・本当に、宇宙一お節介な子だよね」
ルシアさんの女子会、私も久しぶりに覗いてみましたが、またメンバーが増えてましたっけ。
一癖も二癖もある個性派ぞろいですけど、なんか話によると、みんなウェディさんを招待するにあたってすごい気を使ってくれたみたいですよ。できるだけ地球人の味覚に合った食材を選んだり、ゲテモノっぽいものを出すにしてもちゃんと火を通すようにしたりとか。
でもそこで地球の料理を出すわけではないあたりがルシアさんらしいところですよね。
ウェディさん、ルシアさんが異星人を集めてパーティーしているのが気に入らないって、これまで何度もコンパニオンに通報を入れていた人なんです。
たとえばボゼさんなんかもつい最近までそうでしたが、地球で大勢の人が亡くなってしまった原因、異星人(グロウス)でしたからね・・・。
今度、ウェディさんがミートボールスパゲティを差し入れてくれるって約束してくれたそうですよ。亡くなった息子さんが好きだった料理なんだそうです。
百人鬼士最後の生き残り ザング
「百人鬼士がグロウスと戦うと決めたとき、ガ・デルグ様もともに戦うと言ってくれたんだ。だけど、それを爺ちゃんが止めた。『自分たちは独立部隊として反旗を翻すから、ガ・デルグ様はラース人を率いて彼らに従い、民を生き延びさせてほしい』って。呻きながら、泣きながら、ガ・デルグ様は爺ちゃんの手を固く握りしめ、戦わぬ道を受け入れた――。だから、俺も爺ちゃんが殺されて、討ち死にしようとしたときにあの人に止められて、生きる道を選んだんだ。・・・すごい人だよ。俺がいくら修行したって追いつけないお人さ」
この人にはミラのあちこちでケンカを売られました。ケンカっていうか、本人は武者修行のつもりだったらしいです。
百人鬼士っていうラースの伝説的な戦闘集団の生き残りだそうです。地球で喩えるならジャパニーズ・ニンジャみたいな感じでしょうか。分身するし。
憧れているラース人は多くて、ザングさんが百人鬼士だってことが知られると弟子入りを希望する武人が殺到したんだとか。
私、正直言うとラース人特有のバトルジャンキーみたいな考えかたがあんまりよくわからなくて、ザングさんのことも最初は街にいないだけのチンピラくらいに思っていたんですけどね。何度か会って、いろいろなことを聞いた今となっては、そんなに嫌いじゃないです。
まあ、勝負を挑まれたらとりあえず背中を向けるんですが。
回りこまれてしまったら、しかたない、試合開始。
隠居したノポン族 オモモ

「今でもケイリーはオモモの様子を見に来てくれますも。あの子もぶれいどのお仕事でタイヘンなはずなのに。ケイリーは本当にイイ子ですも。ケイリーのためにも、オモモはみんなと一緒に行きますも。ゼッタイに、生き残ってみせますも!」
つい先日の任務で、新白鯨に乗るよう説得したノポンのお婆さんです。
ケイリーさんというのは、オモモさんと個人的に親しくなった地球人ブレイドの人ですね。
最初は旦那さんが眠るこのミラで最後を迎えたい、なんて言っていたんですが、よくよく話を聞いてみるとそれは建前で、本当は新白鯨に乗る予定の息子たちに迷惑をかけたくない、足手まといになりたくないというのが本音だったみたいで。
いろいろ話してみましたが、リンさんの説得が一番心に刺さったみたいですね。それこそ子どもどころか孫みたいな歳ですから。「迷惑じゃない、一緒にいてほしい」って言われてしまったら遠慮も自重も粉々ですよ。
ケイリーさんのことをもうひとりの娘みたいにかわいがるオモモさんを見てると、あのときがんばってよかったなあって思います。
まあ、私の説得が効いたわけではないんですが。
地球人コレペディアン テッド
「改めて思い知りました。全てを救うなんて到底ムリで、とにかく自分たちにできることをやるしかないんだと。地球種汎移民計画を立案した人たちもこんな気持ちだったんでしょうか・・・」
先日一緒にミラの動植物のDNAを収集したテッドさんです。
あの忙しいときに一隊員がワガママを言ったってことでさすがに罰を受けたらしいですが、コレペディアンの皆さんはなんだかんだで彼に同情的だったそうですよ。まあ、私もあの仕事ができてよかったなあって思いますしね。
ホント、テッドさんの言うとおり。
きっと誰もが傷ついて、誰もが業を背負って、少しでも望ましい道を進んできたんでしょうね・・・。
逆に、思うんです。もし白鯨に乗る移民が国籍などで選り分けられず、完全に公平に能力だけで選抜されていたら――。結局、それでも不平は生まれていたでしょう。アメリカ人がアメリカの資本で建造した移民船にアメリカ人を乗せずにどうするんだって。どちらにせよ私たちは業を背負うことから逃れられません。
どのみち絶対の正解なんてありえないからこそ、私たちはほんのわずかでもより良い最善を、最善をと、頭と心を摩耗しながら必死に選択しつづけるんでしょうね。
実際はbestじゃないbetterですが、・・・せめてそうじゃなきゃ、取りこぼした人たちも申し訳が立ちませんから。
アパレルショップ店員 ドロシー

「ブレイドのかたから聞きました。シンゴさん、亡くなったんですね。B.B.だからそう簡単に死なないって言ってたのに。――いつか、本当の身体に蘇ったシンゴさんに会いに行きたいです。『どうしてNLAで待ってないんだ』って怒られちゃうかもしれませんけどね」
ラオさんのチームにいたシンゴさんとお付きあいされていた人です。
あのころは本当に幸せそうでした。
シンゴさんがどうして亡くなったのか、詳しいことをお話しすることはできません。私の場合はラオさんのことを強く憎むことができないのでなおさらです。
どうやらテスタメントによるセントラルライフの稼働開始は間に合わなかったようですが、新白鯨にしっかり原形質溶液を積み込んだので、きっと次の星では再会できると思います。
シンゴさん、きっとびっくりするでしょうね。私も楽しみです。
キズナの話
地球人メカニック バール

「グロウスの砲撃すらびくともしない、この超強固な白鯨の外壁を設計したのは誰なのかと調べていたんですが――、なんとその設計者のなかにリンさんのご両親の名前を見つけたんですよ。主機関の試験中に事故があってお亡くなりになったと聞いていましたが、今もこうしてリンさんや僕たちを守ってくれているんですね」
NLAのインフラ整備を受け持っているバールさん。以前送電システムの改修任務でご一緒しました。
本当、いろんなところでリンさんのご両親の話を聞きますね。
アルさんじゃないですが、言ってみれば私も今はリンさんの家族の一員みたいなものなのかもしれません。惑星ミラではたくさん、たくさん守ってもらいました。リンさんのご両親にも、それからリンさん本人にも。
私には肉親がいないわけですが、もしよかったらこれからも家族だと思うことを許してもらえたら、嬉しいなって思います。
・・・もちろん、リンさんがイヤじゃなければ、ですけどね。たまにすごい目で見られてますし、私。
『オルフェ・パルフェ』技術者 テンオサラグ
「『オルフェ・パルフェ』はスンオサラグが開発から製造までをほぼ一人で行っていたらしい。素晴らしい技術とバイタリティ。我が分裂元にして偉大なるオルフェ人だよ。今では彼から受け継いだ知識を元に、タンオサラグが開発を、私が製造を行っている。商品の出来に変わりはない。いや、私とタンオサラグの経験を上積みしたぶん性能が良くなっているくらいだろう。それがオーヴァの力だ。我らは変わらぬものを次代に残し、そのうえで積み重ねていけるのだ」
ファンタジー小説なんかだとよく、人間の強みは文字を操れることだ、知識を広く伝達し、集団で新たな発想を共有することができるのだ、みたいな話が出てきます。オルフェ人にとってのオーヴァはそれをさらに強力に、種の特性としてより根源的にしたような感覚なんでしょうね。
オーヴァ信仰みたいなものが出てくるのも納得です。地球でも宗教が伝播したのは文字の力によるところが大きかったですし、その後より直接的な文字のパワーといえる科学技術への信奉が旧来の宗教文化を駆逐していきましたし。
誇りと自信に根ざし、その思いを共有することで人と人とをつなげていくありかたが、宗教というものの根源なのかもしれません。
大樹の一族の戦士 ネマドとその妻 ヘプタナ

「いつだかアルド爺ちゃんが言ってたんダ。『ワシの一番の誇りはでかいケモノや岩窟の一族を倒したことじゃない。ワシを囲む、この大きな家族の輪を築けたことじゃ』ってな。優しい妹リアナがいて、お節介なジュナ姉ちゃんがいる。そして今は俺の隣にはヘプタナがいて、また家族は大きくなっていってるんダ。すごいもんだよな、家族って。そいつがどんどん大きくなって、みんなを守る力になるんだからナ!」
「あんたにだって大切な人はいるんだろ? もし行くってんなら――、絶対生きて帰って、その人に元気な顔、また見せてやりなよ」
ネマドさんの家族とはNLAでいろいろな関わりがありました。まずネマドさんとヘプタナさんの結婚式をお手伝いすることになって、しばらくすると今度は老衰したアルドさんのお葬式。ほとんど同時に今度は従兄弟のバジシさん夫妻の出産の話まで出てきて――。
家族を大切にする大樹の一族の文化、おかげでたくさん教わることができました。
すごいですよね。ネマドさん自身、最初は割と臆病っていうか、自分に自信がなさそうな人だったんですけど、今ではこんなに自信に満ちあふれていて。
エンネアナさんって人が言うには、本当はグロウス基地にいたころから勇気がある人だったらしいんですけどね。だけど目に見えてカッコよくなったのはヘプタナさんと結婚してから。結婚する前のヘプタナさんは優秀な狩人だったので、てっきりヘプタナさんが夫や家族を守る感じの夫婦になるものだと思っていたんですが、フタを開けてみればこのとおり。むしろネマドさんが家族を守るんだって、戦士としての自覚に目覚めました。
守りたい人たちができるのって、本当にすごいことなんだなって。
「“想い”だよ。生きようとする強い意志。衝動。すなわち“愛”だ。お前に愛する覚悟はあるか?」
アルさんが私に欠けているって言っていたの、こういう部分なのかもしれませんね。
たしかに私に家族はいません。・・・でも、リンさんの話だとアルさんも天涯孤独の身だって聞いています。
生まれたばかりのオルフェ人 ミンボイトン
「獣を操る術は身につけられませんでしたが、あなたのおかげでとても素晴らしい仲間を手に入れることができました。スンボイトンより分裂してからずっと――、生き延びるためだけにその方法を探していただけだったのに。不思議なものです。今では生きることに、生きること以上の意味を感じているのです。これがキズナというものでしょうか。内なるオーヴァとも似た、尊きものですね」
バイアス人固有の技術のひとつに、お香で獣を意のままに操るというものがあります。ミンボイトンさんはオルフェ人の戦闘力の低さを不安視して、その技術を教わろうとしました。
カンオトナムさんもそうでしたが、オルフェ人って根本的な部分で冷静で、NLAに亡命して地球人の庇護下に入りながらも、常に地球人に裏切られたときのリスクを想定していたんですよね。もしミラの原生生物を支配できれば自分が身体的に脆弱でも自主防衛が叶うので、オルフェにとって理想的なアイディアだったんでしょう。
まあ、結果としてうまくいかなかったわけですが。
だけどミンボイトンさんが獣を操る技術を教わりに行ったシリャさんって人、たまたま種族の垣根を越えてマ・ノン人やノポン族とチームを組んでいる人でして、ミンボイトンさんはそのまま彼らの仲間に加わることになりました。
今度4人でブレイド隊の資格を得て、それぞれの種族の特技を活かして任務に挑戦しようって盛り上がっているそうですよ。
「自分を絶対に裏切らないのは自分だけ」という考えかたは確かにあって、その意味だとミンボイトンさんは当初の目的を何も達成できていないんですが、それでも彼の心は今、安らいでいるようです。
まあ、要は自分を絶対100%裏切らない防衛戦力さえいてくれれば安心できるって理屈でしたからね。
「生きることに、生きること以上の意味を感じている」ですか。なんだかウキウキしてくる言葉です。
廃棄物処理課のマ・ノン人技術顧問 ダゼベノ
「オイラが来たときには地球人とマ・ノン人しかいなかった総合生産プラントもずいぶんと賑やかになったもんだよな。ナウゾがバイアスのバカ力で一所懸命重たいゴミを運んでさ、トラクロさんたちザルボッガが危険物をガンガン処理してくれて、あとはライザが泣き言を言って! それでみんながまとまっちまうんだ。キズナっていうのか? なんだかオイラ、こんなやりがいのある仕事は初めてだよ!」
ライザさんの担当、「泣き言を言う」なんですね。しかもそれがチームの要になっているって。
マ・ノン人のなかには前々からライザさんの管理職としての能力を疑問視していて、ダゼベノさんを哀れんでいる人もいるんですけど、実態はこうなんですからわからないものです。

まあね。ライザさん私から見ても割とちゃらんぽらんなので、上司として頼りにならないって意見ももっともだと思うんです。
たまたまダゼベノさんやナウゾさん、それからアラセニカンさん(オーレロンさんのお父さんですね)といった面々がみんなおっとりしているというか、多少のことでは怒らないメンバーばかり集まってくれた良縁のようなもののおかげでもあります。
ただ、ライザさんって周りの人のことをすっごいリスペクトする人でもあるんですよね。最初から他力本願なだけに、自分にはできないことができる人の実力に目ざとく注目してくれる。なんかすっごい褒めてくれる。
私なんて、もういったい何回部下の自慢話を聞かされたことか。
そういうキズナのありかたも有りなんでしょうね。
ネマドさんみたいに自分が強くなるありかたもあれば、ミンボイトンさんみたいにお互い欠けた部分を補いあうありかたもあって、それから、ライザさんみたいにみんなのやる気を引き出すありかたっていうのも。
元デフィニア人スパイ エリオ(スリエラさん)

「どの星の者もお前たち地球人を信じ、手を取りあい、このミラで生きていこうとしているようだな。・・・私は多くの星々にスパイとして入り込んだが、こんな街は見たことがないよ。ただの奇跡なのか、お前たち地球人のキズナを結びつける力がそうさせたのかはわからないが――、私も同じように、これからもずっとNLAで暮らしていきたいと思ってるからさ。ミルストレア。よろしく頼むよ」
最後に、スリエラさん。
どういう心境の変化なのか、最近は男性の姿で生活しているようです。
地球人の感覚からすると、地球人が特別なんだって気は全然しません。
マ・ノン人もノポン族もオルフェ人もザルボッガ人も大樹の民も岩窟の民もラースの民も、それからクリュー星系人やガウルに未来人、デフィニア人までも、みんなそれぞれ優しくて親切で、それぞれの気持ちでもって協力してくれたように思います。
ただ、スリエラさんがそう言うならあんまり謙遜ばかりせず、素直に認めるべき部分もあるんでしょうね。ライザさんみたいに、“自分にはできない”からこそ周りをまとめられる能力なんてものもなかにはあるわけで。
たくさん、たくさん血を流しました。
地球の歴史でも、NLAでのこれまでも。
地球人だって優しい人ばかりではありません。NLAでのヘイトクライムも地球人が起こしたものが一番多かったくらいです。
ただ、同時に異星人を受け入れようとする地球人もまたたくさんいました。大勢の人が、異星人に母星を消された悲しみを耐え忍びつつ、努めて笑顔をつくって異星人と手を取りあいました。
お人よしな部分は、まああります。ただし地球人は呑気ではありません。友好条約を結ぶからにはそれぞれにとってのメリットを調べあげ、手を取りあうべき根拠を提示し、お互いをお互いに対する必要性の鎖で縛りあうかたちで、私たちは緊張のもと異星人たちをNLAへ迎え入れました。
心からの交流が始まったのはそのあとになってから、自然発生的に。
その意味では、私たちがしたことなんか、ただ最初に受け入れたとき対等であろうと努めたくらいのもの。そうしなければどうせ長く続かないってこと、それだけは私たち、長い地球の歴史から学んでいました。
NLAが今のかたちになったのはけっして計画的なことではなく、さりとてまったくの偶然でもありません。
・・・そっか。
NLAは計画都市ではありません。そういえば、最初からこういうことになるという、パッケージングされた都市計画ありきでなんか建設されていませんでした。
今のNLAらしさが宿っているのは、都市そのもの――、ハードではありません。
ソフト。私たちひとりひとりの住人の思いによってNLAはつくられています。
どのみち今の都市は手狭になりつつありました。
消失現象観測前、セントラルライフでの決戦直後くらいから、そろそろ壁の外に都市を拡張できないかという議論はNLAのあちこちで聞こえていました。
この惑星で生きていく――。
私たちが当初抱いたその夢は、消失現象やゴーストの存在によって、果たすことができないまま夢と終わりました。
第一次地球種汎移民計画のときと違い、急造した新白鯨では今のNLAを再登載することすら叶いません。私たちは惑星ミラだけでなく、せっかく愛着ができたこの都市をも捨てなければならなくなりました。当然、惜しむ声はたくさん上がっています。
だけど、NLAはここにあります。
今も、これからも、ここにありつづけます。NLAを愛した私たちひとりひとりが運んでいきます。新白鯨に乗せて。
地球人や、それ以外の異星人たち。私たちみんなのいるところがNLAです。
だから――。これからもよろしく頼みますね、NLA。

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