「調子はどうだ?」
アレスの操手 アルとミルストレア
「最悪だ。そっちはどうだ?」
「アンタよりはいい。つまり最高」

第13章後編 英雄
最終作戦発令
「全乗員に告ぐ。本艦はこれより2時間後に敵の拠点に向けて発進する。各員、出撃準備!」
消失現象に飲まれていくNLAを見下ろしながら、最終作戦の発令を聞きました。

私たちの故郷、NLA。
特に、結局記憶が戻らなかった私や、ここ数ヶ月で生まれた何十人かの住人にとっては唯一の故郷。
もう里帰りすることも叶いません。
どうしても魂を引かれる思いはありますが、今は任務に集中しなければなりません。振りきらなければ。
村がダム湖に沈んだようなもの。あるいは、星がグロウスの軍勢に滅ぼされたようなもの。
こんな思いを経験しているのはけっして私ひとりではありません。

涙を置いていく猶予が与えられた幸運に感謝しつつ、私はブリッジに向かいました。
作戦はいたってシンプル。新白鯨ごとヴォイドの拠点に乗りつけ、少数精鋭で突入。アレスのコアを奪還し次第この世界を脱出する。
なお、新白鯨自体に武装はありません。ベースが平和主義のマ・ノン船ですからね。機関技師のビィボンヌさんが装甲を改修してくれたおかげで以前のように質量弾で撃墜されるリスクは無くなりましたが、依然戦力として数えられる艦ではありません。あくまで移民船です。
じゃあどうして危険を冒してまで最前線に出るのかといえば、そこが一番安全だから。消失領域から無尽蔵にゴーストが現れる以上、今のミラに安全な場所なんてどこにもありませんし、むしろ私たちと同様ゴーストに狙われる立場にあるヴォイド陣営と三つ巴になってくれたほうが防衛は楽。最大の脅威である消失領域も地上を起点に拡大しているので、高空に陣取るヴォイドの拠点にいたほうが多少は時間の猶予もできます。
最大の問題は戦闘領域に民間人を連れていくという倫理的観点でしたが、そこはモーリス行政長官が各異星人の代表者ひとりひとりを時間をかけて説得して、容認を得ていました。
ちなみに、そもそもどうして消失現象が拡大するリスクを負ってまで作戦決行の時期を遅らせていたのかといえば、コアの起動にはアレスの機体と操縦者であるアルさんが必須だということが後になってわかったからです。ヴォイドはその2つを奪うまでこの世界から脱出することができません。
時間は私たちに有利に働きました。もしヴォイドがNLAを襲撃するなら私たちは地の利がある防衛戦でコア奪還を狙うことができましたし、現実にはそういうことは起きなかったのでタイムアップぎりぎりまで準備を整えることができたわけです。
他にも世界の結節点がどうとかいうタイミングの問題もあったらしいですが、そこはヴォイドも条件は同じ。あちらが行動を起こさないなら私たちが気にすることではありませんでした。ヴォイドを炭鉱のカナリア扱いしているみたいで、なんだかちょっとおかしい。
ブリーフィングが終わり、顔なじみのメカニックと2言3言軽口を交わしあったあと、フレースベルグに乗りこみます。
深呼吸ひとつ。

――作戦開始。
「私は地球で生を受けた生命種ではない。故郷の星を失い、地球に流れ着いた、いわば難民よ。しかし、みんなの母なる星は慈悲深く大きな心で私を受け入れてくれた。その心は、地球に生きた全ての人のなかにもまた育まれている。私は、その愛によって救われた」
「私たちは地球を失った。そして今また、新たな故郷としたこのミラを失おうとしている。正直を言うと――、私は一度悲観したわ。このままいつまでも新天地を求めて流浪しつづける運命なのかと」
「でも今、私は悲観などしていない。新たな地に赴くたびに、心は、その魂と呼ばれるものは、進化したと実感するから。・・・そう、魂。B.B.であってもみんなのなかに確実に息づいているそれよ。存在しようとする力への意志そのもの」
「どれほど過酷な環境に放り込まれようとも、みんなはその意志によって力を発展させ、精神を磨き、魂を進化させてきた。――私たちはこのミラから脱出する。未来をつくるのは運命ではない。常に存在しようとする、私たちの意志よ!」

航行中、突入部隊の隊長に就任したエルマさんから演説がありました。
艦外に展開しているラース人護衛部隊や民間人のいる居住区画まで含め、全チャンネルオープン通信。
ちゃっかりプロバガンダが仕込まれてあって、思わずひとりコクピットのなかで笑ってしまいました。
ほんの3日前、アルさん主催のピザパーティのあとでエルマさんが突入部隊のみんなに話してくれたことなんですが、実はセントラルライフはとっくの昔に浸水していたそうです。おそらくはミラに落下した、その時点からすでに。
もちろん収められていた私たちの意識やDNAのデータベースも喪失。私たちはこのデータベース内からB.B.を遠隔操作しているはずでしたから、現状私たちが活動できている理由はまったくの謎ということになりますね。
ブレイド隊や市民の動揺を避けるため、本部では今も箝口令が敷かれています。
心。魂。現在のテクノロジーでは解析不能、という意味で非科学的なそれらの実在をまず認めなければ、私たちは自らの生すらも説明することができません。
だからといって、根拠もなくそんな曖昧なものを認めろといわれても、たぶんほとんどの人は困ってしまうと思います。
エルマさんは彼らに代わって、みんなのなかに魂というものが確実に息づいていると信じてくれたわけです。
何のために?

いつか彼らがセントラルライフを失ったという現実を知っても耐えられるように。
コギト・エルゴ・スム。自らの実存を自ら証明しようにも、あいにくこのB.B.を動かしている“何者か”は、私の身体の外にいる。
コギタス・エルゴ・スム。だけどあなたが代わりに証明してくれる。あなたは私が実存していることを知ってくれている。仮初めの身体だとか遠隔操作だとか関係ない。あなたの瞳に映っている私こそが、今まさにここにいる私だ。
エルマさんはもうこれからのことを考えています。
ヴォイドからコアを奪還し、世界間移動を成功させ、無事に新天地を発見し、再び入植をはじめる――。そうなったとき初めて必要になる思考。
最後の戦いだ、と気負っている自分がバカバカしく思えるほどの楽観的未来予想図。肩の力が抜けていくのを感じます。
「お前ら全員愛してるぜ」

通信はつなげていないはずですが、どこぞの愛大好きオジサンの呟きが聞こえたような気がしました。
私の心のなかから聞こえてきたのかもしれません。
舌戦
「語るに落ちたな。それこそがお前の無知の証明だ。知らないことを知らない――、それを受け入れることができないお前は自分自身で敗北を認めたんだよ!」
ヴォイドとの決戦は独特の雰囲気のなかで行われました。
端的にいうと舌戦です。

私たちの目的はコアの奪取。ヴォイドの目的はアレスとアルさんの奪取。お互いそれ以外で争う理由はありません。
この拠点には相当数のグロウス残党が集まっているはずでしたが、ヴォイドは最初それを差し向けませんでした。アレスとアルさんを誘い込む狙いなのは明らかでした。
私たちもそれに応じました。絶対に奪われてはいけない最重要護衛対象だとわかっていながら、突入部隊にアレスとアルさんを加えて決戦の場に向かいました。なにせ相手はたった1人で身軽。私たちを無視して新白鯨のほうを襲われたら終わりだからです。
改めて勝利条件を確認します。コア,アレス,アルさん。3つ全て手に入れることで初めてこの世界からの脱出が可能になります。
ただし、私たちはコアを手に入れたあと新白鯨と合流しなければならない一方で、ヴォイドは単独で脱出するつもり。
追撃のリスクまで考えると、私たちの現実的な勝利条件はコアを奪取することに加えて、ヴォイドを戦闘不能まで追い込むことが必要になります。対してヴォイドの勝利条件はアレスとアルさんの奪取のみ。戦闘中一時的にでもその2つをヴォイドに確保されてしまった場合、以降は私たちにいくら戦意が残っていようと容赦なく世界間移動を敢行されかねません。
だから、私たちはまずヴォイドの怒りを買うことを目指しました。
万が一向こうに勝利条件を満たされてしまったとしても、ヴォイドに自らの手で私たちを全滅させたいと思わせてしまえば戦闘を継続できる。取り戻すチャンスが残る。
バカみたいな話でしたが、実際私たちはある意味でヴォイドをバカだと見込んでいました。
「私の行動は必然によって自動的に行われると言った。理解に必然はない。だが、知ることにそれはある。私はサマールの最高の知性。知らないことは許されない」
ヴォイドは以前から「私の行動は必然によって自動的に行われる」と主張していました。つまり「自分は論理的に考えたときの最善手を常に実行しているだけだ」と言っているわけです。
一見すると自らを哲学的ゾンビのようだと突き放して見ているような冷めた言い分ですが、要はただの知性マウントです。
自分以外にこんなことはできない。自分と異なる行動を選ぶ者は全て愚か。最善手を見つけるために必要な知識も、最善手を選び取る冷徹な判断力も、自分以外は持ち合わせていないのだ、と見下しているだけです。
「――だからこそ君たちは滑稽なんだ。ゆえに興味が尽きない。その貧弱な知性のなかで君たちはどう理解しているのか」

ほら。すーぐ上から目線になろうとする。
その程度の幼稚な自尊心だからこそ、私たちも簡単に煽り返してやれるわけです。
「ただの定義じゃないわ。それがどれだけ大事なものか、私たちは理解している」
「憐れだな。オレには逃げているだけに見えるぜ。逃げつづける存在に何の意味がある」
「死が敗北の対価だというのなら、あなたはすでに死んでいる。無意味な存在よ」
はっきり言って、ヴォイドを相手に私たちが“死”についての議論を行うことに意味はありません。
なにしろ講和できる見込みのない相手。この場で勝敗を決した以降は二度と関わることも、顧みることもない相手です。彼に“死”を教えてあげることに、私たちにとってのメリットは何ひとつありません。
私たちは「サマールの最高の知性」様が理解していないことを理解している。
見解の不一致とうそぶいて逃げるな。「理解に必然はない」? そんなものはただの思考停止だ。
「知らないことは許されない」と自称する人間が自分から知ろうとすることを拒否するなんて、生きている価値あるの?

見下し、あざけり、揚げ足を取ります。
これがNLAならお互いの価値観の相違について理解を深めあうべきところ、たかだか視点の違い程度のことで徹底的に相手を糾弾し、愚かだと決めつけ、誹謗中傷、ことごとく尊厳を傷つけてやります。
結果的に2500年前のソクラテスが導き出した“無知の知”を俎上に上げていますが、やっていることはむしろ彼と対立していたソフィストたちに近い。
繰り返しますが、私たちはヴォイドとの“死”の議論になど興味はありません。
ただ、彼が私たちを殺したくなるように仕向けているだけです。
「・・・不愉快だ。私は君たちに死を与え、勝利し、そしてこの世界を超越する!」

ざまあみろ、です。
ヴォイドの“死”
まあ、こちらにも手抜かりがあって、ブチギレヴォイドにうっかりアレスとアルさんを奪われちゃったんですけどね。
もともとこうなってしまった場合を想定しての舌戦です。まだ取り返しはつきます。

嫌がらせみたいにこの広い拠点内に散り散りに転送されてしまった私たちは、今さら襲ってきたグロウス残党を駆逐しつつ、各自の判断で速やかに再集合。ついでに古代サマール人が残した拘束装置を起動させて仕返しながら、再びヴォイドのもとに戻りました。
「・・・来たか。この闘争にもはや意味はない。なのに君たちはどこまでも抗おうとする。私を――、どこまでも不快にする」
脱出の準備を進めていたヴォイドのアレスコアに(実際どこまで意味があったのかは知りませんが主に嫌がらせ目的で)フレスベルグをカミカゼ特攻させつつ、槍を握って戦闘を再開しました。
ヴォイドと融合していたアレスとアルさんを取り戻し、必然としてついでに起動途中のコアをも奪還しました。
憔悴したアルさんに代わって、私がアレスの操縦席に座ります。

・・・こんなことになるならあのとき「アレスをください」なんて言わなきゃよかった! やはり安易な嫌がらせなんてするものじゃありません。
アレスが私を操手として認めてくれます。
本来彼は生身の人間しか受け入れてくれないはずでしたが、同乗するアルさんと、志半ばで亡くなったラオさん、地球や他の星々で倒れ、NLAのみんなに遺志を託した、全ての人間たちの信託を受けて、私の機械の身体は“人間である”と認められました。

まるで自分の身体の延長のようにアレスが自在に動きます。
目の前には、コアを奪還されて弱化し、サマールの拘束装置で昆虫標本のようにはりつけにされているヴォイド。
せっかく与えられたアレスの操手という名誉でしたが、ことここに至って私がするべきことは、ただ引き金を引くことだけ。
ヴォイドへカオスカノンを照射します。
「そうだ。それが“死”だ。どうだ、初めて知る死の感想は」
「これが“死”――? この痛み――。この霞――。朧ななかに、確かな私を感じるぞ! ハハ。ハハハハハハ! そうか! これが“死”か!」
敗北したはずなのになぜか満足げなヴォイド。
知的欲求に関しては、きっと子どもみたいに純真な人だったんだと思います。もう関係ないけど。

「喜んでもらえてよかったぜ。ぜひ何度も味わわせてやりたいが・・・、死は一度きりだ。そしてお前は消える。この世界から、存在そのものがな」
「一度? ・・・なに?」
「だが、そこに証はないぜ。無意味な死を選択したツケだ。――じゃあな、ヴォイド。ガキのお守りもここまでだ」
嫌味に満ちたアルさんの葬送とともに、ヴォイドは誰にも惜しまれることなく死んでいきました。
「“死”は終わりなんかじゃない」
「そうです。生命活動の停止にすぎません。存在は残るのです」
「存在とは生きること。生きていたことの証よ」
先ほどの舌戦でヴォイドはただの見解の不一致として聞き流していましたが、私たちが理解する“死”とはそういうものでした。
本来“死”とは存在の終わりじゃない。死んだ人の思いは誰かの心のなかで生きつづける。
私たち人間の歴史はおびただしい数の死体の上に築かれています。たとえ私が志半ばで死んでしまっても、誰かが私の遺志を引き継いでくれる。その誰かもまた思いを遂げられずに死んでしまったとしても、その先にはまた誰かがいる。
サマール人のような不滅の肉体がなくとも、マ・ノン人のような超科学がなくとも、オルフェ人のようにオーヴァを持たなくとも、ザルボッガ人のように信仰を持たなくとも、NLAに集った全ての種族は当たり前のようにそれぞれの祖先の技術や価値観を継承していました。
私たちには“死”の先があります。不幸にして肉体が死んだあとも、幸福なことにその精神は誰かの心とともに生きつづけます。
だからこそ、私たちは惑星ミラとNLAの街を捨てる選択ができました。
この先どうなるかわからない。この身体が朽ちるまでのスパンでいうなら、もしかしたら次の安住にはたどりつけないかもしれない。愛着ある街並みとともに消滅してしまったほうがマシな終わりを迎えるのかもしれない。
でも、“死”は終わりじゃない。今日の私たちの生きようとする意志が、明日の誰かを生かすかもしれない。幸せな日々に導くかもしれない。私たちの必死の足掻きは、いつか遠い未来にかけて、きっと報われる。
その確信があるからこその勇気。
私はNLAのコンパニオンとしてたくさんの人の死に立ち会いました。
誰もが知る英雄たちはもちろんのこと、恋人を残して死んだシンゴさんや、大家族に看取られたアルドさん、最後に分裂体を残すことができたクンエイブさんなどの思いは今も大切に継承されています。
世間的にはただのテロリストでしかないアレックスさんやパウエルさんですら、その正義に賛否の議論を残しつつ、生き様として何人かの記憶に刻まれています。
一方、カルト宗教の手先としていいように操られていたマルッテトやフレジィ、身勝手としか言いようがない理由で無差別殺人事件を起こしたブラッドロブスターなどの思いは、私の知るかぎり誰にも顧みられることがありませんでした。
ヴォイドはこの3者目。誰にも理解されない、誰ともともに歩もうとしなかった孤独な存在です。
“死”の先の人生は誰かの心に継承されて初めてつながっていくもの。
彼の人生は、彼の肉体が死を迎えたこの瞬間、世界中の誰にとっても無意味なものに成り下がったのです。

もしかして、たとえば仏教において慈悲の心を説く、仏という名の不滅なる存在が彼を看取ってくれたなら、また違うのかもしれませんが――。
彼を憐れに思ってくれた超越者は、果たしてこの宇宙のどこかに存在したのでしょうか。
「私は――、どこへ行く?」
「さあな。神様にでも聞いてくれ。もっとも、お前に神がいればの話だが」
少なくとも、超越者ではない私たちはヴォイドの“死”の先に興味を持ちませんでした。
生きるための戦い
あとに残ったものは、コアと、アレスと、アルさん。私たちが勝ち取った、この世界から脱出するための切符。

私たちが帰投すると同時に、今度はゴーストの襲撃がはじまりました。
今度こそ最後の正念場。
アレスはアルさんと一緒に転移システムに接続中なので、私は新白鯨に積まれていた予備機のアーバンを借りて出撃しました。・・・フレスベルグに比べたらなんという兵装の充実っぷり! 私だって空さえ飛べたら負けないつもりだけども!
そうだ。この戦いが終わったら、リンさんにB.B.用のフライトユニットをつくってもらおう。
何体か空中から下りてこないオーバードに手が出せなくてくやしい思いをしていたんですよね。フレスベルグじゃ全然どうにもならないし、新しく買ったエクスカベーターもテレシアに壊されちゃったし。
私、次の惑星では絶対槍一本で生態系の頂点に立ってやるんだ! 意味もなく!
至極どうでもいい誓いを胸に、私はゴーストの群れに向かって突進しました。

たぶん、これが一番効率がいいから。
たぶん、これが一番死ぬ人が少なくて済むから。
オーバークロックギア、起動。
ミラの大地で目覚めてから一貫して、私が一番得意な戦いかたです。
とにかく全部自分で引き受けて、全部かわして、全部叩く。
もし失敗しても――、私ひとりが死ぬだけ。

最初にやったときはエルマさんにものすごく叱られたものです。
リンさんにも恐ろしい目つきで睨まれながら泣かれました。
あのころの私は、いつ死んだって構わないと思っていたから。
それがふたりにバレちゃってたから。
私が死ぬ代わりにひとりでも多くの命が救えたら、それが一番いいって思ってたから。
「あいつ――。そんなこと教えたつもりじゃなかったんだがな・・・」

安心してください、アルさん。
これはあなたの教えじゃないです。私の元々です。アルさん、NLAじゃ一番の新参者なんだってこと、自覚してくださいね。
私ね、みんなが死ぬのが怖いんです。
私が生きることの価値、きっと私なんかよりNLAのみんなのほうがよくわかってくれているから。
“死”は終わりじゃない。私が死んでもみんなが私の思いを引き継いでくれる。私が守りたかったものは全部みんなが守ってくれる。だからこそ、今、私はみんなを守りたい。

コギト・エルゴ・スム。自らの実存を自ら証明しようにも、あいにくこのB.B.を動かしている“何者か”は、私の身体の外にいる。
コギタス・エルゴ・スム。だけどあなたが代わりに証明してくれる。あなたは私が実存していることを知ってくれている。仮初めの身体だとか遠隔操作だとか関係ない。あなたの瞳に映っている私こそが、今まさにここにいる私だ。私、自慢じゃないけど、もう自分がたくさんの人に愛されているんだって知っています。
コギト・エルゴ・エス。・・・だけど、私も証明したい。それはそれとして、私だって何かしたいです。私もあなたが実存していることを知っています。当然に。仮初めの身体だとか遠隔操作だとか関係ありません。種族の違いすらもはや関係なくて、私が大好きなNLAのみんなは、私が知りうるかぎり、みんなここにいます。

生きて帰るつもりでいます。
生きて帰れる算段で突撃しています。
その点だけ、昔の私と少しだけ違うところ。

“死”は終わりじゃないけれど、それはそれとして、どうせならみんな一緒に生きていられたほうがいいに決まってます。
だって、私が死んだらみんな怒るじゃないですか。
怒られるの、あんまり好きじゃないんです。


コンパニオンの任務のあととかで何度もあった、みんなそろって「よかったね」って笑いあえる瞬間。
私、ああいう陳腐なハッピーエンドが大好きです。
私、たぶんアルさんやラオさんみたいに壮絶な悲しみや怒りを耐えぬいた果てで“英雄”になることなんかできません。
今みたいにどうしても“英雄”になる必要があるときは、しゃーなし、なるけども。それも今だけですよ。私はたぶん“英雄”なんてガラじゃないです。
田舎の交番のお巡りさんみたいに、地域の見回りだかお散歩だかわからないような仕事だけして、だらだら楽して暮らすのがお似合いってものです。

新白鯨とアレスから転移システムの領域が展開され、私たちは無事新しい世界に到達しました。

目の前に広がるのは、青々と輝く、見るからに豊かそうな惑星。
・・・あの。私、もうちょっと宇宙船での共同生活が長く続くと思っていたので、自分の財産ほとんど寄付しちゃったんですが。
どうやら明日からも早々に忙しく働かなきゃいけないみたいです。

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