フリップフラッパーズ第1話感想 第七夜。眼鏡とパピカ、どちらを選びますか?

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見つけたよ。

(主観的)あらすじ

 自分の進路を決められずにいる中学生・ココナはある日、人なつっこい謎の少女・パピカと出会います。ココナはパピカに誘われ、不思議な異世界・ピュアイリュージョンへ迷い込みます。
 そこはなにもかもを新雪で覆い隠した静謐な世界。誰もいない世界にも恐れることなく心の赴くまま自由に走り回るパピカ。そんな彼女に手を引かれるままココナは未知の世界の冒険をはじめます。
 冒険のさなか、ひとつ困ったことが起きました。ココナの眼鏡が動く樹氷たちに持ち去られてしまったのです。それをパピカが追いかけます。身の危険も顧みず、ココナの静止も聞かず。パピカは樹氷たちとともに黒い海へと沈み・・・けれど、そんな結末は嫌だと願うココナの変身によって救出されました。
 ふたりは現実に帰ります。冒険の報酬、願いを叶える欠片を手にして。

 夢十夜不思議の国のアリスヘンゼルとグレーテルのちゃんぽんをド王道のボーイミーツガールで味付けした物語、開演。いえまあココナもパピカも女の子なんですが。今夜の夢は第七夜。今いる場所への不満から黒い海に命を投げだし、けれど同時にその命も場所も惜しいと思ってしまう夢。
 夢十夜は表題どおり全10章しかないわけですが、残り2話は何をやるんでしょうね? エンディングアニメを見た感じだと青い鳥とか醜いアヒルの子あたり? たぶん何をやってくれても面白いのは間違いないですし、どうせ私の知識ごときじゃ辿れっこないので気にしなくていっか。

ボーイミーツガール

 ありふれた物語の類型、ボーイミーツガール。少年と少女が出会うパターン化された物語がどうしてそんなに持てはやされるのかといえば、恋はわかりやすく世界のかたちを塗り替えるからです。
 自分とは違うところからやってきた、あるいは自分とは違うものの見方を知っている少女との出会いは、(多くは現状に鬱屈している)少年の心に革命的な衝撃をもたらします。そして少年は恋心によってそんな少女の世界観に惹かれ、自らの世界観に取り込み、大きく成長していきます。
 なんとわかりやすくドラマちっく。だって恋の威力はきっと誰もが知っています。普遍のものには不変である理由があるわけですよ。
 私が知っているアニメだと天空の城ラピュタやフルメタル・パニック!なんかが特にそういう性質の強い物語ですね。

 商業的な事情からか、このフリップフラッパーズのように最近はメインキャラクターから男性を排斥する傾向が多く見られますが、たとえガールミーツガールでもド王道の物語の本質は変わりません。ままならない現実に鬱屈するココナは自分とは正反対な性格のパピカに手を引かれて、ピュアイリュージョンへと旅立ちます。
 別に恋は性愛を育むためだけのものじゃない。ステキな誰かと友達になりたいと思うのだって、恋い焦がれる気持ちには違いない。さあ、ふたりの出会いによって世界を塗り替えましょう。

 ココナの悩みは進路志望を決められないこと。
 気持ちはよくわかります。私はココナほど思い詰めていたとは言いがたいですけどね。中学→高校のときは成績的にふさわしいってだけで学校を選びましたっけ。そもそもド田舎の高校には偏差値以外の選択基準なんてほとんどないので。技術系に進みたい人が工業高校を選ぶくらい。
 「行きたいところを書けばいいのよ。将来の夢から逆算してもいいし、好きなことができそうな学校を選んでもいい。家から近いとかで選ぶ子もいるけどね。とっかかりはなんでもいいの」 そんなことを言われても、そもそもこのくらいの年齢で「将来」「好きなこと」なんてご大層なビジョンを明確に描けている子はほとんどいません。
 「まだ決まんねーの? ココナならどこでも行けんじゃん」 だからこそ迷っているのです。今の選択がきっとこれからの自分の人生を大きく規定してしまう。先なんて自分にはまだ全然見えていないのに、それでも現実は「今すぐ決めろ」とせっついてくる。なにこの理不尽。人生は無理ゲー。(実際には案外後々からでもどうにかなるんですけどね)

 けれどココナは立派です。「どこがいいかな・・・ううん」 弱音を吐いて、家族に選んでもらっていいことではないと理解しています。「どこでもよくはないから」 わからなくても、きちんと決断しなければいけないことを理解しています。
 ひとつ問題があるとすれば。「どれが最善かわからなくて」 決断を重く考えすぎるがために、ベストを選ばなければいけないと思い込んでしまっていることですね。先が見えないからこそ恐い。失敗したくない。それはわかりますが、痛いほどよくわかりますが、けれど今は選ぶための判断材料を何ひとつ持ち合わせていないのです。「最善」なんて見つけようがなくて、「最善」を望む気持ちはただ自分をがんじがらめに縛りつけてしまうだけです。

時計ウサギを追いかけて

 そんな鬱屈した現実に風穴を開けてくれるのが、脳みそ空っぽな暴走少女・パピカ。
 ただ偶然すれ違っただけのココナを直感的に見初めて追いかけ、断られるとは微塵も思わずまっすぐパートナーに勧誘します。というかココナの答えすら待たずにピュアイリュージョンへと連行します。一応ココナの方もパピカの澄んだ水面のような瞳に見惚れていたりはするのですが、そんなの後でいいからとにかく行こうぜ。
 「パルペーションだ!」 ググる。・・・触診の意。混じりっ気なしの純然たるセクハラだコレ。気持ちをひとつにさせるのが目的ならもっと別の手段もあるでしょーに。円盤売るのも大変です。

 ウサギ穴の向こう、境界の長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった。
 フリップフラッパーズの物語はちょくちょくをつきます。ふたりでトンネルを抜けて、しかもパピカが先行していたはずなのに、どういうわけか雪原に立つココナの先にも後にも足跡はひとつもありません。まっさらできれいな新雪。
 この世界に初めの足跡を刻むのはココナでなければいけません。だって彼女は進路に散々悩みながら、それでも自分で決めなければいけないことを知っているからです。だから初めに足跡を刻むべきは彼女の意志、彼女の身体。戸惑ってもいい、迷いながらでもいい、けれど踏み出すことができたのはあなた自身の力です。おめでとう。祝福しましょう。
 洗礼が済んだなら世界はさらりとその姿をごまかします。パピカの声が彼女の名を呼びます。雪の上にはパピカ他一名の足跡がくっきり。
 「ここはピュアイリュージョン。ピュアイリュージョンへようこそ」 Hello,world! あなたが一歩踏み出したから、ピュアイリュージョンの冒険が始まります。

 「嘘。どうして? みんなは? 学校は?」 それは楽しい楽しい冒険です。誰もいない街並みは違和感アリアリだけれど、底抜けに明るいパピカと一緒なら恐くない。まだノリきれないココナを強引に巻きこんで、ふたりでふざけて笑いあいましょう。
 ちょっとした失敗を恥じる暇すらありません。「甘い」「甘い?」「雪が」 ほら、さっそく最初の功績です。これはあなたが見つけたあなたの手柄です。あとで樹氷も発見するので乞うご期待。
 「コンニャロ。ココナも行くよ。待てー!」 あなたをここに連れてきてくれた子は、ともに冒険するパートナーとしてあなたを選んでくれました。あなたはもっともっと冒険してもいいはずです。悩んで立ちすくんでいるより、勇気を出して一歩を踏みだしてみた方がきっと楽しい。
 Bパートまで待たせてようやく聞かせてくれたココナの笑い声。かわいい。

パン屑の道しるべは小鳥に食べられる

 きれいな石ならともかくね。脳みそ空っぽなパピカが「家に帰る」なんて保守的な発想を解するわけがなかった。・・・この子の場合はきれいな石でもダメかもしれません。
 「ここ本当はどこなの? みんな隠れているだけだよね?」 当然ではありますが、ココナは未だピュアイリュージョンの冒険にノリきれていません。せっかく第一歩を踏みだしたにも関わらず、未知の世界に恐れをなして背中を向けようとしています。
 だから先導者・パピカは改めて前を見据えます。「ココナ、明日宝探ししよう」 お菓子の家ではありませんが、いいニオイのするステキな宝物。せっかく冒険に来たんですから記念品くらい持って帰りましょうよ。それはきっと次の一歩を踏みだすためのステキな動機付けになるし、きっといつか初めの一歩を踏みだした思い出に変わります。

 けれど不幸な巡り合わせによって、次にココナが気にしたのは宝物ではなく眼鏡。これから冒険するためには必ずしも必要ではないけれど、元いた世界の大切な面影です。
 大切な第一歩を踏み出した記念日はどうやらそういった保守的な発想にやたら厳しいようで、ココナに新たな試練を与えます。

「落ちて行く日を追かけるようだから」

 自分はますますつまらなくなった。とうとう死ぬ事に決心した。それである晩、あたりに人のいない時分、思い切って海の中へ飛び込んだ。ところが――自分の足が甲板を離れて、船と縁が切れたその刹那に、急に命が惜しくなった。心の底からよせばよかったと思った。けれども、もう遅い。自分は厭でも応でも海の中へ這入らなければならない。ただ大変高くできていた船と見えて、身体は船を離れたけれども、足は容易に水に着かない。しかし捕まえるものがないから、しだいしだいに水に近づいて来る。いくら足を縮めても近づいて来る。水の色は黒かった。

 ココナの眼鏡は樹氷たちとともに黒い海へ向かっていきます。まるでそれが象徴する、元の世界に縋ろうとする者を死なせようとしているかのように。
 ところが実際に眼鏡を取りに行ったのはココナではなくパピカ。「もういい! 眼鏡いい! いいから戻って!」 いくら止めたって彼女は聞き分けてくれません。パピカと眼鏡は黒い海へ。たった一度だけ見せてしまったココナの執着心は、彼女に近しいふたつのものを同時に奪い去ってしまいます。後悔したときはすでに後の祭り。
 さあ、試練の用意は調いました。

 「ねえ、何で。要らないって言ったのに」 状況は問いかけます。失って悲しいのは眼鏡か、パピカか。今こそ少女に選択を促します。自分の進路も決めることができなかったココナに対して。・・・もっとも、ここに来たときすでに初めの一歩を踏みだしていた彼女です。今さら迷うことなんてないのですけれど。試練の体をしているようで、実のところこれは単なるケジメです。
 「パピカ。パピカ。・・・パピカ!」 願いを叶えるという欠片はココナの願いに応えます。パピカを選んだのだからパピカを救います。眼鏡は割れてしまったけれど、自分でパピカを選んだのだから仕方ない。
 この物語はどこまでもボーイミーツガールのド王道。パピカに出会って新たな一歩を踏みだしたココナが、自分の古い世界観よりもパピカのもたらした新たな世界観を好きになる物語。世界は彼女の決断を祝福します。日は落ちるのではなく上っていきます。彼女の選んだ世界を美しく彩るために。

 「ココナ、また一緒に冒険しよ」 死にかけた当の本人がまたバカなことを口にします。きっと脳みそ空っぽなだけでなくヤシの木でも生えているに違いありません。答えはもちろん「嫌」。当たり前です。
 けれど夕日を浴びて咲いているのは白いアジサイ。その花言葉は「寛容」です。普通のアジサイは土壌のpHによって色を変えてしまうことから「移り気」の花言葉を託されていますが、白いアジサイならそういったことはないので「寛容」。どんな土でも等しく受け入れます。
 ココナはパピカを受け入れました。ボーイミーツガールの始まりです。冒険を共にするパートナーとしてパピカはあまりにも難がありすぎますが、その話はまた次回。
 今回はひとまずココナがパピカを好きになる物語。

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