どっちもホントの気持ちだよ。反対するのも。心配するのも。
(主観的)あらすじ
惑星レインボーの宝のひとつが見つかりました。それもオリーフィオが身につけていた、ユニにとって特別に思い入れの深い指輪です。
ユニは指輪を取り戻すため、宇宙マフィアのアジトに潜入することにしました。ひかるたちが「盗みはよくない、まずは話しあうべきだ」と言っても聞きません。止まりません。マフィアが話しあいだなんて甘いことに応じてくれるわけがないのですから。
怪盗・ブルーキャットとして腕を鳴らしてきたユニです。盗み自体はあっさりこなすことができました。宇宙マフィアの内偵のためたまたまその場に居合わせていた新米星空警察・アン警部補も障害にはなりません。
・・・ただ、ドジなアン警部補が宇宙マフィアに捕まってしまったのを助けようとして、ユニまで捕まってしまうのでした。
囚われ、お仕置きされるのを待つしばしの時間。ユニはアン警部補と少しだけ話をしました。
「正義のために」と、まっすぐな志しを語るアン警部補に対し、ユニは「理由があれば何をしてもいいの?」と、疑問を感じます。
答えは出ません。
ただ、ユニが自己矛盾しているように、アン警部補が自己矛盾しているように、ユニの盗みに反対していたはずのひかるたちがユニたちを助けに来てくれるのでした。
警察と怪盗が共闘する奇妙な脱出劇の果て。ユニは結局、宇宙マフィアのドンに指輪を譲ってくれるよう話をしてみることにしました。
盗みに入る前までは絶対に話を聞いてもらえないと思っていた相手。けれど、ドンはユニの本心をじっくり見定め、彼女が指輪のことで心から悲しんでいることに納得すると、意外にも指輪を譲りわたしてくれました。
これからも惑星レインボーの宝を諦めるわけにはいかない。けれど、またひかるたちを悲しませるようなこともしたくない。ユニは自分のなかに共存しにくい2つの気持ちを抱き、だからこそ、晴れやかに微笑むのでした。
前話のひかるは、まどかたちの期待に応えたい気持ちと、自分が夢中になれる”何か”、2つの両立しえない思いを抱えた結果、最終的に後者を優先することにしました。
第26話、ララたち友達と出会えたことで、大好きだったひとり遊びにも並ぶ、友達みんなと過ごす喜びを実感したばかりだというのに。
思いは一見すると揺らいで見えます。ときに矛盾しているようにも感じます。論理的に必ずしも辻褄が合うものではありません。人の心はかくも難しく、ややこしく、重層的で、多面的で、ひとりの人間が同時にいくつものありかたをしてみせます。お前らみんなメンドクサイ。
アニメをはじめフィクションの登場人物たちはキャラクタライズされているぶん、生身の人間に比べたらそれでもだいぶシンプルめに描写されています。生身の人間ほどは自己矛盾しません。それなりにまっすぐ生きています。
けれど、そんな彼女たちですらしばしば悩むのです。
どうして?
だって、ひとりじゃないから。
私の知る私と、あなたの知る私とは、それぞれまったくの別人です。また別の人の瞳にはさらに別の私の姿が映ることでしょう。私たちはそれぞれ主観という自分だけの色眼鏡を通して世界を観測しています。私の見る私の姿ですらも、きっとそれは私の全部じゃない。
アニメキャラはキャラクターとして明確な個性分けをされているぶん、なおさらそれぞれの瞳に映るそれぞれの姿がくっきりと違って描かれます。
だから、シンプルな彼女たちですら、いいえ、シンプルな彼女たちだからこそ、悩むんです。悩んでくれるんです。
悩んで。悩んで。結局のところシンプルになりえない自分のありようをたくさん知ったその先に――。
これが私なんだ!
「当然返してもらうわ。惑星レインボーの宝!」
確認するまでもありません。だって、惑星レインボーを失ってからのユニの人生は全部、故郷のために捧げられているんですから。
ユニほど明確に自分のありかたを認識している子は他にいないでしょう。だってそれは、そもそも自分で定義したものなんですから。私が決めた“私”。だから私以上に“私”を知っている人なんて他にありえない。
ユニは、怪盗・ブルーキャットでした。
ユニは、いいえ、怪盗・ブルーキャットは怒りの戦士です。
「その指輪は身につけた者の感情で色が変化する。今は喜びを示すイエロー。他にも悲しみのブルー、怒りのレッドなど、七色の感情に反応する。――ですよね」
「正解だ。よく知ってるな」
「ええ。だって、これは私の大事な人の物だから」
大切な人たちをみんな石にされました。
あまつさえ彼らの大切にしていたものまで根こそぎ奪い去られました。
取り戻さなければなりません。かつての幸せだった日々を。幸せだった日々を構成していた何もかもを。
――なんて理不尽な!
これだけは絶対に“やるべきこと”です。だって、ユニが何よりも優先したい“やりたいこと”の実現に不可欠な行いなんですから。
そりゃあ腹も立つというものです。
「ダメだよ、盗むのは!」
「ダメフワ!」
どうして自分がこんなことをしなければいけないのか。わざわざ言われなくたって、自分が悪いことをしていることくらいちゃんと理解しています。それでもやらなければいけないからやっているんです。文句を言いたくなるのはむしろ自分のほう。
「自分が何かされたら人を騙してもいいんだ。すっげえなあ!」(第27話)
アイワーンの理不尽きわまりない罵りが胸の内で澱となっていました。
“やるべきこと”を、自分でも逃れようのない自分だけの責任を、どうして他人なんかに咎められなきゃいけないのか。
「あなたたちも反対なんでしょう? ――わかったわ。だったらムリに付きあわなくてもいい。ここまで来れただけで充分だし、あとは私ひとりでやるから」
「待って! ひとりは危ないよ!」
「・・・どっちニャン!」
このことに責任を負っているのは自分だけ。なのに、理不尽な他人が置かれた立場の違いもわきまえもせず、無責任に意見だけ押しつけてきて。
「ユニは本当にそれがいいって思ってるの?」
わかってる!
私が誰よりも一番わかってる!
私は怪盗・ブルーキャットなんだ! ・・・だから、仕方ない。
こんなの私じゃない!
「本官が捕まるなんて情けないであります! これからたくさん正義のために活躍する予定だったのに!」
アン警部補は落胆しました。“やりたいこと”ができない自分に。“やるべきこと”をさせてくれない周囲の理不尽さに。
刑事になれたら正義のために悪党をバンバン逮捕するつもりでした。なのに、最初に与えられた任務はマフィアの内偵。いくら相手が悪党といえど、ただのパーティじゃ逮捕劇なんて起きそうにありません。きっと違法行為なんて無いでしょうし、仮にあっても多勢に無勢。自分に期待されているのは逮捕ではなく報告。つまらない。(いえまあ、実際には新米のしかもキャリア組にやらせんな!ってレベルの危険な任務ですが)
サマーン星にいたころのララと同じです。やりたいのにやらせてもらえない。自分では負えると思っている責任を周りの人が負わせてくれない。なりたい自分になれない。それが悲しい。
「ここでスパイしてたんでしょ? 正義のためなら変装して騙してもいいの?」
あげく、今やっていることを批難されました。
やりたくてやっているわけじゃないのに。自分でもやるべきことだって思ってしているわけじゃないのに。
「悪党を逮捕したい!」 負いたい責任は負わせてくれなくて、「正義にもとる内偵行為」 負いたくない責任だけ押しつけられている。ひどい理不尽。ちっとも私らしくない。
理不尽。
だって、やりたくてやっているわけじゃない。
アン警部補も。
そして、ブルーキャットも。
「理由があれば何をしてもいいんなら、そんなの、誰にでもあるんじゃない?」
思い出します。
「自分が何かされたら人を騙してもいいんだ。すっげえなあ!」(第27話)
本当にやりたいこと、やるべきことだと思っていたのは、けっして人を騙すことじゃないはずだった。やるべきだったのはあくまで取り返すことだけ。そのためにどうしても必要だったから、やむをえず多くの人を騙した。それだけだったのに。
それでも。本当は自分でもやりたいと思っていなかったことに限って、責任を問われてしまう。
悪いことだって自分でもわかっているのに。
本当はやりたくないって自分でも思っているのに。
「ブルーキャットには悪いことをする理由、あるでありますか?」
あるような。無いような。
必要だったからやると決めた。その意味では理由があります。
けれど、それ自体はできればやりたくなかった。その意味では理由なんてない。
「・・・さあね」
揺らぎます。
私は、本当に私が決めた“私”なんだろうか?
やりたいことをやっているようで、もしかしたらやりたいことをやれていないかもしれない。
やるべきことをやっているようで、本当はやるべきと思っていないことをやっているのかもしれない。
「あらあら優しいこと。でも、甘いわね。バケニャーンのときは喰えない相手だったけど、プリキュアといるうちに弱くなったんじゃない?」
ああ、まただ。
「バケニャーン。マオ。ブルーキャット。地球人。おまけに今度はプリキュアかっつーの。ころころ変わりやがって。お前はそうやって姿を変えて、みんなを騙してんだっつーの!」(第27話)
私はいつも自分で規定した“私”のままでいるつもりなのに、周りの人はいつだって「違う」って言うんだ。
「みんなを戻すためならなんだってする。宇宙怪盗でもなんでも!」
「ウソだ! 『なんでも』って言うけど、ペンダント取らなかったじゃん。私たちがプリキュアになれるようにって、取らなかったんでしょ。私たちのこと思ってでしょ!」(第20話)
私の知らない私
「お仕置きの時間かしらね」
いずれにせよ、怪盗・ブルーキャットが自分の意志で多くの人を騙し、奪ったことは事実です。そこは自分でも認めざるをえないところ。罰を受けるのも当然というものです。
・・・なのに。
「ユニ!」「無事!?」
また、あなたたちは「違う」って言う。
「あなたたちが気付いてないだけルン!」
「コスモはね、誰よりも他人を思いやる心を持ってる! ・・・素直じゃないけどね」
「本音を言うのが人より少し苦手なだけです!」
「とにかく、コスモはだれよりもやさしくて! とっても、とーっても! 良い子なんだ!」
この子たちは“私”じゃない私をたくさん知っている。
私の知らない私をたくさん知っている。
“私”のことなんて全然わかってないくせに、“私”が仕方ないと思っていたことを全然理解してくれなかったくせに、まるで私のことを誰よりもよく知っているみたいな言いかたをする。
「あ。お礼を言い忘れていたであります! さっきは本官を助けに戻ってきてくれてありがとうであります! ・・・なんだか、聞いてた印象と違うであります」
「でしょうね」
今日はじめて会った人ですら、ユニの知らないユニを語っていました。怪盗・ブルーキャットの人となりとしてあまりに見当違いな人物評だったので、あのときはテキトーに聞き流していましたが。
――不思議なことに、彼女の言うことは、彼女とまた別の他人であるはずのひかるたちとよく似ていました。
「それはあなたも一緒でしょう。ここでスパイしてたんでしょ? 正義のためなら変装して騙してもいいの? 理由があれば何をしてもいいんなら、そんなの、誰にでもあるんじゃない?」
そういえば、自分だってはじめて会った相手を好き勝手に品評していました。
絶対にそういうことを考えないであろうまっすぐな志しを持つ人に対して、絶対に相手が傷つくであろう理不尽な言葉をぶつけてしまいました。彼女なら自分と違ってこの言葉を否定できる権利があると知ってのうえで。・・・否定してほしくて。
“知ってのうえで”。
そう。会ったばかりだというのに、ユニはなぜだかアン警部補の人となりを確信していました。
ドジで。未熟で。だけど心優しく素直な良い子。
私はあなたの知らないあなたを知っている。
あなたは私の知らない私を知っている。
「あーら。警察が怪盗の味方していいの?」
「よくはないでありますが・・・。ブルーキャットは本官を助けてくれたであります。だから今だけは助けるであります!」
だから、あの子はユニが自分では出せなかった答えを、ユニが一番否定してほしかった言葉の否定を、ユニに代わって示してくれたのでした。
理由があれば何でもしていいわけじゃない。そんな無責任な道理はどこにもない。でも、自分がどうしてもやりたいことのために、自分で責任を負ってでもやるべきことがある。
ユニが盗みは悪いことだと知ってのうえで、それでもずっと続けてきたのは、つまりそういうことでした。
私の知らなかったあなた
「わからない・・・。星のみんなは救いたい。でも、その前に。・・・倒れているんだ。目の前で。この子たちが!」(第20話)
ユニは元来お人好しな子でした。ブルーキャットの仕事にひかるたちを巻き込むときはちゃんと彼女たちのフォローをするし、やむをえず迷惑をかけてしまうときもできるかぎりの譲歩をしたがる子でした。
けっして怒りに我を忘れた、故郷のために何もかもを犠牲にするような子なんかじゃありませんでした。
自分ではそういうつもりはなかったけれど。
「盗みはよくないでありますよ。騙されたり、自分のものを取られた人の気持ちを考えるであります」
そんなことわかっていました。ただ、盗みという非道と相手を思いやることが両立しがたかっただけで。
どうしても盗まなければいけなかったから、仕方なく相手を思いやる気持ちを諦めてしまっていました。
けれど。
「ドラムスさんのときもだけど、盗むなんてダメだよ!」
「あれは惑星レインボーのものよ。それに、素直にお願いして返してくれる相手だと思ってるの?」
「やってみなきゃわかんないじゃん!」
「やらなくてもわかるでしょ!」
もし、盗まなくてもよかったとしたら。
ユニが本来やりたかったことは惑星レインボーの宝を取り戻すことでした。盗みはそのための手段でしかありません。
だから、必ずしも盗むのだけがユニらしさと限らないんだとしたら、もしかしたらユニのやりたかったことは2つとも両立できるかもしれません。
「どっちもホントの気持ちだよ。反対するのも。心配するのも」
それこそ、ひかるが盗みに反対する気持ちとユニの身を心配する気持ち、両方ともを同時に振りかざしてきたのと同じように。
勘違いしてはいけません。ひかるが前話で生徒会長を目指すのを辞めたのは、まどかたちの期待に応えたい気持ちと、自分が夢中になれる”何か”とを、両立できなかっただけです。プリキュアは本来、二者択一の選択肢を突きつけられたら選択肢をぶん殴って総取りするイキモノです。今話のよくばりモードのほうがよほどプリキュアらしい。
だから、ユニがやりたかったこと2つともを両立できる可能性があると思ったなら、それはまず試してみるべきです。
「つけてみろ。――ブルー。たしか、悲しみの色と言っていたな・・・。持っていけ」
知りませんでした。
ユニの知らないユニをひかるが知っていたように。
ユニの知らないドンのことも、ひかるは知っていました。
宇宙マフィアだから話しあいになんて応じてくれるわけがないだろうというのはただの思い込み。他のマフィアがどうかはまた別の話ですが、少なくともこのドン・オクトーという人物は意外にも話の通じる人でした。
ひかるに出会って。アン警部補に出会って。あるいはドンに出会って。ユニの世界観はどんどん広がっていきます。自分のことも、他人のことも、ユニにはまだまだ知らないことだらけでした。“知らない”ということからして全然わかっていませんでした。
ひとりで考えたときはたくさんの思い込みに囚われてしまっていました。それは仕方ないことではあるのですが。だって、私たちがものを観測するには自分の顔の前に引っ付いている両目を使うしかなくて、自分の主観でしかものを見ることができないんですから。
だからこそ、たくさんの出会いが、彼女の世界観をどんどん広げていきます。たくさんの視点を知って、たくさんの側面を知って、たくさんの層を知って、これまで1通りの姿しか知らなかったものが立体的に見えてきます。
きっとそれは良いことです。
盗むしかないと思い込んでいたものを、本当は盗まなくてもよかったんだと気付けたように。
たくさんの視点を知るほどに心は豊かになっていきます。いろんなことに気付けるようになっていきます。考えかたが柔軟になっていきます。ちょっとやそっとのことじゃ思考を止めなくても済むようになっていきます。
前話でひかるが芽吹かせたトゥインクルイマジネーションの種は、どうやら人と人とのつながりのなかで育つもののようです。さて、この子たちはこれからどんなイマジネーションの輝きを開花させていくのでしょうか。
コメント
やはりというべきか、盗みそのものより「そもそも何故そんなことしなきゃならんのか」がピックアップされましたね。
アンの潜入捜査にまで突っ込むのは想定外でしたけど。
さて、ユニは自分のやらかしたことを間違いなく理解してます。
今回アンとのやり取りで「理由ならみんなある」という趣旨を語ってましたし、以前よりは周りのことを考える余裕もあります。
これで償いをする気がないとは思えませんが、とりあえず今は目的達成に集中して後からまとめて清算するんでしょうか。
もしかしたら、最終盤の離脱は「ボランティア10年を実行するため」だったりして?
まず考えるべきは誰のために償いをするか、ですねえ。
被害者の損失を充当するためというなら、盗んだ宝を返却するという選択を取れないユニは独力では償いきれません。そういう償いを希望するなら保護者であるオリーフィオらが復活してからになるでしょう。
自分の罪悪感を払拭するためというなら、他にやるべきことがある今それを始めるのは不適です。それこそ惑星レインボーを復活させた後で、アン警部補と一緒にボランティア10年コースですね。
幸いなことに(ちょっと卑怯な言い草ですが)、ユニに対して「今すぐ償え!」と言っている当事者はいません。アン警部補はあくまで善意の第三者であり、彼女の勧めは一考する価値こそあれど、彼女のために償わなければならないといった関係性ではありません。だから、ユニは今のところ自分の自由意志でどんな償いをいつ行うか、好きに決めることができます。
それなら、まあ、償うにしても全てが終わったあとでいいでしょう。今やるべきことは、今やりたいこととできるかぎり一致させるべきです。なによりもまず、自分を幸せにするために。