スタートゥインクルプリキュア 第42話感想 Better smile,Bitter smile.

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はあー、最高! 悩んだぶんだけよけいおいしく感じるー!

(主観的)あらすじ

 3年生はもう進路を決める時期です。えれなは地元の高校に進もうと考えていました。特にやりたいことも思いつかないし、それになにより弟や妹たちの面倒を見なければいけません。漠然と、このままお父さんのお花屋さんを継ぐのかなと考えていました。
 そんなえれなに、先生は「天宮さんなら地元以外の高校も狙える、両親ともう少し話しあってみなさい」と言います。お母さんも「何か迷ってるんじゃない?」と真剣な顔で聞いてきます。「あなたはあなたの好きなようにすればいいのよ」とも。
 別に何か我慢しているつもりではありませんでした。なのに、不思議とそれらの言葉が胸につかえます。

 反対に、最近まどかがいい感じでした。自分のことを全部自分で考えなおすと決めてから、すっきりしたような、自然な笑顔が増えていました。
 そんなまどかが言うのです。「えれなが私の背中を押してくれたおかげです」と。そして問い返してきます。「えれなはどうするんですか?」と。

 えれなにも好きなことはあります。翻訳家としていろんな国の人たちと交流しているお母さんがステキだと思うし、プリキュアになってたくさんの星々を巡ったのも大切な経験です。もちろん家族やお花屋さんも大好きです。・・・だけど、じゃあ将来何をしようかと考えると、なんだか困ってしまうのです。
 悩んでいるえれなを見て、まどかも一緒になって考えてくれました。「えれなが自分で選んだ道で笑顔を輝かせるのを見たい」そう言って。

 今日ノットレイダーに利用されたのはえれなのお母さん。えれなの“本当の笑顔”を見たいと思い悩み、イマジネーションを歪ませてしまっていたようです。
 みんなを笑顔にしたくて自分も笑顔でいようと努めていたえれなにとって、それはひどくショックな知らせでした。
 まどかやみんながえれなのしてきたことを信じてくれたおかげで、なんとかもう一度立ち上がることができましたが、ショックだったことの根本はまだ解決されないまま。
 えれなはお母さんや家族のため、いつもより意識して笑顔をつくります。

 前の個人回の流れからどうして今になって進路の話をするんだろう?と思っていたら、案の定トゥインクルイマジネーション完成は次回まわしでした。
 えれなの抱えている問題はピンとこない人にはとことんピンとこない、ちょっと共感するのが難しいものなんだと思います。私たちオッサンオバサンではついつい定型的なキャラクター像として見てしまいがちですし、子どもたちはそもそも彼女のようなものの考えかたを道徳的に正しいと教わっていることでしょう。ちょっとだけ切り口が独特なんです。だからこそ、ここにきてたっぷり時間をかけて描写する必要があったんでしょうね。

 せっかくの機会ですから、この際私たちも時間をかけて、彼女の気持ちをたっぷり想像してみましょう。
 他者理解の基本はイマジネーションです。自分のモノサシで相手を推し測るのではなく、相手のモノサシがどんなものかを最初に考えてみるのが大切です。
 ・・・本当はそんなのわかりっこないから、それが一番難しいんですけどね。でも、考えてみましょう。「諦めない、負けない!」がプリキュアの合言葉です。

ニセモノなんかじゃない

 「えれな。毎日私や家族のために笑顔でがんばって・・・。でも、あの笑顔はえれなの本当の笑顔じゃない! 心からの笑顔を見せてくれない!」

 ひどい言いがかりです。
 「そんな。私はいつだって、みんなの笑顔のために、私も笑顔で――!」
 えれなの笑顔はいつだって本物でした。いつだって心からのものでした。
 「――それから私はどんな人とも笑顔で接することができるようになりました。そして、私が笑顔でいると、みんなにも笑顔の輪が広がっていったのです。笑顔には人と人をつなげるすごい力があります。私はこれからもたくさんの人と出会い、交流を深めていきたいです」(第39話)
 笑顔のパワーは幼いころのえれなが見つけた世紀の大発見でした。当時の彼女の心を救い、彼女の本当にしたかったこと全部を一気に実現してくれる奇跡の具現でした。笑顔ひとつで、まるで世界がそっくり反転したかのような激変を、彼女は肌で体験していました。
 その後のえれなの日常は幸せの一言。いつも笑顔でいるおかげで大勢の人たちに慕われ、笑顔を向けあっている家族の絆も深く、ひかるたちと出会うこともできて新しい経験に満ちた日々にもつながりました。“観星中の太陽”だなんて呼ばれちゃったりもして。
 えれなはみんなの笑顔が見たくて笑顔になります。みんなが笑顔だから笑顔になれます。
 笑顔は天宮えれなの象徴であり、そして、彼女の全部でした。

 それをまさか、こともあろうに実の親が否定してくるだなんて。

 えれなが笑顔しか取り柄のない薄っぺらい人間だといっているのではありません。
 むしろ彼女はあらゆることに器用で、モチベーションも高い優秀な子です。彼女を動かすエネルギーの根源がどれもこれも“笑顔”に結びついているだけであって。
 『Go!プリンセスプリキュア』の春野はるかの“夢”を否定するようなものだといえばわかりやすいでしょうか。人間というのは多面的で重層的なものですが、同時に信念とでも呼ぶべき心の芯が一本通ってもいるものです。きっとがんばり屋さんな人ほどそれをよく自覚し、そして心から大切にしていることでしょう。
 私とは何をもって私たりうるのか。何のために生まれて何のために生きるのか。
 迷わず答えられる人はきっと例外なく立派な人です。
 それが春野はるかにとっての“夢”であり、天宮えれなにとっての“笑顔”だということです。

 ええ。
 えれなのお母さんが言ったことは間違っています。
 お母さんのくせに、まったくひどい言いがかりです。

 子どもにとって親というのは絶対的な存在。普通の子どもはお父さんやお母さんが間違っているだなんて想像だにしません。たまにおかしいな、と感じることがあっても、きっとそう感じる自分のほうが間違っているに違いないと納得してしまいがちです。
 親の間違いを指摘できるようになった時点で、子どもから大人に成長できたと見なすことすらできるほどに。
 「“誤り”ではないわ。これは“成長”って言うのよ」(第41話)
 子どもにとって、親の言葉というのはそのくらい絶対的なものなんです。

 だから、ここで面と向かって向こうが間違っていると断じることができるのはえれなではありません。
 「そんなことありません! 辛いとき、苦しいときこそ、笑顔になることで癒やされ、救われる。前を見ることもできる。セレーネがそれを教えてくれたんです!」
 それができるのは、ずっとお父さんとの関係に向きあいつづけてきたまどかだけ。
 これはまどかにしかできない戦いです。少なくとも、今はまだ。絶対に。

 よかったじゃないですか、えれな。
 「笑顔には人と人をつなげるすごい力があります」(第39話)
 あなたのいつもの笑顔は、正しくあなたの信じたとおりのパワーを発揮しています。
 「だとしたら、えれなが私の背中を押してくれたおかげです」
 「この前えれなは私に『笑顔が輝いている』と言ってくれました。あの言葉に私は救われたんです」

 笑顔はあなたとまどかの絆を深め、そしてまどかはあなたにはできないことで、あなたのことを助けてくれました。
 あなたが信じた笑顔はけっして間違っていません。
 あなたの笑顔は本物です。

 ・・・それなのに、今回あなたは笑顔のパワーだけでは乗り越えられない問題に直面してしまいました。
 いいえ。今回に限らず、ケンネル星でのできごとや、弟のとうまのこと、サボローとのこと、そして今目の前にいるテンジョウの件も。これまでもあなたは笑顔を向けたにもかかわらず解決できなかったいくつもの事象に苦悩してきました。
 あなたが今考えるべきは自分の笑顔の真偽ではありません。
 どうして笑顔で解決できない問題が存在するのか、です。
 そろそろ考えるべきです。

 どうしてお母さんは「あの笑顔はえれなの本当の笑顔じゃない!」だなんて、とんでもない勘違いをしてしまったんでしょうか?
 どうしてあなたはお母さんに、あんなまるで根拠のない勘違いをさせてしまったんでしょうか?

 「ソレイユ。私たちは信じています。あなたが守ろうとしてきたものを」
 笑顔の真偽だなんてくだらない問いかけは、あなたに代わって友達が引き受けます。

不思議なみんな

 「天宮さんの学力なら地元の高校以外でも充分狙えます」
 学校の先生が不思議なことを言ってきます。
 「何かやりたいことはないのか?」
 学校の先生が不思議なことを聞いてきます。

 「地元の高校に進学かな。弟や妹たちの面倒もあるし。卒業したらそのまま家の花屋を手伝うのもいいかなって」
 ウソなんてひとつもついてないのに。
 正真正銘、これこそがえれなのやりたいことのはずなのに。

 なのに、先生はえれなに問いかけます。
 「そうか。志望校についてはご両親ともよく話しあってみなさい」
 あげく、まるでえれなが迷っていると判断したかのような口ぶりでアドバイスしてきます。
 もう決めているのに。
 とっくに決めたはずなのに。

 「今のところ、特に・・・」
 だって、今さら迷ったようなことを口にしたのはえれな自身なんですから。

 どうしてまどかには言えた「家の花屋を手伝いたい」という夢をはっきり伝えられなかったんでしょう。
 その将来像を聞いたとき、まどかは素直に納得していました。家族のことが大好きなえれならしい夢だったからです。この夢を語るうえでえれなが何かムリをしているだなんてきっと誰も考えません。えれながこの夢を掲げることには何の不自然さもありません。えれな自身本気だったはずです。
 もし、えれなの口から直接この言葉を聞いたなら、きっと誰しもが当然のこととして納得したことでしょう。まどかと同じように。

 なのに、えれなは三者面談の場では自分の夢を語りませんでした。
 だからこそ先生もえれなは迷っているんだと判断したわけで。

 「えれな。何かあったんですか?」
 まどかが不思議なことを言ってきます。
 「今日、三者面談でしたし。ひょっとして進路のことですか?」
 まどかが不思議なことを聞いてきます。

 進路は決めているとつい最近教えたばかりのはずなのに。
 「『困ったときは頼って』と言ってくれましたよね。今度は私の番です」
 ほとんど確信を持って、まるでえれなが迷っているとでもいうかのような口ぶりで食い下がってきます。
 もう決めているのに。
 とっくに決めたはずなのに。

 「寒いね。・・・はぁ」
 だって、わざわざ目の前でため息をついてみせたのはえれな自身なんですから。

 そうとも。えれなは迷っていました。
 確かな夢を抱いているはずなのに、不思議と。

 将来の夢に迷ったとき、いったいどうやって決めたらいいんでしょうか?
 簡単なこと。さっき先生が言っていたとおりです。自分のやりたいことから考えてみたらいい。
 「家のことや店の手伝い、プリキュア。どれも大好き」
 そうして考えてみると、えれなのなかには複数のやりたいことがありました。ざっくり分けると2種類。ひとつは最初にまどかに語ったように、兄弟の面倒を見ながらお花屋さんの手伝いをすること。もうひとつは――。
 「プリキュアになってさ、いろいろあったよね。いろんな星に行ったり、全然価値観が違う人と出会ったり。そういうの、ステキだなあって。この経験、ムダにしたくないなあって」
 具体的な夢じゃないけれど、楽しいことだけは知っている将来像。これからも楽しい毎日がずっと続けばいいのに、というふわふわとした空想。えれなは気付いているのかいないのか、それはまさにこのあいだ英語スピーチで語っていた夢そのものであり、お母さんのしている翻訳家の仕事と重なるイメージでもあります。

 だから、えれなは迷ってしまったわけです。
 やりたいことが複数あるから。それも片方は全然人に話せるような内容じゃない、ただのおぼろげなイメージでしかないから。
 だから、先生はえれなが進路に迷っているんだと判断したわけです。
 先生はえれなの夢をどちらもまだ聞けていないから。

 どうしてえれなのお母さんは「あの笑顔はえれなの本当の笑顔じゃない!」だなんて、とんでもない勘違いをしてしまったんでしょうか?
 どうしてあなたはお母さんに、あんなまるで根拠のない勘違いをさせてしまったんでしょうか?

 当たり前です。
 聞いていないからです。言っていないからです。
 えれなが夢のひとつにするくらい、家族との日々を本気で愛しているという事実を。

 これまでも、えれなが苦悩してきたのはいつもこの性格のせいでした。
 「・・・できない。この星の人たちにとって大切なもの、それを奪うってことは笑顔を奪うことと一緒だよ!」(第8話)
 ケンネル星では相手の事情を思いやるあまり自分たちの都合を主張できなくなり、
 「他の家はどうか知らないけど、ウチはウチでしょ」(第14話)
 とうまの不安感を先に気にして彼に共感できる自分の思いを伝えそびれ、
 「ねえ、ママ。・・・わかりあうって難しいね」(第34話)
 サボローのときは一度誤解されてしまった時点ですっかり自信を失ってしまいました。

 えれなは優しい子です。
 自分の言うことで相手がどう感じるか、きちんと考えてから話す子です。
 困らせてしまうようなことは言いません。怒らせてしまうようなことも、気付けるかぎりは言いません。
 今回もそうでした。夢が複数あると聞いて、先生の立場からはいったいどうしたらいいのか。まして片方はふわふわとした空想。どんな反応を返せと?
 そういうとき、決まってえれなは口をつぐみます。笑顔を邪魔してしまうワガママはけっして主張せず、相手が笑顔になれるようなことだけ選んで話します。
 ・・・そのせいで、返って困らせてしまう相手がいることには気付かずに。

 たとえばまどかが心配しました。
 夢の片方を伝えていてもなお、彼女はえれなが進路に迷っていることに気付いて心を砕きました。

 そういえば・・・。
 えれなは気付いているでしょうか?
 「ちゃんとヒントはあるじゃないですか。自分の経験してきたことをムダにしたくない。それはひょっとしたら、えれながもっともっと、新しい経験を求めているんじゃないでしょうか」
 あのまどかが。つい最近まで自分の進む道のことごとくをお父さんの教えに依存していたはずのあのまどかが、不思議と確信を持ってえれなの将来のことをアドバイスできている理由に。
 「笑顔。私は見たいです。えれなが、選んだ道で、輝いてる笑顔を」
 彼女がいったいどこでこんな価値観に触れたのか。
 彼女が何を根拠にここまで確信を持って語れているのか。

手を伸ばさなければ触れあえない

 「私の笑顔はみんなのおかげです。えれなが見ているのはみんなと一緒にいるときの笑顔ですから」
 「なるほどね。私が見ている笑顔、か。――じゃあさ、生徒会長のまどか。まどかのパパやママの前でのまどか。ひかるや私たちといるときのまどか。どの自分が一番の笑顔になれるかで進む道を決めればいいんじゃないかな」
(第41話)
 今、まどかが確信を持ってえれなに伝えているアドバイスは、そもそもえれなからの受け売りです。
 あなたが笑顔になれるのはステキなことだ。何をおいてもステキなことだ。だから、複数の道があるなら自分が一番笑顔になれる道を選んだらいい。
 全部えれなから教わったことです。だからこそまどかは確信を持って伝えることができます。他でもないえれななら、自分が笑顔になれるかどうかを基準にすれば絶対に幸せな未来を見つけられると。

 伝えたら返ってきます。
 伝えなかったら返ってきません。
 幼児でも理解している単純なコトワリです。

 お母さんはえれなの気持ちを勘違いしてしまいました。
 当たり前です。
 だってえれなはまだ何も伝えていないんですから。
 お母さんにしてみればえれなの本心はなかなかわからなくて、だからつい、自責による過度なネガティブ思考、どこの誰基準ともしれない「普通はそういうものだ」という思い込みに囚われて、えれなの笑顔が本物じゃないだなんてバカバカしい妄想をしてしまうんです。(ねえ、ひかるのお爺さん)
 「もっと遊ぶー!」「遊びたいー!」
 「じゃあ・・・、おうちまでママとかけっこ! 誰が勝つかなー?」

 えれなが、お母さんが本当は聞きたいと思っていたワガママを、いちいち全部飲み込んでしまうから。

 トゥインクルイマジネーションを完成させる条件はおそらく4つ。
 ひとつは、自分のやりたいことを見つけること。
 ひとつは、自分のやるべきことを見つけること。
 ひとつは、他人を知りたいと望むこと。
 ひとつは、自分を知ってほしいと願うこと。
 “やりたいこと”と“やるべきこと”が結びつけば、どんな荒唐無稽な夢にだって叶えるための道筋が見えてくるでしょう。
 他人に“興味を持ち”、自分も“興味を持ってもらう”相互関係を築くことができれば、ひとりの力では実現不可能なことだってやり遂げられるようになるでしょう。

 えれなはどうも以前から勘違いしているようですが、相手のためじゃない、ただ自分の感情を伝えるだけの言葉(ワガママ)だって、必ずしも相手を困らせてしまうだけじゃないんです。むしろそれこそを求めていて、心待ちにしている誰かが確実にいます。
 だって、お互いを知れるというのはただそれだけでステキなことなんですから。ひとりだけの力では絶対に実現できない大きなこと、人の想像を超える奇跡を起こしうる無限の可能性が、その繋がりの間に生まれうるんですから。

 だから、えれなはそろそろ考えるべきです。
 自分がこれまで何に苦しめられてきたのかを。
 そろそろ気付いてもいい頃です。
 ケンネル星では全くの無力だった彼女が、
 弟のとうまのときはノットレイダー化した後ながら気持ちを伝えられるようになり、
 サボローのときは一度与えてしまった誤解を雪ぐため行動できるようにまでなりました。
 テンジョウのときなんか明確に自分の本心を含めたスピーチの出来のよさを実感しています。

 あとちょっと。
 あとちょっとです。
 あとちょっとであなたは自分を苦しめてきた問題の正体に気付くことができます。
 あなたがずっと我慢してきたものの、ウラハラに意外とステキだったりするその正体を。
 あえて“本当の笑顔”とやらを探すとしたら、案外、笑顔じゃないときのあなたにこそ、求める答えが見つかるかもしれません。

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