ID:INVADED 第5~6話考察 墓掘りAのイド

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いいんです。放っておけば。そういうの、わかります?

イドの主:墓掘り(実行犯)
現実における犯行手口:被害者を樽に詰めて窒息死するまで監禁、その様子を生配信
世界の姿:落下しつづける一軒家(現実における実家の離れ)
被害者の立ち位置:片想い相手・井波七星の代理
カエルちゃんの死因:胸部を刃物で刺される(凶器は持ち去られている)
ジョン・ウォーカー:出現

死がふたりを分かつまで

 「別に。カレシじゃないよ。そういうこと言わないで。そういうこと言うべきなのは、彼本人でしょ」
 「あ。大丈夫です。ありがとうございます。聞こえてはいると思うので、大丈夫です」

 墓掘りのイドの世界は、小さな世界でした。
 そこにあったのは唯一、彼の実家の離れだけ。
 そこにいたのは唯一、彼の大切な人だけ。
 ここでのカエルちゃんの死に大きな意味はなく、現実における犯行手口と一切無関係で、犯人逮捕につながる手がかりにもならず。ただ、ジョン・ウォーカーから大切な人を匿うための小道具として利用されていただけでした。

 小さな世界が重力のままにひたすら落下していました。
 落下しているということは、いつか地面に激突するということでしょう。
 一方で眼下は雲に遮られ、いつになったら地面にたどり着くのか見当もつきません。
 いつか必ず訪れる破滅を、永遠に待ちつづける。ここはそういう世界でした。

 その基本構造から考えると、ジョン・ウォーカーの存在だけが明らかに異質でした。
 彼は墓掘りをバラバラに惨殺してしまいました。
 墓掘りの大切な人が見つかったら、彼女もひどい目にあっていたかもしれません。少なくとも墓掘りはそれを危惧してジョン・ウォーカーに立ち向かいました。
 そんなことをしたら、地面に激突する前にこの世界が破滅してしまうというのに。
 そんなことをしたら、この世界は永遠に落ちつづけることができなくなってしまうのに。

 この世界の永遠を望む意志は強固です。
 「男の子は殺されちゃったよ」
 「じゃあ、お兄さんが代わりに守ってくれるの?」

 たとえ墓掘りが死んでしまったとしても、酒井戸をその代わりに立てて永遠を続けようとします。
 「――おーい。すみません。ちょっと、こっち」
 たとえ体をバラバラに切り刻まれてしまっても、墓掘りはそのままこの世界の永遠にしがみつづけます。
 恐ろしいジョン・ウォーカーに襲われてなお、この世界の永遠たることだけは壊れることがありませんでした。

 そう。墓掘りは永遠を望んでいました。
 「カレシがいなくなって残念だね」
 「別に。カレシじゃないよ」
 「でも、君のこと好きだったんだろ?」
 「そういうこと言わないで。そういうこと言うべきなのは、彼本人でしょ」

 前回も書きましたが、ここはイドの世界です。ここで酒井戸と会話している女の子は井波七星本人ではありません。
 墓掘りはわかっていたんです。本当なら自分はそうするべきなんだと。
 「あー、ごめんな。カノジョ呼ぶ?」
 「あ。大丈夫です。ありがとうございます。聞こえてはいると思うので、大丈夫です」

 わかっていて、何もしてこなかったんです。何も変えたくなかったんです。
 彼の望む永遠は、この世界の存続だけではなく、ふたりの関係性にまで及んでいました。

 いつまでも、いつまでも、触れあうことすら叶わないこの距離感のまま、ふたり永遠に過ごしたい。
 そんな浅はかな願い、叶うわけないって理解してはいるのだけれど。

 墓掘りが精神に変調をきたしていたのは事実でしょう。そうでなければ自分の一番大切な人と殺人対象を重ねたいと思うわけがありません。
 きっと、彼は犯行に際して、被害者たちを心から愛おしく感じていたんだと思います。
 間もなく死が訪れることの明らかな状況で、それでも生きながらえようと必死に足掻く。どんなに苦しんでも、どうせうまくいかないことがわかりきっていても、それでも自分が存続することへの希望を絶対に手放さない。
 この男がそういう貪欲さにシンパシーを感じないはずがありません。だからこそ、彼の殺人衝動は愛情と表裏一体になっているんです。

 「私を逮捕した、あの本堂町さんってかわいい刑事さん。面会とかできますか? 彼女と数田くんと、ふたりとも頭に穴があって。それで、ふたりに通じあうところがあったかどうかを確認したかっただけです。彼女ならきっとわかります。――女の子ですから」

 さて。それなら井波七星と被害者たち、墓掘りがより深く愛していたのは結局どちらだったんでしょうね。

 これはまったく根拠のない想像で、私がこの男性の立場だったらどう思うかの想像でしかありませんが・・・。
 その愛情は、きっと本人にも比べられるようなものではありませんよ。
 触れることの許されない儚い園芸花と、自宅前の道路際にも逞しく咲く野草。それぞれに感じる愛おしさは、そもそもがまったくの別物です。

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