
彼女と数田くんと、ふたりとも頭に穴があって。それで、ふたりに通じあうところがあったかどうかを確認したかっただけです。

イドの主:墓掘り(間接犯)
現実における犯行手口:実行犯の殺人ショーを楽しみ、支援する
世界の姿:先頭と後尾が連結され、永遠に回りつづける環状線電車
被害者の立ち位置:母親が身投げした踏切の前で待ちつづける
カエルちゃんの死因:首元を包丁で掻き切って失血死、自殺
ジョン・ウォーカー:出現
甘美な毒
「ねえ。この電車、いつ次の駅に着くか知ってる? お母さんが迎えに来てると思うんだけど」
「ずっと、このままでいいの」
もうひとりの墓掘りのイドの世界では、彼女は誰も殺していませんでした。
カエルちゃんは自殺しました。
他の乗員も永遠の時間に耐えかねて自然死しました。
被害者たちは母親が自殺した踏切の前に待機しており、墓掘りに殺意がないわけではないことを窺わせますが、電車が途切れることなく通過していくので身投げすることができずにいます。
自分で殺すまでもないからです。
彼女には共犯者がいて、彼女の代わりに彼がステキな殺人を何度も見せてくれました。
だから、彼女は自分の手を血に汚さずとも満足できていました。
墓掘りは世界の永遠たることを望んでいました。
「次の駅に母親がいるならこの電車に轢かれることはずっとないんじゃないですかね。井波七星は自分の母親を守ってるんじゃ?」
「いいや。さっきの被害者が並んでた踏切だよ。母親が飛び込んだのは。時間的にも完全に合ってる。つまり――」
「井波七星は、母親を轢く電車に永遠に乗りつづけている」
電車が次の駅に到着したら大好きなお母さんに会うことができます。ちょっと楽しみです。
けれど、会うことが叶ってしまえば、今感じている楽しみはそこでおしまい。寂しいけれど、未来を楽しみにする気持ちは永遠には続かないものです。
――そう思っていました。
ところが、現実にはこの日、墓掘りの母親は自殺しました。
ならば電車が駅についてもお母さんに会えないのですから、この楽しみはもう消えることがありません。いつまでも、いつまでも、楽しみにしていられます。
墓掘りは、人の死に、甘美で終わることのない夢を見るようになってしまいました。
「私、人が死ぬとこ見るのなんて嫌い」
人は死んだら終わり。
「もうカメラで様子が見れないんじゃ、死んでてもらう意味なんてないじゃないですか」
だけど、死んだ人は永遠。
誰でも生きていたらいつか死んでしまうけれど、死んでしまえばそれ以上はもう変わらない。その人のことでずっと同じ夢を見ていられる。
だから。
「やっぱりお邪魔なんじゃない?」
「もう。そういうこと言わないでってば」
愛する男の子にも、同じように永遠になってほしいと思っていました。
いつまでも同じ関係。同じ距離感。同じ気持ちを、ずっと、ずっと、ずっと。
そんなもの、しょせん夢でしかなかったのだけれど。
「数田くん!」
男の子が死んだとき、墓掘りはちっとも嬉しくなんか感じませんでした。
人は死んだら終わり。
あんなに幸せだった男の子との関係は、彼が死んだだけであっさり終わってしまいました。
いつまでも同じ関係がいい、なんてウソ。
男の子が自分以外の女性とキスするのを見せられて気付いてしまいました。自分がもっと先を望んでいたことを。何をおいても、彼を誰かに取られることだけは絶対にイヤだったことを。
永遠なんて、本当は望んでいなかったことを。
「そういうのって何なんですか? プライドとはいいませんよね」
「・・・ですね。子どもっぽいだけです」
死んだ人は永遠。
その人のことで、ずっと同じ後悔をしつづけるしかない。
・・・あの人は、私と私じゃない誰か、結局どちらのほうを深く愛してくれていたんだろう?
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