ID:INVADED 第7話考察 鳴瓢のイド

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ありがとう、名探偵さん! お名前は?

イドの主:鳴瓢 秋人
現実における犯行手口:玄関から侵入して出会い頭に射殺 / イドで得た情報を元に自殺教唆
世界の姿:作為的に落とされる雷が無差別に人を殺していく世界
被害者の立ち位置:不在(殺す相手なんて誰でもいい)
カエルちゃんの死因:他の被害者と同様に落雷によって死亡
ジョン・ウォーカー:未確認

優先順位の矛盾

「この雷はいつまで落ちつづけるの!?」
「あそこでも人が死んでる! その人たちをどうやって助けるの!?」

 鳴瓢は自分のイドの世界で無差別殺人を行っていました。
 凶器は円周率の数列に従って落ちる雷。9.03秒周期で機械的に人を殺す仕掛けになっていました。
 雷が落ちる場所(というかマス)とタイミングには法則性がありましたが、どうやらそこに誰を立たせるのかまでは操作していない様子。そもそもこの世界には見覚えある顔がほとんどありません。第4話で自分で語っていたように、彼の殺人衝動は無差別的なのでしょう。
 鳴瓢自身もこの雷に打たれて死にました。状況を見るに、死亡したのはおそらく名探偵登場後最初の落雷にて。彼は落雷の法則性を知っており、さらに直前までカエルちゃんの死んだマスで手錠をはめる作業をしていたはずなので、そのあとで隣のマスに移動してわざと雷に打たれたことになります。要するに自殺ですね。

 鳴瓢自身すらも殺す殺伐とした空間に、どう考えてもふさわしくない人物が2人だけいました。
 確認するまでもありませんね。奥さんと娘さんです。
 鳴瓢の性格と行動理念から考えて、彼はこの2人だけは絶対に手にかけたくないはずです。おかしいです。なぜ、彼の無意識はこの殺意でできた世界に殺したくない2人をわざわざ登場させたのでしょう。

 そういえば、もうひとりだけ鳴瓢が死なせたくないと考えたであろう人物がいましたね。
 「この手錠はカエルさんが死んだあとにはめられた。私をここから動かさないようにするためだ。おそらく、この男の人は雷が同じ場所には二度と落ちないと思ったんだ」
 名探偵・聖井戸御代です。カエルちゃんの死体と手錠でつなぐことで、彼女だけが絶対安全圏に保護されていました。けれど、いったいどうして名探偵を? 他の誰をも救わず、自分の家族すら救わず、あえてどこの誰とも知れない1人だけを?

 「この人はどうしてみんなにそれを教えなかったのか? それはわからない。ともかくこの人はみんなを助ける前に私を助け、落雷で死んでしまった」
 鳴瓢に名探偵を助ける理由があったでしょうか? あるわけがありません。彼の殺人衝動は無差別的であり、まして彼は名探偵として来る人物が憎むべき連続殺人鬼であることを知っています。よしんばそれすらも彼はこだわらない、あるいはその知識をイドに持ち込めなかったのだと解釈するにしても、今度はこの場に奥さんと娘さんが存在する謎が立ち塞がります。鳴瓢にとって、この2人よりも優先して救わなければならない人間なんているわけがありません。
 どう考えてもおかしいんです。鳴瓢が名探偵を助けるのは。そして、奥さんと娘さんを助けないのは。明らかに矛盾しています。

 ならば、これはつまり“鳴瓢にはどうしても名探偵を助けなければならなかった理由がある”という前提をもって、今一度考えなおしてみるべきだということです。
 鳴瓢にとって、この状況下で最も優先すべき行動原理は何か? それは何度も書いたように、奥さんと娘さんを救うことです。
 しかし、彼はそれをしなかった。すなわち、何らかの理由があってそれをできなかった。そして、その代わりに名探偵を助けた。
 何のために? 決まっています。

 鳴瓢は、名探偵に謎を解いてもらい、自分に代わって奥さんと娘さんを救ってもらおうとしたんです。

 「聞いて! 他のみんなにも伝えて! ――大丈夫。この雷は同じ場所には二度と落ちないから」
 実際、聖井戸はみごとこの世界の謎を解き明かし、鳴瓢の奥さんと娘さんの命を救ってみせました。

 それにしても謎が残りますけどね。
 結局、どうして鳴瓢は自分で直接奥さんと娘さんとに落雷の法則を教えてあげなかったんでしょうか。また、どうして聖井戸にもっと直接的な答えを提供しなかったのでしょうか。・・・というか、やっぱりこの世界に奥さんと娘さんが登場すること自体がそもそもおかしいのですが。

 そこに、もうひとつ大きな矛盾があります。

世界構造の矛盾

 どうして鳴瓢の無意識はあえて自分の殺意の世界に奥さんと娘さんを登場させ、さらにわざわざ名探偵に2人を救わせようとしたのか。

 一応、直接声をかけられなかった理由なら推察することができます。
 自分が連続殺人犯になってしまったからです。というか、今まさに人殺しをしている真っ最中だからです。イドの世界のなかで、奥さんと娘さんは鳴瓢のことを探していました。彼女たちならそうするとわかっていて、彼はあえて姿を隠していたわけです。

 同じく、鳴瓢が聖井戸のようにみんなに落雷の法則を教えなかった理由も想像できます。
 だって、この世界は彼の殺人衝動の世界だからです。殺すべき相手にわざわざ手口を教えてやる理由なんてありません。この世界では奥さんと娘さんだけに生き残る権利があって、それ以外は鳴瓢自身も含めて全員が死ぬべきです。

 だったらなおさら、この世界に奥さんと娘さんがいるのはおかしいわけですが。

 いいかげんクドくなってきたのでそろそろシメに入りますが、要するに今話は結局何を考察してもこの矛盾に戻ってきてしまうんですよね。
 ですが、事実として鳴瓢の無意識がこんな奇妙な、彼らしくないことをしているということは、そうせざるをえない相応の理由というものがやっぱりあるべきなんですよ。

 この他に何か考察すべきものがあるかといえば、そういえばカエルちゃん。ここまでの登場人物のうち、カエルちゃんだけがなんとなく蚊帳の外でした。
 もし仮に、他のイドの世界含め真っ先に殺されている彼女に、何か存在理由があるのだとしたら。それはいったい何か?

 「この死んでる子の名前を私は知っている。カエルさんだ。そして私は私が誰かを思い出す。私の名前は聖井戸御代。名探偵だ」
 「私はここに死にに来たわけじゃない。でも、生き延びるためでもない。雷から逃げ惑うのは私の仕事じゃない。私は、カエルさんの死の謎を解きに来たのだ。死の謎。それはつまり、どうしてカエルさんが私と手錠で手をつないで死んでいるのか、だ」

 名探偵の役目は、カエルちゃんの死の謎を解き明かすことです。どういう理由なのか、誰に命じられてそういう使命感を持っているのかはわかりませんが、とにかく名探偵とカエルちゃんはそういう関係ということになっています。
 名探偵はカエルちゃんの死の謎を解き明かそうという動機によってイドの世界そのものの構造を解明し、井戸端スタッフの推理と合わせて様々なかたちで現実世界での事件捜査に貢献します。
 どんなイドの世界であっても、このルールだけは共通で、絶対です。

 鳴瓢はこのルールに逆らえなかったのではないでしょうか。
 名探偵のために、カエルちゃんの死を通して解き明かされるべき謎を用意してやらなければならなかったのではないでしょうか。
 だからこそ、この世界には奥さんと娘さんの存在が必要だったのかもしれません。名探偵がみごと謎を解き明かし、大活躍する舞台を設えるために。
 なにせ鳴瓢の殺意は無差別です。名探偵に救わせるべきヒロインは、鳴瓢にとって彼女たち2人を除いて他にいません。むしろ最もふさわしいといえるでしょう。
 こういう理屈づけなら、(とりあえず私が納得できる程度には)この殺意の世界に奥さんと娘さんとが登場する謎を説明することができます。

 ただし、そういう理屈づけをするなら、またもうひとつ矛盾が生まれます。
 「カエルちゃんは自殺した。『この電車はどこにも行かない。ただぐるぐる回っているんだ』と、俺に伝えるためだけに。どうしてそんなことをするんだろう。カエルちゃんの死が、誰かの死が、そんなことのために起こっていいんだろうか。・・・よくわからない」(第6話)
 鳴瓢は、被害者自身への殺意以外によって殺人が行われることをひどく嫌っている人物です。自分の娘がタイマンという連続殺人犯の身勝手な都合で惨く殺されてしまったから。(そのくせ自分までそういう無差別殺人を犯しているからイドの世界で自分を殺しているわけですが)
 彼はいつもカエルちゃんに同情的でした。まるで死ぬのが当然のことのように殺されてしまう彼女をどうにかして救おうとして、でも救えなくて、そのたびにいつも泣いていました。

 そんな彼が、どうして自分のイドのなかの世界に限ってはカエルちゃんの死を利用するようなことをするのでしょう。いつもの彼らしくありません。矛盾しています。
 カエルちゃんと名探偵にまつわるルールはそれほどまでに絶対的なものだというのでしょうか。
 そろそろ“ミズハノメシステムにおける名探偵とはそもそも何なのか”を考える時期が来たのかもしれません。(というかそういう考察記事を出すつもりで一連の記事を書きました)

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