ID:INVADED 第8,10話考察 鳴瓢のイド2

悪いね。僕はここがどこかを知っているんだ。あの頭に穴を空けた彼女を探しに行ったからね。

イドの主:鳴瓢 秋人
現実における犯行手口:イドで得た情報を元に自殺教唆
世界の姿:荒寥とした砂漠
被害者の立ち位置:不在
カエルちゃんの死因:砂を掘りながらの衰弱死
ジョン・ウォーカー:ドグマ落ちの際に出現

名探偵が解くべき本当の謎

 百貴のイドじゃなかったですね。意外でした。
 どうしてあんなところに鳴瓢の思念粒子があったんでしょうね。百貴に思い当たる節があったということは、何かしらの理由で百貴自身が収監中の鳴瓢の思念粒子ないし付着した証拠品を持ち帰っていたのか、それとも誰かの陰謀で散布されたことに気付いたのか。

 ともかく、百貴が鳴瓢のイドだと認識したうえで「全部罠だ!」と言っていたのなら、色々と話が違ってきます。

 「時計泥棒なんていなかったんだな。これでカエルちゃんの手首と俺たちの手首がそれぞれ結ばれてたはずだ。どうしてほどいた。答えるんだ、穴井戸! これは『カエルちゃんの傍から動くな』というメッセージだ」

 カエルちゃんの死には常に解くべき謎が隠されています。なぜなら名探偵とはミステリ作品において謎を解き明かすために配役される作劇装置であり、そしてミヅハノメの描写するイドの世界においては特に、名探偵はカエルちゃんの死の謎を解くための存在と限定して定義されているからです。
 そこに名探偵がいるならば、カエルちゃんの死には必ず名探偵を活躍させるための謎が隠されていなければなりません。

 砂漠のイドにおいて用意されていたカエルちゃんの死の謎は、時計泥棒ではありませんでした。
 これは穴空きの手による偽装工作。本来ならば手首には名探偵たちを拘束する布が巻かれていて、足跡の主の謎を追うよりもまず、自分たちが拘束されている理由について推理されていたはずでしょう。そういう筋書きのようでした。
 名探偵の解くべき謎が時計泥棒じゃなかったのなら、もっと他に何かがあったはずです。

 ありましたね。

 「カエルちゃんの遺体に外傷はない。が、おそらく砂のなかに水気を探したんだろうな。失神して砂に埋もれていた俺たちとは違い、カエルちゃんは意識があり、運動していたぶん体力を消耗し、脱水症状が進み、内臓が損傷して死んだってところか。つまり、死因には謎がなさそうだが・・・」

 いいえ。カエルちゃんの両手首が名探偵の手首と結ばれていたのなら、彼女の死んだ状況は不審です。
 だって、手首を結ばれた状態で砂を掘ることなんてできないじゃないですか。
 なのにカエルちゃんの傍にはたしかに砂を掘っていた形跡があり、また、彼女の指先もボロボロに傷んでいました。カエルちゃんが砂を掘っていたこと自体は間違いありません。

 ならば、名探偵たちとカエルちゃんの手首が布で結ばれたのは、カエルちゃんが死んだ後ということになります。
 この点も落雷の世界と共通していますね。

 手首を布で結んだ犯人(鳴瓢)は、いったい名探偵たちをどうしたかったんでしょうか。
 おそらく完全に拘束したかったわけではありません。そうしたいのなら落雷の世界で使っていた手錠をかけたほうが確実ですし、もし手錠が用意できなかったにしても、それぞれを後ろ手で縛ったほうが拘束効果は高いはず。
 やはり酒井戸の推理どおり「カエルちゃんの傍から動くな」とのメッセージだったと考えるのが自然でしょう。賢明な名探偵ならそのメッセージを正しく読み取ってくれるはずです。

 もし名探偵たちがこの犯人からのメッセージを正しく受け取っていたのなら、彼らは次にどういう行動を取ったでしょう。
 きっとカエルちゃんが砂のなかから何を掘り出そうとしていたのかに関心を向けるはずです。彼女が砂を掘っていたのは明らかなのに、不審さを承知であえて手首を結んだ強烈な違和感。名探偵たちはそこにカエルちゃんの死の謎を見出すはずです。
 周囲には犯人の残した足跡もありますが、この場を離れたらカエルちゃんが掘り出そうとしたものの正体を確かめることができず、なにより「カエルちゃんの傍から動くな」のメッセージがあります。検証すべき優先順位は足跡より砂のなかのほうが高くなるでしょう。

 そして、名探偵たちが砂を掘ったなら、そこに見つかるのは数字の刻まれたパネルだというわけです。

 名探偵たちは(通常なら)現在侵入しているイドの世界以外の情報を持ちません。パネルを掘り出したところで、それが持つ意味――このイドの世界が鳴瓢のものであるという事実――を理解することはできないでしょう。
 つまり、パネルを見ただけでは酒井戸がドグマに落ちることはありません。
 しかし井戸端スタッフには伝わります。当然、即座に酒井戸を強制排出させるでしょう。それでこのイドの世界の物語はおしまいです。

 実際のところイドの世界の鳴瓢がどこまで意図してこの謎解きを仕掛けたのかはわかりませんが、穴空きの暗躍さえなければ、ドグマ落ちという事態は本来起こりえなかったわけです。

 「自分自身のイドに入ることは禁じられている。イドは無意識からの産物だ。イドに潜ることはつまり、無意識を意識することだ。あくまでも理論上だが、イドはその意識の侵略から逃げようとするように、自らを不可視化しながら膨張すると考えられている」(第3話)

 まさしく、イドの世界の鳴瓢は自分自身の意識による侵略から全身全霊をもって逃げようとしていたわけです。
 ところが彼の仕掛けた謎を解き明かしたのは酒井戸でも井戸端スタッフでもなく、穴空き。計画はご破算。出し抜かれました。穴空きもまた真に名探偵だったということですね。

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