100年前の力と剣と記憶を取り戻したリンクの前にもはや敵などいません。ガーディアンだろうがライネルだろうがガノンだろうが、今の私とリンクの足を止めることはできません。そこを退け、厄災よ。私たちの敵はお前らなんかじゃない。
私たちは大切な人を笑顔にするためにここに来た! ハッピーエンドを返してもらいに来た!
結局のところ、私たちの旅はありふれたコイバナでした。
近くて遠いところに大切な人がいます。会いに行こうと思えばいつでも行けるのに、今の自分では足りないからと延々遠回りしてきました。自分が本当は何をしたいのか迷う日々でした。何度も思い出を振り返って、それでようやく自分の本心に気づきました。
結局のところ果たすべきことは初めから変わらず、私たちはゼルダ姫の笑顔を見るためだけに悪の根城を駆け上ります。
厄災を打ち払うには片腕と剣さえあればいい。残ったもう片方の手にはあの人が好きだったフルーツケーキを。
古来、勇者とは囚われの姫を救うために戦うものでした。英雄譚なんて昔からベタなラブコメでしかありません。私たちもそれに倣いましょう。
姫を古城に縛りつづける最後の敵は「100年間の断絶」。一度そいつに敗れた私たちでしたが、今ようやく打ち破るための武器を携えてきました。
100年前の・・・ではなくて、100時間前の雪辱を、今こそ果たすとき。
「私を・・・覚えていますか?」
今のリンクならその問いかけに答えられます。
生まれたときから特別な才覚を携え、卓越した技量にふさわしい人物となるよう己を律するあまり、ついには表情を失ってしまった少年がいました。
生まれたときから大いなる義務を抱えこみ、しかしそれを果たすことができず「無才の姫」と蔑まれ、いつも張りつめた表情をしていた少女がいました。
世界を守るための勇者と姫巫女の伝承は、不幸なことに一組の男女を苦しめることになってしまいました。しかし今代の伝承歌は今日限りでおしまい。どこかの誰かが結びの句を付け足して、「めでたしめでたし」にしてくれました。
全てが終わったあと、少年は100年前から望んでいた居場所に収まりました。結局のところ私がヤキモキするまでもなく、彼の心は最初から定まっていたのでした。ちょっと忘れていただけで。今の彼ならどんなものにも負けることはないでしょう。だって彼は世界で一番大切なものを守る騎士なんですから。
全てが終わったあと、少女は再び力を失いました。まるで彼女を縛りつけていた何もかもが夢となって消えたかのように。
少女はあの頃のように悲しい顔を見せず、晴れやかに笑います。隣に100年間待ち焦がれていた少年がいてくれるのだから。力なくとも、今の彼女は「無才の姫」なんかではありません。今の彼女は何だってできます。だって彼女は自由なんですから。
幸せそうなふたりの姿を見届け、満足したゲーマーは人知れずハイラルの世界を去ります。次のゲームソフトを取り出します。
また、どこかの誰かの笑顔を見るために。
めでたし、めでたし。
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