プリンセス・プリンシパル 第4話考察 女王の黒衣と少女たちの嘘について。

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いいじゃないか、チーム白鳩。“白”ってのが特に良い。

――残酷な世界に生きる少女の祈り

※ ちせたんイジリを追記しました。

 少しは大人になれた気がする今振り返ってみれば、中学高校大学あたりの人生のテーマは「安定を求めること」だった気がします。自立心の発達に伴って家族や学校による庇護に猛烈な無力感を感じて嫌悪し、大人社会の片鱗が視野に入りはじめると虚実入り交じったその構造をまた嫌悪し、自分だけの居場所を、あるいは絶対の真実を、いつも探していたように思います。
 目の前の常識という常識がことごとく信用ならなくなった、“自立”という少年心理の一大転換期。私は、絶対に崩れない、絶対に裏切られない、絶対に安心できる、自分だけの巣穴を求めていたように思います。
 ・・・んなもん第二次反抗期の数年間で終わらせとけよって話ですけどね。

 「私はまた居残り組か? ドロシーより私の方が強いぞ!」
 「この世界に白はない。黒とグレーがあるだけだ。プリンセスはグレー。以降も監視は怠るな」

 多感な少女たちにとってスパイの世界はとことん優しくありません。実力を身につけたつもりでも「居場所」は別の理由で認められず、必死にかき集めた「真実」を常識は理不尽にひっくり返す。
 この世界は残酷です。救いをもたらしてくれるべき神様の目が、この暗がりにだけは届かない。ここは少女たちのいるべき場所じゃありません。悲しいことに、それでも彼女たちはここでもがき続けなければいけないのだけれど。

 とまあ、今話の感想はそんな感じでコンパクトに。

黒衣の女王

 当たらない考察の時間です。

 とりあえずは女王がプリンセス(アンジェ)から見て叔母にあたるという説の撤回ですね。
 「ご機嫌麗しゅう。おばあさま」
 プリンセス(アンジェ)は直系の孫でした。大叔母のことを「おばあさま」と呼んでいる可能性も残りますが、さすがに1クールアニメでそんなヤヤコシイ設定にはしないんじゃないかな。
 そして直系であるプリンセスが王位継承順位第4位ということは他の候補者も直系なんでしょう。第2話時点では女王はもっと若いもの(40代)だと思っていたので、全員直系という可能性は考えていませんでした。
 全員直系であるなら序列は思ったよりもガチガチに固定されている可能性がありますが、まあそのあたりは大して考察に影響ありません。どれだけ不利であろうとプリンセスが王位を望んでいることに変わりはないわけですから。

 さて、初めて現在の女王陛下の姿がお披露目されましたね。
 率直にいって、世界最大の勢力を誇る王国元首にしてはイヤに地味な黒衣です。目立つ装飾といえばヴェールやストール程度。クラウンもシンプル。貴金属類と輝石は最小限。

 これ、喪服ですね。

 当時の史実イギリス女王、ヴィクトリアが着ていたものに似ています。
 彼女は若くして夫であるアルバート公を亡くして以後、10年以上の長きにわたって喪に服し続けたとか。そのあまりに長い服喪期間ゆえにイギリス国政は議会が主導することとなり、結果として世界に先駆けて立憲君主制へと移行する地盤を固めることになりました。
 有り体にいえば、これが国王の発言力と議会の発言力が逆転する最後の一押しになったわけですね。(元々既定路線ではあったようですけれど)

 プリンセス・プリンシパル世界ではどういうわけか、議会の一部がロンドン革命を起こして王国から分離独立(=アルビオン共和国)しています。さらにその血塗られた革命のトラウマによるものか、王国全体に階級制度を固定化するムードも広がっているようです。
 なにせ共和化を求めるからには革命の主役は中産階級だったはずですからね。彼らのうち主立った者たちが国外に出て行った以上、社会不安を払拭するには伝統的な権力者である国王に残党を力で押さえつけてもらうのが一番手っ取り早いわけです。
 つまり、史実イギリスとは異なり、アルビオン王国運営の全権は女王の手に集約されているわけですね。

 その割に女王には覇気がありません。
 振り返ってみると、この人、第1話に写っていたプリンセスとふたりの肖像当時から喪服を着続けています。プリンセスの外見年齢から推定するに最低でも年単位、たぶんだいたい5年くらいでしょうか。この人ってば史実ヴィクトリア女王のように何年も何年も喪に服していることになりますよ。
 史実イギリスと違ってこの人シャレにならない権力者なのに! おっかない!

 そこで内務卿・ノルマンディ公がしゃしゃり出てくるというわけですね。
 「陛下、そろそろ例の話を。――結婚の話です」
 女王陛下が切り出すのを待たず話しはじめるこの無礼者。しかも女王がひときわ寵愛を注いでいるプリンセスを用いた政略結婚の話題です。国家最高権力者の気分を損ねることをまるで恐れていません。・・・そして事実、女王も若干抵抗のそぶりを見せるだけで怒りもせず、あとは言いなりに。
 あからさまに傀儡ってヤツです。

 本来あるべき議会からの突き上げなく、本来あるべき王族からの抵抗なく。ロンドン革命以後のアルビオン王国はずいぶんノルマンディ公に都合よくできているものですね。

プリンセスは嘘をつく

 プリンセスが王位を求める理由の一端が見えてきましたね。
 「――そのために、孫娘に犠牲になれと」
 女王のささやかな抵抗の言葉にプリンセスの瞳が揺れます。その瞳に宿る感情は明らかに哀れみ。だって、このままでは女王があまりに哀れじゃないですか。なまじ形式上の権力を握らされているばかりに目の前で望まぬ事態が進行し、しかもそれを止めることすらできない。単なるお飾りの姫よりもよっぽど辛い立場です。
 ベアトリスが見舞われたような理不尽も本来なら為政者が取り締まっていかなければならないもの。秘密警察の暗躍で命を落とした国民も1人や2人じゃないはずです。そもそもが元を辿ればアンジェが10年も姿を隠さなければならなかったことだって。
 プリンセスの瞳はノルマンディ体制下の歪みをいくつも写してきたわけです。

 もちろん第一目的はアンジェと協同している「自身らの自由の獲得」でしょうが、しかしプリンセスはすでに自分たち以外の不幸を知りすぎてしまいました。アンジェの提案するような、自分たちだけが助かるやり方では、どうにも心が救われないほどに。

 「みなさんの失敗は私の秘密に直結します。だったら私は、作戦が成功するために命をかけなければなりません」
 プリンセスは己の命すらも平気で投資します。不健全な傀儡政権から王位を簒奪する、その大きすぎる理想を叶えるためには自分の全身全霊を費やしてもまだ全然足りないから。それでいて大きすぎる理想はおそらくアンジェたちの賛同を得ることも叶わないだろうから。
 だから、プリンセスは仲間たちに嘘をつきます。

 ドロシーはプリンセスの覚悟を見て「白」と得心したようですが、勘違いです。彼女は王国の敵ですが、だからといって共和国の味方というわけではありません。仮に共和国スパイの尽力で王位に就けたとしても、彼女は共和国に実権を引き渡すようなことは絶対にしないでしょう。それでは現女王と何も変わらない。誰も救えない。
 プリンセスは“L”の言うとおりグレーです。むしろ共和国の利益という観点からすれば限りなく黒に近い。

 アンジェは幼馴染みとして半ば盲目的にプリンセスを信用していますが、『The Other Side of the Wall』の詞にもあるように、彼女たちの見ているものはそれぞれ違います。アンジェはプリンセスが女王を目指す真意を測りきれていません。
 いつかアンジェはプリンセスに裏切られたような思いを抱くことになるかもしれません。それでもプリンセスはアンジェの気持ちを知ったうえで、自分の目的のために彼女の力を利用しています。

 プリンセスは仲間たちに嘘をついています。嘘をついたうえで、さらに彼女たちのために命までかけています。そこまでアクロバティックな覚悟を決めなければ、理想に手が届きそうもないから。

稚拙なちせたん

 「10連敗じゃな」
 「ちせさんも一緒に負けてるんですよ?」

 あえて出会いのエピソードを後回しにされたようですが、おかげで良い感じに彼女の立ち位置が謎めいていますね。
 彼女は留学生という建前でクイーンズメイフェア校に送り込まれた日本人スパイです。ところがスパイとしての実力はまるでダメダメ。ベアトリスと肩を並べるド素人です。
 「私はまた居残り組か?」 なんて子どもじみたワガママを考えなしに口に出しちゃうあたり、心構えすらもまるでスパイらしくありません。剣の腕が達者なだけの、本当に普通の女の子。それがちせです。
 ・・・もっとも、現実のスパイも大多数はそんなものらしいですけどね。例えばお金を握らされただけのホームレスとか。街角に立って噂話を聞くのだって立派なスパイ行為です。

 ですがちせの場合はそういうのと別です。なにせ、どんな因果かプリンセスとともにスパイ活動に従事しています。プリンセスがスパイであるという情報はアンジェたちの急所。ベアトリスのようになし崩しで仲間に加わったならともかく、彼女のような他国の、しかもド素人がそう易々と近づけるものではないはずです。

 ・・・まあ、たぶん、偶然知っちゃったんでしょうけどね。結局のところ。
 そうでなければ、どう考えたって彼女のようなスパイらしくないスパイがプリンセスの傍にいられるわけがありません。
 逆にこれがちせによる意図的な接触だと仮定する方が無茶だわ!
 ただの偶然と考える方がよっぽど現実的だわ!
 「冗談も言うし・・・それが笑えない冗談ばかりで。好奇心が強くて、いつもアンジェが振り回されて」
 明らかにスパイとしての報告を期待されているはずの場で、こんな楽しげに友達のことを話しはじめる天然さんですよ? こんな子がプロのスパイチームを欺いて的確に急所に潜り込めるわけがない!

 たぶんこの子、元々は本当にただの留学生だったんじゃないでしょうか。あるいはアルビオン王国を訪れていた堀河公のボディガード(非スパイ)。
 何かの事件に巻きこまれてたまたま偶然プリンセスの秘密を知ってしまったために、秘密保持(兼、日本とのパイプ繋ぎ)のためアンジェたちのチームに迎え入れられ、それから後になって堀河公にも密かにスパイとして雇われた。そんな感じだと思います。
 現実の二重スパイもそういうのが大半だと聞きます。先のホームレスのモデルパターンなんかでも、まず噂話収集のために組織Aがホームレスを雇うと、組織Bが組織Aの情報を得るためにそのホームレスを買収する・・・なんて感じで二重スパイ化することがしばしばあったそうです。ちなみに、ここからさらに勘づいた組織Aが組織Bに偽の情報を流すためホームレスを再買収したら三重スパイのできあがり。

 とはいえちせたんの稚拙っぷりでは二重スパイをやり通すのも結構無茶な気がするんですよね。なんか早々にバレそう。というかcase 7時点ですでにバレてそう。なにせ相手がアンジェとプリンセスですし。(え? ドロシー? ・・・え?)
 「スパイはみんな嘘つきだろう? ちせだって嘘をついている」
 「お主もな」

 第1話でのドロシーとの小粋な会話は、半ば公然とバレちゃった二重スパイの話を仲間同士の暗黙の了解としてイジりあっているのかもしれませんね。この場合ちせは「妙な縁でアンジェたちと行動を共にする留学生」のフリをした「堀河公の命でプリンセス及び共和国の動向を探るスパイ」のフリをした「やっぱりアンジェたちの味方についたスパイ仲間」という三重スパイになります。
 二重スパイは無茶でも三重スパイなら逆にイケそうな気がする不思議。

 プリンセスとちせは仲間に嘘をついています。それから、プリンセスの見張り番としての役目を隠しているドロシーや、自分の目的のため共和国を裏切っているアンジェだってそう。(・・・ベアトリスは?)
 スパイという、少女に似つかわしくない仕事に手を染める彼女たちは、望むと望まないとに関わらず、結局のところ嘘無しで生きていけません。
 どれほど清廉潔白な白鳩<Dove>であることを望んだって、街の煤煙に汚れた土鳩<Pigeon>にしかなれやしない。
 けれど彼女たちが心の芯に保持する少女らしさはスパイの黒に染まりきることもできず、少女たちは白でも黒でもないグレーのまま、ぎこちなく、どうにもままならない世界をさまよい続け<Roaming>ます。

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