ハイラル大忘年会シリーズ第4席。4英傑で最も優しく、最も愛らしく、最も湿っぽかったあの子の意外な強さ。
英傑ダルケルは里の武名を誇るために。
英傑リーバルは遠き名誉を掴むために。
英傑ウルボザは友の祝願を結ぶために。
では、英傑ミファーは?
それはもちろん恋心のため・・・と思っていたのだけれど、実のところもう少し複雑な思いだったのかもしれませんね。
「あの人を・・・姫様を、助けてあげて」
正直なところ、神獣をガノンの呪いから解放したとき彼女がリンクの背中を押してくれたあの言葉は、肉体を失い自分の恋が叶えられなくなった諦めが混じっていたものだと思っていました。でも、今思うとあれはもっと素直な祝福だったのかもしれません。
彼女は私が思っていたよりもずっとお姉さんでした。
「目を丸くして見上げてくる彼の顔が、可愛かった」
わんぱく盛りのリンクを慈しみ、
「いい? お姉ちゃんの後ろで感覚をつかむの」
目の前の試練に怯えるシドの手を引き、
「神獣はガノンと戦う騎士を・・・リンクを助けるための存在だそうだから・・・」
成長したリンクの運命を支えたいと願い、
「お姉ちゃんにもしものことがあったら・・・この里はあなたが護らないといけないの」
幼いシドが背負わねばならない義務をまっすぐに諭す。
彼女はただの恋する乙女ではありませんでした。
儚くも死に至った運命を嘆くばかりの少女ではありませんでした。
彼女はいつだって大切な人の護りになりたいと願う、お姉さんでした。
もちろん恋はしていました。
「山腹まで登ったとき、不意を突いて現れたライネルに背後から襲いかかられてしまった。・・・ライネルを圧倒するリンクの剣技は、速く、力強く、そして流麗だった」
砂漠でゼルダ姫も体験していたベッタベタのシチュエーション。そりゃあもう、少女であるからには道理も論理も引っ込めて恋に落ちずにはいられませんとも。少女漫画のお約束として!
リンクがゼルダ姫御付の騎士に任命されてショックを受けつつも、それで恋を諦めた様子は読み取れません。
彼女はガノンの奇策によって命を落とすそのときまで、確かにリンクを恋していました。
けれどその割に、本来恋敵であるべきゼルダ姫に対してライバル心みたいなものを抱いているようにも見えないんですよね。
「・・・そしていつか姫様に『貴女ともっと色んな話をしたかった』って」
他の英傑たち同様、彼女もまたゼルダ姫のリンクへの当たりの変化には気づいていたでしょうに。それにもかかわらず、彼女からはむしろゼルダ姫への親しみの情を感じます。
彼女はきっと・・・ゼルダ姫に対しても“お姉さん”だったんでしょうね。
「シド! 早く昇っておいで!」
英傑が選出されたばかりの頃のある日。
目の前の試練に怯える幼いシドと、彼の様子に「まだ無理なのでは」と気弱を見せるゼルダ姫。
けれどミファーは毅然として言います。
「でも姫様。私は・・・ルッタに乗るのだから」
シドがまだ幼かろうと、ちょっとくらい無理があろうと、彼は成し遂げなければなりません。だって強くなることは同胞を護るべき王族の義務だから。まして今は、姉がいつまでも庇護してやれるとも限らないのだから。
強くならなければなりません。「まだ無理」だなんて甘えていられません。シドは。そして、ゼルダ姫は。
「いい? お姉ちゃんの後ろで感覚をつかむの」
「私、考えてみたの・・・。私が治癒の力を使うとき、何を思っているんだろうって・・・」
お姉さんはいつだって、大切な人たちを背中で導いてくれていました。
もしリンクと仲を深めることで、自分に自信を持てずにいるゼルダ姫の心に何か良い影響があるのなら・・・。
自分の恋愛と競合してしまうのはこの際それはそれとして、お姉さんとしてそれはとても喜ばしいことだったのかもしれませんね。
追伸:お父様へ。
親ってヤツは・・・。
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