なあ――、この世界、好きかい?
問いかけ、語りかけ、ともに望む物語。
(主観的)あらすじ
レックスがホムラの元にたどり着いたときにはすでに遅く、ホムラは物言わぬ抜け殻になっていました。メツが自身の力を取り戻すためにホムラのなかのありとあらゆる情報を奪いつくしたのです。
ですが、レックスはうつむきません。諦めません。彼はすでに決めたのです。ホムラとともに、ホムラのために楽園へ行くと。至らぬ力も、救うべき人の諦めも関係なく、前だけを見続けると決めたのです。
ついにレックスはホムラと思いをひとつとし、真の天の聖杯のドライバーとして第三の剣を顕現させます。
感想
「ふたりの気持ちなんてちっとも知らずに、歩いている道は全然違う道なのに一緒に歩いているつもりになって」
「天の聖杯っていう強い光がつくりだした影の道。そんな道をこれまでずっと、ホムラとヒカリは独りで歩いてきたんだ」
何の事情も聞かずにただ信じると口走る。それが優しさのつもりで、信頼のつもりで、ここまで来てしまいました。
少年は少しずつ成長して、やがて人並みには相手の思いに耳を傾けられるようにはなりました。けれど彼の目の前に現れた少女は人並み外れてメンドクサイ子で、その程度じゃ思いの全部は聞かせてくれませんでした。
ずっと、目の前にいながらひとりぼっちにさせてしまっていました。
結局のところホムラという無力感に凝り固まったクソメンドクサイヒロインの心に触れるには、向こうの話を聞くじゃ全然足りなくて、むしろこっちからぶつかっていかなきゃダメだったわけです。
「私たちの本当の望みは、楽園に行って父様に私たちの存在を消してもらうこと」
自分が嫌いな子の考える事なんてだいたいろくなもんじゃありません。案の定、ホムラが楽園を目指していた理由は、要するに自殺するためでした。そりゃあ聞いたって教えてくれるわけがありませんとも。そもそも仮に聞けたところでどうしようもない。
だからレックスがホムラのためにしてあげられる唯一のことは、ひたすら前を向きつづけることだけでした。それも、自分ひとりが前を向くのではなく、周りのみんなを引っぱってみんな一緒に前を向く。
「そんなの放っておけるわけないじゃないか。それじゃ意味がないんだ。オレは君と行きたいんだ。楽園に、君とふたりで」
うつむく少女と視線を並べるためには、まず少女に前を向かせることが何よりも必要だったのでした。
「なあ――、この世界、好きかい?」
「ええ。ニアもトラ君もセイリュウさんも、みんながいるこの世界が大好き」
「なら行こう」
自殺するための旅なんて冗談じゃない。あなたの望みが本当にあなたの希望とは限らない。
だからレックスは自分の方からホムラに働きかけて、ひたすら前だけを見据えて、ホムラが楽園に行く目的を再定義しました。
「オレは君のために楽園に行く。君ひとりだけのために楽園に行ってみせる。そして確かめよう。君が何のために生まれてきたのかを。オレ達と君の未来がどこに向かおうとしているのかを」
未来を閉ざすのではなく、未来を照らすように。
・・・っていうか第三の剣、モナド3じゃん。
そりゃあ全情報が失われたはずのホムラとも会話できるわけです。スーパーイドとかアカシックレコードとかに直接アクセスするようなものですもんね。
「天の聖杯のコアにはすべての生命の情報が記録されている」
「コアはな、常に外的情報を蓄積しているんだ」
そもそもドライバーが死んだらブレイドの想い出も消えてしまうなんて嘘っぱち。エゴだけ見るならそうかもしれませんが、イドやスーパーイドの領域では永久不滅だと。確かに、そうじゃなきゃ活動期間も活動座標も違うホムラの記憶でメツのコアクリスタルの情報欠損を補完できるわけがないですしね。
そしてホムラがレックスの命をつないだのも生命の共有というオカルトじゃなくて、実際は生命情報の補完というSFだというならば、「すべての生命の情報が記録されている」というのは天の聖杯だけの特性じゃないわけです。だって外科的にとはいえジークとサイカが同じことをしているわけですもん。それはつまり、そこらのブレイドですら各個人ひとりひとりに適用できる生命情報を持っている(あるいはアクセスできる)ということになるわけで。
そもそもアルスもブレイドも死んだら共通のコアクリスタルに戻るというところに疑問を抱くべきでした。
ああ、確かにブレイドは世界そのものですね。
なんとなくこの世界の構造が見えてきた気がします。
いつものごとく盛大に読み違えている可能性の方が高いけれど。
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