
日常で見つけた些細なことを話してくれる人がいました。
きっとそんな人はどこにでもいます。
きっとそんな出来事はどこにでも転がっています。
だけど、そんなどこにでもいそうな人と、どこにでもありそうな出来事が、そこにいてくれました。
そこには彼女を支えてくれる人たちがいました。
そこには彼女と同じことをしようとしている人たちがいました。
そこには彼女の声を広く届けるシステムがありました。
きっと誰かを支えてあげたい人なんていくらでもいます。
きっと何かをしたがっている人なんていくらでもいます。
きっとその気になれば、誰もが同じシステムを使って同じことをできます。
だけど、それをやったのは、たまたまそこに集まることができた彼女と、彼女たちと、システムでした。
いくつかのありふれた奇跡が重なった結果、日常で見つけた些細なことの話は、私のところにも届くようになりました。
そういえば、私は最初から彼女に興味を持っていたわけではありませんでした。
最初は・・・、ヒーローやアイドルといった人たちが無闇に私生活を暴かれ理不尽に失望されなくて済む可能性を模索していたように思います。噂に聞くバーチャルYouTuberという形式ならそれが成立しうるんじゃないかと。
私はまずバーチャルYouTuberというシステムに興味を持ってキズナアイに触れ、
期待していたようなシステムではなくて失望しつつも続けてミライアカリや電脳少女シロに触れ、
最初に見つけた彼女たちの動画をひととおり見終わったころには、私はまだもう少しバーチャルYouTuberに接していたいと思うようになっていました。
その当時すでにバーチャルYouTuber文化はずいぶんと多様なものになっていたので、私の好みに合う次のキャラクターはなかなか見つかりませんでした。
「次」を求めて情報収集していくなかで、たまたま神楽すずを紹介する記事に出会いました。アイドル部を知ったのはそれがきっかけ。
始めに神楽すずの配信アーカイブを漁り、それが面白かったから他のメンバーのアーカイブも見るようになりました。
次は牛巻りこ。その次にヤマトイオリ。花京院ちえり。もこ田めめめ。夜桜たま。
途中でヒメヒナや月ノ美兎、輝夜月なんかも見るようになりました。
その次くらいだったでしょうか。そうしてやっと、私は金剛いろはを知ることになります。
改めて振りかえってみてもずいぶん遠い道のりです。
このくらいたくさんのものを経由しなければ、きっと私の視野は彼女のところにまで届きませんでした。
ひとつひとつはありふれた出会いで、私にとっては必然の順路。
けれど振りかえってみれば意外と遠い道のりで、これもまたまるで奇跡のよう。
私が起こした奇跡の先に、彼女の起こした奇跡が待っていました。
「金剛いろはが日常で見つけた些細なことを聞かせてくれる」
たったそれだけのコンテンツが私のところに届くまで、奇跡としかいいようのないものが両側から積み重ねられていきました。
「一瞬でも興味を持って金剛いろはを見に来てくれたみんながいなきゃ本当に成り立たなかった」と彼女は言いました。
きっとそのとおりだと思います。
彼女はきっと私が思うよりもずっと平凡な人物で、彼女が語っていた面白い話もきっと平凡な日常そのものだったんだと思います。
彼女がありがたがってくれたファンのひとりである私も、本当は“金剛いろは”に興味を持って会いに行ったわけじゃなかったんですから。
ものづくりにはたくさんの人たちによる関わりが必要で、そしてせっかくつくっても誰かに観測されなければ価値が宿らないということを、しみじみ実感します。
私は金剛いろはを観測しました。
たいへん魅力的な人物として。非常に面白いコンテンツとして。
彼女が自分を平凡だというのなら、きっと誰かが輝かせてくれたんでしょう。
私と彼女との間には本当にたくさんの人たちが介在してくれているわけですから、そういうこともあるかもしれません。
そういう誰かが起こしたのかもしれない奇跡まで丸ごとひっくるめて、私は金剛いろはの魅力を確かに観測しました。
金剛いろは最後の配信が終わりました。
きらきら輝く金剛いろはの一部だった人が、今日からはどこにでもいる平凡な誰かに戻ります。
今後、万が一どこかですれ違うことなどあったとしても、きっと私は彼女に気付かないでしょう。
だけど、日常で見つけた些細なことを話してくれる人がいました。
私はどこにでもいる人と、どこにでもある出来事の価値をすでに観測しています。
あなたそのものを観測できなくとも、あなたを取りまくあらゆるものの価値を観測できています。
どうかお幸せに。
あの輝いていた金剛いろはが本当は平凡であったなら、自分を平凡だと思い込んでいる誰しもがきっと本当は輝いています。
みんなが金剛いろはを輝かせたのなら、きっとみんなが奇跡を起こす力を持っているはずです。
やかましいくらい賑やかだった声が途絶え、いつもの静けさに戻った部屋のなかで、そんな感じのことを信じたり祈ったりしています。
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