オッドタクシー 第9話感想 それは終わりではなく、始まってすらいなかった。

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えっと。僕はヒーローでも正義の味方でもありません。結果的にみなさんを騙してしまったことを謝罪いたします。

「ヒーローの憂鬱」

気になったポイント

田中

 事故により胸元に出血あり。
 ちなみに今話までで明確に描写された発砲回数は4発。小戸川宅に撃ちこまれたものを含めると5発。装弾数6発で、ドブの隠した箱には予備の弾丸が入っていなかった。もう後がない。

ドブへの発砲

 肌の色と射撃体勢からして大門兄か。
 ただ、日本の警察に支給されている銃ではない。どこかから自前で調達してきたものと思われる。田中の拳銃と同型のようなので、ボス黒田あたりから受け取った?

樺沢のマンションと車

 これで銀行強盗のときドブは小戸川に頼る必要がなくなった。あとは田中の件が解決すれば協力関係消滅。
 ・・・ところで樺沢さん。高層マンションでファンの子を抱いた夜にその小学生の部屋着みたいな私服着て出てきたの?

柿花

 借金焦げ付かせているのはヤノ陣営じゃなかったはずだけど、そっちからの追っ手は大丈夫?

小戸川の借家

 あれ? 玄関は共有スペース? 小戸川さんカギかけて出歩いていたけれども。というか、玄関を共有しているならいかにも後から増設された感ある外階段は何なのか。(※ たぶん劇中で触れられない話)

小戸川の両親

 本人曰わく「両親がいなくなった」(第2話)、柿花と剛力曰わく「両親に捨てられた」(第1話、第8話)。今回剛力は大家さんの手前マイルドな言葉選びをしているが、実際は日頃そういう表現で聞かされているのだろう。
 ちなみに私は幼い時分に両親に先立たれて「捨てられた」と思うことに違和感を感じないのだけれど、これを読んでいるあなたはどうです?

ナントカ財団法人

 まさかバイオテクノロジー説が大正解だったりする?

練馬の女子高生

 YouTubeチャンネルで公開されているラジオドラマ9.9話にて、ヤノが練馬の女子高生の消息を掴んでいないことが発覚。
 じゃあドライブレコーダーのデータ10億円に一定の説得力が付いているのは何なのか。ヤノ視点では別件、つまり東京湾の水死体のほうにつながる証拠だと認識しているということか。とはいえ三矢が何者かと入れ替わっているという考察が間違っているとも思えない。山本マネージャーが女子高生の素性だけヤノに隠している?
 たとえば、ミステリーキッス全員を心から大切に思っている山本マネージャーが、ヤノを怒らせてしまった三矢の影武者として練馬の女子高生を差し出した、というシナリオだったらなかなかに悪趣味でドラマチック。ヤノが知らず知らず自らの手で練馬の女子高生を殺めてしまったということに。
 もっとも、覆面での芸能活動を強いられている(=ヤノ以外に対しても素顔を晒せない)時点で、やはり今生きている三矢こそが練馬の女子高生である可能性のほうが高いけれども。メジャーデビュー目前にして本来の三矢が殺されてしまい、ちょうど山本のところに身を寄せていた練馬の女子高生がその代役に収まった、とかそういうところか。

NOT END / NOT RESTART

 「高校のときに校外学習みたいなやつでさ、箱根行ったじゃん。そのとき柿花、おみやげに寄せ木細工買っただろ。36回仕掛けのやつ。それをしばらくカバンに入れっぱなしにしてさ、得意げに36回動かして開けてたじゃん。結局あれどうなったか覚えてる?」

 「中に印鑑入れて玄関の靴箱の上に置いたんだよ。それで宅配便来たときにお母さんが開けようと試行錯誤して、配達員もそれをずっと見てて、で、最終的に叩きつけて印鑑取り出して。ラッコみたいに。あとでめちゃくちゃ怒られて」

 嘘っぱちのプロフィールで婚活サイトに登録して。
 若い女の子にチヤホヤされて舞いあがって。
 分不相応な夢に釘刺してくれた友人にダサい啖呵切って。
 女の子にちょっといい顔したかったばかりに多重債務。
 あげく美人局。
 殴られて、縛られて、小便する自由すら奪われて。
 あとはろくでもない犯罪の捨て駒に使われて死ぬのを待つばかり。

 カッコわる。

 「俺さあ、高校のときはそこそこモテたじゃん。でも社会に出ると、見た目とかさ、仕事ができるとかできないとか厳しいじゃん。やっぱ歳とともにそういうの諦めつつあったんだけど――」(第3話)

 取り戻したいと思っていました。
 かつての栄光。かつてのモテ期。かつての輝いていた自分。

 現実を突きつけられました。
 たかが掃除夫。婚活需要最底辺。世間に必要とされていない人間。

 自分なりに足掻いてみたつもりでした。
 勝ち組になろうとがんばっていたつもりでした。
 実際にはただ甘ったれていただけで、誰からどう見てもダメなやつでしたが。

 「お金だってその人の能力のたまものなんだから。そりゃ大事よ」(第1話)

 今の自分がいかにどうしようもない存在か骨身に染みました。
 人並みの人生を送ってこなかったんだから、今さら人並みの幸せなんて望むべくもありませんでした。

 もう、取り戻せない。

 「あったよ。だからなんだよ。何が言いたいんだ」
 「――あのときから情けなかったよ」

 そうじゃない、とぶっきらぼうな友人は言いたいようです。
 お前最初からそんな上等な人間じゃなかったんだから、今さら取り戻すも取り戻せないも無いだろ、と。
 つまるところ。

 失敗しました。大失敗しました。この世の最底辺で、誰よりもカッコ悪い恥さらしをしてしまいました。
 だけどこれは終わりじゃない。
 だって、始まってすらいなかったんですから。

 今となっては無用のエンゲージリング。ケジメとして投げ捨ててしまえば、テレビドラマのワンシーンみたいで少しはカッコつくのかもしれないけれど。
 柿花はそんなカッコいい男じゃありません。たとえ使う予定がなかろうと、捨てるのはさすがにもったいないと思ってしまいます。

 終わりじゃない。始まってすらいない。
 だからいつか、今度こそ人生始まったときはと。女々しくも。

 おいおい。柿花よ、今さらこんなもの拾ってどうする。この期に及んでまだしほちゃんがなびいてくれる可能性が1ミリでも残っているとでも? それともまた別のステキな女の子が見つかって人生大逆転ってか?
 ・・・だよな! 万一そういうことになったら、お金がなくてエンゲージリング買えませんでしたとか困るもんな! 柿花くらいになるとエンゲージリング使い回しでもしゃーないよな! きっと未来のお嫁さんも呆れながら許してくれるって! 柿花がそういうやつだってことわかったうえでホレてくれて、愛はお金を乗り越えるんだ! 絶対喜んでくれるって!!

 夢は、改めて未来に託されました。
 叶うかどうかはわかりませんし、たぶん、自分のスペックじゃ叶わない可能性のほうがはるかに高いだろうけれど。
 それでも、まだ始まってすらいなかったんだから。

NOT END / NOT RESTART 2

 「よーし。じゃあ話聞いてやるよ。それとも対決するか?」
 「降参です。・・・ご覧のとおり、ケンカでは勝てないので」
 「お前の正義感はその程度なのか? その程度の覚悟で俺を捕まえると息巻いてたのか? 正義感も覚悟もハナから無いよな。お前の行動原理についてちゃんと内省してみろ」

 ボロクソ。

 そもそも自分自身、全然そんなつもりじゃありませんでした。
 周りのみんながバズっているのがうらやましくて、どうしても自分もバズりたくて。
 たまたまtwitterに上げた自撮り写真の端っこにドブが写ってプチバズしたから、便乗して調子こいてみました。

 「お前に俺の何がわかる!? これだけ世間騒がせてさ! 勝手に神格化されて! この重圧がどれほどのもんかお前にはわかんねーんだよ! どうしようもなく怖ええんだよ! 神なんてこんなもんだよ。ヒーローなんてこんなもんだよ。帰れ、クソ女!!」

 どうしてこんなに成功したのか樺沢自身にもよくわかりません。
 きっと、成功した理由は自分のなかに無いのでしょう。
 たまたま世間にそういう需要があって。たまたま世間にそういう満たされない鬱憤が溜まっていて。
 自分はただ、たまたまそんな有象無象のはけ口としていいように利用されていただけなのでしょう。
 神だなんだとチヤホヤされて、いい感じにお金も稼げて、現実を見ないふりしていたけれど。
 哀れなピエロとはいいません。自業自得。愚かなピエロでした。

 「・・・注目されたかった」
 「そうだよな。じゃ、そのもっと奥まで掘り下げてみろ。なんで注目されたいんだ?」
 「わからないです」
 「他人から認められたいからだろ。なぜ他人から認められたいかというと、自己肯定感が低いからだ。自信が無いから自分で自分を認めることができない。そのくせ自己愛だけは人一倍強い」
 「違う! 自己愛なんか強くない! 注目される前の自分が大嫌いで、かといって注目されたところで自分のことなんて好きになれないし。でも気持ちよくて、どんどんエスカレートして。今も怖くてしかたないし。後悔して。ずっと自己嫌悪で。俺はこんな自分が大嫌いで、消えてしまいたい、死んでしまいたいって、ずっと――」

 突如として意外なところから現れたメンターが、樺沢の内省に付きあってくれました。
 樺沢に自分が成功できた理由はわかりません。
 その理由が自分の外側にあることだけはっきりしていました。
 だからいつまでたっても自分自身が充足した気にはなれなかったし、事実、こうしてダサすぎる敗北宣言をするしかない実力しか持ちあわせていませんでした。
 神だと言われました。ヒーローになれとも言われました。
 だけど、神もヒーローも虚像でした。あいつらは手前勝手な神だのヒーローだののイメージを樺沢に投影しようとしていただけで、樺沢自身を見ようとしていませんでした。だから樺沢がそのイメージに沿う理想像を演じきれなくなると、これまた身勝手にもアンチ化しやがりました。

 結局、樺沢太一という人物はどこにもいませんでした。

 「自分に対する極端な否定と嫌悪。そういうところが自己愛強いって言ってるんだ。普通のやつはそこまで自分に興味ない。不特定多数ではなく、自分が信じられる、尊敬できるメンターを探せ。評価の軸があればブレない。それが難しければ自己承認――、とにかく自分で自分を認めてやることだ」

 尊敬に値するメンターがアドバイスしてくれます。
 お前はおかしいんだと。みんなお前と同じなんだと。
 他人を無闇にうらやむ必要なんてない。多少バズっていようと、それで人間としての格が定まるわけじゃないんだから。

 「バズりたい? なんで? ホントにしょうもないことに時間かけてんだな」(第1話)

 いつぞやの中年タクシードライバー並みにSNS世代の常識を知らない中年ヤンキーが、結局のところいつぞやのタクシードライバーと同じことを言っています。
 今なら、この人の言葉なら、やっと納得できる気がしました。

 樺沢は世間一般の評価として大きな成功を収めたはずでした。
 なのに満たされない。むしろ恐怖を覚えてしまう。そんな自分が嫌いでした。
 もう何をどう足掻いても幸せになれないであろう閉塞感――。

 違いました。
 樺沢は成功なんかしていませんでした。
 樺沢が満たされていないと感じるなら、それは樺沢にとって全然成功なんかじゃありませんでした。
 だったらここからがリスタート。

 夢は、改めて未来に託されました。
 今さら復学しても就活戦線に間に合うかどうかはわかりませんし、イキりにイキった経歴は傷だらけ。いい感じの幸福なんて望み薄かもしれないけれど。
 それでも、まだ始まってすらいなかったんだから。

NOT END / NOT RESTART another

 「自業自得ではない。あんた医者だろ。ストックホルム症候群って知ってるか?」
 「誘拐や監禁された被害者が、加害者に好意的な感情を抱くってやつだろ」
 「ドブに従ってしまったのは彼女のギリギリの生存戦略だ。そこまで追い詰められたんだ。暴力や脅迫で支配されたんだ。理不尽すぎるだろ」
 「だからといって、小戸川が危ない橋を渡るのは違うだろ。そんなに白川さんが好きか?」

 違う。
 小戸川の行動原理が白川にあるのなら、柿花なんて助けはしない。

 白川は柿花の現状を知りませんし、柿花という人物に特別な感情を持ちあわせてもいませんし、別にああいう場面で自ら危険に身を投じる無鉄砲さを好む性格でもありません。
 そもそも小戸川が白川に惚れたのは家族に対する思いによるもの。途切れてしまった関係性を惜しむセンチメンタルな感情に共感したからこそです。ヤクザ組織を潰そうとするほどの正義心なんてカケラも接点がありません。
 ストックホルム症候群だのと手垢の付いた半可知識で言い訳すんな。

 柿花は失われたかつての輝きを取り戻そうとして、美人局に引っかかりました。
 樺沢は他人にあって自分に無い充実感を得ようとして、インターネット正義マンの旗印になり果てました。
 前提からまず間違っていたとはいえ、どちらも自分に満たされないものを感じたがゆえの行動でした。

 じゃあ、小戸川は?

 小戸川は何のために行動している?
 誰のために行動している?
 白川のため? 恋仲になるつもりもないくせに?
 そもそも本当は白川のためですらないくせに。

 「理不尽すぎるだろ」

 それが本音なら、私はあなたを応援しません。

 それはヒーローの行動原理です。
 不幸に苦しむ誰かのため、世のなかの歪みを正すため、自分に何の得もなくとも命を賭して戦えてしまう。
 そんな生きかたは人間のものではありません。
 アニメの主人公がやることです。アニメの主人公にしか許されないことです。
 なんなら今日びプリキュアですらそんなバカげたことはしません。
 自己犠牲なんざクソ食らえ。

 「おい、どこかで止めろ! 拳銃奪い返す!」
 「嫌だよ! あいつが狙ってるの俺だろ!」
 「死んでも構わないんじゃなかったのかよ!」
 「嫌だ! 嫌だ! 痛いの嫌だ! おっかねえ。なんだよあいつ。本当に日本か、ここ」

 自分だって割を食うのは嫌なくせに。
 それなのに、どうして危険に首を突っ込むのをやめられないのか。

 「死ぬのが怖くないのか? 死んでもいいやつが妙な正義感出すんじゃねえよ」
 「怖いよ。どうしようもなく怖い。でも、面倒くさいことに巻き込まれるくらいなら死んだほうがマシさ」
(第3話)

 「でもさ。マジメな話、小戸川の両親が帰ってきたときに嫁でもいりゃさぞかし喜ぶだろ。孫の顔も見せてやりたいだろ」
 「それより、両親がいなくなった俺に生活費を送ってくれた人に幸せな姿を見せたいなとは思う」
(第2話)

 柿花と樺沢は自分のなかの満たされないものを満たすために行動しました。
 小戸川にも満たされない思いがあるところまでは同じです。妙に自己評価が低いところまで柿花や樺沢と同じ。
 なのに、小戸川は自分のためではなく他の誰かのために行動しています。それも、彼にとって身内ですらない、ヘタしたら特定の誰かのためですらない、ふわふわしていて自分自身言語化できていない何らかの概念のために、ヤクザ組織を潰すだのいう大それたことを成し遂げようとしています。
 その生き様をヒーローといわずして何と呼ぶのか。

 「なあ、小戸川。いったい今何をやっているんだ。ドブと一緒に柿花助けに行ったんだろ?」

 「ただのタクシードライバーが何でそんなことをする必要がある。危ないことはやめろ」

 「だからといって、小戸川が危ない橋を渡るのは違うだろ。そんなに白川さんが好きか?」

 けれど、人間はヒーローじゃない。
 人間がヒーローになってはいけない。

 「でね、『迷惑かかるから引っ越す』って小戸川くんが言うのよ」
 「それの何が困るんですか?」
 「困るわよ。私、小戸川くんの後見人だし、小戸川くんが一生住める家賃をもう貰ってるんだから」

 誰のためでもない自己犠牲なんて、誰も幸せにすることなんてできず、むしろ誰かに迷惑をかけてしまうばかりなんですから。

 小戸川。「白川さんのため」などとうそぶくなら、彼女のことを手の込んだ自殺の言い訳に利用するつもりなら、せめて彼女を幸せにしてみせろ。
 彼女の今一番の心配事は、小戸川の無事なわけだけれども。

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