ポプテピピック 第9話感想 そのダンスはタンゴだろうか。

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お前か! 俺のチェリーパイを食べたのは?

―― サーターアンダギーってチェリーパイのことだったのか。

 最近すっかりポプテピピックが生活に馴染んできました。ポプテピピックの録画を流しながらご飯を食べたり、洗濯物を干したり、ネットサーフィンを楽しんだり、ピクロスしたり、トイレに行ったり、ちょっとコンビニに出かけたり、日常のあらゆるシーンとポプテピピックとが違和感なく共存するようになってきました。三ツ星カラーズやカードキャプターさくらだとこうはいきません。見ちゃう。

 『奇跡とダンスを』主人公のジョセフ(ハガー)少年、あれは良かったですね。あれこそ私が理想とするポプテピピック視聴スタイルの体現者です。
 彼はポプ子たちを友人だといいますが、実際には視線すら交わしていません。「見ず知らずの人が身を挺して助けてくれた」だの「当時の私は極度の引っ込み思案だったにもかかわらず、なぜか彼女たちとは打ち解けることができた」だの「当時私が抱えていた悩みも親身に聞いてくれて嬉しかった」だのイイ話っぽく語っていますが、映像を見るかぎりどう考えてもジョセフ少年が勝手にストーキングしていただけです。まるで字幕と音声だけ別の映画から拝借してきたかのごとく、私が見ている映像とハガー少年の目に見えている世界には明らかな齟齬があります。

 当然のごとくマグロ解体ショーの輪からあぶれつつ、やがて少年は悟ります。
 「結局そのときの私は自ら行動することにおびえていただけなのだ。うまくいかないことを他人のせいにして、ただ現実から逃げていただけなのだ」
 へー。そうなんだー。
 ポプ子たちのどんな言動からそんな結論を導き出したのか見当も付きませんが、しかしジョセフ少年にとってポプ子たちとの冒険はそういう物語だったわけです。

 これこそが主体的な在り方というものです。
 客観的事実なんて関係ない。ポプ子たちが実際どう思っているかすら関係ない。どうせ私にはそんなものを観測することなどできないのだから。
 そんなものよりももっと正確で切実で重要なものがあります。主観です。結局私たちにとっての世界とは、自分の目に見えているものだけで全部なんです。
 私が見ている世界とあなたが見ている世界はそれぞれ違います。まず眼球が違うし、物事を解釈するための知識や人生経験なんかも全然違います。身長、体重、年齢、職歴、既往歴、犯罪歴、彼女いない歴、羞恥フェチの有無、TSフェチの有無、高身長貧乳属性サイコーだよね感、きっと全部違います。
 たとえば私はあなたが書いたポプテピピック感想文を読むことができます。けれど、それは私のポプテピピック視聴体験とは全然違うはずです。私とあなたの見ている世界はそれぞれ違うのですから当然のことです。
 結局のところ、私にとってのポプテピピックは私自身が視聴するしかないんです。
 ならばこそ、いかにして主体的に取り組むか。

 ジョセフ少年は鮮やかにその命題を乗り越えます。
 「色々考えたけどさ、ボクやっぱり家に戻ることにしたよ。ボクにはまだ何もない。君たちのような自由な生き方をする覚悟がまだできていないって、気づいたんだ」
 ポプテピピックは明らかにそういう高尚めいたテーマみたいなものを念頭に置いて描かれている物語ではありませんが、それはポプ子や大川ぶくぶや青木 / 梅木両ディレクターあたりの都合です。ジョセフ少年には関係ありません。
 ジョセフ少年は自分の主観で捉えた事実に準じて、ポプテピピックに“自由には覚悟がともなう”という教訓を見出しました。それはジョセフ少年が自分で発見した、ジョセフ少年だけのポプテピピックです。
 自分の目で見たものを自分の言葉で表現する。それは大げさにいうならいっそ物語を書くことにも似ているように思います。どちらも自分の世界観を切り取った、自分にしか書けない文章だからです。
 ジョセフ少年が捉えたポプテピピックの物語は明らかに私の知るものとは別物ですが、しかしこれもまたひとつのポプテピピック観としてなかなか面白いと私は思います。

 ポプテピピックに主体的に取り組んだ人の数だけ新しいポプテピピックが生まれていく。1000人がポプテピピックを観れば1000通りの新たな物語が描かれる。きっとそれは素晴らしいことです。たった3ヶ月のアニメが無限にふくらんでいって、もしもお互いに見せあったなら永遠に楽しむことだってできます。コスパいいなオイ。アニメーターさん商売あがったりだ。

 かつて少年だったジョセフ中年が私たちに向かって自分だけの物語を語ってくれます。
 「ああ、愛しい私の友人たちよ。きっと今もこの街のどこかで自由に生きているんだろう」
 ・・・あ、これノラネコとよく遊んでいる人が言うセリフだ。

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