トロピカル~ジュ!プリキュア 第34話感想 明日の夢が、今日のやる気。

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そう! いつだって今が大事だよ! だから、私は大人になったら――。

「夢は無限大! 大人になったら何になる?」

活躍したひと

まなつ

 今が一番大事なトロピカ娘。あすかたちとは異なり、過去にトラウマなどを負わない精神的健康優良児でもある。だからこそ自分が取れる選択肢の幅をあえて狭めようという発想が出てこず、やりたいことがいっぱいありすぎて夢を絞りきれずにいた。

エルダ

 遊ぶの大好きちびっ子メイド。自分が子どもであることを最大限利用して甘え放題に暮らしていたが、今回バトラーにワガママを聞いてもらえずプチ家出した。まなつとの最大の違いは“大人になりたくない”という後ろ向きな動機で今に目を向けていることだろう。だから今を大切にはしていないし、努力もしない。

トロピカってたもの

大人になったらの夢

 大人がやたらと子どもに聞きたがるもの。それなりに壮大で、ギリギリ地に足ついているくらいの塩梅が喜ばれる。ついでにいうと別に夢を決めたからって必ずしも叶うわけではない。夢を語ったからってみんながみんな大人として支援してくれるわけでもない。それでも夢は大切なんだと大人は言う。

うまくいかなかったこと

 まなつが大人になったらの夢を決めきれずにいた

やりきれたワケ

 お父さんお母さんの話を聞いてみると案外荒唐無稽だったりコロコロ夢を変えていたりしていて、そこまで難しく考えることじゃないと気付いた。

 小さなころはケーキ屋さんになりたいと言っていたように記憶しています。食べられる粘土遊びみたいで面白そうだったからです。あとゲーム屋さん。いろんなゲームで遊びたかったからです。
 小学校に上がったころは学者になりたいと言っていました。なんのことはない、単にテストの点が良かったからってだけです。別に勉強が好きなわけではありませんでした。
 もう少し大きくなって、声優になる方法を調べていた時期もありました。アニメが好きだからっていうのもありましたが、一番の理由は体を使った演技が絶望的にヘッタクソだったので、そういうのをやらずに芝居の世界に入りたかったという打算的な考えからでした。

 今はまあ、別に好きでもない仕事に就いています。
 それなりに今の自分のことは好きです。別に仕事にしなくたって、趣味で色々やれているので。ケーキもつくるし、ゲームも遊ぶし、こうやって面倒くさいノリの長文ブログを書いたり、たまにボイスドラマをつくったりもするし。

 大して面白みのない夢しか思いつかない凡庸な子どもでしたが、こうして改めて考えてみると、あんな夢でも今の自分らしさに繋がっているものですね。

自由と窮屈

 「大人になるなんてバカげてるからに決まってるじゃん。ずっと子どものままが楽しいに決まってる。大人になったらもう遊べないし、お菓子だって食べられなくなるんだよ」

 エルダはそう言いますが、たぶん本当は大人のほうがずっと自由です。
 一日20時間くらいゲームしても誰にも叱られませんし、三食お菓子三昧でも自己責任の範疇です。働きたくなきゃ働かなくたっていい。憲法には勤労の義務が明記されていますが、実際のところ別にニートやってたところで逮捕されるわけじゃなし。
 まあ、「実際のところ」というのならほとんどの大人は毎日働いてますし、20時間もゲームする時間をつくるのは困難で、三食お菓子三昧なんて食生活をしていたらすぐさま体を壊します。とても現実的ではありません。
 だけど、やろうと思えばやれちゃうわけです。ほとんどの大人はあえてやろうとしないだけで。

 その点、子どものほうがよっぽど不自由。
 時間の使いかたは親に監視され、食事の献立も家族の都合次第。働かなくてもいい一方で、お金が欲しくなったときも自由に働かせてもらえない。
 “親ガチャ”なんて言葉があるのもそういうことでしょう? 両親の思想や経済事情なんかによって、同じ子どもであってもできることできないことが大幅に左右されてしまう。いくら努力したって望んだとおりの進路を目指せないことすらある。
 子どもは親の庇護下にあるからです。親には子どもを守る責任があるからです。

 自由とは責任で、責任とは自由です。
 大人は自分に関わることのほとんどに責任を持つことができるから、何でもできるんです。そして、実際のところ何でもはやらないんです。あとで困るのは自分だから。
 子どもの責任は親が預かっています。だからたくさん制限してきます。できることできないことを子ども自身の裁量では決めさせてもらえない。だって、子どもにワガママ放題されて困るのは親だから。

 「家出はどうだった?」
 「・・・もう飽きた」
 「だったら素直に帰ってくれば?」
 「やる気パワー持って帰れなかったから、バトラーに叱られちゃう」

 自分の家に帰ることすら自分の意志だけで実行できないその窮屈な立場に身を置いていながら、どうして大人になることをそんなにも嫌がるのでしょうか。

 ま、そのあたりの話題はもう少し対象年齢層が高くなるので、『サニーボーイ』あたりを見ながら考えたほうがいいでしょうけれども。

両手にいっぱい全部なりたい!

 「でもさー。やっぱ大人になったときのことなんてわかんないよねー」
 「まなつは大人になりたくないの?」
 「そういうわけじゃないけど」

 今回、まなつが盛大に勘違いしていたポイントはここになります。
 この一点を除けばまなつは今回押さえておくべき論点の全てを最初からクリアできていました。きっとお父さんの薫陶のたまものでしょうね。

 「でも、なんかまなつの気持ちわかる気がする」
 「さんごはコスメのお店やるのが夢なんだよな?」
 「うん。家がコスメショップだから、大人になったら私もきっとお店のお手伝いするんだろうなって思ってたけど」
 「違うの?」
 「そうじゃないけど。面白そうな仕事が色々あるんだなあって思って」

 まなつに足りていなかったところはさんごが押さえていました。入学直後にさんざっぱら部活選びで悩んでいたまなつを近くで見ていただけあります。
 そう。そこなんですよね。まなつが夢を語れないのは、たくさんあるやりたいことのなかからひとつを選ぶということを、これまで彼女がしてこなかったからです。そして今、まなつは大人になった時点で何かひとつのやりたいことを決めなきゃいけないと思い込んでいる。

 今話はそういう物語です。大人というものが案外自由であることを知る物語。夢見ることがどれほど自由なことかを理解する物語。

 「大人になったらお母さんのコスメショップを一緒にやる」

 これがまなつではなくさんごなら話は簡単でした。さんごは自分にとって一番大事なものが“かわいい”だってわかっているから。昔、“かわいい”で疎外感を感じてしまったこと、そんな自分がイヤだったことを踏まえて、彼女は自分を内省する機会を得ました。

 「あすか先輩は大人になったらテニス選手になるの?」

 「私は本に関わる仕事がしたい。図書館の司書や本屋さんとか」

 あすかやみのりも同様。失望して、絶望して、それでも諦めきれなかった何かがあるのなら、それはきっとその人にとってとても大切なものなのでしょう。
 ハナっから名誉欲一本でドデカい夢を担いで誰にツッコまれようとも揺らぐ気のないローラみたいなのはともかく、普通の子が夢をひとつに絞りきるのはそれなりに大きなきっかけが必要なことのはずです。

 「なんでもできる、なんでもなれる! 輝く未来を抱きしめて!」(『HUGっと!プリキュア』)

 だって、大抵の子どもというものは赤ちゃんのころからずっと、未来の可能性は無限大なんだって繰り返し教わって育つものなんですから。
 「大人になったらの夢は?」とか、急に手のひらを返されても困る。看護師さんにもパイロットにもケーキ屋さんにも冒険家にもバスガイドさんにもなってみたいのに、ひとつだけしか選べないなんて夢がないじゃんか!

 「子どもでもなれるよ! トロピカル~ジュ!プリキュア!!」

 そもそもの話、だったらどうしてプリキュアシリーズみたいなヒーローアニメを見せるのかって話にもなってきますよ。
 こんなの見たら子どもは憧れるに決まってるじゃないですか。自分もなりたいって思うに決まってるじゃないですか。現実にはヒーローになんかなれるわけないのに。
 叶わぬ夢を見せて、無駄な努力をさせて、もしかしたら人生を棒に振らせてしまうかもしれないのに、悪趣味にもほどがある。

 だから。
 “大人になってからの夢”って、そもそもそういうものじゃないんですよ。
 子どものうちから夢をひとつに絞らせたいとか、そういう意図で聞いているわけじゃないんですよ。大人は。
 赤ちゃんのころから繰り返し言い聞かせているように、やっぱり子どもにはいっぱい夢を見ていてほしいんですよ。こんなイジワルな質問をしながらも。

 まなつはそこのところを勘違いしていました。

 夢は、なにもひとつだけに絞る必要なんてなかったんです。

“私”を育むもの

 「なるほど。『大人になったら』か」
 「お父さんは子どものころからスクーバのインストラクターになりたかったの?」
 「いいや。小学校に入る前は消防車になりたかったな」

 ランドセル用人工皮革メーカー・(株)クラレの調査によると、2021年度新小学1年生男子が将来就きたい職業は1位から順に「警察官」「スポーツ選手」「消防・レスキュー隊」「運転士・運転手」、そして第5位に「TV・アニメキャラクター」と来ます。
 ちなみに女子だと第11位が「TV・アニメキャラクター」。
 どちらも例年このくらいの順位にランクインしています。さすがにこの年齢だと非生物になりたいって言う子は少数派ですね。もう少し下の年齢層だとランクインしていたはずなんですが、ちょっとデータを探せなかったです。

 まなつのお父さんが特別変だというわけではなく、こういう子って意外といるんですよね。

 ちなみに通信教育事業の(株)ベネッセコーポレーションの2020年調査によると、小学3~6年生男子がなりたい職業は上から「ゲームクリエイター・プログラマー」「ユーチューバー」「サッカー選手」。女子は「芸能人」「マンガ家・アニメーター・イラストレーター」「パティシエ」。

 同じく2020年の高校生調査になると、今度は上から順に「看護師」「地方公務員」「プログラマー」と、極端に地に足ついた結果が出てきます。

 「私が小学生のころはバレリーナになるのが夢だったわね。でも全然上達しなくて、それで『バレエは無理だ!』ってなったんだけどね。で、次になりたいと思ったのは獣医さん。そのころ猫を飼ってて、お世話になってた獣医のお姉さんがすごくカッコよかったの。それで憧れちゃったのよ。でも、中学生になったら次はネイリスト」

 まー、調査ごと、対象年齢層ごとにこうも変わるものかっていうデータですよね。いかに子どもの夢というのがコロコロ変わるものかって話でもあり。
 大人だって昔は自分が子どもだった時代を経験してるんですから、当然子どもの夢なんてものがこのくらい変わりやすいものだってことくらい承知しているはずなんですよ。
 わかったうえで、彼らは“大人になってからの夢”を聞いてくるわけです。夢いっぱいの子どもたちに。

 「看護師さん。パイロット。ケーキ屋さん。冒険家。バスガイドさん――。『やりたい!』って手を挙げたけど、今はまだ決められないし、やっぱ大事なのは今だよー!」

 それでいいんですよ。それで正解です。まなつ。
 本当はひとつだけに絞る必要なんてないんです。

 「私も“今!”水族館で働きたいって思ったの」
 「お母さんはたしか南乃島でお父さんと出会って結婚したんですよね?」
 「そうよ。結婚して、島で暮らすことにして。でも水族館で働くことが決まったから私が1人でこっちに来て」

 大人ですらも、夢は途中で変わるかもしれないんです。
 大人というものは案外それでも大丈夫なものなんです。だって、自由だから。自分の人生の責任を自分で背負い込めるんだから。
 大人になったからって、ひとつの職業に縛られることはありません。仕事なんてやりたくてやっているもの。もしくは、お金を稼ぐためにしかたなくやるものです。嫌になったらいつでも辞めてかまいません。誰にも強制されていません。私なんか転職3回しています。夢が潰えたり生活に行き詰まったりするリスクを許容できるなら、大人は本当に、どんな選択でも自由に選ぶことができるんです。

 「まなつと同じだ。だから夢はひとつでもいっぱいでもいい。大事なのは“今!”」

 「とにかく、今なりたいものがあってもなくても、未来には無限の可能性があるってことだ」

 大人ってそういうものです。
 だから、夢だってそういうものでいいんです。

 「あんただって言ってたじゃん! 『大人になったら何になるかなんてわからない』って。『今が一番大事』だって。エルダ、聞いてたんだから!」

 だから、そんなことを気にして夢を考えるのはそもそも大きな勘違い。
 赤ちゃんのころから子どもにいっぱい夢を見せたがる大人が、いったいどうしてこんな質問をしてくるのか、考えてみればわかることでした。

 「そう! いつだって今が大事だよ! だから、私は大人になったら――」
 「大人になったそのときの私が一番なりたいものになる!」

 結局のところ、大人は子どもに夢を見ていてほしい生き物なんです。
 どんな夢であれ、現実にはなれないとわかりきっているプリキュアのような夢ですら、きっとあなたをステキに育ててくれる糧となるから。

 私はケーキ屋さんになりませんでした。でも、趣味でいつでもケーキを焼けるようになりました。
 私はゲーム屋さんにはなりませんでした。でも、大人になった今でもゲームで遊ぶのは好きなままです。
 私は学者にはなりませんでした。でも、こうやって簡単な調べ物をしながら文章を書くことが大好きです。
 私は声優にはなりませんでした。でも、芝居を勉強した経験はきっと一生の宝物です。

 まなつのお父さんお母さんの話を聞いた帰り道、あすかは久しく離れていたテニスへの熱意を再び思い出すようになりました。
 さんごはますますショップのお手伝いに興味を持つようになりました。
 みのりはこれまでよりももっと小説への未練にまっすぐ向きあうようになりました。
 ローラは、なんかとことんまで自分の夢をゴージャスに彩りたい気持ちになりました。

 大人になったら何になりたい?

 つまり、この問いかけはそういう目的のものです。

 過去と現在と未来は繋がっています。
 過去の経験がその人の価値観を決定し、未来への夢がその人の活動意欲を設定してくれます。

 今、一番大事なことをやろう!
 何のために?
 やりたいことのために!
 たとえばどんな?
 僕には私にはこんな夢がある!
 うん。だったらがんばろう!

 夢は、今、一番大事なことをやるためにこそ、必要なものだからなんです。
 どんなものでもいい。ひとつだけでもいい。いっぱいあったっていい。
 いつだって夢を追いかけていてほしい。
 今日も明日も明後日も、いつか大人になってからも、ずっとずっと。

 「いつかきっと見つけるんだ! 一番なりたいものを!」

 きっとその夢を叶えるためのやる気が、あなたをまたひとつ大きくしてくれることでしょう。

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    コメント

    1. さや より:

      本日もブログ楽しませていただきました!

      「両手にいっぱい全部”なりたい”」歴代ネタをさらっと入れられているセンスが素敵です…!

      今週のトロプリを見て、私も進路について悩んでた時期を思い出しました。
      将来の職を決めなきゃいけないと思って、でも、何もわからず不安でいっぱいだったので、当時、「子供の時の将来の夢はなんでした?」って、大人の方に聞きまくっていたのを覚えています。
      返ってきた答えは、「漠然としていた」や、「今の仕事に就くなんて、思ってもみなかった」、「全然違うものだった」と、まるで、今週のトロプリのような回答をいただいたのを覚えています。人じゃなかった夢をお持ちだった方もいらっしゃいましたし。

      実際に働き始めて感じることは、全然違う職でも、意外なところで役に立つことがあるのだなということです。
      夢を追いかけるために行動したことは、どんな経験も大事にしたいなと思っています。

      今週のプリキュア、将来の夢を決められずに悩んでいた、あの時の自分に見せたかったです…!

      今、「将来の夢を決めないといけないんだ」って、悩んでる子たちが、今話のトロプリを見て、勇気をもらえたらいいなと思います…!

      • 疲ぃ より:

         このブログを始めたばかりのころは別作品からのネタ出しは元ネタがわからない人に配慮して極力使わない方針だったんですけどね。今じゃちょくちょくプリキュアシリーズ外からも持ってくる始末。色々含みを持たせやすいですし、何より書いてて楽しいですしね。

         私の父はコネ入社、母はたまたま取ってた資格が使えたから今の仕事に就いたと前々から聞かされていたので、夢の話なんて聞く気にもならんかったですね。
         まなつたちくらいの時期は漠然とした不安を感じていて、普通に進学校に進むよりは工業高校とかの手に職系に進学すべきじゃないか、なんてことも考えたものです。両親に止められましたが。今になって考えてみると、あれは単に自分で自分の人生のレールを敷いて面倒な悩みから解放されたかっただけだったんでしょう。その意味で、私はまなつの考えかたは立派だと思いますね。

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