ひそねとまそたん 第10話感想 ひそねと優しい人とのあいだにあるものは。

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――優しくて。

(主観的)あらすじ

 どうやら私は恋してしまったらしい。まそたんに乗れなくなったという事実を突きつけられて、ひそねはどうしたものかと戸惑います。まそたんに乗ってあげたい。そのためには小此木さんときちんと向き合わないと。けど、同じく恋愛中の星野の様子を見ていると、彼女がどうしてそんなに心乱されているのかピンとこないのです。つまりひそねは自分の恋というものがよくわかりません。
 やがて星野は一足先に恋を乗り越えました。こっぴどくフられて、男なんてもう要らない、ノーマとともに空を飛べさえすればそれでいいという境地に至りました。先輩Dパイの樋本もそれでいいと同意します。けれど、ひそねにはピンときません。
 小此木さんともう一度話してみました。彼はやっぱり優しくて、ひそねが誤解しても説明してくれるいい人で、まそたんのことも大切にしてくれて、やっぱりステキな人でした。だから、ひそねは納得します。自分が今抱いている気持ちが何なのか。今自分にできること、自分がしたいことは何なのか。ずっと考えていたことの答えがようやくわかりました。
 「私、Dパイを、自衛官を辞めます!」

 ちょっとびっくりしてます。まさか前回好き勝手書いたことがそのまま正解だったとは。このブログの感想文、基本的に製作スタッフの意図なんざ知ったこっちゃねえ、私は私の好きなように主観で語るんだ! ってスタンスで書いているので。御託はともかくとしてひゃっほい。
 というかひそねを侮っていました。もう何度目になるのかわかりませんが、また上を行かれました。ダメなときはとことんダメな子なのにね。いい主人公です。本当に。・・・友達にはなりたくないけど。・・・あー、でも、いてくれたらなんだかんだで楽しい気もするー。

わからない

 ひそねにはわかりません。
 「自分が情けない。どうしてこんな気持ち。掻きむしって取り出したい」
 星野がどうしてそこまで自分に腹を立てているのか。
 「他人事だね。君だって渦中の人なんだよ。わかってるの」
 そう言われても。

 ひそねにはわかりません。
 「何なの!? 小此木大輔はなんで拒否しないの! ここは神聖な職場だっていうのに!」
 星野がどうして“小此木に対して”怒っているのか。
 「・・・本当に他人事なんだね」
 そんなあきれられても。

 どうやら私は恋しているらしい。
 恋敵であるらしい棗が言うのだからきっと間違いありません。
 まそたんに吻合を起こさせてしまったのだからやはり間違いありません。
 けれど、ひそねには同じ恋愛中であるはずの星野の言っていることが、正直よくわかりません。

 ところで、名緒にもよくわかりません。
 「甘粕は怒んねーのか?」
 同じ恋愛中の星野とひそね、2人のリアクションにどうしてこんな温度差があるのか。

 名緒にはよくわかりません。
 「まそたーん! ――あ。・・・そっか。ごめんね」
 恋で自分も大変なときに、どうしてひそねは小此木ではなくまそたんのことばかり気にするんだろう。
 「吻合ってよ、言っちまえばOTFのヤキモチみたいなもんだろ。パイロットが自分以外のヤツに気を取られるのが許せないって・・・」
 話を聞くかぎり、こんなのまそたんの方に非があると思うのに。
 「私も、よくわからない。小此木さんに恋してるとか、恋したらまそたんに乗れないとか、わからなすぎて何をどこからどう考えたらいいのか・・・すまぬー! まそたーん! 私のせいで、ホントすまぬー!」
 どうして目の前にいるDパイは、こんなにもOTF第一にものを考えられるのか。
 恋で悩んでいるんじゃなかったのか。さっきからずっと、まるでまそたんに乗ってあげられないことだけを気に病んでいるみたいだ。
 名緒には、ひそねがよくわかりません。

 ――そうか。私はこの子みたいになりたいと思えないんだ。
 「ウチはママがOTF乗りだったんです。それに影響されたっつーか、洗脳されたっつーか。でも、なんか、Dパイになりたいって気持ちはなんか・・・なんか、違うような気がしてきたんですよね」
 ママのことはマジでリスペクトしていました。ママに憧れてDパイになりたいと思ったのは本当でした。でも、いざひそねのようなホンモノを見てしまうと。
 なれるかどうかでいったら、まずそのスタートラインですでにつまずいてしまっているところです。でも、そのことを一旦脇に置いて考えてみたとしても、そもそも自分のなりたかったものがひそねのような人物だったかというと――。
 「名目はDパイスけど、私は飛べないんで」
 うん。そうじゃありませんでした。

 「だから。まそたんの整備手伝ってたら、なんかまそたんの気持ちがだんだんわかってきたような気がして。なんつーか、コイツかわいいな! って思えるようにもなってきて。甘粕ほどわかっちゃいないんでしょうけどね」
 そうじゃなくて、そうじゃないけど、自分の本当にやりたかったことがだんだん見えてきたんです。
 自分は飛べないけれど、まそたんのことは好きです。自分は飛べないけれど、ひそねのことはなんだかんだですごいと思っています。自分は飛べないけれど、彼らの傍にいられる最近の自分が、なんだか充実しているような気がしています。
 「甘粕を乗せられないまそたんはもちろん一番キツいと思うんです。でも、それを見ているしかできない甘粕も相当キツいだろうなって」
 いつからだったのでしょう。名緒は自分がDパイとして飛ぶことよりも、ひそねとまそたんを支えてあげたい気持ちの方がずっと強くなっていました。

 ひそねを見ていて、名緒は自分の本当にやりたかったことに気づくことができたのでした。

わからない

 ひそねにはやっぱりわかりません。
 「だぁれがセフレだぁっ! 私は一生純潔を守りぬいてみせる男なんて汚いったら汚い! 汚い男来たな近寄るなあっ! 塩辛もぐしょぐちょしてて汚い成敗! うまい! けど汚い! ちょっとアルコールで消毒・・・おらぁっ! 酒! 足りてねーぞぉ!」
 星野がどうしてこんなに荒れているのか。いや、フられたのはわかります。けど、彼女と同じメにあったとき自分も同じことをするかというと・・・まだよくわかりません。

 ひそねにはわかりません。
 「人は――人だけじゃない。世界の仕組みのすべては裏切るもの。当たり前よね。ひとりひとり違うんだもの。本当の意味で他者を理解はできない」
 樋本教官の言うことは世界の真理のような気がします。ひそねはたくさんの人を理解できず、たくさんの人に理解されず、孤独なマジレッサーになってしまっていました。
 でも。
 「でもね、変態飛翔生体だけは私たちを裏切らない。だからこそ、私たちも彼らを裏切ってはならない」
 これも正しいような気がします。まそたんはひそねにたくさんのものをくれました。まそたんのことは大好きです。吻合しちゃったのだって、恋してしまった自分が悪いのだし。
 でも。

 ひそねにはわかりません。
 「ノーマは、ノーマは私の全てです。どうしてノーマ以外のことに心を動かされてしまったんだろう。私はノーマを裏切りません! 私は夢に生きます! ノーマと一緒にどこまでも飛んでいきたいんです!」
 星野の言うことに、どうして自分は納得できずにいるのか。
 それを祝福する樋本教官を、どうして自分は冷めた目で見ているのか。

 「貞さんの話はとてもいい話だと思った。でも、なぜだろう。なんでイマイチ納得できないんだろう」
 樋本教官と星野を見ていて、ひそねにはどうしてか、どうしても、自分がよくわかりません。

やさしいひと

 小此木は教えてくれました。
 「まそたんに相談しなくちゃ身が持たないんです。なにしろ小此木さんが、キ、キ、キ、キ、キ、キ、キ、キ、キスしてたんですから!」
 ひそねが勘違いしていたことを辛抱強く説明してくれました。
 「え、見てたの! ていうかキスなんてしてない!」
 「いいや、した!」
 「してません! どうせ見るなら間違いなく見てください!」
 「変態ですか! そんなん、他人のイチャイチャしっぽりっぷりを最後まで見る趣味ないですよ!」
 「しっぽりって! キスなんてしてません。息をかけただけです!」

 小此木は教えてくれました。
 「息? ・・・なんで?」
 それはそれでずいぶんハイレベルにフェチい気がしないでもないですが、そういうふうにひそね(と私)が誤解する前に、小此木はちゃんと説明してくれました。
 「棗のお母さんに教えてもらったんです。赤ん坊の棗が大泣きしたら、鼻先に息を吹きかけると泣きやむって。・・・泣いたのは、今日は僕の方だったんですけど」
 要らんことから生い立ちの話まで、小此木は何でも包み隠さず教えてくれました。

 だからひそねは――
 「ストップ! すいません、今、ちょっと、いろいろ、あと少しっぽい感じになってきたので!」
 やっと、わかってきました。

 「小此木さんが好きだ。優しくて。はにかんだ笑顔とかステキで。優しくて。私が誤解して勝手に糾弾して当たり散らしても、ちゃんと説明してくれて。やっぱり優しくて。まそたんを大事にしてくれて」
 ひそねはそういう人を知っています。小此木のほかにも。
 小此木ほどわかりやすく説明してくれなかったり、辛抱強く話しかけてくれなかったりはするけれど。けど、ひたすらに優しい人。ひそねにとって大好きな人。ずっと一緒にいたいと思える人。

 まそたんが空を飛んでいるのが見えます。名緒が無理を押して飛んでくれているそうです。

 本当に優しい人。大好きな人。ずっと一緒にいたいと思える人。
 ひそねにとって、それは、まそたん。
 それから名緒も。

 そうなんですよね。
 特にひそねが感じていた恋心の場合って、友情とそう大差ないものなんですよね。棗に焚きつけられたせいで、ムダに特別な感情なんだと自己認識してしまっていただけで。
 だってほら、ハタから見ているかぎり、ひそねと小此木の関係なんて映画館デートのときから別に進展なんてしていなかったじゃないですか。なんで恋敵が現れた程度のことでいきなりラブに変わっちゃうってんですか。ギャルゲーじゃあるまいし。フラグが立った程度のことで人の感情が突然変わるものか。
 「友達と映画に来るとか、初めてだったんです」(第7話)
 あのときひそねが小此木を友達だと思っていたなら、今だって友達のままです。もしその思いが実は恋だったと後から認識を改めるなら、それなら恋ですけどね。つまりは“友情”だの“恋愛”だのというのは主観の問題でしかないんです。レッテル次第で認識はいくらでも変わるんですよ。どちらにしたって、その根底にある感情は結局同じ“大好き”でしかないんですから。
 (まあ現実の恋愛には肉欲とか名誉欲とか色々シチメンドクサイ要素も混じって一筋縄ではいかないんですが。今回は関係ないので無視無視)

 だから、考えてみてください。
 棗にとってひそねの感情が恋に見えたとしても、それはイコールひそねにとっても恋であるとは限らない。
 ひそねは今一度考えてみなければいけません。自分と小此木の関係が、本当はどういうものであったのか。そして、どういうものであってほしいのか。
 “あなたの主観”を、どうか考えてみてください。

 「名緒さん。私とまそたんのために。――優しくて。名緒さんは優しくて。幾嶋さんも、柿保飛行班長も、Dパイのみんなも、岐阜基地のみんな、優しくて」
 ひそねにはわかりました。

自分にしかできない何か

 「人は――人だけじゃない。世界の仕組みのすべては裏切るもの。当たり前よね。ひとりひとり違うんだもの。本当の意味で他者を理解はできない」
 それは樋本教官の主観から見た世界観です。
 たしかにひそねだって似たような経験はしてきました。共感することはありますし、納得できることもあります。
 でも、ひそねが空を飛べるのは、それでも名緒や小此木やその他たくさんの人たちの優しさに支えられているからです。

 「でもね、変態飛翔生体だけは私たちを裏切らない。だからこそ、私たちも彼らを裏切ってはならない」
 それは樋本教官の主観から見た世界観です。
 たしかにひそねもまそたんのことが大好きです。共感します。納得もします。
 でも、あのヤロウたまに飛んでくれないことがありました。ひそねを放っぽいてフォレストとイチャイチャしていたこともありました。とっても優しいですが、決して都合のいい聖人ではありません。

 「まそたんにすべてを委ねて、まそたんだけを飛ばせて、自分だけグースカ寝るなんて、そんな卑怯なことできません!」
 「まそたんと出会えて、Dパイとしてがんばるという夢を持つことができたんです。私はまそたんとずっと、夢のなかを飛んでるんです!」
 「まそたんを信用していないわけじゃないんです! 自分だけズルしたくないから。だから、だから――」
(第8話)
 ひそねがDパイという仕事に対して夢見るようになった理想は、樋本教官が語るものとは相容れません。ひそねと樋本教官はそれぞれ見ている世界がまるで違います。
 だから、今のひそねはもう、まそたんと飛ぶために彼女たちの説く論理に従ってやる必要性を感じません。

 というか。
 そもそもひそねは「自分にしかできない何か」を探して自衛隊に入隊したんです。
 そこでたまたま運よく「自分にしかできない何か」だという仕事を与えられたから、今日までがんばってきたんです。
 それが、今はもう自分にはできなくなってしまったというのなら。
 「自分にしかできない何か」ではなくなってしまったのなら。
 「私、Dパイを、自衛官を辞めます!」
 いつまでもひとつのことに固執する必要なんてない。

 ひそねはDパイという仕事に対する依存から解放されました。やっと。ようやくですね。
 これから彼女が別の自己実現を見つけるにしろ、再びまそたんと空を飛ぶにしろ、その動機はもはや“依存”などという情けないものにはなりえません。そこにあるであろうものは、ひそねがまそたんやみんなのことを大好きだという自発的な気持ち。

 つまり、“愛”です。

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