プリキュアはなぜ変身するのか? 『ハピネスチャージプリキュア!』の場合。

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世界に広がるビッグな愛! キュアラブリー!
天空に舞う青き風! キュアプリンセス!
大地に実る命の光! キュアハニー!
夜空にきらめく希望の星! キュアフォーチュン!

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このブログはあなたが視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

 『ハピネスチャージプリキュア!』はヒーローの限界を問いかけました。
 本作のプリキュアは(一部を除いて)みんな心に大きな問題を抱えていました。心のありようがひどくいびつで、彼女たちのことを深く知っていくにつれて第一印象からガラリと評価が変わってしまうこともしばしば。しかもプリキュアだけでなく、周りの協力者たちまで何かしら欠点を抱えていました。
 特にブルーは有名ですね。他のシリーズではプリキュアの仲間の大人キャラといえばみんな人格者で、絶対に信頼できる人物という位置づけだったのですが、この人に関してはまったく逆。言動がことごとく信用できませんでした。私はこの人、むしろ本作のなかで一番好きなんですけどね。極端に心が弱くて一貫性がないだけであって、常に大人としてめぐみたちに接しようと意識していたのは伝わってくるので。

 そういうキャラクター設計だったので、ストーリーもけっこうストレスフル。残念ながら作品としての人気は芳しいものではありませんでした。けれど秋映画の好評を見た感じ、この物語が描こうとしたものの価値については少なからず評価されているように思います。
 本作は“ヒーロー”には救ってあげられない人々を取り扱いました。レッドや秋映画のつむぎちゃんなんかは最たるものでしたね。彼らが悪をはたらいてしまったのは外的な要因によるものではありません。そういうきっかけもあるにはありましたが、根本的には彼ら自身の心の弱さこそが問題でした。
 ヒーローは怪物をやっつけることができます。困っている人を助けたり、勇気や希望といった規範を示すこともできます。けれど、個人の心の問題にまでは立ち入ることができません。ヒーローという個人である以上、別の個人はどうしたって他人でしかないからです。助けを求めない人を助けようとするのはおせっかいにしかならないからです。けれど、助けを求められずにいながら苦しんでいる人たちというのは確かに存在します。
 本作のプリキュアも結局レッドやつむぎちゃんに何か救いを与えられたわけではありません。個人の心の問題に対してやはりヒーローは無力です。ですが、かわりに共感してあげることならできました。本作のプリキュアはみんな自分も心に問題を抱えています。問題を抱えている者同士、一緒にがんばってみよう、一緒に考えてみよう。そう言って、彼ら自身が強くなることを促すことができました。
 もともと前作『ドキドキ!プリキュア』あたりからの潮流ではあったのですが、以降、プリキュアはただ街の人たちを助けてまわるだけでなく、様々なアプローチで彼ら自身に強くなってもらう方法を模索していくことになります。

 ・・・長々書いてから気付きましたが、そういえばこのあたりの話って今回の企画とはあんまり関係ないんですよね。ほら、本作のプリキュアって初登場時点での描写と本質がだいぶ違うので・・・。(まあ『ドキドキ!プリキュア』もそうだったんですが)

愛乃めぐみ / キュアラブリー

「怖いけど、どうしたらいいかわからないけど、でも私、友達を助けたい! 自分だけ良ければいいなんて、私は嫌だ! みんなで幸せになる。それが幸せ、ハピネスなんだからー!!」(第1話)

 めぐみはプリキュアに憧れていました。強くて世界中を守ってくれているから。どんな悪者が現れてもプリキュアがいるかぎり大丈夫だと、めぐみは信じていました。
 けれど、彼女が初めて間近に出会ったキュアプリンセスは弱いプリキュアでした。怪物にあっさり負けてしまいました。
 理想とかけ離れた情けないプリキュアの姿を見て、めぐみが取った行動といえば――なんと、一般人なのにプリキュアを庇いました。これじゃアベコベ。けれどめぐみという少女は元々そういう人間でした。相手がどんな人であろうと、どんなに無謀であろうと、みんなを助けたいと思える子でした。
 ・・・実はこれ、むしろその後のめぐみを大いに苦しめることになる最大の悪癖だったんですけどね。

 ですが、最大の悪癖であると同時に、めぐみの一番ステキなところでもあります。自分の力ではどうしようもないと理解してなお手を差しのべるところ。無茶無謀知ったことじゃない、相手に必要とされているかどうかすら考えない、やりたいからやるだけのやりたがり。
 そのくらいの欠陥とおせっかい気質がなければ何もしてあげられない、厄介な人たちというのはいるものです。

白雪ひめ / キュアプリンセス

「サイアーク! 今度こそ負けないんだから!」(第1話)

 ひめは責務と負い目からプリキュアになるしかなかった子です。事情が事情とはいえ、おおよそプリキュアらしい精神性をちっとも持ちあわせないまま戦うことになってしまった珍しいプリキュアです。そりゃあもう、最初はどうしようもなく弱いプリキュアでした。
 けれど、彼女はそれでも勇気だけは持っていました。意気地なしで逃げ腰で、怪物を倒せた試しがありませんでしたが、それでも誰かを守るために怪物に向かっていくことだけはできました。
 そういうところ、実はめぐみと似ていたんですね。『ハピネスチャージプリキュア!』というヒーローの限界からはじまる物語は、このムチャだけは得意なふたりの出会いからはじまりました。

大森ゆうこ / キュアハニー

「私は平和とご飯が大好き。争いは嫌いよ。・・・でも、食べ物を粗末にしたり、踏みつけたり、なにより私のお友達を傷つける人を、見過ごせないわ!」(第11話)

 ご飯とハニーキャンディーの伝道師・ゆうこは、この物語のなかで例外的に、最初から最後まで完成されたプリキュアとして描かれた人物でした。大抵いつもご飯のことしかしゃべっていないくせに妙な底知れなさがありました。
 仲間と一緒が好きなくせに当初ひとりで活動していたり、愛犬との死別が重大な転機になっていたり、色々とあったようですが全部物語開始以前に乗り越え終わっています。まあ、実際ひとりくらいこういう強い子がいなければ作品全体が陰鬱になりすぎてしまいそうな感じはありましたしね。

 とりあえず彼女について語れることがひとつ。彼女はご飯をおいしく食べることへの情熱によってプリキュアに変身する資格を得ました。(語弊)

氷川いおな / キュアフォーチュン

「誰かを助けるとか、誰かを消すとか、そういう願いではどこかに不幸が残ってしまう・・・。私はみんなを助けたいの。みんなの願いを叶えたい。この手で。なにより今、友達を助けたい! ――プリカードよ、私にプリキュアの力を!」
「私は幸せだわ。姉から愛をもらって。友達から優しさをもらって。私もこんなふうに、誰かを幸せにしたい」
(第22話)

 いおなは姉のカタキを討つために戦っていました。姉は彼女を庇って敵に敗北してしまったのです。だから彼女は多くを望みません。カタキを討って、姉を取り戻すことが彼女のすべてでした。
 ですが、その過去はつまり彼女が姉に愛されていたということでもあります。姉が囚われることになった遠因として憎しみをぶつけていたひめからも優しさを受けて、彼女は自分が本当はどういう存在なのか理解することになります。
 愛されていました。姉だけでなくたくさんの人たちから。いおなはカタキ討ちのためだけの存在ではありませんでした。愛されていて、幸せでした。そのことに気がついた彼女はプリキュアに変身する理由を改めます。自分を愛してくれたすべての人たちのように、自分もみんなを幸せにしたい、と。彼女は多くを望むようになりました。

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