
私、勇者になれた!
(主観的)あらすじ
世界の命運を決する最終決戦。勇者ユーリア・シャルデットは世界中の人々が笑って過ごせる世界を守るため、勇敢にも魔王に立ち向かいました。しかし魔王の力は劫大にして無絶。いかな勇者の剣といえど傷ひとつつけられません。
イチかバチか、勇者は魔王を次元の彼方へ封印しようと試みることにしました。3人の仲間たちも心をひとつに合わせ、禁断とされている魔法を詠い編みます。
・・・封印魔法は成功。世界は平和を取り戻し、勇者の物語はエンドロールへと進みます。
さて、時を隔てて、とある朝。ユーリア・シャルデット(=ユーシャ)はいつものごとく幸せそうにお寝坊していました。とはいえ今日は冒険者学校がある日。なんとか起きて、仲よしのセイラ、ファイ、メイと一緒に登校します。
学校につくと、担任の先生が替わっていました。新しい先生はマオという名前の女の子。ちっちゃくて、わたわたしてて、とってもかわいい子でした。
ところがこのマオ先生、実のところ正体はユーシャたちが倒したはずの魔王その人。最終決戦のあの日、魔王はユーシャたちの失敗した封印魔法の暴走に巻き込まれ、姿を変えて過去の世界へ飛ばされてしまったのでした。
そう。ここはユーシャがまだ勇者と呼ばれておらず、魔王討伐に旅立つより前の世界。マオ先生は冒険者学校に潜り込んで、ユーシャが力をつける前に芽を摘み取ろうと画策しているのでした。
マオ先生の冒険実習で近所のダンジョンに入ったユーシャたちでしたが、どうにも不思議なことに初日の実習とは思えない大冒険をしてしまいます。いつまでたっても冒険をクリアできません。もちろんマオ先生の仕業です。
けれどユーシャもただでは転びませんでした。偶然厳かな雰囲気の小部屋に迷い込み、そこに鎮座してあった勇者の剣を持ち帰るのでした。
さしあたって、ユーシャは今日から勇者を名乗れるようになりました。
RPG風の世界でのほのぼの日常系ストーリー。最近ではすっかり1ジャンルとして定着した日常系作品の元祖とも呼べるスタイルのひとつですね。
(諸説ありますが)いわゆる日常系はシリアスなストーリーマンガやアニメに時おり挿話される日常コメディに人気が集まり、次第に独立した作品として描かれるようになったという歴史があります。初期の少年ガンガンやガンガンウイング、ドラクエ4コマみたいな雰囲気があって懐かしい。
一時期は日常系といえば現代もの、学園ものが主流でした。ですがここ最近、なろう系やスマートフォン向けゲームなど古典的RPGのメタ表現を積極的に取り入れた作品が増えてきた影響でしょうか、またこの手のRPG風日常系作品が増えてきましたね。良き良き。私はこういうの大好きだ。
ベースになっている世界設定が古典RPGのオマージュありきでメタメタなつくりになっているため、どこからがストーリー上意味のある設定になっているのか判然としません。セイラの耳が尖っているのとか、ムダに凝った設定のカルタードまわりとか、十中八九深い意味はないだろうとは思いますがなかなかどうして油断ならん。クラスにいるちっちゃい妖精さんは今後活躍することがあるのでしょうか。(望み薄)
ウチのブログのいつものノリだとなかなか感想文が書きにくいアニメな気もしますが、まあいいや。気にすることはない。誤解釈、拡大解釈上等で、いつものように好き勝手書いていくことにしましょう。
エンドロール?
「セイラン家は代々聖者の家系なので、私も回復を司る聖者をやっています」
「ファイは戦士。ガンガン叩くよ!」
「ひよこのオスメス鑑定士って一度は憧れたりするっスよね」「・・・こいつは魔法使いです!」
「私は――私はもちろん、勇者!」
ひよこ鑑定士は需要過多なので資格さえ取れれば食いっぱぐれることがないといわれていましたね。あとクレーン車の玉掛作業者あたりも。もちろんなり手が少ないだけあって、現実には要求される技術がシビアなうえ、仕事自体も意外とハードだと聞きますが。そもそもひよこ鑑定士は視力がものをいう仕事なので、目が衰える前の若いうちしかやっていけないそうですし。まったく現実はいつも世知辛い。夢がない。
そんな話はどうでもいい。
この手のファンタジー世界にオスメス分ける必要が生じるほどの大規模鶏卵工場があるのかってツッコミもどうでもいい。
ユーシャって、何の根拠があって“もちろん”勇者だと名乗ったんでしょうね。
「わからぬか? 勇者とは魔王あっての存在。今の時代、この島にはモンスターはいても魔王はいない。よって、お主は今無職じゃ!」
この世界の勇者はセイラのように家系で受け継ぐ職業ではなく、ファイやメイのように能力に準じて名乗るものでもないようです。なのにこの子、どうして当たり前のように「勇者」って名乗ったんでしょうね? 現実には無職らしく棍棒しか装備できないくせに。
もうひとつ引っかかる点があります。そもそも『えんどろ~』って何よ?
今話のサブタイトルは「エンドロールにはまだ早い~!」。だからとりあえず「エンドロール」のもじりだというのは察することができます。「ル」の1文字が欠けているのも、サブタイトルどおり“まだエンドロールに到達していないから”って意味合いが込められているのかもしれません。
それにしてもですよ。・・・これ、エンドロールどころかプロローグじゃん。
最終決戦のシーンから過去に飛んで来たマオ先生視点ならともかく、この物語の主人公はどうやらユーシャのようです。彼女視点から見たらこんなの全然エンドロールじゃない。だって今話でやっと勇者になれたんです。最初も最初、プロローグもいいところですよ。
当面の物語の目的も、マオ先生がユーシャの勇者化を妨害してくるのをかわすなりいなすなりすることです。このままだとユーシャが勇者として魔王討伐に旅立った時点で物語が終わってしまいます。どう考えてもエンドロールにはほど遠い。
なんでこんなタイトルになったんでしょうね?
世界中のみんなが笑っている世界のために
天地の狭間遍く満ちる精霊よ
幼き我ら言祝ぎし理の番人に希う
開き賜え
開き賜え
世界を隔てし刻の人よ
勇者ユーリア・シャルデットの名の基に、心をひとつに!
――心をひとつに!
次元封獄界・・・開門!
次元の彼方へ立ち去れ、魔王!!
ホントこういうアニメだとどこからどこまでがストーリー上意味のある仕込みなのか判別しにくくて、語るべきかすごく迷うのですが・・・、最終決戦のシーンにもさりげなく(?)矛盾があります。
「あの戦いで勇者めは禁断の大魔法を使いよった。――しかも大失敗! 魔法は暴走し、我も巻き込まれ、正直もうアカンと思った。・・・けれど、そうはならなかった。なんと暴走した影響で時間が巻き戻ってしまったのじゃ」
アバンでの描写とマオ先生の回想とがあまりにも違いすぎます。アバンでは魔王に鎖が絡みつき異次元へと引きずり込んでいきますが、マオ先生の記憶では暴走した魔法に吹き飛ばされたことになっています。
「巻き込まれた」というからには、はたして魔法を使ったユーシャたちも本当に無事でいられたのかどうか。魔法が成功したと確信して五体無事のまま故郷へ帰っていったあのアバンは何だったのでしょう。
このあたりと、先ほど引っかかった部分とを合わせて、ふと思うんです。
この物語、もしかしてユーシャにとってもエンドロール一歩手前なんじゃないかって。
「ふふふふふ。ふははははは! 勇者の剣といえど、そう簡単に余を屠れると思うではないわ!」
そこは通用すべきです。このアニメが古典RPGのオマージュであるのなら。まして勇者が魔王の対存在だという設定があるのならなおさら。勇者には魔王に対抗できるだけの力があるべきです。そうでなければ“魔王あっての勇者”という設定が意味を持ちません。
いちおう“勇者の剣ではなく封印魔法こそが勇者側に用意された対抗手段である”と解釈するなら納得できなくもないんですけどね。カルタードではなく剣の方を勇者の象徴とすることに若干の引っかかりは残るにしても。
「トドメ、いっくよー!」
ところが番組後半、過去の世界において、勇者の剣には最終決戦で用いられなかった絶大な破壊力が隠されていたことが明らかになるわけですよ。だったらユーシャは封印魔法に賭ける前にどうしてこちらを試さなかったのか。
だから思うんです。ユーシャの魔王討伐の物語は、この過去の世界においてもまだ続いているんじゃないかって。
この世界で何かをしてはじめて、ユーシャの物語は真にエンドロールへ進むんじゃないかって。
「私が欲しいのは、世界中のみんなが笑っている世界だけ!」
最終決戦の場においてユーシャは自分の願いを叫びます。とても勇者らしい、優しさに満ちた大望です。
ところで“みんな”って誰のことでしょうか。どのあたりまでを含むのでしょうか。他の人を傷つけようとするモンスターや、それから魔王は、その“みんな”に含まれるのでしょうか?
「おのれ・・・! おのれ、勇者! 勇者ー!!」
少なくともアバンにおいて魔王は苦悶の絶叫をあげていました。少なくともこの魔王は笑うことなく、ひとり世界から爪弾きにされて終わってしまいました。
もしその結末を覆すことができるのなら。
もし、魔王が世界征服に乗り出すより前に和解することができたなら。
もし、魔王と勇者が仲よく友達同士になれたなら。
「かわいー! かわいい! かわいい! かわいいー!!」
「先生に何やってるの、ユーシャ!」
「はっ。――ユーシャ、だと? くっ。・・・ユーリア・シャルデット」
「うん。ユーシャって呼んでいいよ」
そのときはユーシャの物語のエンドロールに、“みんな”をもうひとり増やすことができるかもしれません。
実際のところ、今はまだユーシャが何を考えているのかわかりません。
彼女はアバンで描かれたようなエンドロールで満足する人物なのか、それとも納得できずに何か行動しようとするような人物なのか。
そもそも魔王と同じようにエンドロール直前からこの時間に戻ってきたのか、あるいは何も知らないこの時間のユーシャのままなのか。
それは“必要があれば”後々描かれるであろうことです。そんなややこしい話は展開せずに、このままほのぼの日常系アニメとして終わる可能性も充分にありえます。
ただ、私個人としては願いたくなるんです。
だってせっかく魔王がこんなかわいらしい女の子になったんですよ。せっかく勇者と魔王がこんな茶番みたいなほほえましいケンカをできるようになったんですよ。
せっかくならこの世界のユーシャには、あのゴッツイ魔王を封印した場合よりもっとステキなエンドロールを迎えてほしいなと。
自分がRPGをプレイしなおす場合はより実現困難でより幸せなエンディングを目指したくなるひとりのゲーマーとしては、たとえ身勝手な願望の押しつけだとしても、そういうハッピーエンドを期待したくなるんです。
コメント
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考察してみて、疑問に思うところがある。マオ自身が過去の世界に戻ったというなら、「過去のマオ」というもう一人の自分が存在することになってしまう(自分がここにいるから、魔王はいないと思い込んでいて、それに気付いていない)。たとえユーシャたちの妨害が成功したとしても、得をするのは過去の自分であって、今の自分とは関係がないのだ。そもそもマオがこの世界にやって来た時点で、すでに孤立しており、魔王としての立場は失ったも同然であるのだ(かつての部下たちの元へ行っても、魔王を騙る偽物扱いされるだけだろう)。私としては、マオが過去の世界に干渉したことが原因で、タイムパラドックスを引き起こしてしまうのではないかという恐れを感じてしまうのです。この問題をどうやって解決していくのか?。私はそれが気になる。
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タイムスリップものは作品ごとにルールが異なりますので、実際のところこのアニメに同一人物が同時に存在したりタイムパラドックスが発生したりといったSF的なギミックが存在するかはまだわかりません。
ただまあ、視聴者としてはそのあたりの設定に興味が向くのは当然のことですし、なによりマオ先生のようなキャラクターが自分の想定外の出来事にわたわたする様子は想像するだけでもたいへんかわいらしいので、ぜひ描写してほしいところですね。
ちなみにマオ先生のセリフに「幸い我には以前の記憶が残されていた」というものがあるので、もしかしたらタイムスリップではなくタイムリープだった可能性もあります。(画面の方は完全にタイムスリップ的な描写なので可能性は薄いですが)