終末トレインどこへいく? 第1話感想 やり残したことが、やる理由になるんだ。

この記事は約10分で読めます。
スポンサーリンク

異変の原因は7G回線の暴走のせいだろうっていわれてる。ただ、元に戻す方法は全然わからない。ていうか戻す気はないんじゃないかって気がする。

↓dアニメで毎週最新話更新中!↓

「ちょっと行ってくる」

大きな出来事

メインキャラクター:静留

目標

 2年前に行方不明になった友達の葉香を探しに行きたい。

課題

 葉香は静留の友達である。
 折り悪く7G事件前後に行方知れずとなったため、3つの理由で探すのが困難になってしまっている。

 1つ。ケンカ別れして飛び出して行ってしまったため、誰も葉香の行き先を知らない。もう2年も行方知れずだ。
 1つ。7G事件で世界中が大混乱に陥り、行政サービスが軒並み停止しているほか、物流や電気通信もほとんど途絶えている。吾野の外の情報が手に入らない。
 1つ。公共交通機関が稼働していない。また、7G事件により地域間の距離が途方もなく離れており、人間の足で捜索できる範囲が限られている。

解決

 静留の諦めの悪さといくつかの偶然が重なって、ついに葉香捜索のための道筋が繋がった。

 1つ。誰もが葉香と再会することを諦めてしまっていたなか、静留だけは2年間挫けることなく探しつづけていた。
 1つ。クロヒョウキャラバンの貨物の緩衝材として使われていた新聞により、葉香が新宿にいることが明らかになった。
 1つ。ウニャウニャ手術でボケ老人にされていた善治郎の正気を取り戻す手段を突き止め、彼から西武鉄道の電車の運転方法を教わったことで、吾野の外を旅することが可能になった。

地域の特徴:吾野□

 西武鉄道 西武秩父線の始発駅。
 Wikipediaによると2022年の1日平均乗降人員556人。五所川原駅(私の出身地である青森県の主要都市中心駅)よりちょっと少ない程度には鉄道利用者がいるらしくなかなか解釈に迷うが、地図を見ると埼玉県の山間に位置し、劇中描写もいかにも田舎らしく描かれているため、おそらくは過疎化の進んだ田舎の集落として認識するべきなのだろう。

 7G事件以降、21歳3ヶ月を超えた住民は誰もが動物の姿に変化するようになった。今のところ人間としての自我は残っているが、ときおり動物の本能に引っぱられることもあるようだ。
 また、7G事件以降は農作物の様子もおかしくなり、特に米などは6期作が可能になっている。ゴーヤーもよく採れる。えり好みしなければひとまず食うに困らない環境といえる。キャラバンを通じて他の地域の台所も支えている模様。

 住民にとって動物の姿は不便でしかないが、それでも穏やかな時間が流れているのは枯れた老人が大多数を占めているおかげか。一方、新しく動物に変化した若者には群れる場所も同年代の仲間も乏しいため、混乱していても引きこもることしかできないようだ。

設定考察

7G

 「脳に浮かんだ思考を直接読み込み、全てのデバイスにアプローチ」「思う→即伝わる、考える→即動く」「物理法則を破壊しかねない」・・・といった特性を持つオールジャパンな未来の通信規格。
 お前らは通信規格というものを何だと思っているんだ。(5G回線のときのドコモの宣伝戦略を思うと納得しかない話ではある)

 7G事件の混乱で発電所も基地局も停止していそうなものだが、なぜか鉄道のレールを媒介して日本中をネットしているようだ。
 どうやら無線給電規格をサポートしているようで、(別に無線給電に対応しているわけでもないはずの)ご家庭の白物家電は従来どおり使えるし、運転手さえいれば電車も動かせる。街灯は点かない。で、通信は・・・?

7G事件

 2022年に起きた、全ての発端となる事件。(物語が開始した2024年の2年前)
 偶然池袋駅に来ていた静留を拉致同然に巻きこみ開催された7G回線開通セレモニーにより、なんか世界中がおかしなことになった。人間は動物や木に姿を変えてしまうし、風景は異形のものとなるし、地域間の距離は何故か果てしなく遠くなるし、当然行政や産業もろくに機能しなくなった。
 つまりは誰がどう考えてもこの先人類に未来はない。終末世界である。

 静留が7Gボタンを2回押したのは何かの伏線だろうか?

 ところで、池袋駅で静留を歓迎していた人たちはあのためだけに駅で待機して満足なんだろうか? なんか楽しげなセレモニー自体は別のビルで行われるというのに。

ピッチ

 PHS。2000年代に活躍した日本産の携帯通信システムの一種。日本では3Gケータイにシェア競争で負けて歴史の影に消えた。海外では中国で少し流行した程度。
 基本的な技術は無線機のものを根幹としており、通信事業者の基地局を経由した普通の音声電話やweb接続のほか、やろうと思えばアマチュア無線のようにローカルな無線通信を行うこともできた。

 撫子たちが妙に古くさい端末を持ち歩いているのは、PHSならではの特性を応用して基地局を経由せずローカル通信しているからだと思われる。キャラバンが近くに来るとメールが届くとのこと。
 やっぱり7Gは通信規格として機能していないのでは・・・?

クロヒョウキャラバン

 どうやら文字どおりの隊商らしい。日本中の集落を回って余剰物資を買い取り、不足している物資を売っているようだ。リクエストすれば特定のアイテムも探してきてくれる。
 吾野以外の土地では住民とのコミュニケーションが成立するとは限らないためか、色々と物騒な仕事のようだ。

 ちなみに、「7G事件が起きて、まずクマ(ぽすくま=日本郵便)が倒れた。ペリカン(日本通運)もカンガルー(西濃運輸)も飛脚(佐川急便)も相次いで倒れた。残ったのが俺たちしかいなかったから続けてる」・・・ということなので、クロヒョウキャラバンの元ネタはおそらくヤマト運輸。作中では「ナガト運送」という会社名になっている。
 民間企業がこんな重要インフラを担っているのか・・・。そういやこの世界7G事件でお役所全部潰れているんだったわ。(だから日本郵便が真っ先に営業停止したのか)

練馬の国のアリス

 7G事件前は毎週木曜日夜12時半、テレ玉で放送されていた深夜アニメ。
 ムック本のあらすじページによると相当トンチキな展開の連続だったようだ。「くだんが母乳を発射」だの「チャタレイ夫人の陰間茶屋」だの「ケシに当てられてぶりぶり状態」だの、どうやって地上波に流してたんだコレ。

黒魔術の手帳

 澁澤龍彦が1961年に著した、実在するエッセイ集。
 ジル・ド・レイなど魔術に魅せられた歴史上の人物たちの奇怪なエピソードを紹介している。その手の趣味人の間では有名な一冊だそうな。

 「イエス! どこにいるどんな人ともすぐ通じあえる! 触れあえる! それが夢の新技術、7G回線! 5Gでは全く追いつけなかった! 6Gでは完全に出遅れた! だが7Gでいよいよこの国の威信を取り戻す! 一部反対する者もいた! ネガキャンもあった! しかし、そんな根も葉もないフェイクニュースに我々は挫けなかった! 世界最高の技術をこの7Gに全てぶち込み、落とし込み、叩き込んだ! 脳に浮かんだ思考を直接読み込み全てのデバイスにアプローチ! 思う→即伝わる! 考える→即動く! まさに神の力の使い手となる、それが! 7G!!!!!」

 「ポンタローのクソ野郎ウン行め! あれほど7Gはやめておけと言ったのに! あんな規格が通るわけないんだ! 物理法則を破壊しかねないという数多の研究者たちの警告には耳を塞ぎ、利益享受者たちの不確かな情報だけを鵜呑みにする! なぜ災厄だけで飽き足らず最々悪を呼び込むのか!? ビチクソたれどもめ!! 私を邪魔にしたあげく、ウニャウニャ手術までウニャウニャするとは! 全く始末に負えない悪辣非道! だが見てろよ! 7Gを絶対に阻止してみせる! 池袋を拠点にしてはいかーん!!」

 おーけー、そういうノリね。
 とりあえず情報を洪水のごとく垂れ流すけど9割がた大して本筋に関わらない話ばかりの、SFアニメによくあるタイプのアレね。小劇場系の舞台演劇でどうにかセリフだけで疾走感を出したいときによくやるアレね。ちょこちょこ大事な情報もまぎれ込んでいるから一応ひととおり聞いといたほうがいいんだけど、いちいち全部まともに理解しようとしたら何の話だかわからなくなるから、ストーリーを把握したいときはむしろ一旦脇に置いといたほうがいいヤツね。会社の上司のクソどうでもいい自慢話を受け流すときとだいたい同じ心構えね。ばっちり把握した。任せて。

 そんなわけで久しぶりにキュンとくるタイプの深夜アニメに巡り会えたので、久しぶりにプリキュア以外のアニメの感想を書いていきたいと思います。

 ちなみに鉄道の話は全然わかりません。
 関東ローカルネタも一切知りません。
 興味があるのはセカイ系じみた少年少女たちの瑞々しい青春物語です。少年が出てくるのか知らんけど。

諦めのなかで、諦めない

 「静留ちゃんも来てない」
 「今日、井口先生と進路相談じゃなかったっけ? 相談したとこで無駄なのにね」
 「そんな悲しいこというもんじゃないって」
 「いやいや。悲しいとかそういうことじゃなくて、厳然たる事実」

 「普通、21歳3ヶ月超えると吾野ではみんな動物体になるんだけどね」
 「私たちもそのうち何かになるんだろうね・・・」
 「選べないもんね・・・」

 世界はある日突然終わってしまいました。

 きっと元に戻ることはありません。状況は日に日に、ゆるやかに悪化の一途を辿っています。
 大人たちはもう何もあせっていません。どうやらなるようにしかならないことを理解したらしく、その日その日のちょっとした娯楽だけを楽しみに漫然と生きています。
 そんな大人たちを見て、子どもたちも自分たちにはどうせ明るい未来なんて与えられないんだということを、なんだかんだ受け入れて生きています。
 ヤケにならないのは、ヤケになったって何もいいことないのがわかりきっているからです。

 吾野には吾野しかありませんでした。吾野に無いものは吾野に存在しませんでした。
 たとえば吾野に不良はいません。不良が集まる場所もありません。だから、不良になる意味だってありません。社会不適合者同士で傷をなめ合うことすらできないなら、ワルぶったって疲れるだけですもんね。
 それもあって、玲実たち平均的な高校生は多少不謹慎な冗談にケラケラ笑いつつも、おおむね良い子で穏やかに暮らしていました。
 吾野の大人たちのように、ただありのままを受け入れて生きる以外の道が吾野に存在しないのなら、吾野の子どもたちもそうして生きるしかありません。

 ただ、ちょっとだけ、ため息は出るのだけれど。

 「こらあ! この食欲バクバクマレー熊! マサさんダメじゃん。完全に熊モードになってたよ」

 そんなトロトロに八方塞がりきった空気を打ち破って、我らが主人公が溌剌と登場します。

 「静留ちゃん、居残りどうだった?」
 「ん? 居残り? あーあんなの全然大丈夫」
 「進路のこと聞かれたんでしょ?」
 「うん。何したいか聞かれたから『人探し』って答えたら説教食らった」

 ヘラヘラと緩んだ口で、涙よりも透き通った光を瞳に宿し、ささやかな抵抗の思いを真剣に貫く少女でした。

 諦めていませんでした。

 「・・・そうなんだ。静留ってそういう人なんだ」
 「はあ? なんだよ、そういう人って! 葉香こそそういう人だったんだ!」
 「そうだよ。私はこういうやつだから・・・! ごめん」
 「何? ごめんって!? 知らないからね、もう! 葉香のことなんか!」

 何だよ、そういう人って――。

 ずっと後悔しつづけている思いがありました。
 友達とケンカして、そしてケンカしたことがその友達との最後の想い出になってしまいました。
 いいえ。だから、あの日のことを想い出になんかしたくなかったのでした。
 まだ終わりじゃない。終わらせたくない。終わらせてたまるか。

 誰もが全てを受け入れてしまった終末世界において、静留だけが今もまだ終わってしまうことを拒否しつづけていたのでした。

 変わりたい。
 変えたい。
 あの日決定的に壊れてしまった自分と葉香の関係を。

 戻りたい。
 戻したい。
 楽しかったあの日々のままに。

 夢を見ます。
 かつての吾野の幻像。
 自分と葉香が大の仲よしだったころの幻影。
 狂おしいほどに遠い未来(過去)。

 だけど、たとえどんなに遠かったとしても、どんなに儚い可能性であったとしても、静留はまだ諦めていなかったのでした。

 1つ。葉香がいなくなってから2年が経ちました。
 誰もがいなくなったことを受け入れていて、だけど静留だけが奇異の目で見られながらも探しつづけていました。

 1つ。吾野の外の情報なんて今どきめったに手に入りませんでした。
 静留が手がかりを見つけられたのはほんの偶然。静留以外誰ひとり気にも留めなかった、緩衝材のなかにありました。

 1つ。吾野に池袋まで行ける交通手段なんて存在しませんでした。
 唯一電車の運転方法を知っている善治郎は耄碌していて、正気に戻せたとしてもまたすぐボケてしまいます。彼から知識を学ぶには大変な試行錯誤を必要としました。

 池袋新聞も、善治郎の帽子も、発見したことそれ自体はただの偶然。
 だけど、それを両方とも発見したのも、葉香へと至る1本の道に仕立ててみせたのも、挫けず探しつづけていた、静留の諦めの悪さがあってこそでした。

 「いきなりじゃないよ。ちゃんと準備した」

 物語はにわかに動きはじめます。
 2年間の重みを踏み砕くように、ゆっくりと、軋みながら。

 「ま――! 動いてる!」
 「ちょっと待て! 行く! 私も行く!」
 「ええっ!?」
 「待って! ウソ!?」

 巻き込みはじめます。
 終末世界を受け入れつつあった他の子どもたちを。
 仕方ないけどイヤだなあと、本音では何も諦めたくなかったみんなを。

 きっともう二度と元に戻らない終末世界を、どうしても元に戻したい後悔ひとつ抱えて、少女が今、誰にも描けなかった未来目指して走っていきます。

よろしければ感想を聞かせてください

    記事の長さはどうでしたか?

    文章は読みやすかったですか?

    当てはまるものを選んでください。

    コメント

    スポンサーリンク
    タイトルとURLをコピーしました