終末トレインどこへいく? 第2話感想 自分のためじゃなくても、旅する目的。

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はあ――。ごめん。みんなのこと考えてなかった。

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「推測、だろう、思われる」

大きな出来事

メインキャラクター:撫子,玲実,晶

目標

 静留に自分たちが同行する理由を知ってもらう。

課題

 静留と異なり、3人には危険を覚悟してまで新宿に行くべき理由が無い。ただ、前触れなくいきなり旅立とうとする静留との別れが惜しくてついてきただけだ。
 静留は3人を邪魔者扱いしないし、帰れとも言わないし、雑談にも応じてくれるが、どうにも壁を感じる。同じ電車に乗っているのに一人旅しているみたいだ。
 静留は3人が新宿に用がないことを見透かしている。旅の目的を共有していないから、まるでたまたま同じ電車に乗り合わせただけみたいな空気感で接してくるわけだ。

解決

 3人にはまず自分たちがどれだけ静留のことを思いやっているか知ってもらう必要があった。「無理してついてこなくてもよかった」と静留は言う。だが、3人は無理してでも静留をひとりにしたくなかったからついてきたのだ。
 新宿に用はなくとも、静留になら用がある。だから3人は今こうしてここにいる。静留に帰るつもりがないなら3人も帰らない。

地域の特徴:高麗川(こま-がわ)

 荒川水系の一級河川。

 埼玉県有数の清流として知られているそうな。国土交通省の令和4年全国一級河川の水質現況によると、BOD平均値が0.6mg/Lと関東圏でもトップクラスの好数値を示している。
 吾野で農業が盛んなのはこの清らかな水に支えられている部分が大きいだろう。吾野の集落は高麗川に沿うようにして発展している。(それこそ第1話で静留と葉香がケンカしていたのがちょうど高麗川の橋の上だ)

 同時に、大雨のたびに鉄砲水をもたらす暴れ川という側面もあり、このため流域はヘビのように複雑に曲がりくねっている。吾野駅から東吾野駅へ向かう間には実に4回も橋を渡る。

 なお、川幅は広いところでもせいぜい20m程度。コマッシーなんて棲んでるわけねえだろ!
 今話では水平線が見えるほどだだっ広く変貌していたわけだが、前述のとおり高麗川は吾野の街の真ん中を流れている川でもあるわけで、そして第1話での川幅はそれこそ10mちょっとしかなかった。このことからも地表全体が満遍なく広くなっているのではなく、街と街の間の距離だけがびよーんと伸びているのだとわかる。

設定考察

小学校のクラスメイト

 静留たち4人と葉香のほか、3人の男子児童がいる。
 真ん中の子はクロヒョウキャラバンのネコ兄に髪と瞳の色がそっくりだが同一人物だろうか? だとすれば異学年混在のクラスということで、この世界の吾野は7G事件前から過疎化が末期的だったものと考えられる。
 なお、現実の吾野にある唯一の小学校・奥武蔵小学校は令和6年度の全校児童85名ということなので、仮にこの教室にいる全員が同学年だったとしても現実の半分くらいしか子どもがいないことになる。(小学校の1クラス定員は35人のため、これ未満の児童数しかいない場合は普通クラス分けをしない)

 第1話ではその後の男子児童たちの姿を見なかったが、7G事件後に吾野を出ていった人たちも少なからずいたということなので、そのうち登場することもあるかもしれない。

西武池袋線沿線以外の世界は消えてしまった

 セカイ系によくあるやつ。アニメの視聴者的には劇中に登場しない地域なんて元々存在しないも同じだから、本当かどうかはあまり気にしなくていい。フレーバーくらいのもの。
 ちなみに「東の菌類は頭上高くそびえ立ち征服を高らかに宣言し、さらにその東ではゴートとの共存で獣の名は違えどもまさにこれ猪突猛進なり」とのセリフもあるが、地図を見た感じどうやら次話の東吾野駅とその次の武蔵横手駅のことっぽい。思ってたより直近の話だった。

 そういえば終点・池袋駅の直前に断線があるね。

ピックアップ

静留

 昔から友達の輪の中心にいたようだが、周りの人の気持ちを思いやるのは少し苦手な様子。それでもリーダー的な立場にいるのは持ち前の行動力ゆえか。
 基本的に自分の気持ちしか考えないからこそ意志決定が早く、一途で意志がぶれにくいということなのだろう。だから周りに人が集まる。撫子も玲実も晶も自分で目標を立てて最後までやり通すのが苦手そうなタイプだ。

撫子

 争いごとが嫌いとのことで、穏やかな性格の割にケンカを仲裁するときだけはビシッと言うべきことを言う。それ以外はあんまり自分の気持ちを強く主張せず、周りの空気に同調した発言を心掛けているように見える。
 サブリーダー的な立ち位置かと思いきや、玲実か晶が話していると極端に発言が少なくなる。撫子が口を開くときはだいたい周りも同じ意見でまとまりつつあるときだと思ってよさそう。

玲実

 意外にも4人のなかで一番冷静なようだ。ただの楽天家というわけではなく、無謀と感じたときはサンクコストバイアスに引っぱられずに素早く合理的な判断ができる。静留について行くことを最初に決めたのも彼女。
 反面、非建設的な話や状況が進展しない時間をじっと我慢するのは苦手らしい。晶とウマが合わないのは彼女の話に「だからどうしたいのか?」という部分が一向に出てこないからか。

 臆病な性格なのが見て取れる。自分がこれからどうしたいのかを主張せず、周り(主に玲実)の言葉を否定するかたちでばかり意見表明するのは、失敗することを恐れているからだろう。
 裏を返せば、普段毒を吐きまくっているくせに友達とツルむのをやめないのは、自分に欠けている積極性を周りにリードしてもらうことで補っているからだといえる。読書家なだけに知識は豊富で、「今何をすればいいのか?」がはっきりわかっている場面でなら自信を持って行動できるようだ。

どっちでもよかった

 「無理して来なくてもよかったのに」

 撫子も、玲実も、晶も、その突き放した言葉にとっさに言い返すことができません。

 その通りだからです。
 3人に新宿まで行かなければならない理由はありません。
 まして、1日5分しか話せない善治郎に根気強く電車の運転を教わるほどの熱量なんてあろうはずがありません。
 葉香のことだって、行方不明になってからの2年間でとっくに諦めがついていました。

 吾野を流れる緩慢な時間のなかで、白米とゴーヤーばかり食べ、少しずつ人間らしさを失っていく大人たちと少しずつ文明らしさを失っていく街並みを見ながら、やがて自分たちも動物になっていく。
 そのつもりでいました。
 イヤだけど、そんな人生の終わりを受け入れるつもりでいました。

 「そんなにイヤなら吾野で待ってればよかったんだよ!」
 「イヤとか言ってないでしょ! 勝手に決めないでよ。晶だって自分で乗りこんだくせに!」

 「玲実と撫子ちゃんが乗らなかったら乗らなかったよ!」
 「あれは・・・。あのときはイキオイっていうかね、みんなそうでしょ?」

 別に吾野でも、吾野じゃないところでも、どっちでもよかった。
 都会に憧れはあるし、葉香のことも友達だと思っているし、吾野の暮らしもいうほど好きってわけじゃない。
 だけどその一方で、自分からわざわざ危険に飛び込む趣味も、何日かかるか見当もつかない旅をやり通す覚悟も持っていたわけじゃない。

 行きたいわけじゃないけど戻りたいわけでもない。どっちでもいい、どっちつかずの中途半端な気持ちが、玲実と晶の言葉を無意味にささくれ立たせるし、撫子は撫子で本音でもなんでもないただの事実の羅列を口からこぼれさせてしまいます。

 「ま――! 動いてる!」
 「ちょっと待て! 行く! 私も行く!」
 「ええっ!?」
 「待って! ウソ!?」
(第1話)

 イキオイといえばイキオイでした。
 その場でとっさに決めたことではありました。

 ただし、自然な流れではありませんでした。
 最初に玲実が同行を決めたときは撫子も晶もずいぶん驚いていて、そのくせ撫子は大した葛藤もなく玲実に続いたし、晶は信じられない選択だと反芻しつつもダッシュで飛び乗りました。
 そして3人とも、このときの自分の決断をまだ後悔していません。

 だって、どっちでもよかったから。
 吾野でも、吾野以外でも。

 普通、どっちつかずな気持ちのときは保守的な選択をするものなんですけどね。非日常に足を踏み入れるのって相応に心のエネルギーが要りますから。
 それこそ、7G事件という未曾有の大災害がまるで解決していないにもかかわらず、吾野が裏寂れた平穏を取り戻していたことからもわかるように。
 葉香とケンカ別れしてしまったことを強く後悔している静留以外みんな、彼女を心配する気持ちが2年の間に萎えてしまっていたように。

 「言っとくけど、静留ちゃんさあ――」

 だから。
 静留のように強い目的意識を持っているわけでもない3人が今ここにいるのは、本当は相当に特別なことなんです。

 「無理して来なくてもよかったのに」と、静留は言います。
 ええ。本当に、まったくもってその通り。
 撫子と、玲実と、晶は、あなたの言うとおり無理をしてまでここに来ているんですよ。

 何のために?

これは静留の旅

 「気ぃ散る。危ない」

 「もともとひとりで行くつもりだったし」

 「1人増えたら食料も減るしね」

 ついて来てほしいとも、来てくれると嬉しいとも言った覚えはありませんでした。

 邪険にするつもりはありません。友達だし。
 迷惑だとも思っていません。一緒にいて楽しいのは本当だし。

 ただ、みんなが一緒に来て何になるの?とは思います。

 どうしてみんなが何の覚悟もなく乗りこんできたのかよくわからなくて、
 どうしてそんなみんなが準備不足を嘆いているのかよくわかりませんでした。

 霧の中。

 これは静留の旅でした。
 静留だけが旅する目的を持っていました。
 みんな、葉香のことはもうあんまり気にしていないんだってわかっていました。
 2年経ってもまだ葉香にこだわりつづけているのは自分だけだって知っていました。
 だから、本当はひとりで旅するつもりでした。

 静留は割と考えなしです。
 冷静になってみるとまともな準備もできていませんでした。
 だけどひとりならどうにでもなる。
 多少の不便も、辛い思いも、パンツの替えを忘れてきたことも、自分ひとりだけの旅なら我慢できるはずでした。
 たとえ吾野に帰れなくなったとしても、そんなものは“自己責任”。

 ひとりでいるということは、自分のことにだけ責任を持っていればいいということです。

 だけど、みんながいると。
 静留は友達みんなの命に責任を持たなければならなくなります。
 だって。万一みんなに何かあったら悲しいから。

 「あのね、静留ちゃん。静留ちゃんがもし何も言わずに吾野を出てっちゃったら、静留ちゃんが葉香ちゃんがいなくなって悲しんだみたいに、みんなを悲しませていたかもしれないんだよ」

 静留は割と考えなしです。
 だからひとり旅なら自分のことだけ考えていればいい、みんなが来たら抱えなきゃいけないものが増えてしまうと思っていました。
 違いました。
 みんなが一緒に来ていようと、吾野に残っていようと、どちらにしろ静留の存在は静留ひとりだけのものではありませんでした。
 物理的にひとりでいるということは、社会的・精神的にひとりに切り離されるという意味にはなりませんでした。

 「じゃあ、もうひとつ謝って」
 「え?」
 「『無理して一緒に来なくてもよかったのに』って言ったこと。葉香ちゃんは私たちにとってだって友達なんだからね」

 みんなは、だから「無理して」までついて来てくれたのでした。
 静留はひとりじゃないんだとわかってもらうために。
 ううん。もっと単純な話、誰も知らないところで静留に何かあったら悲しいから。
 静留に心までひとりぼっちになってほしくなかったから。

 これは静留の旅でした。
 静留だけが旅する目的を持っていました。
 撫子はみんなも葉香のことを気にしていると言ってくれますが、それでも電車を動かしてまで探しに行く強い動機を持っていたのは、あくまで静留だけでした。

 みんなは静留の旅について来てくれているだけ。
 だけど、たったそれだけのことでも、みんなが旅する目的としては充分なようでした。

 「はあ――。ごめん。みんなのこと考えてなかった」

 このあと、高麗川の鉄砲水によって吾野へ帰る道は失われます。
 少しでも安全快適な旅にするための再準備もできなくなります。
 撫子と玲実と晶に対する責任が、改めて静留の両肩にのしかかります。
 この旅はもう静留ひとりのものではなくなりました。

 とたんに不安が押しよせてきます。

 「・・・ねえ! 本当に池袋に行くの?」
 「行くでしょ」
 「もはや行くしかないし」
 「静留ちゃんは?」

 「無理して」ついて来てくれた3人。
 だけどそれはけっしてなりゆきなんかじゃなく、確かにみんなの意志。
 静留の“せい”じゃなくて、静留の“ため”。

 みんなが一緒に来てくれることがこんなに心強く感じられるなんて、思いもしませんでした。

 「行く! 行って、葉香に会う!」

 静留ひとりだけのものじゃない、静留の旅がここから始まります。

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