終末トレインどこへいく? 第4話感想 どうか、永久不変でありますように。

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晶は昔っからそうなんだよ! ひねくれてて、一言多くて、すぐ人バカにして!

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「なんでおしり隠すの?」

大きな出来事

メインキャラクター:玲実

目標

 晶を元に戻す。

課題

 東吾野を出発して以降、晶の様子がおかしい。妙にお尻を気にしているし、なにやら上の空で玲実の言うことに素直に同意することすらある。

 お尻にキノコが生えているのを見つけてあわてて引っこ抜いたら、今度は幼児退行したみたいになってしまった。キノコと一緒に何か晶の大切なものまで抜いてしまったのかもしれない。迂闊な行動をしてしまった責任を感じる。

解決(未達)

 東吾野で玲実がキノコを抜いてもらったときはすぐ元の人格に戻れたはずだが、晶の場合は放置していた期間が長すぎたのか元に戻らない。みんなと相談して、稲荷山公園にいるという名医を訪ねることにした。

 稲荷山公園前駅を下りて周囲を探索中、玲実と静留は小人の軍隊の襲撃に遭い、名医を見つける前に捕縛されてしまった。

地域の特徴

武蔵横手○

 西武鉄道池袋線で最も利用者数が少ない駅。
 一時期、駅敷地内の除草のために4頭の親子ヤギを飼っていたことがある。ヤギ除草ブームの先駆けだったが、放牧前に敷地を見回って毒草を抜いておかなければならない,糞害や騒音公害を引き起こす,固い茎や根は食べたがらない,一方で敷地内の草が枯渇すると今度は根を掘り起こして食べるため土砂流出の原因にもなるなど、管理の難しさが知られるようになりブームは落ち着いていった。2021年に最後の一頭である母ヤギが亡くなった。

 7G事件以降はスワン仙人の「さらにその東ではゴートとの共存で獣の名は違えどもまさにこれ猪突猛進なり」(第2話)という言葉のままのありさまだった。東吾野のキノコ人間たちのようにこちらの人々はヤギとして生きることを選んだのだろう。
 とはいえ、駅舎前の草が生え放題になっているあたり、彼らは草を食べて生きているわけではなさそうだ。

高麗○

 高麗川の高麗(こま)。この地域は7世紀に朝鮮半島から逃げてきた戦争難民たちが定住したことに由来して高麗という地名で呼ばれている。駅前広場には朝鮮民族の道祖神である将軍標が建てられている。

 マンドラゴラのような奇っ怪な植物の正体は朝鮮人参。白い根っこに赤い花をつける。漢方材料として有名だろう。人参という言葉に「人」の文字が入っているのは、数本に枝分かれする根の様子がまるで人間のように見えるため。
 人間のかたちをしている,薬効が強い,珍重されているなどマンドラゴラとの類似項が多い植物だが、人型の植物に神秘性を見出す文化は東西問わず世界中にあり、おそらくは偶然だろうということらしい。

東飯能○

 このあたりから埼玉県飯能市の市街地。
 地図を見るとこの駅が最寄りのゴルフコースが6つくらいあるようだ。

 静留たちの電車が近づくと大量のゴルフボールが雹のように降ってきた。元は人間だったのかもしれない。「人がボールでザーザーザー!」
 線路沿線の地形はゴルフコースそのもの。そのくせ頭上までネットが張られているのはこれ打ちっぱなし練習場だろ。

飯能○

 東飯能駅の“西側”にある駅。スイッチバック方式といい、全ての電車が東側から乗り入れて東側へ出発していく。
 飯能市は森林と湖が多い景観のよい街で、市内にムーミンのテーマパークがある。飯能駅はこれにあやかって、2019年に北欧風木工の美しさを積極的に取り入れた駅舎リニューアルを行っている。劇中で線路分岐点の向こうにそびえ立っている謎オブジェは本来駅舎の中にあったもの。

 人間が流木アートのようになっていて微動だにしない。元ネタはよくわかんないが、もともと森林豊かな土地ということで木工が盛んではあるようだ。
 吾野で「全員木になっちゃったところもある」(第1話)といううわさ話が出ていたがこの地域のことだったんだろうか。

元加治○

 ここから埼玉県入間市。駅名は市町村合併で無くなった元加治村に由来する。

 劇中の駅周辺になにやら浮かれた建造物が建ち並んでいるが、これはムーミン作者の名前に由来するトーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園のもの。ムーミンの影響力すごいな!
 トイレが健在だったと静留たちが喜んでいた。一応調べてみるとこの駅舎のトイレ設備は2010年に改修したもので比較的新しく、いつも清潔だという評判のようだ。

仏子駅□

 近隣に国の重要文化財に指定された高倉寺観音堂がある。他に高正寺というお寺もある。

 この地域の人々は地蔵になってしまったようだ。自分で動くことができず、飲み食いできず、倒れたら倒れっぱなしだが、他の地域同様こうなってしまったことを楽観的に受け入れているようだ。

入間市○

 名前のとおり埼玉県入間市の市街地にある。

 劇中ではなんか大量の臓物が宙に浮かんでいた。元ネタはよくわかんない。市内にもつ煮込み自販機を全国展開している有名なお店の拠点工場と直営店があるが、もしかしてこれだろうか? 一本角煮定食が名物らしい。

稲荷山公園前◇

 航空自衛隊入間基地に隣接しており、航空祭のときは臨時改札口から直接アクセスできる。劇中に登場した緑色のフェンスは実際に自衛隊基地敷地境界に設置されているものと同じ。

 劇中の基地内には何故かミニチュアの市街と小人の軍隊がいて、静留たちを攻撃してきた。知らなかったとはいえ軍施設に不法に侵入したのだから制圧されて当たり前ではある。
 ちなみに電信柱(おそらく12m)が静留たちの身長より少し高いくらいのようなので、だいたい7分の1スケールくらいだろうか。ただ、別のシーンでは5階建てビル(普通は15m程度)が首元くらいに来ていたり、住宅地の道路(広めに考えて6m幅)で静留と玲実(1人あたり0.46m幅)が横並びできていたりするため、縮尺が統一されていると安易に思い込まないほうがいいかも。7Gの産物に法則性を期待してはいけない。

ピックアップ

グリーンサム

 植物を育てるのが上手い人を評する言葉。園芸が盛んで魔法も大好きなお国柄のイギリス発祥で、指先から植物に魔法をかけているイメージらしい。対義語はブラウンサム。

ギンバイカ

 常緑樹であることから不滅を象徴する縁起物として扱われ、西ヨーロッパでは古くから結婚式によく飾られてきた。花の美しさからアフロディテやデーメーテールなど女神ともしばしば結びつけられる。
 花言葉は「愛」「祝福」など。

 撫子にとって大切な想い出の花だが、何がそんなに大切だったのかは本人も覚えていない。

シリウス

 静留と葉香のコンビ名的なもの(?)。ふたりはお互いを応援しあうことを“約束の星”に誓いあった。

私服

 玲実のシャツは静留の荷物に混じっていた練馬の国のアリスグッズとして、他3人は東吾野でもらってきたやつだこれ。
 晶だけスカートなのはキノコを圧迫したくなかったからだろうか。

「教科書とか辞書とか、覚えたい部分をちぎって東郷せんべいに挟んで食べる」

 東郷せんべいというのは吾野の銘菓。かの東郷平八郎のライセンス商品で、元帥直筆の文章を焼き印にした甘い小麦粉煎餅(いわゆるハイカラ煎餅)らしい。いわれてみれば見た目学問に御利益ありそう。
 覚えたいテキストを食べるというのは昭和の大学受験生の間で広まっていたオカルトネタ。そうそう気軽に買えない高価なテキストをあえて読めなくする(捨てる)ことで不退転の覚悟を決める・・・くらいのニュアンスだったのだろうが、田中角栄あたりは本当に食べたという逸話が残っている。

 まさかのお尻キノコ継続。ああいうのって次話では何事もなかったかのように元に戻っているものじゃないの!?

 東吾野のときとは打って変わって今回はみんな問題解決に意欲的でした。
 もともと友達と離れたくないから静留についてきたって子たちですからね。静留が旅を始めたのも葉香と再会するためですし。自分の命の危機より友達がいなくなってしまうことのほうに切迫感を強く感じるというのはいかにもティーンらしい。

 人にはみんな、変えたいものと変えたくないものがあります。今の自分に満足できない部分は変えて、満足している部分は変えない・・・、というふうに理解すると話は簡単になりますが、じゃあさ、「満足する」って何?
 世のなか上を見上げたら際限ありません。どんなにお金持ちだったとしてもまだまだお金を稼ぐことができますし、学年一位の秀才にしたって世界にはもっと頭のいい人がいくらでもいます。そういう世界における「満足」って?
 玲実は吾野がろくな場所じゃないと思っていたから比較的気軽に電車に乗ることができました。一方、晶は東吾野についた時点ですらまだ吾野への未練を捨てきれずにいました。この違いは何でしょう? 晶が吾野での生活に満足していた、ということではありません。単純な話、晶は自分の生活基盤が変わってしまうことが恐かったんです。それだけ。
 同様に、晶は自分の友達がキノコに侵されて変わっていくのが恐かったから、東吾野ではキノコに抗いました。そのくせ自分自身にキノコが生えたときは抜くのが恐くて放置してしまいました。
 反対に、玲実や撫子はキノコになっても友達と一緒にいられたと思うから、東吾野の件が解決したあともイマイチ切迫した危機感を抱かずにいたわけです。そしてだからこそ、晶ひとりにだけキノコが生えた今回は大きな恐怖を感じることになるわけですね。

 人にはみんな、変えたいものと変えたくないものがあります。そしてその基準は必ずしも、今の自分に満足できるか、満足できないかという尺度で測れるものではありません。
 人には基盤があるんです。最低限自分らしくいられるための、自分の全体重を預けられるような、“ぜったいにたしかなもの”。それが変わらず在り続けるのなら、それが変わらないと信じられるなら、どんなときでも私は大丈夫。
 晶じゃなくても、何かを変えるのってすごく勇気が要ることだと思います。変えなきゃいけないってのはわかるんですけどね。周りの環境や人間関係は自分の意志に関係なくどんどん変わっていきますから。自分だけいつまでも同じままじゃいられない。だけど、それでも変わるのってすごくエネルギーが要ることだと思います。それまでの自分のままじゃいられなくなるって、本当に恐いことだと思います。
 そんなとき、せめて自分のなかの変わらない基盤、“ぜったいにたしかなもの”さえあれば、勇気を出して何かを変えたあとの私も、ずっと私のままで在り続けられる。そういうふうに信じていられるわけですよ。

 だから。人にはみんな、変えたいものと変えたくないものの両方があるんです。

 きっと静留にとっての“ぜったいにたしかなもの”は葉香で、
 玲実にとっての“ぜったいにたしかなもの”は晶だったんでしょうね。

信仰

 「すごいね、静留ちゃん。ねえ、静留ちゃんってなんで? なんでそんなすごいの?」
 「なんでそんなすごい・・・? そっか。なんでかな。やりたいからやりたいし、生きたいから生きたい、からかな?」
 「すごいなあ。私は何も・・・」

 葉香はぼうっとした子でした。
 目についた色々なものに心奪われてはぼんやりと思索に耽る。そのくらいしかできない子でした。
 誰かに引っぱられないと動かないし、誰かに声をかけられないと口も開かない。そういう子。

 そんな葉香を活動的にして、お喋りにしてくれる子がいました。
 静留。
 名前に似合わず騒がしい子。何も考えていなさそうな子。なのに誰より行動できる人。

 すごいなあって思います。
 葉香はひとりじゃ何もできないのに。

 「じゃあ応援して!」
 「え? ああ、うん。応援ならできる、かも」

 静留は本当にすごい。
 こんな自分にでもできることをすぐ見つけてくれる。

 応援したいと思いました。
 静留が、いつまでも葉香の思い描く静留らしい静留のままでいてくれるなら、きっと静留は葉香にできることをいつまでも与えてくれると思ったから。

 「私も! 私も応援する。葉香のこと応援する。むちゃくちゃ応援する」
 「私?」
 「うん!」

 うれしい。
 やっぱり静留がいれば安心だ。

 静留が友達でいてくれるだけで、きっと葉香は死ぬまで葉香のままでいられるのでしょう。
 応援してくれてうれしい。ずっと応援してほしい。
 今の葉香がいいんだよ、今のままの葉香でいいんだよって、静留にはいつまでも応援してくれてほしい。私のあるべき姿はいつも静留に決めてほしい。

 約束。

 「あのピカーって輝く約束の星に約束する!」
 「約束の星?」
 「今つけた名前」
 「シリウスじゃなかったかな、名前」
 「じゃあそれを私たちの名前にしよう!」
 「いいよ」

 だから、この日から葉香にとっての静留と、静留にとっての葉香は、お互い「シリウス(約束)」という名前に決まりました。

 そう、信じていました。

 「私、吾野柔術で総合格闘家になろうかな。で、アリクイと戦いたい」
 「いいんじゃない?」
 「マジメに聞いて!」
 「マジメだよ」(第3話)

 「・・・そうなんだ。静留ってそういう人なんだ」
 「はあ? なんだよ、そういう人って! 葉香こそそういう人だったんだ!」
 「そうだよ。私はこういうやつだから・・・!」(第1話)

 そんな、“ぜったいにたしかなもの”、だったもの。

ろくでもないやつ

 「明日の国語のテスト、どうやって勉強したらいいか全然わかんない。点数の取り方教えて!」
 「そんなことしたら零点玲実じゃなくなっちゃうじゃん」
 「なくなっていいの! なくなりたいの!」
 「うーん・・・。教科書とか辞書とか、覚えたい部分をちぎって東郷せんべいに挟んで食べる」
 「すごい!! さすが晶!」

 しれっととんでもない嘘をつく、ろくでもない幼馴染みでした。
 思いやりなんてほとんど見せてくれませんでした。
 玲実が言うことならとりあえず全部否定しにかかる性悪でした。
 もし離れて見ている第三者がいたらどうして友達を続けられるのか疑問に思うことでしょう。単に狭い集落の、数少ない同年代だったというだけです。

 それでも、いつも一緒にいました。

 晶の悪態を聞くのが、玲実にとって当たり前の日常でした。

 「ね、晶はどう思う? みんなで運転交代したほうがいいよね」
 「え? あ、そうだね・・・」
 「だよね! だってさあ――。・・・なんで? なんでそう思う?」
 「それは・・・。単純に疲れて居眠り運転しちゃったら危ないし、交代交代で運転すれば電車が動いてる時間が増えて効率いいじゃん。池袋にも早く着くし」
 「そうそう。私も晶と同じに思ってた」

 だからここ数日の晶はものすごく変でした。

 晶にだってそれなりの良識はあります。そして玲実も真人間ですから、意見が一致することくらい普通にあるでしょう。
 だけど晶ならとりあえず玲実の意見に異論を挟んでくるはずなんです。マジメな対立意見だったり、どうでもいい茶化しだったり。
 ものごとにはたくさんの側面があります。大筋で一致した考えだったとしても、枝葉の部分でなら必ず意見の分かれる部分があるものです。晶は頭がいいからそういうのを目ざとく見つけてケンカを売ってくるのです。いい感じの意見の不一致が見つからなくてもそれはそれ、人格攻撃すればいいだけ。ロンパの基本。
 晶というのはそういう、本当にろくでもない幼馴染みだったのでした。

 「玲実が学んだ。3日で池袋とか言ってたのに」
 「すごいでしょ」
 「でも玲実に運転できるかな?」
 「できますぅ。『電車でGO!』だっけ? それ的なのやったことあるし」

 だから、いつもみたいに小憎たらしいことを言ってくれていたほうが落ち着く――。

 「ま――! 動いてる!」
 「ちょっと待て! 行く! 私も行く!」
 「ええっ!?」
 「待って! ウソ!?」(第1話)

 初めに静留の旅に同行することを決断したのは玲実でした。いつメンから静留がいなくなるのイヤだったし、それに玲実が決めたら2人も一緒にきてくれること、なんとなく確信していました。
 撫子は場がそういう感じの雰囲気になったら追従してくる性格でしたし、晶は――。

 「晶ってばノリ悪ー。本当はワクワクしてんでしょ。顔に出さなきゃわかんないよー?」
 「ワクワクなんてできるわけないじゃん。いきなり出てきちゃって・・・」(第2話)

 晶はまあ、どうせ何があったって悪態をつくだけだし。
 いっつも不平をぶーたれてるの、玲実は毎日のように隣で聞かされていました。隣で。だから、晶が何を考えていようと、晶は一緒にきてくれる。それだけは確信できたのでした。

 そんな、玲実にとっての“ぜったいにたしかなもの”。

 「――なんで!? 私らのときは元に戻ったじゃん!」
 「もしかして、きのこが生長しすぎてたのかな? すごい長かったし」
 「え。何かダメなのも一緒に引っこ抜いちゃったってこと!?」

 「これって、私のせい――? 魂だ。魂抜いちゃったんだ。晶の小憎たらしいサブカル魂・・・!!」

変わらないでほしい

 「話ができるってことはさあ、ウソもつけちゃうし、ヤなことも言えちゃうし、ケンカとかしちゃうしさあ。争いの種がひとつなくなるんならさあ、喋れなくてもいい気がするなあ。そんでじーっとしてるの。暗くて、静かで、じめーっ・・・」

 このときはまだ、晶の隠しごとがキノコだったとは予想していませんでした。

 だって、玲実も体験しましたが、キノコって別に人格を乗っ取るようなものじゃないんです。ただ、ただ、安らかで無気力な気持ちになるだけ。キノコが生えても考えかたの基本はそこまで変わりません。

 晶の言うこと、すごくイヤだと感じました。

 玲実にとって晶は、悪態をついてこその晶でした。聞きたくもない憎まれ口をいちいち聞かされることこそが玲実の日常でした。
 あの日、静留が電車で吾野を去ろうとしていたとき、迷うことなく電車に飛び乗りました。玲実の日常が壊れそうだったから。電車の中にこそ、玲実の日常が守られる可能性が残されていると思ったから。撫子も晶も絶対一緒に来てくれると思っていたから。

 晶の言うこと、すごくイヤでした。

 もしかして晶は本当は玲実にケンカなんて売りたくなかったのかもしれない。
 その可能性を考えてしまうのが、イヤでした。
 大丈夫。無気力になるからウソとかヤなこと言うとかケンカとか嫌なんだって言っているだけのはず。

 だからキノコを抜きました。自分のときはこのままキノコになってしまってもいいかなってちょっと思っていたにも関わらず。
 晶がキノコになるのはイヤでした。晶が変わってしまうのはイヤでした。たとえ晶が本心でどう思っていたとしても関係なく、とにかく玲実がイヤだから、イヤでした。

 その結果、まさか晶が本格的におかしくなるかもなんて考えもせず。

 「吾野戻ろう! 今なら水引いてるかも」

 「ねえ! このまま晶死んじゃったりしたらどうしよう!? やだそんなの絶対!」

 「・・・だって、私が――

 エゴでした。

 晶のキノコを抜こうと思ったの、完全に自分のことしか考えていませんでした。
 自分がこんな晶イヤだと思ってしまったせいで、晶のことをもっとおかしくしてしまいました。
 晶が本当はどうしたかったのか確認しようともしなかったんだから、悪いのは全部自分なんだと、そう思わずにいられませんでした。
 ひどく居心地が悪くて、居ても立ってもいられませんでした。

 「晶・・・」

 思い返すのはよりにもよって、晶にろくでもない嘘をつかれた日の想い出。
 まったく、どこまでも――。エゴでもなんでも、ろくでなしの晶が隣にいる日常こそが、玲実にとっての“ぜったいにたしかなもの”なのでした。
 壊したくない。変えたくない。7G事件が起きて、世界の仕組みがガタガタに崩れてしまってもなお、それこそがこれまでの玲実を支えてきたものだったのでした。

 「イヤだ! 取らないで! せっかく安寧を手に入れたんだ!!」
 「バカ! このままじゃ1~2年で死んじゃうの!」
 「いいんだ! ペシミシティックでカッコいいし、私はこんなよくわからない世界で不安に苛まれながら生きていたくない!」

 晶なら本当にそういうことを言う。だからここまで気づけなかった。

 「晶は昔っからそうなんだよ! ひねくれてて、一言多くて、すぐ人バカにして! 自分に何かあっても誰にも言えないで、大変なことになっちゃっても無理して強がって! 本当は超ビビリで! 超泣き虫のくせに!!」

 晶なら本当にそういうことを思うのかもしれない。だけど、玲実が知っている晶はそういう子じゃない。
 仮に本気でそういうことを思っていたとしても、玲実は晶にそういうふうに思っていてほしくない。
 悪態ついてても本当は友達だと思っていてほしくて、ケンカばかりだけど本当はそんな毎日を気に入っていてほしくて、いっつもバカにしてくるけど本当はみんなと一緒にいるのが一番安心できるって思っていてほしい。
 だって玲実がそうだから。玲実は晶もそういう子なんだと思っていたから。

 エゴでした。どこまでもエゴでした。

 だけど、そんなエゴまみれの自分が晶の異変に一早く気づけたのだから。
 このエゴでしかないと自覚している思いが、ある程度だけでもいい、晶にとってもどうか真実でありますように。

 “ぜったいにたしかなもの”よ。どうか、永久不変でありますように。

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