違う。何も犠牲になんかなってない。前からこのまま。そしてこれからもこのまま・・・! そんな世界なんて知らない! 嘘つき!
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「思ってたよりつまんないみたいな」
大きな出来事
メインキャラクター:この世界
目標
世界が消えることを避ける。
課題
全ての異変の中心である葉香はポンタローの手により池袋に囚われ、白昼夢のなかを生きている。
こんな世界を旅しようという奇特な人々のおかげで、今のままでは世界が消滅してしまうことに気付く人も現れはじめたが、肝心の葉香を押さえられない限りどうすることもできない。
なにせ、依然としてこの世界のほとんどの人は世界の終末を受け入れてしまっている。
解決しうる可能性
世界が消える問題を回避するためには、まず世界の終末を望まない人が葉香と対話する機会をもぎ取り、彼女に今のままではいけないことを理解させ、それでいて彼女が前に進めるよう背中を押してやらなければならない。
それができるのはおそらく、小学生のころから一貫して彼女にとってのヒーローだった、静留だけだ。
ただし、今の静留にそういう自覚はない。葉香の夢を応援する勇気もまだない。
地域の特徴:石神井川(しゃくじい-がわ)
練馬高野台駅と富士見台駅の間を流れる川。前話の大泉学園駅からは2-3駅離れている。
東京都内なので実際の跨線橋はもちろんあんな大自然ではない。むしろ石神井川は水量の非常に少ない川で、練馬区内はまだしも、もう少し上流に行くとところどころ涸れ川(要は水たまり)になっているレベル。
荒川水系で、荒川→隅田川→石神井川と分岐している。高麗川も荒川水系(高麗川→越辺川→入間川→荒川の流れで合流)なので一応つながっているといえばつながっているのだが、スワン仙人は西吾野(=高麗川の上流側)を目指していたはずなので方向としては逆。
高麗川は吾野から西吾野にかけてずっと線路沿いに流れているため、本来なら川を上るだけで西吾野に辿りつけていたはず。それが西吾野に行けず石神井川にワープしたのだから、第2話でスワン仙人が言っていた「7G事件でここ西武池袋線沿線以外の世界は消えてしまった」という発言が裏付けられたことになる。吾野から西は線路こそつながっているが、西武池袋線ではなく西武秩父線の扱いになるのだ。
まあ、それはそれとして西武池袋線は全てが川に沿って敷設されているわけではないので、スワン仙人がこれまでどういうルートで旅してきたのか気になるところではある。今までもちょこちょこワープを経験してきたんだろうか?
設定考察
スワン仙人の地図 改訂版
各駅のイラストが加筆され、空白だった駅が全て埋まり、勘違いされていた渡りゾンビの発祥駅が訂正された他、○や◇などのマークが一部変更されている。スワン仙人はやはり意図的にマークを使い分けていたようだ。
そこまでしてくれるならマークの意味くらい教えていってよ!
○が“意思疎通できない”、□が“意思疎通可能”というのはわかるが、相変わらず◇がどういう意味かわからない。武蔵横手のヤギ人間が◇に格上げ(?)されているということは“危険地帯”という意味だろうか?
ただ、そうなると今度は稲荷山公園前のミニチュア自衛隊が◇据え置きで大泉学園のネリアリランドが□に格下げされていることに矛盾する。どちらも静留たちのおかげで危険な勢力は排除されたはず。
7G関係者がいる場所という可能性はドクターが吾野に移動したことで否定されるし、残る可能性はやはり未来を諦めていない(終末世界に染まっていない)地域ということか・・・? でも武蔵横手・・・。
「ではなぜ人類は134億光年彼方にある銀河について知りえたと思う? 探究心だよ、探究心! そして冷静な観察力!」という発言からして、スワン仙人は各地域を自分の目で確かめると同時に、何か遠方地域の様子を観測する手段も持っているのかもしれない。
仏子の地蔵に静留たちがお供えしたみかんが描き加えられていたり、武蔵藤沢の渡りゾンビに女王が描き加えられていたりと、静留たちが見聞きした情報もある程度反映されているようだ。
入間市のフライング臓物が□に格上げ。・・・あそこに意思疎通可能な存在いたの!?
エントロピー増大と熱的死
「キノコにエセ巨人にゾンビに、大河と化した高麗川。たしかに世界は大きく変化した。だが、私が言いたいのは今もなお続く変化のことだ。世界は収縮し、池袋は膨張し、世界の法則は混迷の度を深めておる」
「“膨張”ってそれ、繁栄の言い間違い?」
「違う! 膨張だ! 池袋がいびつに膨れあがっているのだ!」
「膨れあがったあとはどうなるんですか?」
「消える」
「えっ!? それって池袋が? 吾野は?」
「ぜーんぶ消える」
「止められないの?」
「ない!」
「『7G、暴走止めないと池袋すら消える。7Gの大本を突き止め、壊れた世界を修復しなければならない。そしてポンタローの更なる企みを粉砕し、阻止する必要がある』――少し戻ってきた? いや待て。池袋が消えるとはどういうことだ? 『エントロピーの増大。宇宙の膨張のミニマム版。ビッグリップ。シャボン玉消えた、壊れて消えた』」
以前から気になっていた設定がある。
「私たちの変化はおそらく噂の7G事件がきっかけです。街は膨張を続けたあと、反動で小さくなってしまいました」(第5話)
稲荷山公園前地域はミニチュアになる前、一度街が膨張していた時期があるという。
この設定、劇中で起きた事件を説明するうえで一切必要無かった。どうしてこんな無意味な情報を挟んだのかずっと引っかかっていた。
今思えばあれは池袋の未来を暗に示すものだったのだろう。
私たちの生きる現実の宇宙はエネルギー的に不均一である。
宇宙はエネルギー密度の高い地点で膨張を続け、膨張することで更なるエネルギーをも生産し、やがてその地点でエネルギーを受け止めきれなくなったときは爆発してエネルギー密度の低い地点へとエネルギーを移動させる。移動した先でエネルギーはまた宇宙を膨張させ、新たなエネルギーを生産していく。そういう仕組みでできている。
私はSFの教養がほぼ無いので正しく理解できているか怪しいが、善治郎が言っている「宇宙の膨張」というのはだいたいそういう話らしい。
宇宙はエネルギー的に不均一なまま常に対流しており、エネルギー密度の高い地点で宇宙膨張とエネルギーの再生産を行い、エネルギー密度の低い地点は持てあましたエネルギーの受け皿としての役割を担っている。
これがもし、対流しているうちエネルギー密度がどの地点でも均一になったとしたら?
その場合、宇宙の膨張は止まり、エネルギー生産も途絶える。すなわち宇宙は二度と活動することができなくなるだろう。これが「ビッグリップ」。宇宙の終焉。
スワン仙人曰わく、7G事件後の世界は全体として縮小傾向にあるという。
静留たちの旅を通して各地域を見てきた私たちには実感が湧く話だろう。ほとんどの地域の人々は世界の終末を受け入れ、自らの終末を待って惰性で生きている状態だ。すでに人の心からエネルギーは失われている。誰も新しいことに挑戦しようとしない。
唯一膨張を続けているのが池袋。というか、おそらくは7Gの大本である葉香その人。
彼女はポンタローにより思考をコントロールされているようで、今の世界を楽しいものと認識し、この世界でただひとり未来を楽観視している。その心のエネルギーが池袋を膨張させ、彼女自身にも超常的な力を与えているわけだ。
7G事件後の世界を支えている唯一のエネルギー生産拠点といえるのかもしれない。
「膨張している池袋が安全で繁栄していると思ったら大間違いだ。逆だ、逆。住人は出て行けないからそこに封じられている。私がこうしているのは運がよかっただけだ。池袋の魔女王は深淵そのものだ。彼女は謎と未知と恐怖で成り立っている」
ただし、それはポンタローが葉香の耳に入りうる情報をことごとく封鎖し、葉香の思考を浮世離れした方向に誘導しているからだ。
宇宙空間に喩えるなら、何らかの理由で周辺空間とは隔絶したエネルギー量を蓄え、さらに自身の重力によりエネルギー流出を妨げている天体――。ブラックホールのような存在に、葉香はなっているものと考えられる。
もし葉香があるがまま今の世界のありようを理解し、正常な思考力で物事を判断したとしたら、たちまち彼女は未来に期待する心のエネルギーを失ってしまうだろう。葉香が絶望した瞬間、7G事件後の世界は終わる。
ポンタローのやりかたには無理がある。強引に耳を塞いだところで、聡明な葉香はそう遠くないうちに自力で真実に辿りついてしまうことだろう。これは世界の終末を先延ばしにしているだけに過ぎない。
もし世界が消滅してしまうことを避けたいのなら、ビッグクランチが必要になるだろう。膨大なエネルギーの一点集中によりもう一度ビッグバンを引き起こすこと。新しい宇宙の創造。
そのためには、今の人間性に乏しい葉香の心のエネルギーではおそらく全然足りない。
長々と私の得意分野ではない考察を書いたが、要は静留が葉香の夢を応援してあげられるかどうかに世界の命運がかかっているということだ。
ピックアップ
ポイズンポンタロー
The 小者。反対派の意見を封殺して7G開通を強行した元凶であり、7G事件後は池袋の市長として君臨しちんけな自己顕示欲を満たしているらしい人物。
葉香にウソの記憶を吹きこんで何がしたいのかと思いきや、どうやら7G失敗の責任を取りたくないから元の世界に戻す動きを抑止しているだけのようだ。第一話の静留の想像大当たり。
「異変の原因は7G回線の暴走のせいだろうっていわれてる。ただ、元に戻す方法は全然わからない。ていうか戻す気はないんじゃないかって気がする」(第1話)
ポチさん
なんかしれっと電車に帰ってきてた。
重要な伏線だったのかもしれないし、単に制作の都合で前話は描けなかっただけかもしれない。(このアニメは音声収録を何年も前に終わらせているということなので、作画は今も鋭意制作中といえど脚本の修正ができない)
たまに様子がおかしくなることがあるが、もしかして大男のポチの思考の影響を受けているのだろうか。
ポチ
葉香が7G開通スイッチを押したあと突如現れた謎の人物。元の世界のセレモニー会場にはこんな目立つ容貌の人間はいなかった。
正体はたぶんたまたま羽休めに来ていたカラス。
ダークマター
ポンタローのどうでもいいヨイショを聞き流して葉香がふと思いだした天文学用語。
現在立証されている物理学だけでは宇宙の膨張に関する各種観測データを説明できないため、おそらく存在しているだろうと予想されている物質のこと。実在が確かめられているわけではない。宇宙膨張にあたって発生しているはずの莫大なエネルギーが観測できていないことに何らかのかたちで関わっていると考えられている。
これが思い浮かぶあたり、葉香は薄々すでに池袋の膨張が天体現象に似ていることに勘づいているのかもしれない。
テレビゲーム好きと言及されているのは、カミオカンデを用いて史上初のニュートリノ観測に成功した小柴昌俊氏のこと。『ファイナルファンタジー』シリーズのファンだという。
ニュートリノはダークマターの一種ではないかと期待されていた物質だが、実際に観測してみると質量が非常に小さくエネルギー量に乏しかったため、現在はダークマターではないという考えが一般的だ。
ありがとね
「ありがとね、つきあってくれて!」
ふと、言いたくなりました。
「あのね、静留ちゃん。静留ちゃんがもし何も言わずに吾野を出てっちゃったら、静留ちゃんが葉香ちゃんがいなくなって悲しんだみたいに、みんなを悲しませていたかもしれないんだよ」
「う・・・。そっか。それは考えてなかった。ごめん」
「じゃあ、もうひとつ謝って」
「え?」
「『無理して一緒に来なくてもよかったのに』って言ったこと。葉香ちゃんは私たちにとってだって友達なんだからね」
「はあ――。ごめん。みんなのこと考えてなかった」(第2話)
これは静留の旅でした。
みんなは何の準備もなく、大した目的もなく、とっさに電車に飛び乗っただけ。
2年間葉香を探しつづけたのは静留だけでした。他のみんなはとっくに諦めていました。
静留が葉香のことを諦めきれなかったのは後悔があってこそでした。2年間誰にも打ち明けることがなかった、葉香失踪直前の大ゲンカ。あのとき葉香がどうして怒ったのか知りたくて、静留はずっと葉香の行方を探していたのでした。
撫子たちだって葉香との付きあいの長さは静留と同じくらいあるはずでした。けれど彼女たちは静留ほど必死に探しているわけじゃなくて。吾野の大人たちと同じ気まずそうな表情を浮かべるだけで。
だから、それが普通なんだろうと思っていました。
ついて来てほしいとも、来てくれると嬉しいとも言った覚えはありませんでした。
かといって邪険にするつもりもありませんでした。友達だし。一緒にいて楽しいし。
ただ、みんなが一緒に来て何になるの?とはいつも思っていました。
みんな無理してついてきてくれたはずです。
だってみんな、静留が旅立たなかったら今も吾野で平和に暮らしていたはずです。
全部静留がきっかけで。
全部、静留と葉香のためで。
「やばいよ・・・。食べかけのお弁当箱そのままにしてきた気がする。たぶん布団の上か、中」
「中ってどういうこと!?」
「・・・きっとお母さんがなんとかしてくれてるよ!」
「そうそう。レッサーパンダって食べる前に洗うんだもんね」
「それはアライグマでしょ」
「あれ? レッサーパンダって洗わないんだっけ?」
「はは。料理するときとか食器はちゃんと洗ってたよ」
「じゃあ大丈夫だよ」
「何そのオプチミズム」
「楽観主義ってこと?」
「晶だってなんとかしてくれるって言ってたじゃん」
「それはそうだけど」
どうでもいいですがアライグマも洗いません。あれは魚を捕まえるために手を川に浸して水流を読んでいるだけです。
「――誰かが、なんとか・・・」
みんなのしょうもないお喋りを聞いていると気持ちが穏やかになります。
きっと今までもずっと、知らず知らずのうちに、友達や、家族や、吾野のみんなに助けられていたのでしょう。
きっと自分はそれを当たり前のことのように享受して、その有り難みに気付かず過ごしてきたのでしょう。
水のように。空気のように。葉香のように。
だけどみんな。きっと本当は。ただたまたまそこにあったというわけじゃなく、大なり小なり静留のためを思ってくれていて、静留のために色々してくれていたからこそなのでしょう。
この旅だって――。
だから、ふと、言いたくなりました。
ありがとうって。
少し前までは巻きこんで申し訳ない気持ちしかなかったけれど、今はなんだか感謝したい気分。
「・・・何? いきなり」
「びっくりした、もう」
「付きあいできたんじゃないよ。行きたいと思ったから来たんだよ」
「うん! 結構楽しいし」
「帰ったら21歳と3ヶ月になる前に旅行記まとめなきゃだ」
今ならこう思います。
みんな、必ずしも自分のためだけについて来てくれたわけじゃない、って。
みんなにもみんななりの旅する理由があって、それでたまたま一緒の時間を過ごせているから、自分のことも気にかけてくれるんだって。
優しい人のなりかたを誰か教えてほしかった。
頼れる人のなりかたを誰か教えてほしかった。
きっとそれは誰かのために無理することじゃない。
あくまで自分のために。だからこそ自分が大切に思う人のために。少しだけ良いことをしようとするから、自然とそうなるだけなんだ。
楽しい。
みんなが一緒に来てくれて、よかった。
いつも一緒にいます
「おはようございます」
「おはよう――。あれ? 私、何してたんだっけ? なんかぼやぼやする・・・」
目を醒ますと見たことない天井があって。知らないベッドの上で。そして初めて見る厳つい男の人が自分を見下ろしていて。
「散歩をしなくてはいけません。ウンコすることも大事だと言われました。早く起きてください。散歩に行きましょう」
だけどこの男の人が妙に愛嬌のある人で。
至極真面目な顔でびっくりするくらい間の抜けたことを言ってくる人で。
聞いてて気が抜けてきて。
「ふふっ。ポチさんみたい。散歩が好きで、いつも一緒にいる、うちで飼っている大きな犬。それに強くて優しいんだ」
「そうですか。では、私をポチと呼んでください。いつも一緒にいます。大きな体になりました。たぶん強いです。飛んだりすることは今となっては難しくなってしまいましたが、それは大きな問題ではありません」
「でも、あなた――」
「私はポチ。散歩に行きましょう」
どうやら、この男の人は意味がわからないくらい誠心誠意自分に尽くしてくれようとしているようです。
そういうところもなんだかポチさんに似ている気がしました。
元保護犬で、たくさん辛い目にあってきたはずなのに、いつも強くて優しくて、かわいくて。
頼ってもいい、気がしました。
「やっぱり街はいいね。賑やかだと気持ちもアガるし」
「静かだと気持ちも落ち込みますか?」
「静かだと――。静かなときに何かあると落ち込むっていうか。静かでもいいんだけど、いや、えっと、どうだっけ・・・? とにかく。都会もいいってこと」
「はい。そうです」
「先日、私の部下に渋谷新宿上野あたりを探索に行かせましたが、見つかりませんでした」
「へえ。大変」
「しかし! 池袋は姫のご威光によって絶好調にして万事順調であります!」
「――ダークマター」
「は?」
「って、まだ見つかってないんだっけ? ポチ」
ポチの前では少しだけ自分の気持ちを外の空気にさらしても大丈夫な気がしました。
葉香は都会が好きでした。
どうして好きなのかは自分でもよく覚えていません。
ただ、好きなものは好きで、それに今はあまり静かな場所にいたくない気分でもありました。
どうしてそう思うのかも、よく覚えていないのだけれど。
対して、ゴンタローだかトンタローだかいう姦しい人のことは苦手でした。
この人が褒め称えているのを見ると、自分ではそれなりに気に入っているはずの池袋も、なんだか急にどうでもいいような気さえしてくるのでした。
心のこもっていないおべんちゃらを聞かされるより、静かに天文学に耽っているほうがよっぽどマシでした。
「お前の力は知ってるぞ、池袋の魔女! お前がつくった池袋など紛い物だ!」
どういうわけか、池袋には葉香のことをよく思わない住人が少なからずいるようでした。
どういうわけか、ポチはそういう人が襲ってきたとき必ず葉香を守ってくれていました。
どういうわけか、モンタローとかいう人は葉香が彼らを無力化するとき妙に楽しげなのでした。
「なんであの人はこの世界が嫌いなのかな? 楽しいよね?」
「何故でしょう。葉香様が楽しいと思えるのであれば、私も楽しいです」
「楽しい、のかな? 楽しいって何だろう・・・?」
ポチが一緒にいてくれてよかった。
ポチはいつでも葉香のために心を砕いてくれています。
ポチは葉香が楽しいなら自分も楽しいのだと言ってくれます。
だから葉香も誠実に、ポチのためにも、今が楽しいのだと、・・・思いたい。
楽しいって、何だっけ?
・・・あるよ
「・・・結局、自分でどうにかするしかないんだよね」
「それはどうかな?」
「え――?」
「混乱してしまったこの世界をどうにかさせまいという力が池袋に存在する気がしてならない。お前たちが池袋に向かうとなると、その恐ろしい力と対峙することになるやもしれんぞ。その覚悟はあるのか? 私にはない!」
7Gでおかしくなってしまった世界を本気で元に戻そうとしている人はおそらくほとんどいません。スワン仙人の話を聞いて、改めてそれを実感します。
もし、静留たちにとって元の世界の方がよかったのだとしたら、それは静留たちの力で勝ち取るしかないのでしょう。
静留はそういうふうに考えます。しかし、仙人の考えは違うようです。
池袋にはおかしくなった世界をむしろ積極的に維持しようとしている勢力が存在すると思われる。
世界を元に戻すなどという大それた事業を行おうとするなら、想像もつかない困難さにさらに輪をかけて厳しい道となるだろう。
そんなものに本気で取り組もうとする人間がどこにいる?
静留たちの旅の目的は葉香です。別に世界がどうとかいう大志を抱いて吾野を出てきたわけじゃありません。
葉香が何かとんでもないことに巻きこまれているのは薄々わかってきました。
だけど、静留自身その事件から丸ごと全部解決してしまいたいと思っているかというと、別にそんなわけじゃないはずで。葉香と話ができさえすればそれでよかったわけで。
仙人はそのことを言っています。
ただ、静留には違った意味で聞こえました。
吾野を旅立ったときは、自分がやりたいと思ったことは全部自分で動かなきゃ何も始まらないものだと思っていました。
今は少し違います。自分でやらなきゃ何も始まらなかった。それは確か。だけど、そんな自分も撫子や玲実、晶、そのほかにもたくさんの人たちに支えられている。そう実感しています。
静留には何に抗ってでも世界を元に戻そうなどという強い覚悟はありません。
ならば、やはり世界は遠からぬ終末の日までずっとこのままなのかもしれません。
いいえ。もし、元の世界の方がいいと考える人が他にもいるのなら。たくさんいるのなら。そしてお互いに手を取りあえたなら、そのときは――。
「人は変わる。世界も変わる。ずっと同じものがあるか?」
葉香のことについて、仙人がイヤなことを言います。
私たちが足を下ろしているこの地球でさえ、たえず自転して、なおかつ公転しているのです。ひとつところに留まれるものなどこの世のどこにもありません。ただの一瞬たりとも。
変貌しつづける今の世界を愛してやまない仙人だからこその物言いです。
「・・・あるよ」
低い声での呟き。
静留にとっては認めたくない話です。だって、葉香が変わっていくことを認めてしまったら、葉香は大学に行ってしまって、天文学者になってしまって、新型の惑星探査衛星とか? 宇宙ステーションの誘導や制御技術の開発とか? 静留には絶対に手の届かない遠いところに行ってしまう――。
「そうか。しかし、それは同じに見えているだけだ」
「変わらないとすれば、それは同じところに留まるべく動きつづけているから?」
「そのとおり! 永遠や不滅など存在しない」
変わらない世界など無いように、変わらない人だってありえません。
葉香は変わってしまったのでしょう。魔女王なる称号が相応しいかはさておき。ならば、静留も変わらなければいけないのかもしれません。
いいえ。すでに静留は変わりました。この旅を経て変わりました。あとは本人が認めるだけ。
葉香が変わり、静留が変わり、人というものが変わりつづけるものであるならば――、7Gで変貌してしまったこの世界だって変わるでしょうとも。
今はまだ、静留は自分と葉香の変化を認めていないわけですが。
さて。以上を踏まえたうえで、最後に私からあなたへ問いかけます。
静留は「ずっと同じもの」があると主張しました。
これは真実を言い当てているでしょうか? それとも、間違っているでしょうか?
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