スタートゥインクルプリキュア 第8話感想 あなたを尊重して、それから私も――。

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顔をあわせて笑顔になれたら、もう友達なんだけどなあ。

(主観的)あらすじ

 宇宙へ飛びたち、スターカラーペンダントに導かれてやって来たのはケンネル星というところでした。この星では骨の雨が降り、毛むくじゃらの犬みたいな人たちが、自分たちの美しい毛並みを誇りとして暮らしていました。
 ケンネル星人のドギーは初めて会うひかるたちを警戒し、友好の証として自分たちの星の様式の挨拶を求めます。正直なところ、地球人にはちょっと難しいし恥ずかしい動作でした。それでもひかるは果敢にチャレンジしてみるのですが・・・。
 一方で、えれなは逆にドギーに地球式の挨拶を求めます。星や人のいろんな違いはさておき、顔を合わせて笑顔になれたら友達のはずだと。

 さて、ひかるたちの探していたプリンセススターカラーペンはケンネル星においてご神体として愛されていました。
 ひかるたちが自分たちの事情を伝えると、「俺たちを騙すつもりだったのか!」 当然ドギーはいきり立ちます。挨拶のときはうまく立ち回ったえれなもこればかりは強く出ることができません。ドギーがどれほどペンを大切にしているのか、気持ちが伝わってきます。
 だからといって、持ち帰らないわけにもいきません。

 そこにノットレイダーも現れました。プリンセススターカラーペンを守るべくひかるたちは応戦するのですが・・・、ドギーからしたらどちらもペンを狙うワルモノでしかありませんでした。
 それでもドギーたちを思ってペンを守ろうとするえれな。友達の傷つく姿を見て、ドギーの心は揺れます。
 ドギーは知りませんでした。ペンを使えばプリキュアがパワーアップできることを。ペンがあればえれなを助けられることを。遅まきながら説明不足だったことを謝罪したプルンスからそのことを教わって、ドギーは大切な友達のため、自分たちの大切なペンをえれなに預けることを決めました。
 プリンセススターカラーペンの力を得たえれなはみごとノットレイダーを撃退し、友達の星の平和を守ることができたのでした。

 宇宙進出初回からいきなりエラく難しいコンフリクトを突きつけられた今話。
 友好役と憎まれ役をえれなとプルンスで分担させたり、プリンセススターカラーペンを持ち帰っていい理由づけがぽっと出だったりと、ちょっと卑怯な話運びも目立ちましたが、今回のはホント難しい問題なのでさすがに仕方ないかな?
 でもたしかに、多少ムチャがあってもこの話は最初にやっておくべきだと思いました。 多様性を受け入れるってこういうことです。価値観を共有できない相手がいるかぎり、どこかで絶対お互い譲れないものがかち合います。両方の都合を同時に満たせないのなら、そこで争うのか、一方的に譲るのか・・・。どちらにしても不幸な結末は避けられないでしょう。それこそ、プリキュアとノットレイダーの関係からしてまさにそういう状態ですしね。
 ひかるたちはこれからも今回みたいなコンフリクトをたくさん経験していくことになるでしょう。宇宙へ飛び出し、様々な星の文化と出会いつづけるかぎり。

 今回、プリキュアもノットレイダーと同じだと言われてしまいます。
 いつかはお互い譲れないものがかち合ってしまう以上、自分と違う誰かとの出会いは絶対に不幸を呼んでしまうからです。嫌うしかなくなるからです。憎むしかなくなるからです。いくら友達になりたい気持ちがあったとしても。

 だったら、そもそも価値観の違う他者と交流を広げることは間違いだったのか?
 ――そんなさびしい考えかたを否定するため、えれなはこれからもっと強くならなければなりません。

異星文化

 「俺たちを見ろ。この全身ふさふさの毛並み! このツヤ、この美しさ!」
 「地球人、なんてツルツルのお肌なの」
 「残念。地球人、気の毒だ」

 
ケンネル星人は自らの毛並みを誇りとしています。
 どうしてそんな価値観が根付いているのかといえば、その理由のひとつはどうやらこの星独特の雨にあるようです。ケンネル星の雨は骨の雨。素肌に当たると痛いですが、ふさふさの毛皮があればどうってことありません。だから彼らの間では毛並みのよさが一種のステータスになっているようです。
 こういう地味なところで地味な理由づけがなされているのが『スタートゥインクルプリキュア』です。あいかわらず地味にSFしてます。翻訳やら環境適応やらの本格的にメンドクサイ部分をスターカラーペンダントにぶん投げているのはご愛嬌。

 「実はご先祖様の頭には元々尻尾があったんだけど、壊れてしまって困ってたんだ。でもこのあいだの祭りの日、雨のなか空に1本の光る骨が現れ、それがちょうど尻尾のないご先祖様の頭に――。尻尾をピンと立てた堂々とした姿! しかも輝きが毛並みを美しく見せている! きっと天からの贈り物だってみんな大喜びしたんだ」
 
宗教が整備されていない文明では、たいてい祖霊信仰か自然信仰のいずれかが興ります。人間は身のまわりに絶対不変の何かを求めたがるものだからです。
 どうしてそうなるのかといえば、世のなか理不尽なくらい不安定なことばかりだから。ひとたび大きな自然災害が起きればあっさり生活基盤が崩壊するし、何か大きなケガをしただけでもこれまでと同じ生活は続けられなくなる。そういった不確定未来への不安を和らげるため、身のまわりに絶対的な存在を見つけるんです。
 祖霊信仰であれば、たとえばご先祖様は何代にもわたって何が起きてもこのコミュニティを維持してこられたんだから、自分たちもきっと同じことができる。
 自然信仰であれば、たとえばこの川はこれまでずっと豊かな恵みをもたらしてくれたんだから、多少の氾濫が起きてもきっとまたすぐ元の姿に戻ってくれる。
 かつて未来を連綿と繋いできた先例が存在するという安心感が、今度は個人の未来を信じる思いにもつながっていくんです。 まるでご先祖様の像を祝福するような自然の恵み――。ケンネル星の人々にとって、プリンセススターカラーペンの輝きはきっとそれほどに心の支えとなる大切なものでした。
 (と、書いておいてなんですが、この宗教観に関しては製作スタッフもさすがにそこまで考えていないはず。ちょっと予定外に筆がノってしまった私のお遊びです。宗教的な象徴がいかに大切なものなのかという話だけするつもりでした)

 「違う! この星の挨拶はこうだ! ワオーン! ワオーン! ネギー! マギー! ドギー!」
 で、この挨拶。どうしてこんな珍妙な様式になったのかは皆目見当もつきませんが、とりあえず地球人にはマネすることすら不可能です。私たちの体は逆立ちしたまま自分の身長以上の跳躍ができるような構造になっていません。
 文化とは環境条件やいくつかの偶然によってかたちづくられるものであり、従って別の文化圏から訪れた人たちが必ずしも完全に受け入れることができるものとは限らないんです。
 かつてひかるはサマーン星式の挨拶を実践したことがありますが、あれだって本来はお互いのセンサーを接触しあう行為。あくまでララが指でも認めてくれたから、できたということになっているにすぎません。

 「ふん。やっぱり毛がないやつらには無理だろう」
 
無理なんですよ、実際。いくらひかるがどんなことでもとりあえず受け入れようとチャレンジしてみる子であったとしても。彼らと全く同じ文化様式に合わせてあげることはさすがに不可能です。
 ひかるたちとケンネル星の人々は生活環境から体の構造まで、あまりにも違いすぎます。

歩み寄り / コンフリクト

 「そうだね。その挨拶はうまくできそうにないし、私にはあなたたちみたいに立派な毛もない。だから、私たちの星の挨拶をするね」
 握手は手のひらにたくさんの感覚神経が集中しているホモサピエンスだからこそ意味のあるコミュニケーションです。ケンネル星人の手がどういう構造になっているのかはわかりませんが、彼らに握手の習慣がない以上、少なくともここで握手を求めるという行為自体はえれなによる自文化の押しつけでしかありません。
 誰かと仲よくするためにはある程度譲歩することも必要、とはよくいわれる話ですが、ここでのえれなはその逆を・・・。――ああ、いや。必ずしも逆というわけでもないか。

 「姿勢がなってない!」
 
ひかるがケンネル星式の挨拶にチャレンジしたとき、ドギーは彼女のモノマネを挨拶とは認めませんでした。何かケンネル星人にしか理解できないようなところに特別なこだわりがあったのかもしれません。残念ながらひかるはその要求水準を満たすことができませんでした。

 「私、えれな。よろしくね」
 
ドギーは恐る恐る手を差しのべ、その手を握られて困惑します。彼はどうして握手が挨拶になるのかを理解しているわけではありません。ただ、かたちだけのモノマネ。
 けれど、えれなはそれで満足します。いつかひかるがサマーン星式の挨拶をマネたときのララと同じに。
 ひかるに対するドギーの態度と異なり、えれなは挨拶の形式自体にはさほどこだわりませんでした。

 「だまされないぞ! そんなんで友達になれるか!」
 「え? 顔をあわせて笑顔になれたら、もう友達なんだけどなあ」

 これが歩み寄り、譲歩です。
 誰かと接するとき、自分が何にこだわるのかあらかじめ峻別し、最低限それを冒されないかぎりにおいて相手との違いを許容する。お互いの譲れない部分がかち合わないで済む方法を模索する。そこまでしてはじめて、どちらも傷つかないままのコミュニケーションが成立します。
 ドギーにはケンネル星式の挨拶に並々ならぬこだわりがあるようでした。けれどえれなにはそれを満たすことができません。
 だから、代わりに自分の星のやり方で挨拶することを提案しました。別に自文化を押しつけるつもりなんかじゃなく、こちらの様式ならお互いに歩み寄りが可能だと思ったから。

 そこまではいいでしょう。
 挨拶程度の話なら私たちも、未就学年齢の子どもたちも含めて、誰しもが自然に調整しあえていることです。問題はここから。

 「聖なる骨をよこせだと!?」
 「私たち、あれが必要なの」
 「ダメだ。あの骨は大切なものだと言っただろ!」

 もし、お互いの譲れない部分がどうしようもなくかち合ってしまったとしたら? 奪いあいますか? それとも完全に譲って諦めますか?
 「ワンサイドに色々やるなー!」
 「なんでワンサイドに負けたみたいになってるの?」

 
仮にそんなことをしたら、少なくとも片方は納得できないまま気持ちがわだかまり、せっかく築いた対等な関係が破綻してしまうかもしれないのに。もう友達でも何でもなくなってしまうかもしれないのに。

 「一緒だ! お前たちみんな聖なる骨が目当てなんだろ。俺たちから見ればお前たちもあの男も、まったく一緒だ!」

諦め

 「もっと話しあえばいいんじゃない?」
 「そうルン」
 「事情をちゃんと話せばドギーさんたちもわかってくれるかもしれません」

 
一応、今話の解決に至る流れはこれまでも何度か経てきた展開と同様、お互いを理解しあうことで、思い込みによる敵視を解きほぐすかたちで行われます。
 ドギーがプリンセススターカラーペンを譲ることに決めた決定的な動機は、友達になったえれなを助けたいという一心。ペンがあればプリキュアがパワーアップできるという情報をプルンスから聞いて、ドギーは自分のこだわりを翻しました。
 あくまで伝えるべきことをまだ伝えきれていなかった、という話を核にして今話は決着しました。プルンスの方も毛生え薬を使ってみて、これまで知ることのなかった毛があることの良さを体験しましたね。
 それはそれでいいんですよ。この話題は『スタートゥインクルプリキュア』の物語全体にとっても重要なテーマになっています。

 ただ、この流れって今話のえれなからしたら本意じゃないんですよね。
 「・・・できない。この星の人たちにとって大切なもの、それを奪うってことは笑顔を奪うことと一緒だよ!」
 
彼女はむしろ、自分にとって妥協してはいけない部分まで譲ってしまおうとしていました。プリンセススターカラーペンは絶対に回収しないといけないって頭ではわかっていたはずでしょうに、後先考えずにそれを諦めようとしていました。
 そんなの、何の意味もないただの自己犠牲です。
 他の誰が幸せになれたとしても、自己犠牲によって彼女自身が幸せになることは絶対にありません。そして彼女がひとりの人間である以上、自分をあえて不幸にする選択は絶対に選ぶべきではありません。だって、子どもが自ら不幸になろうとすることを喜ぶ親なんているわけないじゃないですか。何のために生まれてきたんですか。

 大家族の長女だから我慢することに慣れてしまったんでしょうか? それとも他にも何か理由が?
 初登場時からこれまでにかけてほとんど弱さを見せてこなかった天宮えれな。
 今回、ようやく彼女の乗り越えるべき課題が見えてきたように思います。

 「話は聞かせてもらった。聖なる骨は持っていくがよい」
 「長老! いいのか!?」

 
プリンセススターカラーペンを巡るえれなとドギーの歩み寄りはふたりの間だけではどうにもできず、今回は降って湧いたような第三者からの助け船によって解決がなされました。
 今のえれなにはまだこれを自力で解決できるだけの力が身についていません。せっかく相手のこだわりを尊重して妥協点を模索する考えかたは身についているのに、肝心の自分の譲れない部分を受け入れてもらおうとする意志が欠けています。

 それは優しさではあります。
 そういう人だからこそ慕われているという側面もあります。

 「どうして“太陽”って呼ばれてるルン?」
 「それは、太陽みたいに明るくて、笑顔がとってもステキだから!」
(第4話)

 「先輩が“太陽”って言われてるの、わかった気がする。だって先輩の周りはいつも笑顔でいっぱいだから!」(第4話)

 ですが、あなたの周りに集まる人たちが笑顔でいられるのは、あなたがいつも笑顔でいてくれるからこそなんですよ。

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    コメント

    1. ピンク より:

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      えれなよりずっと歳上なのに
      「そりゃプルンスが悪いけどそもそもドギーたちが先にAパートで勝手なこと言ったのはいいのかよ!?」
      とつい大人気ないことを考えてしまった私は……。

      現実でも大小様々な価値観の違いが日々生まれますが、責め合うんじゃなく対話する姿勢を忘れたくないものです(ああ耳が痛い)

    2. 東堂伊豆守 より:

      SECRET: 0
      PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
      天宮えれなの行動原理って「自分の目の前にいる人の笑顔を守る」ことが全てなんですよね。彼女がプリキュアになった動機もあくまで「目の前にいるフワの笑顔を守る」ことであって、「宇宙の平和・秩序を守る」などという御大層な使命・大義名分には興味がなかった。
      だから、第5話でプルンス達からプリキュアについて詳しい説明を受けると「聞けば聞くほどプリキュアって大変だね」としみじみしてしまう。こういう"大の虫を生かすために小の虫を潰す"ことも求められかねない仕事はしたいとも思わなかったから。そういう仕事は"政府の偉い人"にでも任せておけばいい、と思っていたから。
      それで、二度目の変身の時、えれなはペンダントを見つめながら気合いを入れ直す必要があったわけですよ。ここで変身してしまえばもう後には退けない、大の虫(プリキュアの使命)を守るために小の虫(目の前の笑顔)を踏み潰すことを避けられなくなるかもしれない、本当に、それでいいのかーーーーーーと自問自答する必要が。
      衝動に突き動かされた初変身、逡巡の末の二度目。そしてケンネル星において、遂に懸念していた事が現実となったときーーーーーーえれなは「目の前の笑顔を守る」という自分の信念を貫く途を選ぶんですね。「目の前の小の虫を踏み潰すことで守られる大の虫に何の価値があるんだ?」と。
      この「目の前の小の虫を丹念に守り続けることで、その先にある大の虫をも生かす」という天宮えれな/キュアソレイユの愚直な姿勢は、異星人への疑心暗鬼にとりつかれていたドギーや、「大の虫を生かすために小の虫を潰す」ことに疑問を抱いていなかったプルンスの頑なな心を揺り動かしていく。ーーーーーー愚直なまでの誠実さが共感を呼ぶのは全宇宙共通、という事なのかもしれません。
      さて、そうなるとやはり気になってくるのは、「普通の人々の気持ちを知るため」に娘のまどかを地元の学校に通わせた"政府の偉い人"香久矢冬貴氏の信念なんですが……。彼もまた「小の虫を守り続けた先に大の虫を生かす途がある」と考えているのか。あるいは「大の虫を生かすために小の虫を潰さねばならないとき(そういうときがあることは否定しない)、潰される者の痛みを我が痛みとして共有出来るか否かが、名君と暴君を分ける」ーーーーーーという考えなのか……?

    3. 疲ぃ より:

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       私も自分の実際を棚上げしてキレイゴトばっかり書いているので、私も耳が痛いこと多々です。
       そりゃ品行方正な人が善いことを語るのに越したことはないですけどね。でも自分がそうじゃないからって口をつぐんでいては嫌な言論ばっかり世にあふれちゃいますからね。

       で、そういう自分の考えかたを反転させて他人を見る目に適用させてみると、“いくらイヤな人だと感じたとしても、それで相手の主張まで根こそぎ拒絶していたら建設的な対話にならないよね”って理屈になるわけで、これまた耳が痛い。

    4. 疲ぃ より:

      SECRET: 0
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       大の虫、小の虫とはいいますが、当事者からしたらどっちにしろ目の前で虫が潰されることに変わりないわけですもんね。むしろしばらく猶予を与えられるか(大の虫 / 宇宙平和の毀損)ただちに笑顔を失うか(小の虫 / 聖なる骨を奪われる)という意味で、影響度評価が反転する場合すらあります。
       立場次第では“小の虫を生かすために大の虫を潰す”ことが最善になる場合もあるわけです。

       今話のえれなはケンネル星の人たちのため、まさにそういう立場に立とうとしたわけですが・・・。問題は彼女自身にとって、いくら小の虫を生かすためとはいえ大の虫も潰すわけにいかないという都合があったことです。その矛盾を解消しきれなかったのが今後に残る彼女の課題ですね。今話のところはまだ大の虫を生かすための行動を取っていません。
       プリキュアは伝統的にこういうとき選択肢を選ばないヒーローです。おそらくえれなも最終的には大の虫も小の虫も生かす道に進むと思うんですが、はてさて、彼女はどのようにして両方を守る論理を組みあげていくんでしょうね。

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