生きているうちに、私が持っているオーブを誰かに渡したかったのに・・・。
テドン村の壁に残されていたラクガキ
冒険の書5
魔法使いソーリョク記す。
いつも冷静に見える勇者殿にも逆鱗はあるらしい。
海運の国ポルトガの王に謁見すると、王はヒイロを勇者と認める条件として大陸東方を見聞して報告することを提示してきた。おそらく、南大陸を半周しなければならず長期間の航海となる東回り航路を開拓するための下調べがしたいのだろう。
黒胡椒を持ち帰ったなら見返りに帆船を一隻くれるということで、かの国の援助を受けられるのは非常にありがたい話ではある。だが、それにしても広大な大陸東方を旅してこいというのはさすがに時間がかかりすぎるだろう。
ヒイロなら援助を諦め、民間の船とでも交渉して別大陸へ運んでもらうことにするものと予想していたのだが、意外にもその場で即応した。声がいつもより一段低かった。
シュアン殿の話によると、ヒイロはアリアハン王に16歳になるまで勇者と認めないと言われたことを根に持っているらしい。それで、勇者として侮られるとすぐああやって張り合おうとしてしまうのだとか。
言われてみればロマリアでもそんなことがあった。あのときはてっきり金の冠を盗まれた王への人助けのつもりで応じたものだと思っていたが・・・。
才気煥発な彼女にも年相応に愛らしい一面があるものだ。
さて。現在我々はガルナの塔という場所に来ている。黒胡椒の販売店があるバハラタの街より北方、強者に更なる修業の道を啓示するというダーマ神殿のさらに北だ。
修業の聖地としても知られるこの塔には、かつて神に選ばれ攻撃の呪文と癒やしの呪文を同時に操ったとされる、伝説の賢者が記した奥義書が隠されているという。
ここに寄りたがったのはマソホだ。
念のため、私は賢者を目指すつもりはないぞ、と一言言ってみた。
これはアリアハンを旅立つ前にもあらかじめ断ってあったことだ。私は魔物を撃ち倒す呪文を極めたい。極めるまで他の道など考えるつもりもない。もし伝説の賢者と同じ境地に至れるならそれも素晴らしいことだろう。だが、あくまでそれは攻撃呪文を極めた後だ。癒やしの呪文の使い手を探していたというマソホには申し訳なく思うが、こればかりは私の信念なのだ。
マソホは一瞬苦々しいような、ばつが悪いような、もしかしたら泣きたそうな複雑な表情を浮かべつつも、「そういうつもりじゃないの」とすぐに笑ってごまかした。
彼女にどんな意図があるのか私にはわからない。
だがまあ、私が干渉するようなことでもないだろう。これまでのところ彼女はよくやってくれている。私は彼女を信頼している。
そういえば、バハラタで人さらいの一団を懲らしめたとき、そのうちのひとりに何やら話しかけていた。あれは何だったんだろうか? 多少腕が立つだけでさして気に留めるまでもない小悪党どもだと思ったが・・・。
なに、常に二手三手先を考える彼女のことだ。そのうちわかることだろう。
「じゃあどうして?」と、ヒイロが先ほどの話の続きを聞きたがった。
マソホはいつものように「商売のためだよ」と答える。
ヒイロもそれで納得したようだった。
冒険の書6
勇者ヒイロ記す。
ポルトガ王より船を譲り受けた私たちはひとまず大陸沿いに南進することにした。
夢で聞いた不思議と懐かしい声が、世界を巡れと、多くの人を助けよと言っていた気がする。望むところだ。
だから、魔物の被害が特に多いといわれるポルトガ南方から先に巡ることにしたんだ。
静かだった。
魔物の数はたしかに多いように見えるのだが、その割に船から眺める南大陸は不気味なほど静かだった。
そうか。
明かりがないのだ。
人がいないのだ。
村を見かけないのだ。
ひょっとすると私は――。
森の木々の合間に人の手が加わったような拓けた土地を見つけた私たちは西の沿岸近くで碇を下ろし、小舟に乗り換えて大陸に渡った。
果たして、そこには廃村があった。
柵は引きちぎられたかのように折られ、打ち捨てられ、家々は執拗に壊され、地面には大穴が空き、そこに紫色の毒液が溜まり、あとは瓦礫、瓦礫、瓦礫・・・。村の戦士たちが使っていたのだろう槍や兜がそこかしこに散らばり、錆が浮いていた。
シュアンさんの見立てでは、こうなってから1年や2年ではないだろうとのことだ。
だからお前が気に病む必要は――。そこまで言いかけて、シュアンさんははっとして口を閉じた。・・・時間の問題は、私が旅立ってからどうこうという話ではないのだ。
マソホが衝動的に私を抱きしめる。彼女の心臓の音が肌を伝わる。うっとうしい。
ソーリョクさんはまるで他人事のように「気にするな」と言う。こんな村はどこにでもあると。
胸の奥のほうがカッと熱くなって、思わず心ない言葉を吐き出しそうになると、
ソーリョクさんは私の口をせき止めるように「アリアハンにもいくつもあるんだ」と、冷えた声でぴしゃりと突き放した。
そのくらい知ってる。だからって悔やまないわけにいかない。言い返したい言葉は山ほどあったけれど、ソーリョクさんが初めて見せる迫力に、私はただ言葉を飲みこむしかなかった。
船に戻るとシュアンさんが声をかけてきた。
ソーリョクさんが今はもう無い村の生まれだという話から始まり、父オルテガがシュアンさんとともにアリアハンの村々の救援にまわっていたこと、魔物の被害がいよいよ増えてきて、ついにアリアハン王が父を魔王討伐のため派遣すると決断したこと。私が継いだ父の使命にはそういう意味があるのだと、いろいろ教えてくれた。
「俺たちの手で必ず魔王を討とうな」 最後にそう結んだシュアンさんの顔は、朧気に記憶に残る父に似ているような気がした。
今日訪れた廃村の名はテドンというらしい。
せめてその名前だけでも忘れずにいたいと思う。
実際にはちゃんと夜のテドンにも行っているんですが、今回なまじテドンの荒れ果てた様子がビジュアル的によく描写されているせいで、「夜に訪問して平和そうなテドンを見る→宿に一晩泊まって朝びっくり!」みたいなイベントの印象深さが損なわれちゃってるのがちょっと残念でした。
どう見ても普通に廃墟の地縛霊じゃん!
キャラクター設定
ソーリョク(魔法使い;あたまでっかち)
【過去】――何が自分をつくったのかという認識
1【誰の役に立ちたいか】(A+C)
自分自身。
ソーリョクはアリアハン国に仕える若き宮廷魔術師だ。アリアハン出立現在で31歳。25歳という異例の若さで王宮に招かれたが、6年経った今でも彼が最年少のままだ。
なお、オルテガの娘ヒイロが呪文を学ぶべく王宮に通っているという噂は聞いていたが、彼女の相手は古株の魔術師たちがしていたため、直接の面識はなかった。
ソーリョクはただ、強くなりたい。最強の魔法使いと呼ばれるようになりたい。
王国の知恵を司る宮廷魔術師ながら、実のところソーリョクの本質は脳筋であった。
死ぬまでに一度は世界を巡る旅に出て、見識を広めてみたいと考えていた。しかしそれもまた、知識の量がそのまま呪文の強さに直結する、魔法使いという職だからという理由でしかなかった。
2【誰に支えられているか】(B+D)
戦士シュアン。
実際に接してみた勇者ヒイロはなかなかの難物で、一見人当たりがいいようでいて明らかにこちらに興味を持っていない。旅の方針について意見を求められることはないし、戦闘で頼りにしてもらえることもない。
その友人だという商人マソホもまた、どうやら国王には回復呪文の使い手を要望していたらしく、初対面から露骨にガッカリされてしまった。
最年長のシュアンだけが自分の居心地の悪い立場を気遣ってくれる。彼は読み書きを習ったことがないそうだ。旅の合間、せめてもの礼として教えてあげたいと思う。
3【嬉しかった想い出】(B+C)
勇者オルテガに救われたこと。
故郷の村を焼かれたとき、救出に来てくれたのがオルテガだった。生き残りはソーリョク含め、片手で数えられる程度だった。家族を失い呆然としていた少年のことがよほど気がかりだったのか、その後オルテガはたびたび孤児院に見舞いに来てくれた。
最初の1年はほとんど何も考えず何の感情も湧かず、人形のように過ごした。
次の年になると魔物に復讐したいと考えるようになった。トラウマによるものか目の前に人が近づくと腰が引けてしまうため、剣は早々に諦めた。養父である神父は僧侶の道を進めてくれたが、ソーリョクは攻撃呪文にこだわった。
修業を始めて3年。やっと手のひらの上に小さな火を灯せるようになると、たまたまその様子を見ていたオルテガは妙に感激した様子で肩をバシバシ叩いてきた。「俺が呪文を使えるようになったのはお前より5つも上のころだ」「お前は天才だ」「自分の才能を見つけられるのは誰にでもできることじゃない」「きっとすぐ一人前になる」「誰かを守れるようにもなる」「お前を助けてやれてよかった」――。
さんざっぱら褒め殺しにしたうえで最後にニカッと笑ったオルテガの顔をソーリョクは生涯忘れることはないだろう。
この人が、私を救ってくれたんだんだ。
4【傷ついた出来事】(A+D)
自分のせいで家族をいっぺんに失ったこと。
ソーリョクは13歳のとき、生まれ故郷の村を魔物の群れに焼かれている。
目の前で妹を食い殺されたことに逆上し、敵うはずもない魔物に向かっていってしまった。結果、とっさにかばってくれた父親まで失うはめに。振りかえると一緒に逃げるはずだった母親も別の魔物に頭をちぎられ、すでに事切れていた。
全部自分のせいだ。できもしないことをするべきではなかった、と悔恨を今でも引きずっている。
【現在】――自分は何者なのかという認識
A【がんばっていること】(1+4)
魔王討伐を成し遂げたい。
勇者ヒイロの旅に同行することに個人的な感情こそないが、魔物を憎み、平和な世界をつくりたいという純粋な気持ちなら、実はソーリョクこそが一行のなかで最も強く持っている。
B【任せてほしいこと】(2+3)
強力な攻撃呪文で敵を撃ち倒す役目になりたい。
ソーリョクは個の武勇こそ優れているが戦略眼が未熟、というのが王宮内での評価だった。本人も生来の気質として自分が一本気で視野が狭くなりやすいことは重々承知しているし、英雄というものへの子どもじみた憧れを未だ捨てきれずにいる自覚もある。
しかし、自分は攻撃呪文を極めたいのだ。攻撃呪文に自信があるのだ。とはいえ、自分以外の勇者一行は全員並々ならぬ剣の使い手ぞろい。必ずしも呪文の使い手に攻撃参加は期待されていない。
攻撃呪文は諦めて、もっと搦め手を学ぶ必要があるのだろうか。理想と現実の狭間でソーリョクは葛藤している。
C【よく気がつくこと】(1+3)
他人の才能を素直に賞賛する。
かつてソーリョクは覚えたばかりの魔法を勇者オルテガに絶賛され、そのときの感動に突き動かされて宮廷魔術師の地位まで上り詰めた。ソーリョクにとっては相手の才能を賞賛することこそ、最上級の友誼の証だ。
また、単純にソーリョクは才能豊かな人が好きだ。その才能が戦いの技であればなおのこと尊敬する。勇者ヒイロの一行は全員が才能にあふれている。正直やや居心地が悪いことは否めないが、内心ではこのメンバーで旅ができることに心躍っている。
D【耐えがたいこと】(2+4)
勝手な行動を取ること。
ヒイロは何もかも自分ひとりでやろうとするし、マソホはマソホでヒイロが見落とした部分を目ざとく見つけては全部自分でフォローしようとする。シュアンは歴戦の戦士として為すべきことを完璧にこなしているように見えるが、それもどういうわけか弟子の2人に戸惑われ、結果チグハグしているように感じる。
もちろん、それはソーリョク自身だってそうだ。普段の旅路でも戦場でも、自分の行動ひとつひとつがどれもイマイチ求められていないことをひしひしと感じる。
この一行は個々の能力は素晴らしいのに、どういうわけか連携がうまくいっていない。
かつて勝手なことをしてしまったせいで家族を亡くしたソーリョクにとって、この奇妙な連携の悪さは非常に気に障る。
だが、なまじ自分自身がそういうことを苦手としている自覚があるだけに、どう口出しすればいいのかもわからない。
【未来】――これまでの総括とこれからの夢
α【自分の手で守りたいもの】(1+2+3+4)
未公開。
β【自分にまだ足りないもの】(A+B+C+D)
未公開。
γ【いつか叶えたい理想の自分】(α+β+1+A)
未公開。
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