ぐらんぶる Season 2 第2話感想 バカに負けた気がする。

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私は北原 栞。別に兄が好きでも何でもない。――けど、まあ嫌いでもないかな。

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「兄」

エピソードトラッカー

主人公:栞

「私は北原 栞。中学3年生で牡羊座のAB型。実家は古い旅館を営んでいる。ここでひとつ告白しておきたい。実のところ、私は別に兄が好きでも何でもない」

目標

 兄に旅館を継がせるため、間違いが起こる前に連れ帰る。

課題

 栞は両親に気を使って旅館の娘らしい服装や言葉遣いを心がけているが、実のところ旅館を継ぐ気は無い。
 兄である伊織に旅館を押しつけたいが、現在実家を離れている兄は放っておいたら大学生活をエンジョイしているうち、あちらに根を下ろしてしまいそうだ。

結末

【失敗】

 伊織は旅館を継ぐことを頑なに拒んでおり、栞は兄を連れ帰ることができなかった。
 強硬手段を取ることも考えていたが、兄と話しているうち、そういう気はなくなった。

心の変化

【ポジティブ】

 1泊2日で滞在した伊織の下宿先は正直言って楽しかった。
 特にダイビング体験は誰とも言葉でのやりとりに気を使わなくていい時間が貴重に感じられて、心地よかった。また、ニブいと思っていた兄も実は自分が旅館を継ぎたくないことを察してくれていることを知って、少し肩の荷が軽くなった気分だった。

キーキャラクター

伊織

 ニブくてだらしのないクソ兄貴。放っておいたら千紗あたりと過ちを犯して婿入りしてしまいそうな危うさがある。
 ただ、意外と本心は察してくれるし、大事なところでちゃんと正面から向きあってくれる、頼れるお兄ちゃんでもある。

店長

 千紗の父親でダイビングショップ・グランブルーの店長。
 栞が相手を気づかい本音を隠しがちな賢しい子だということを鋭く見抜き、大自然の中で頭をからっぽにできる、ダイビング体験を勧めてくれた。

ピックアップ

漫画的表現

 そんな飛びかたがあってたまるか。
 アニメ版『ぐらんぶる』はそこまで作画がリッチじゃないぶん、こういうところは原作以上にリアリティラインを割りきって、勢い重視で笑わせにくる。

 なお、栞が伊織の肩を外す描写は原作にも(地味に)ある。なお、伊織はいつ外れたのか気付いていない。

ハンカチ落とし

 現実にはこんなふうに本人も気付かぬうちに一瞬で昏倒させられる薬剤は(後遺症の残る劇薬以外では)存在しないらしい。
 また、呼気から摂取させるならそれなりに揮発性が高い薬剤である必要があるわけで、栞のようにハンカチに染み込ませて持ち歩くことも現実にはできない。

 というか、現実にやろうとしちゃいけない。

スク水

 ちっちゃくない?

 なお、この手のコスプレ用衣装は水着として使うことを想定していない安い布地のため、万一これで海に入ったら透けたり破れたりしてしまうリスクがある。現実を見るんだ、今村。
 もっとも、この上にダイビングスーツを着るから大丈夫といえば大丈夫ではあるが。

腹黒の深淵を覗け

 「まさにその通りだが・・・、なぜそこまで分かる? まるで一部始終を見ていたような」
 「ただの洞察力です」

 かわいいかわいい栞ちゃんですが、私たちはすでに知っています。第1話ですでに見ています。
 彼女が腹黒であることを。人形に仕込んだカメラで兄の生活を監視していることを。

 今話では段階的に栞の本性が明かされていきます。

 彼女がここに来た目的。
 彼女の兄に対する思い。
 彼女がいかに腹黒であるか。
 彼女がいかに毒舌であるか。
 彼女がいかにいい子ぶっているのか。

 視聴者にしてみれば、彼女がイイ性格していることくらい最初からわかっているにも関わらず。わざわざ。懇切丁寧に。

 「もう、兄様ったら。殺しますよ。――しまった本音が!」

 「家から逃げようなんて絶対許しませんよ、クソ兄貴」

 「兄様の言わんとする戯れ言もわかりますが、先ほども千紗姉様と一旦結婚してみると――」

 割と最初のほうから鋭利な言葉はたびたび飛び出ているので、最初からこの子の本質を把握したうえで観ている視聴者からすると、ダイビングあたりのシーンで「しまった本音が!」なんて言われても今さら感があるんですよね。
 なら、これは視聴者に知ってもらうための段階的な開示ではなく、登場人物たちが少しずつ栞の人となりを理解していく様を追体験させるための趣向か――? なんて予想してみても、実はこの場にいる誰も(伊織すらも)最後まで栞の正体に気付かず終わるんですよね。

 いったい何のための段階的開示なのか。

 一応、2つほどわかりやすい効果はありました。

 「いえ、兄様が家に忘れていったもので。大切なものなのでしょう?」
 「やめろぉ! こんなもんどっから持って来た!?」
 「よかった、飛びつくほど喜んでもらえて。先日鍵のついた机をこじ開けたら偶然」

 「兄様。これが私の言うハンカチ落としです」

 ひとつ。栞が私たちの想定以上の腹黒さだということに驚くことができました。
 さすがにここまでやる子だとは、第1話を観ただけの人は思うまい。

 「黙れ、この世の全ての富を独占する邪悪め! だが俺も鬼ではない。条件を飲むなら助けてやろう。その・・・、なんだ。彼女が俺を『耕平お兄ちゃん』と呼んでくれたら――!」

 「それでは兄様、そうしましょう。栞もご一緒して、お背中流します」
 「あら。いいわね」
 「・・・は? 『いいわねぇ』? 肯定するんですか? 普通引くでしょ!?」

 「でも兄様の言う通り、栞には姉様がたの水着は少し――」
 「私のなら・・・、サイズ・・・、合うかも・・・!」

 ひとつ。PaBのメンバーが栞の手のひらでコロコロされるばかりではない、やたら濃い連中だということを改めて確認できた効果も。
 どれだけ栞の本性が明らかになってもなお、いつの段階でも栞が圧倒される瞬間が2つ3つあるんですもんね。

その果てにあるものは

 『ぐらんぶる』はコメディアニメなので、このちょっとした違和感がギャグを生むための仕掛けなんだと説明してしまうのも、それはそれで全然構わないでしょうけどね。

 ただ、この段階的な開示があるからこそ鮮烈に感じられるシーンがもうひとつあります。

 「でもお前、旅館を継ぐのイヤだってことも言えてないっぽいし」

 栞が完全に意表を突かれた瞬間。

 このシーン、大好きなんですよね。原作でも何度も読み返しました。
 本当に意表を突かれるんですよね、ここの伊織のセリフ。

 栞は腹黒キャラなんだって、第一印象そのまま脳にこびりついてしまっているからこそ。
 栞が計算高くて兄を手玉に取る妹なんだってことが繰り返し語られてきたからこそ。

 私たちも栞と一緒に、驚くんです。

 伊織は要所要所でこういうカッコいいことをするやつだって、わかっていたはずなのに、それでも驚くんです。

 栞に見えている栞(自分)の姿と、伊織に見えている栞(妹)の姿は少しだけ違っていて、
 だから当然のことながら、栞に見えている伊織(兄)の姿と、伊織に見えている伊織(自分)の姿も少しだけ違っている。

 今回、私たちは栞を主人公としたアニメを視聴し、栞の視点を追体験しました。
 もしこのときの伊織が少しでもカッコよく見えたのなら、それは間違いなく、栞も同じ気持ちでいます。

 いわゆる感情移入ってやつですね。
 で、同じ感情の揺さぶりを体験したからには、あなたは伊織だけでなく、栞のことも好きになっているはずです。栞は同じ気持ちを共有した仲間です。

 「そんなの簡単だ。俺はお前の兄ちゃんなんだから」

 ふと。

 栞は思いだします。子どものころのできごと。兄が一番カッコよく見えた瞬間の記憶。

 アザだらけでした。
 どうやら実際には全然簡単じゃなかったようです。

 好きな食べものも好きな服も、本当はコンピュータが得意なことも何も知らない兄だけど。実際には妹の行く場所にすぐには思い当たらない愚鈍な兄なのも間違いないけれど。
 それでも、最後にはちゃんと見つけてくれる。
 栞の本当の気持ちにちゃんと気づいてくれる。

 「栞ちゃんは海が嫌いか?」
 「私はあまり入りませんけど、魅力的で素敵な場所だと思います」
 「ははは。相手を気づかった、頭のいい返事だ。そんな栞ちゃんにこそ一度潜ってみてほしいがね」  「どういう意味ですか?」
 「頭のいい子には貴重なんだよ。大自然のなかで頭からっぽにできる時間ってのはさ。まあ、あいつらが楽しそうに見えたらやってみるといい」

 栞の兄は頭の悪い人間です。
 普段からしっかり頭を使って生きている栞とはまるで正反対。
 だから、兄が楽しそうにしているからって、別に栞にとっても楽しい体験だとは限りません。
 ダイビングの醍醐味が本当に頭をからっぽにできることだというならなおさらです。だって、栞と違って兄はもともと頭からっぽなんですから。矛盾しています。

 でも――。

 楽しそうだな、と思いました。
 兄があんなに楽しそうにしているなら、自分にとってもきっと楽しいことなんだろうなと、どうしてだか思ってしまうのでした。

 同じ気持ちを共有できる兄妹なんだから、そりゃそうですよね。いわゆる感情移入ってやつです。

 「やっぱり奈々華と同じに見えるけどなあ。家を出たお兄ちゃんに一人で会いに来て、やってることマネして、環境が気になって。それって――、完全にブラコンだよねえ」

 一度頭をからっぽにして、改めて兄のあるがままの姿を観察してみたら――。

 飲んでいるウーロン茶は可燃性。ズボンは無意識に半分脱いでいる。押し入れのなかにはジョークグッズとエロDVDの山。妹の好みも、実家の味も、何ひとつ記憶していない風船みたいな脳みそ。あげくデリカシーのかけらもない。

 だけど、嫌いではありませんでした。

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