ぐらんぶる Season 2 第1話感想 最大の労力で最小の成果を目指す男。

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前略。――中略。――後略。

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「妹」

エピソードトラッカー

伊織

「俺の生活がバレたら仕送り止められるだろ!」

目標

 いつもどおりの日々を全力で楽しむ。

課題

 妹の栞から手紙が届き、その返事として近況報告を書かなければならなくなった。だが、伊織の日常は全方面恥ばかりだ。家族に正直に伝えたら仕送りがなくなるかもしれない。

 後日、栞に送る写真を選んでいたところ、千紗とケバ子がこっそり1枚隠した。どうやら梓と奈々華のエッチなお宝写真らしい。見たい。

結末

【失敗?】

 (伊織は知らないが)栞は監視カメラで兄の素行を監視しているため、とっくに全てバレている。
 お宝写真の件は、散々余計な誤解をバラまくだけバラまいておいて、結局手に入らなかった。

 あげく、不幸な偶然により千紗と同じベッドで一夜を過ごしたことを、奈々華と栞に知られてしまった。奈々華は動揺して「結婚しなさい」と言い出すし、栞は山奥にある実家から一晩かけてわざわざ駆けつけてきた。
 伊織の日常が変わろうとしている(ように見えなくもない)。

心の変化

 この件に限らず、伊織は意外と動揺しない。リアクションは大きいが、その割に中長期的に見ると精神的にやたら安定している。

キーキャラクター

千紗
 何事にも塩対応って感じの外面をしているが、実は思春期みたいに感受性豊かなヒロイン。今回のように、伊織の奇行を千紗が拡大解釈して、事態をさらに混沌とさせるのが鉄板パターン。

奈々華
 伊織が絶対に逆らえない、この物語最強の暴力装置。そしてねっとりとした重度のシスコン。千紗の姉。

千紗

「・・・今、何かしようとした?」

目標

 いつもどおりの日々で伊織とじゃれあう。

課題

 普段から同居生活しているはずの伊織がなぜか今日に限ってエロい目で見てくる。貞操の危機かもしれない。

結末

【失敗?】

 伊織の狙いが自分ではなくポケットに入れていたお宝写真だということには気づけたが、彼と競りあっているうちにうっかり誤解を招く体勢で気絶してしまった。
 なんか、伊織と結婚させられそうだ。

心の変化

 千紗には伊織に対する恋愛的な興味はない。ほとんど兄妹みたいな関係だ。
 結婚させられそうなのは不本意だが、そのことが原因で伊織との関係性が変化しそうな兆候は今のところない。

キーキャラクター

ケバ子
 恋愛脳の彼女の(客観的にはごもっともな言い分の)せいで、伊織のスケベな視線の意味を誤解してしまった。

奈々華
 千紗が信頼している優しい姉。それだけに、唐突に「結婚しなさい」と言ってきた意図も、伊織が唯々諾々と従おうとしている理由も、全然わからない。

ピックアップ

ダイビング(マリンスポーツ)

 原作では3巻に1回あるかどうかの、この物語最大の魅せ場。

全裸と酒

 原作では毎話のように登場する、この物語のメインコンテンツ。

おっぱい

 奈々華にも千紗にも、栞にも、伊織にすらも(!)下から舐め回すような画角があったというのに、なぜケバ子にだけそれが与えられないのか。

 いや、厳密にはあるけども。どうしてあんなに高速なのか。見応えが無いとでもいうのか。

日常の守り手

 7年前、私はこの『ぐらんぶる』という作品を“汚いプリキュア”と評しました。

 その考えは今も変わっていません。
 「どのあたりが“プリキュア”なんだよ!」というなら、それは伊織の精神性です。(“汚い”に関しては言わずもがな)

 伊織はいつもしょうもない悪ふざけをしていますが、対等に殺しあう悪友どもや、敵と認識されたごく一部の外部の人間を除いて、侵すべきではない一線を常に意識しています。
 たとえば耕平のオタク趣味が変態的だとツッコむことはあっても、そういう趣味を持つこと自体を笑うことはありません。たとえば普段お酒を飲みたがらない千紗にアルハラをはたらくことはなく、それでいて彼女が自分から飲むと言いだしても無粋な心配事は言わず、ただ宴席の輪に迎え入れます。
 その一線は、本人が大切にしているものかどうかという、シンプルな基準で引かれています。

 伊織はその基準に自分の価値観を混ぜません。
 たとえ自分がオタク趣味に全然理解がなくても、たとえ自分がみんなで泥酔してバカ騒ぎするのが大好きであっても、それはそれ。自分は自分、他人は他人。自分の個人的な価値観を誰かに押しつけようということは、基本しません。

 伊織自身も他人の価値観には振りまわされません。
 千紗やケバ子に何度やめろと言われても一向に改める気がない生活態度。隙あらば飲み、隙あらば脱ぐ。スケベなことにも全力前進。自分でもバカみたいだとは思っています。
 でも、やめません。他人があれこれ言っていたとしても、自分自身がそれを改める必要性を認めない限り。

 それによって何が守られるのかといえば、“日常”です。
 自分がいて、あの人がいて、みんながいる。いつもの空間。みんなそれぞれ自分らしく生き、自分のやりたいことを楽しむ。
 そういう“日常”の枠組みを、伊織は守ります。誰しも1つや2つは持っている、その人にとって一番踏み込まれたくない領域を尊重しようという、その姿勢によって。

 プリキュアとは日常の守り手です。
 自分の個人的な価値観を守るためにプリキュアに変身する資格を獲得し、それでいて、毎週大した理由もなく誰かの大切なものを踏みにじろうとする悪役どもを、手に入れたその力で排除する。
 自分の価値観も、自分以外の誰かの価値観も、両方守る。それがプリキュア。

 だから、伊織はプリキュアなのです。

 「栞へ。俺は今、Peek a Booというダイビングのサークルに入ってる。ここのみんなはとても紳士的で――、飾らない自分を表現する方法を教えてくれた。・・・不衛生な服など着ていないし――、ときには刺激のある毎日を過ごせている。うまくやっているから心配ない。父さんと母さんにもよろしく伝えてくれ」

 今話、伊織の前に2つの大きな問題が発生しました。

 ひとつは栞に近況報告をしなければならないこと。

 これによって脅かされる可能性があるのは伊織自身の生活です。迂闊なことを書いて、もし生活実態がバレでもしたら、仕送りを止められてしまうかもしれません。伊織自身の価値観の危機です。
 伊織は全力でごまかしました。
 幸い、これをごまかしたところで傷つく人は誰もいません。だからこそ、伊織は全力を出すことができたわけです。(結果を見れば栞のほうが一枚上手でしたが)

 「超・・・、見てぇーっ!! だが見たいと言って見せてくれるわけがない。ここは興味がない感じを装い――、隙を見て奪い取る!」

 もうひとつの問題は、エッチなお宝写真をどうしても見たいという劣情でした。

 こちらは誰かの価値観が脅かされるといった類いの問題ではありませんでしたが、伊織はスケベが大好きなので、何が何でも手に入れたい品でした。
 ただし。
 ここでやりすぎると千紗が傷つきます。ぶっちゃけ、伊織と千紗では腕力や体力にとてつもない差があります。もし伊織が後先考えないお猿さんだったなら、ムリヤリ尻をまさぐるなり何なりして、容易に写真を手に入れることができたでしょう。

 また、伊織自身は「千紗は妹みたいなものだから“そう”いう気になれない」という趣旨のことを言っていましたが、その割にこの男、姉のような存在であるはずの奈々華になら堂々と劣情を催しているんですよね。
 そもそも彼は男子校出身で性欲を抑圧されてきた身の上。そしてこの『ぐらんぶる』は一応ラブコメです。恋愛感情が一切無いわけじゃないでしょうに。
 千紗のお尻を「確かにたいへんいい尻だ」と認めていたように、実のところ、伊織はフツーに千紗に劣情を抱くことが可能な人間です。この男、こう見えてただ単に、意外と紳士なだけなんです。自重しているだけなんです。

 そんな男が、ひとつ屋根の下、なんだかんだいってすぐ隙だらけになる千紗には手を出さず、彼女の尻ポケットに入った写真1枚のために(浅はかな)知略を尽くそうとする。
 そのバカみたいな構図自体が、この伊織という男がものすごくイイヤツだっていう何よりの証拠になるわけです。
 ・・・ほら。こっそり写真で致すだけなら誰も傷つけずに済むでわけで。(本当か?)

 ところで、なんで私はこんなクソくだらない話をこんなクソ堅苦しい文体で長々書いているんでしょうね。
 いやあ、コメディアニメの感想文を書くのメチャクチャ久しぶりだなあ。

暴力系ヒロイン

 千紗は暴力系ヒロインの系譜にあるヒロインです。

 ヒロインが暴力を振るうことが肯定されるようになる構成要素は主に4つです。

  • 暴力を振るう対象がほぼ恋愛の相手役のみ、さらにコメディシーンのみに限られること
  • 恋愛の相手役(主人公など)が度を超えたバカであり、心身とも逞しいこと
  • ヒロイン本人が内気、もしくは恋愛に関してだけ極端に奥手など、本質的に受け身な人物であること
  • 読者に「恋愛は女性にリードしてほしい」「多少の難点には目をつぶる度量こそ漢気」といった価値観があること

 『ぐらんぶる』の連載開始が2014年なこともあり、10tハンマーを振りまわしていた90~00年代のヒロインに比べたら千紗の暴力はだいぶ常識的です。むしろ辞書を投げつけるところまでいった今話がやや例外寄りなのであって、普段は虫けらを見るような視線など精神攻撃のほうが主体ですらあります。
 ただ、それでもヒロインの一方的な暴力を主人公が(自業自得とはいえ)寛大な心で許容するという、基本的な構図自体は昔ながらの典型的な暴力系ヒロインそのものです。

 要は内気なんですよね、この子。
 熱中しているダイビング以外のことには(本質的にはダイビングにすらも)基本的に受け身で、何か困ったことが起きても自力ではなかなかその問題に対処できない性格。

 お姉さんの奈々華が溺愛していた影響もあるのかもしれません。「伊織くん。千紗ちゃんと結婚しなさい」 あの発言はかなり本気のものだろうと私は思っています。
 それまでは奈々華がいろいろフォローしてあげていたんでしょうが、今の彼女は就職したばかりですし、大学在学中の千紗の全てにはなかなか目を届かせてあげられません。
 そんなタイミングで現れた伊織は、奈々華から見てうってつけの人物だったのでしょう。

 「俺の近況は自分で書くから、お前はお前のことを書こう。な?」
 「別にいいけど、栞ちゃんが『兄様が嘘を書くようなら教えてください』って。だから書き終わったら教えて。チェックするから」

 千紗が辛辣にふるまうのは伊織がらみのときだけです。
 PaBの活動場所は昔からダイビングショップ・グランブルーでした。だから時田や寿ともそれなりに長い付きあいのはずなのですが、千紗は彼らのツッコミどころだらけの言動を遠巻きに眺めているだけで、伊織のときのように物理的な制裁を行うどころか、軽蔑的な態度を表明することすらありません。
 伊織に甘えているんです。彼は千紗が何をやっても笑って許してくれるから。

 いいえ。

 伊織は、千紗が困っていたら率先して助けてくれるであろう人だから。
 無礼を許す度量だけなら時田や寿だって負けていません。彼らはああ見えて優れた人格者であり、仮に千紗が普段伊織にしているような辛辣な態度を取っても笑って許してくれるでしょう。
 でも、いつでも千紗のことを気にかけてくれて、人に相談することが苦手な千紗が何も言わなくても、千紗の本心に一早く気付いてくれるはずだと思えるのは、伊織なんです。
 一緒にいるのが当たり前だと自然に思わせてくれるのも、やはり伊織なんです。(やたら息ぴったりですが、千紗と伊織が10年ぶりに再会してからまだ数ヶ月しか経っていません)

 「いや、その・・・。間違いとかは起きないのかな、なんて。だってほら、前に千紗のこと『いいお尻』って言ってたし」
 「そうだな。確かにたいへんいい尻だが――。ま、妹って感じだな」

 伊織の認識は完全に的を射ています。
 千紗にとって伊織は完全に心を許して甘えられる数少ない相手であり、つまり奈々華と並んで頼れる兄貴分なんです。

 同い年なうえ普段散々迷惑かけられている立場なんだから、妹呼ばわりされて少しは怒ったっていいでしょうに。全然否定しないんですもんね。

 バカな兄貴ですけどね。
 スケベな童貞で、頭が悪くて、生活にだらしのない飲んだくれの露出狂。なのに、シャンプーひとつ断りなしでは借りようとせず、エロいと認識しているはずの尻に目もくれずお宝写真にしか興味を示さない、変なところで誠実な性格。

 その、冷静に考えたら矛盾しているにもほどがある、意味がわからない二面性を、千紗は当たり前のように信用することができてしまいます。
 急にエロい目で見られて一瞬警戒はしたものの、彼の真の狙いは写真なんだと誤解が解けた瞬間すぐに警戒も解いてしまうくらい、千紗は伊織のことを心から信じています。

 ちなみにこの時点の千紗に、伊織に助けてもらった具体的な実績はほぼありません。
 せいぜい千紗が(男よけのために)勝手に言いだしたカレシのふりを続けてもらっているくらいです。
 具体的なエピソードがあるのはむしろケバ子。千紗はその一部始終を見てなんとなく面白くない気持ちを抱えつつ、それでも諸々の出来事から、伊織が実は誠実で察しがよく、思いやり深い人間だということを知っただけです。

 たったそれだけのはずなんですが、千紗と伊織の間にはすでに、妹と兄のような強固な信頼関係が結ばれています。

 ・・・チョロいとか言わない。

 伊織が侵入してくる可能性を考慮したうえで、特に意味もなく攻防戦の舞台を寝室に移すほど無防備だったのは、うん、まあ、さすがに千紗が気を許しすぎなだけではあるんですけども。

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