魔法つかいプリキュア!第28話感想 奇跡の魔法は閉じた輪を飛び出して。

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あたいたちも信じるよ。
一緒に頑張った仲間だもん。
みらいがリコを信じているように。

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(主観的)あらすじ

 今日は待ちに待った夏祭り。みらいたちは魔法界ならではの出店の数々を楽しみます。そのうえ花形の打ち上げ花火を担当するのは補習を共にしたジュンたち3人です。ところが、どういうわけか花火の材料であるドンドン花がしおれてしまいました。みらいたちはジュンたちに協力して、代わりになるパチパチ花を探しに行きます。
 行動力のあるみらいは花を求めて魔法の森へ。思慮深いリコは情報を集めるため図書館へ。ごく自然に役割分担がなされます。いつも一緒のふたりが離ればなれになってしまいましたが、ふたりの調子はいつもと変わりません。だって「信じてるから」。お互いがうまくやってくれることを信じて、ふたりは自分にできることを頑張ります。
 果たして、みらいたちはパチパチ花を見つけることに成功します。ラブーのドンヨクバールが邪魔しに来ますがものの敵ではありません。花火を打ち上げたいと、みんなの心が通じ合っているからです。
 こうしてみらいたち6人は無事に花火を打ち上げることができました。これまで出会った人たち全てが同じ時間、同じ夜空を見上げて瞳を輝かせています。「みんなの花火、きれいだね!」

 魔法界固有名詞が飛び交う日本風お祭り回。カッチリ設定を固めた異国情緒もそれはそれで良いものですが、魔法つかいプリキュア!の物語としてはこのくらいヌルめのファンタジーの方が合っています。だってみらいたちの日常において魔法は異物ではないのですから。けれどときどきワクワクが飛び出すオモチャ箱。意外と大したことはできないけれど、あなたの努力を少しだけ拡張してくれるステキな夢。子どもに六尺玉は扱えませんが、自分の手で花火を打ち上げてみたい夢はある。
 デウスマストはどうやら太陽黒点としてすでに活動を開始している様子。果樹や草花、動物たち、それから人間、あらゆる生命に活力を与えてくれる太陽を独り占めするなんて許されません。そんなことをされたらみんなが困ってしまいます。世界中みんなで一致団結して太陽を取り戻しましょう。大丈夫、離れていても心はひとつ、世界がどんなに広くたって、みんなが手を伸ばせば手と手を繋ぎあえます。

世界中誰もが主人公

 物語の多くは誰かの成長譚です。物語は人が紡ぐものなので、物語はいつだって人にフォーカスします。そして成長することは人にまつわる物事の中でも最もステキなもののひとつですから、必然それらを描く物語が多くなります。
 魔法つかいプリキュア!はみらいとリコ、はーちゃん(と、モフルン)を主人公に置いた物語です。ジュン、ケイ、エミリーは主人公ではありません。従って、残念ながら彼女たちが成長する過程がフォーカスされることはありません。
 しかし彼女たちには彼女たちの物語があります。私たちに私たちだけの物語があるように。彼女たちは彼女たちの物語の中で成長して、そしてときどきみらいたちの物語に客演するわけです。
 多くの物語において主人公以外の成長は必ずしも描かれません。それが物語のテーマに関わらないのならば余計な記述にしかならないからです。今回、魔法つかいプリキュア!はジュンたち客演者の成長の結果を丁寧に描きました。だってそれはみらいたちの成長を描くために欠かすことができない要素なのですから。

 ジュンたち3人の魔法の腕は、第16話で再会したときよりもさらに目に見えて成長していました。花火の打ち上げという晴れ舞台に立つ権利を実力でもぎ取るほどです。留学に際してリコが危惧していたとおり、こと魔法の技術においては魔法学校以上の環境はありません。
 さらにジュンたちは人間としても大きく成長を果たしていました。「2年になってからしょっちゅうここで勉強してんだ。本の場所もだいたいわかるようになったぜ」 ナシマホウ界に憧れるあまり目の前の勉強を疎かにしていたジュンは、図書館に通い詰める勉強家になっていました。
 「はいどうぞ。他にも色々持ってきたわよ」「デンポッポ!」 忘れん坊女王だったケイは大きな鞄を持ち歩いて誰よりも用意よく、そして周りによく気がつく少女に変わっていました。
 「私、頑張って高いところも平気になったの。だから思い切って絨毯の運転免許取っちゃった」高いところを怖がっていた臆病者のエミリーはその弱点を克服し、むしろいち早く空飛ぶ絨毯の免許を取得する勇気すら発揮していました。

 ジュンたちにはジュンたちの物語があります。そうである以上、たとえ魔法つかいプリキュア!がみらいたちの物語であったとしても、いわゆる主人公補正だとかで彼女たちが足踏みしてくれることはありません。容赦なく成長し、ことそれぞれの長所においては主人公たるみらいたちの追随をも許しません。
 それは、とてもステキなことです。

ナシマホウ界で学んだかけがえのないもの

 もちろんこの物語の主人公たるみらいとリコだって、見違えるほどの成長を果たしています。
 「えーっと、花といえば・・・そうだ!」 持ち前の好奇心に振り回されてとにかく飛び出すこと最優先だったみらいは、よく他人の忠言を聞いて事前に見通しを立てられるようになりました。このあたりは前話でも描かれたことですね。最近キュアミラクルのナイスガイ化が著しいのも、彼女が行動に明確な意志を乗せられるようになった表れでしょう。それは視点を未来に向けられるようになったということでもあります。当初彼女が憧れていた、将来の夢を持つことにつながる大切な資質です。「悲しいお別れはもうしたくない」だなんて後ろ向きな希望じゃなくても、きっと彼女はもう自分の未来を描くことができるでしょう。
 理想の自分と現在の自分のギャップにハリボテの自尊心を被せていたリコは、自分の能力と役割を正しく評価できるようになりました。「ふたりともすごい!」 もはや彼女は級友に先を行かれて焦るようなことはしません。「まあこれも狙いどおりだし」 たとえ失敗しても、その取り繕い方に空虚さを感じさせません。魔法の技術で水をあけられた分だけ、自分も他の資質を磨いているという強い自己肯定感を持っているからです。キュアマジカルはキュアミラクルほど味方のフォローに回りません。ミラクルのそれも適切な行動ではありますが、マジカルはさらに一歩進んで、今自分がやるべきことの優先順位を正しく評価して行動しています。矢を蹴り返して敵の弓を無力化するとか、最近この手の地味な役回りばっかりやってますねこの子。

 それから何よりも、お互いを信頼する姿勢を身につけていることが彼女たちのステキなところですね。魔法学校という優れた環境を飛び出した成果がこれです。
 「探しに行ってくる!」「じゃあみらいは魔法の森へ行って。私は図書館で花のことを調べて連絡するわ」 パチパチ花の存在を知って直ちに駆けだすみらいと、それを受けてテキパキと自分のすべきことを即断するリコの頼もしさと来たら。「私も一度もその花を見たことがないので本当かどうかは・・・」「でも、どんな花かわからないのよ。それに・・・」 彼女たちは事態の困難さに尻込みする必要はありません。だって何もかもが正反対の彼女たちは、自分にできないことでも相方ならできるということを、これまで積み重ねた経験から確信しているからです。
 実際のところ、必ずしも全部できるわけではありません。はーちゃんを一度喪失してしまったのはふたりの限界です。あのときふたりは有効な手段を打つことができませんでした。今回もそれぞれ不完全な情報と不確実な選択までが彼女たちの限界でした。
 けれど、信頼することのステキさはそういうことではありません。きっと自分はこれだけのことを期待されているという責任感。それとは逆に、きっと相方はこれだけのことをしてくれるという安心感。そのふたつの気持ちが努力することの価値を高めてくれます。自分の心を前向きにしてくれます。
 「パチパチ花、絶対見つけてみせるんだから」 何百万冊という蔵書に埋もれてジュンとケイが音を上げても、リコは努力することをやめません。「大丈夫。信じてるから」 エミリーが不安にうつむくなか、みらいは前だけを見つめます。お互いを信頼することは、つまり自分を信頼することにつながります。だって相方が自分を信頼してくれていると、彼女たちは信じているのですから。

 そしてその信頼は同時に、ふたりがお互いの物理的な距離を離すことを可能にしました。
 ふたりの関係は手をつなぐことから始まりました。近い距離にいれば相手がどれだけ頑張ってくれるか、自分がどれだけ頑張るべきかを直接自分の目で見定めることが出来るでしょう。しかし、ふたりの間にはもうすでに積み重ねた経験がたっぷり存在するのです。必ずしもお互いを見なくたって、お互いの考えることは想像できるでしょう。
 ドキドキ!プリキュアの菱川六花は幼馴染みである相田マナとの関係を「離れていても、離れはしない」と結論しました。わざわざ目の前で確認するまでもなく相手が自分を思いやってくれていることを信じられるなら、その絆は物理的な距離によって減衰することはありません。
 お互いを信頼しあうことで、同時に自分をも信頼できてしまう彼女たちの強さ。力及ばず3択となってしまった最後の決断を前に、みらいとリコは隣に相方がいなくても怯まず恐れず、堂々と次の一歩を踏みだします。

 手をつなぐ距離から解放された信頼は、そして連鎖的にさらなる大きな意義を生みだします。

夢がつなぐ

 「きっとステキだろうね。魔法界のみんなで見る花火」「魔法界のみんなで花火を見るなんて、すごくワクワクもんじゃないの」 みらいとリコはそれぞれに同じ夢を語ります。いつも一緒にいるふたりが離ればなれになってでも頑張っているのは、そういう夢があったからです。
 その夢は共通目的としてふたりの信頼をより強固にしていました。さて、魔法界のみんなで花火を見る、この夢はふたりだけのものだったでしょうか?

 もちろん違います。花火の打ち上げ係は元々ジュンたちです。では、みらいとリコの信頼の一端を担保するこの共通の夢、これをジュンたちとの関係に適用することもできるのではないでしょうか。
 「あたいたちも信じるよ」「一緒に頑張った仲間だもん」「信じるよ、ふたりを。みらいがリコを信じているように」 そう、できるのです。何度も何度も手をつなぎあって育んできたみらいとリコの信頼を、ジュン、ケイ、エミリーも同じように発揮することが出来るのです。運試しとなってしまった最後の選択、それをジュンたちはみらいたちと同じく怯まず恐れず、笑顔で「キュアップ・ラパパ」 と唱えます。
 直接手をつなぐ以外にも信頼関係を築く方法はあります。ソルシエールが歌と思い出で亡くなった先生への愛を取り戻したように、はーちゃんが真摯な言葉で校長先生の心を動かしてみせたように。夢もまたジュンたちに信じる心を湧き上がらせてくれました。
 そしてそれができたのは、彼女たちがみらいたちの信頼関係を見てきたから。どんどん強く成長していくみらいとリコがステキに見えたからです。みらいたちは手と手をつなぐ、奇跡の魔法の使い手。人と人とがつながっていくことのステキさを世界中に広めていく無自覚な伝道師です。

 手と手をつなぐ奇跡の魔法の意義が拡張していきます。
 そばにいること、助け合うことはステキです。みらいたちとは違う成長を遂げたジュンたちは今回とても大きな力となりました。しかしその効力は距離に縛られ、図書館にいるジュンとケイはリコに、森にいるエミリーはみらいとはーちゃんとしか協力できません。
 しかし、互いの信頼が自分自身を強くしてくれるとしたら。こうなれば距離なんて関係ありません。直接触れあわずとも、心に抱いてさえいれば奇跡の魔法の効力が発現するのです。「離れていても、離れはしない」 お互いの手をつなぎあうために閉じた輪の中に籠もる必要はありません。物理的な距離がすなわち「悲しいお別れ」になるようなこともありません。
 たったふたりがはじめた手と手をつなぐ奇跡の魔法は、いつかきっと無限に広がっていくことでしょう。

今週の魔法文字

 別記事に分けました。↓

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