魔法つかいプリキュア!第34話感想 情熱のパワーは「みんな違う」を乗り越える。

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すごいね、恋って。涙が出るんだ。

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(主観的)あらすじ

 みらいたちの友達、まゆみが恋をしました。偶然居合わせた勝木さんも巻きこんで、みんなでまゆみを応援します。もし叶わなかったらと不安に思うまゆみですが、諦めたらなにも始まらないというみんなの後押しを受けて告白します。
 結果としてまゆみは失恋しますが、告白しようという情熱はまゆみやみんなを大きく成長させてくれました。そして強い情熱をぶつけ合ったみんなはこれまで以上に強い友情で結ばれるのでした。

 恋愛回というよりは情熱回。プロットが素晴らしく整理されていて、シンプルながら強いメッセージ性を発揮していました。今年の脚本陣のなかでも坪田さんの脚本は毎回ひときわ冴えわたっていますね。
 精霊を巡る一連の物語はどうやらみらいたちが自分たちの輪の外へ手を伸ばすことをテーマにしている様子です。これまで描いてきた物語の帰結であり、躍進であり、核心へと至る物語。さあ、みんなと手を繋ぎましょう。
 新幹部オルーバの顔見せ。いよいよモチーフがなんだかわからなくなってきましたね。彼のモチーフについての想像は活躍してから考えるとして、プリキュアの力に興味を示す、ムホーとしては特異な立場は物語にどういう影響を及ぼすのでしょうか。これはもしかするとプリキュアと敵が手を繋ぐための布石・・・ってヤモーのときにも似たようなこと言いましたね私。

人はね、みんな違う

 今回はみらいたちみんなそれぞれの考え方の違いがはっきり描かれた物語でもありました。せっかくなので少し整理してみましょう。

 「恋ってそういうもんってマンガで読んだし!」 みらいはとにかく積極的に行動する子です。まだ友達でもないまゆみのヘアピンを探したり、出会ったばかりのリコの補習を手伝ったり、その爆発的な行動力は特に他人のためにこそ強く発揮されます。
 この気質は彼女自身に夢がないことに起因しているのでしょうね。自分にやりたいことがないからこそ、彼女は夢を持つ人に強く憧れます。夢を応援してあげたいと心から願ってくれます。皮肉なことに、彼女の行動力も親切さも、夢がないからこそ育まれたものです。
 反面、それが自分の夢ではないゆえに叶えるための道筋を見いだせず、後先を考えないその場限りの行動になりがちです。まるで自分のことのように精一杯頑張ってはくれますが、結局他人事である以上、どうしても限界があるんですよね。その点において今回は勝木さんに上を行かれました。
 「悲しいお別れはもう嫌なの」 という夢の片鱗が少し前に芽生えはじめましたが、彼女は初めて抱いた自分の気持ちにどうやって向き合っていくのでしょうね。夢はその場限りの行動だけでは決して叶うことがないでしょう。

 「私たち、よく分かってないのに、まゆみのこと応援してもいいのかしら」 リコは明晰な子で、同時に情熱的でもあります。今回他のみんなに比べると一歩引いた立場になってしまったのは、まゆみの恋が他人事だと明晰に理解していたからですね。
 彼女自身は「立派な魔法使いになる」夢を持ち、そのための努力を欠かさないたいへん情熱的な気質の持ち主です。独力では夢を叶えられないと悟ってリンクルストーン・エメラルドを求める冒険に出るほどに、彼女の情熱はときにみらいをも上回る爆発力を発揮します。
 けれど、なまじ明晰な部分があるために普段は必要以上に尻込みしがちなんですね。まゆみが感謝を表明している恋の応援ですら、自分にはその資格がないんじゃないかと考えてしまう、彼女の明晰さは美徳であり悪癖でもあります。シャーキンスに啖呵を切ったのが彼女だったことからもわかるように、本来今話のテーマは彼女にこそ親和性が高いもののはずでした。
 彼女は今、自分の夢があやふやなものであることに気がつき、悩んでいます。明晰な思考力が爆発的な情熱の発露を阻んでいます。どちらもステキな個性なのですが、彼女はいかにしてそのふたつのバランスを取るのでしょうね。

 「好きな人に好きって言うの、とーっても幸せ!」 はーちゃんは愛されて育った子どもです。好きな人から拒絶される経験をしていないがために、自分の愛を表明することを全く恐れません。
 みらいやリコと比べるとずいぶん周囲の人に積極的に干渉したがるのはこのためですね。好意や善意を表明すればそれに見合うだけの気持ちが返ってくると信じています。事実、校長先生にぶつけた言葉はみらいたちとの同居を認めるかたちで返ってきましたし、彼女の使う魔法はいつもみんなを笑顔にしています。
 今回、彼女は初めて好意が拒絶される場を目撃しました。それでいてそれが涙が出るほど鮮烈な経験であることも。愛を表明することが素晴らしいことであるという彼女の信念は変わらないでしょう。けれど、今回の経験は彼女のなかでその意味を大きく塗り替えるものだったと思います。
 彼女は自分の過去を恐れています。もし自分がみらいたちに愛される資格のない穢れた存在だったとしたら。愛の中に身を寄せている彼女にとって、それは足元が崩れ落ちるような根源的恐怖でしょう。まゆみの一方的な愛情の幸せな結末は、きっと彼女の抱いている不安にひとすじの光明を与えてくれるはずです。

 「そうなの! みらいは自分のことより誰かを応援してばかりなの!」 まゆみは他人のことをよく観察している聡い子です。「リコちゃんってそういうタイプかなあ?」 リコが転校間もない頃に、付き合いの長いみらいより正しくリコの本質を読み解いたのも彼女でしたね。
 今話はその気質が正しく昇華されていることを明らかにした物語でもありました。本来彼女はあまり自分を主張したがる性格ではありません。話し方は快活なのですが、彼女はどちらかというと集団の端の立ち位置を好み、他の人の話を拾って話題を膨らませる話し方を得意とする子です。補習メイトがナシマホウ界にやってきた第16話はその特徴が顕著ですね。今回はそんな彼女がみらいたちの応援をまっすぐ受け入れ、勇気を出して告白します。
 どうしていきなりそんなことが大それたことができるのかといえば、彼女はみらいの行動的な性格が好ましいものだと理解しているからです。熱弁を振るう勝木さんの情熱が好ましいものだと理解できるからです。彼女は友達を観察しているだけではなく、その良さを自分なりに分析し実践できる子だったのです。彼女の目の前には手本にするべきたくさんの友達がいます。あとは勇気さえあれば、彼女はステキな友達と同じ、ステキな自分に変身することができるのです。

 「私は私を信じてる!」 今話のヒーローはプリキュアではなく勝木さんでした。ネタキャラ扱いだった彼女がいつの間にか一本筋の通った情熱家に育っていたことは、補習メイトの3人を彷彿とさせる展開ですね。魔法つかいプリキュア!は脇役の成長過程を描きません。それはみらいたちの視点からではわからないことだからです。けれどそれらのきっかけには間違いなくみらいたちの影響があるし、機会によっては成長した彼女たちの力に助けられることもある。この物語はそういうある種リアルな人と人との繋がりの見えかたを描いています。
 魔法つかいを一途に追いかける彼女にとって、まゆみの一途な恋心は親近感のあるものです。みらいよりもリコよりもはーちゃんよりも、彼女はずっと深くまゆみに共感することができます。いつもは理解されがたい動機のせいで奇人めいたふるまいばかりに見えてしまう彼女ですが、共感するもののあるまゆみにならその気持ちの深いところを打ち明けることができます。理解してもらうことができます。
 燃え上がる情熱が別の人の情熱に火を点ける。手と手を繋ぐ奇跡の魔法がみらいたちだけのものではないことを、またひとり証明してみせてくれました。

限界を超える熱量

 「たぶん、はーちゃんの言ってくれた『好き』と、まゆみの『好き』はちょっと違うんじゃない?」 みらいはそう言いますが、私はそれほど大きくは違わないものだと考えています。まあ私も恋愛経験なんてみらいと大差ないくらいにしかないのですが。
 恋心は苦しいものです。だって叶うかどうかわからないのですから。はーちゃんの「好き」との最大の違いはここです。はーちゃんはみらいたちも自分を好きでいてくれていることを知っています。「好き」と言ったら相手も喜んでくれることを知っています。だから躊躇なく「好き」と言葉にすることができます。
 ところがまゆみは好きな相手が自分を好きになってくれるかどうか知りません。一目惚れなので相手の性格や、名前すら知りません。むしろ相手が今は自分を好きではないだろうことだけを知っています。「もし嫌われたら・・・」 決して低くない可能性でそういう未来が待っていることを恐れています。だから「好き」と言うことができません。
 違いはそれだけです。たいへん大きな違いですが、それだけです。情欲や独占欲の影響なんてこれに比べたらささやかなもの。「恋はすごーく楽しそうだけど、ドキドキしたり切なくなったり、大変なこともありそうっていうか」 それは友情でも同じことじゃないかな、とも思うわけですよ。
 ドキドキ!プリキュアの菱川六花のように、ただの友情であっても独占欲くらいは当たり前に沸きあがってくるものですしね。経験、ありませんか?

 こういうところがみらいたちのお人好しの限界ですね。自分では経験しておらず、よく知らないことなので、自分の経験に当てはめて想像することができません。「ドキドキしたり切なくなったり」なんて、本当ならみらいとリコはお互いの友情のなかで何度も経験してきたことでしょうに。みらいが今感じている「悲しいお別れ」の予感なんてまさにこれでしょうに。
 同時に、知らないからこそなおさらそれが素晴らしいものだと尊び、精一杯手伝おうという親切さの原動力にもなっています。まゆみがみらいの中にそれを正確に観察していますね。「みらいは自分のことより誰かを応援してばかりなの! 難しいことを考える前に行動するのよね、あの子」
 まゆみの語り口がそれを喜ばしいものとしているように、これは善悪の問題ではありません。知っていて行動すること、知らずに行動すること、そのどちらもステキなことで、ただ場合によっては限界があるというだけです。

 みらいたちとは対照的に、勝木さんはまゆみの恋心を自分の知っている気持ちに当てはめました。
 「どうなるかはわからないよね! でも諦めたらなにも始まらないよ」「私はどんなにバカにされても信じたい。絶対、魔法つかいを見つけるって!」「私は私を信じてる!」
 勝木さんだっておそらくはまだ恋を知りません。知っていたらそちらの経験からもっと適切な助言をしていたでしょう。それでも彼女は、みらいたちが踏み込めなかった、まゆみの心の深いところにある不安にまで踏み込んでみせました。自分の知っている気持ちに当てはめて共感して。
 これは素晴らしいステキなことです。だって、それは間違っているかもしれないんですよ。知らないんだから。「まゆみの『好き』はちょっと違うんじゃない?」「よく分かってないのに、まゆみのこと応援してもいいのかしら」 みらいたちが感じていた限界を、勝木さんだけはたやすく乗り越えてしまいます。彼女だって本当はみらいたちと同じ条件下です。恋心を知りません。それでも限界を超えてしまえるのは、ひとえに彼女が熱い情熱を燃えたぎらせていたから。

 情熱のパワーストーンたるルビーは心の着火剤です。持ち主の情熱を燃えたぎらせることで、心の中に抑圧されていたその人本来のパワーを外側に向けて爆発させてくれます。
 かつて魔法商店街がスパルダに破壊されたとき、リンクルストーンを奪われ変身できずにいながら、それでもリコは怯まず大きな声で怒りを露わにしました。彼女は子どもの頃から自分を愛してくれていたあの街が大好きだったから。

 それと同じことです。勝木さんはまゆみの恋心に、自分がなによりも大切にしている「魔法つかいを見つけようという気持ち」と同じものを嗅ぎとりました。それが不安に立ち消えそうになっているならば、放っておくことなんてできません。
 間違っていたって構うものか。何をおいてもそれだけは守りたい、叶えたい。そういう燃えるような情熱だけが、「知らない」という限界を乗り越えます。

情熱を燃やす「意味」

 「ドキドキしても意味なかったな・・・」 結局まゆみは失恋してしまいます。恋愛には友情にはないルールがあって、基本的には早い者勝ちです。いくら熱い情熱をたぎらせたところで、心のパワーは現実のルールを覆せません。
 ・・・だからといって、情熱に意味がなかったなどとは言わせません。情熱の化身と化した勝木さんが叫びます。「すごく好きな人ができて、そのために頑張ったんだよ? それを意味がなかったなんて言わないで!」

 このあたりは昨年GO!プリンセスプリキュアが描いたテーマですね。たとえゴールがなくても、たどり着く先が絶望であっても、夢に向かう努力は絶対に無駄になりません。その努力はあなたを大きく成長させるからです。
 ゴールがないならそれだけ無限に努力し続けられる。一度絶望してもまたその先の夢を追いかけられる。昨年のプリキュアたちはそういう答えにたどり着きました。

 魔法つかいプリキュア!は彼女たちが導いた答えを継承しつつ、もう少し違ったテーマを目指します。
 「誰かを好きになって心を熱くする経験は、きっと私たちを成長させるんだから!」 頑張ったこと、情熱を燃えたぎらせたことは、自分自身を大きく成長させるでしょう。そして、それと同時に私たちに別の「意味」をももたらします。

 まゆみの失恋はみらいたちの涙を呼びました。失恋を惜しむ悲しい涙ではありません。せいいっぱい頑張ったまゆみの情熱に心を打たれた感動の涙です。
 たとえ恋心を知らなくても、告白の瞬間にまゆみが燃やした情熱の意味を知らない人はいないでしょう。「人はね、みんな違う。愛し方や痛みも違う」 人はそれぞれみんな「違う」存在です。それでも私たちはその「違い」を乗り越えて友達になってきました。お互いにかけがえのない友達になれたみらいとリコ、みらいたちだけでなく校長先生や壮太くんとも心を通わせられたはーちゃん、誰よりもまゆみに共感していた勝木さん。それらの気持ちは、一目惚れの男の子に告白してお互いを繋ぎあおうとしたまゆみの情熱と同質のものです。誰だって、本当は「違い」を乗り越えたいという情熱を知っています。今回はたまたままゆみの番だっただけ。

 まゆみは頑張りました。繋がるためのきっかけすらない相手に向かって全身全霊で手を伸ばして、現実のルールに敗北しながらもできることを全て頑張りました。
 その「違い」を乗り越えるための情熱がどれだけ尊いものかを知らない人はいません。だから胸を打ちます。失恋によって成長するのはまゆみだけではありません。彼女と繋がり、彼女を応援してきたみらいたち、それから私やあなたをも成長させるのです。

 それから、情熱は思わぬ繋がりをも育みます。情熱はその人の内側にあるパワーを外側に向けて爆発させるものです。すぐそばでふたりが情熱を燃やしあったのなら、そこにはきっと繋がりが生まれるでしょう。だってお互いが外側に向けて手を伸ばしあっているわけですから。
 今回はまゆみと勝木さんが手を繋ぎました。勝木さんのほとばしる情熱がまゆみの情熱をも燃え上がらせ、ふたりの情熱はふたりの友情を育みました。

 「すごいね、恋って。涙が出るんだ」
 手と手を繋ぐ、奇跡の魔法。心の繋がりはひとりの頑張りをみんなに伝播します。新しい繋がりを生みます。みんなで一緒に成長していきます。だからみんなで手を繋ぐプリキュアは、ひとりで戦うムホーよりもずっとずっと強いのです。

今週の花言葉

 みらいがまゆみのヘアピンを見つけた花壇に咲いていた花はチューリップ。花言葉は「思いやり」です。まゆみはこのときから、みらいの思いやりから来る行動力を尊敬するようになりました。そしてこの行動力は時を超えて、まゆみが告白するための原動力のひとつにもなりました。みんな繋がっていて、みんな一緒に成長していくんです。
 感想文中に混ぜることができなかったので、今回はこういうかたちで紹介しました。

今週の魔法文字

 校長先生の後ろの本棚:「MOON」「LOVE」「RAIN」「FLOWERS」「STAR」「-INBOW」「SKY」
「月」「愛」「雨」「花」「星」「虹(?)」「空」
 今回は特に見所もなく、いつもの本たちですね。

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