映画スタートゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて 感想1 数多の星々に囲まれた孤独。

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星が多すぎてよくわからないルン。

このブログはあなたが視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。

↓感想記事もうひとつ↓

前フリ

 良い映画でした。

 まず開始10秒で田中監督だとわかる個性の強さときたら。
 ヒーロー然とした見得の切りかた。バンクシーンを短縮せずしっかりと盛り込むこだわり。ひとつひとつの技の効果を拡大解釈気味に描いてみせるユニークな戦闘シーン。静と動の演出によるメリハリ。作画カロリーの配分によるメリハリ。あと唐突なぐわし。

 それから、これ製作スタッフのやってみたかったこと全部詰めこんだだろ、とツッコミを入れたくなる多彩な描写の数々。
 上でも書いたタナカリオンアクション。12星座のドレスでますますユニークになるプリキュアの技。沖縄風景や星空、世界中のワンダーを魅力的に描いていく美術表現。物語に組み込まれたダンスシーン。それからなんといっても、戦闘によらない最終決着! それでいて物足りなさは感じさせない計算された構成。

 そして諸々をわずか75分の尺にムリなく詰めこむための大胆な登場人物圧縮。
 それに伴う濃密な友情描写。心情表現。
 ひかるかわいい。ララかわいい。アン警部補もかわいい。
 それでいてえれなやまどか、ユニ、プルンスとフワも短い活躍シーンのなかでしっかりと“らしさ”を盛り込んでいく充実ぶり。特にキュアセレーネの山羊座ドレスのデザイン、すごくよかったです。
 声優の付いていないユーマもスタッフロールに加えてあったのには感激しました。

 ちなみにどうでもいいことですが、今回生まれてはじめてミラクルライトをもらいました。手に取ってみると意外に抜け目ないつくりで、なるほど、そりゃ子どもたちも一生懸命振りたくなるわと実感します。嬉しかったです。
 ・・・でもヘッドアクセサリの向き、これ逆なのではー? (ボタンと反対向きに模様がついている)

 以上。今回ネタバレ抜きで語るのが難しい映画だったので、いつもなら雑感記事に分けて書いているような内容をざっくりと箇条書きにしました。

 こっからが本題。
 不用意に未視聴者の目に入れてしまうことを避けるため記事タイトルには盛り込みませんでしたが、この感想文のテーマは「ユーマは本当に宇宙に帰りたかったのか?」になります。

ひかるとララとユーマの出会い

 ユーマと最初に友達になれたのはひかるでした。
 ララが友情を結ぶまでには少々時間がかかりました。

 このあたりはテレビシリーズの序盤を思い出す流れですね。
 「この子はたぶん怖がってるだけだよ。――大丈夫。大丈夫だよ」
 ひかるはいつものように好奇心に身を任せてグイグイ踏み込み、ほとんど直感のようなイマジネーションによってユーマの気持ちを汲み取りました。
 フワと出会ったその日に友達になり、ララのことも大人として尊重してくれた彼女らしいふるまいです。
 「もう・・・! いいかげんにするルン!」
 対してララは当初ユーマのことを警戒していました。ひかると違って素直に好意を伝えられなかったせいでなかなか懐かれず、そして懐いてもらえないのでなおさら相手の心情が読み取れずにいました。
 最初のころの、先にプリキュアに変身したひかるに嫉妬したり、説明下手なひかるに振りまわされて苛立っていた姿を思い出します。

 ユーマ、最初は単純に自分に優しくしてくれる人に懐いていたんですよね。
 金平糖にすらパニックを起こしてしまう恐がりさんなのでしょうがない。地球という、なにもかも初めて見るものばかりの環境に突然連れてこられたからという事情もあります。

 だからこそ、ひかるが自分ではなくララの味方をしたことはショックでした。
 「ダメ! それはダメだよ!」
 言葉はわからなくても、自分に何か怒りを向けているのがわかるララは敵。
 そして、さっきまで安心して頼っていい相手だと思っていたひかるまでララを庇う。つまり自分の敵。

 右も左もわからない地球の上で、この瞬間、ユーマはひとりぼっちになってしまいました。
 どうしたらいいかわかりません。どれだけ困っていても助けてくれる人はどこにもいません。こらえきれない不安な気持ちを受け止めてくれる人がひとりもいません。
 「・・・逃げることないルン」
 いいえ。逃げるしかないんです。
 ララは敵だから。ひかるもきっと敵だから。だから、少なくともこの場からはひとりで脱出するしかないんです。
 ・・・もう、地球上どこにも他にユーマを守ってくれる味方などいないのだけれど。

 そうして当てもなく孤独にさまよっているとき、彼は出会ったわけですね。
 星のマスコットがあしらわれた小さなオルゴール。
 小さかったころの自分とよく似た姿をしている、少なくとも噛みついてきたりはしなさそうな、――安心できる存在。

星空を見上げて

 それからいろいろあって、ユーマはララと仲直りできました。
 頭のいいなララはミラクルライトの光の秘密に気付き、ユーマがオルゴールを気に入っていたことも忘れずにいてくれたんです。おかげで、ひかるよりは素直じゃないララの優しい真心も、時間をかけてユーマの心にちゃんと届きました。
 ララがユーマにとって味方なら、ひかるだってもちろんユーマの味方です。
 先ほどふたりが敵のように見えたのは誤解でした。とても喜ばしいことに。

 ユーマがひかるたちとケンカしてしまった海岸や街角に咲いていた、そしてララと仲直りした花畑にも咲いていた花は、沖縄の言葉でクワンソウという植物です。ちなみに食べられます。というか、たぶんあの広い花畑は食用に栽培しているものだと思われます。
 草丈約80cm。オレンジ色の鮮やかな花が特徴で、ユリに似ていますがユリ科ではありません。英名はDaylily。咲いた花が一晩で萎れてしまうとされていることからこう呼ばれています。ただし、実際は2~3日くらい保つことも多いです。日本では忘れ草とも呼ばれています。(※ 忘れな草とは全く別の植物です)食べるとイヤなことを忘れられるんだそうな。単純においしいからなのか、安眠作用があるらしいからなのか、そのへんはよくわかりませんが。
 花言葉は、だから「一夜の恋」「悲しみを忘れる」「とりとめない空想」など。

 地球上でユーマが安心していられる数少ない居場所がここに復活しました。
 ひかるたちの友達らしい人たちがオルゴールもプレゼントしてくれて、ユーマはこれ以上なくゴキゲンです。

 そんな幸せな空間のなかで、ユーマは星空を見上げます。
 何を思ったんでしょうね。彼は言葉を話せないので、私たちが自分で想像するしかありません。
 ひかるが言うように、やっぱり星空へ帰りたいと思ったんでしょうか。
 ・・・わかりません。

 それでも彼は、オルゴールを大切そうに抱えていました。
 それでも彼は、ひかるとララとの友情の証である歌を歌っていました。
 それでも彼は、結局ひかるの呼びかけに答えて一緒に家へ帰りました。

 もちろん、単に自力では宇宙へ帰れなかったというだけかもしれませんけどね。

 けれど、思うんです。もし、このときユーマがそのまま星空へ帰っていたら、そのあとどうなっていたのかなと。
 「星が多すぎてよくわからないルン」
 頭上いっぱいに広がる満天の星空。
 数多ある星々のなかから、たったひとつの星であるユーマを、はたして私たちは見つけだすことができたでしょうか。いつの日かもう一度彼と出会うことができたでしょうか。比較的明るいみなみじゅうじ座を見つけることすら大変だというのに。

 ――それと、ところでユーマのほうは?

さよならの日に見たもの

 「ひかる・・・。どうしたルン。ひかるだってユーマと別れるのはイヤルン? みんなも」

 ユーマとお別れしなければならないと知ったとき、ララはひどく取り乱しました。

 もちろん悲しかったからです。
 せっかく友達になれた子とお別れなんてしたくありません。
 だって、もう二度と会えないかもしれないんですから。夜空にいくつの星々が浮かんでいるでしょうか。あの数えきれないほどたくさんの星たちのなかから、たったひとりしかいないユーマを見つけろというのでしょうか。そんなのムリです。不可能です。
 このお別れは永遠のお別れ。そんなの、せっかくできた友達が消えて無くなってしまうのと同じです。

 それともうひとつ。どうしても納得できなかったからです。
 自分と同じくユーマのことを好きだったように見えたひかるが、自分と違ってすんなりお別れを受け入れていたことが。
 もう二度と会えないのに。永遠のお別れなのに。なのに、どうして辛くないんだろう。意味がわからない。

 数日前にユーマが感じていた気持ちと同じです。
 ショックでした。
 同じ気持ちでいると思っていたひかるが本当は違っていたことが。この世界でただひとり、自分だけがユーマとのお別れを悲しんでいるという、納得しがたい奇妙な現実が。
 誰もララの気持ちをわかってくれません。
 誰もララと同じ気持ちを共有してくれません。分かちあってくれません。
 ララの心はひとりぼっちです。

 ユーマは?
 ユーマはどうなんだろう。

 残念ながら、彼は言葉を話すことができません。

 ――言葉を話してはくれません。
 ・・・たしかに言葉は話してくれないけれど、でも、彼はそれ以外のことで気持ちを表現してくれる子です。
 これまではそうして気持ちを通じあわせることができていました。友達になることができていました。
 だったら、今こそ私たちがイマジネーションを働かせるべきときです。

 宇宙ハンターに連れ去られようとしていたとき、彼は何を思っていたでしょうか?
 ・・・わかりません。
 では、そのとき彼は何を見ていたでしょうか?
 嘆き悲しむララと、彼女を支えるひかるの姿。

 彼は今まさに友達との悲しいお別れを強制されようとしている現実を見て、そして、“危険な星”になってしまいました。

 広い広い宇宙の彼方。数多ある星々に囲まれて、さらに星々ひとつひとつにたくさんの人々が生きていて、そんな果てしない宇宙のなかでユーマの友達はただふたり。きっと再会するのは難しいでしょう。
 悪意に触れるとかそういう以前の問題です。
 ・・・そんなの、さみしいに決まってるじゃないですか。

 「『さみしい』はどこから来るの? 会いたい思いが連れてくる。『会いたい』は、ほら、ふれあいで積もる気持ち。未知との遭遇」(挿入歌『Twinkle Stars』)

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