これはきっと、夢ルン。ね。そうルン、ユーマ。
ひとつ前の記事に引きつづき、不用意に未視聴者の目に入れてしまうことを避けるため記事タイトルには盛り込みませんでしたが、こっちの感想文のテーマは「ユーマはどうして危険な星になってしまったのか?」になります。
ひとりぼっち惑星
宇宙ハンターの悪意をぶつけられ、そしてひかるとララとのお別れが確定的になって、ユーマは“危険な星”になってしまいました。
あたり構わず周辺そこらじゅうを雷で攻撃しつくします。数えきれないほど群がった宇宙ハンターたちも、ひかるやララ、プリキュアたちも区別しません。そもそも周囲に渦巻く人々の思いが多すぎて見分けが付いているかすら怪しいところ。
仮に説得するにしても、ユーマにひかるたちの姿を気づいてもらえるよう、星の内部まで行く必要があるでしょう。
こんなことになってしまったのは私のせいだと、ララは自分を責めます。
そんなララに対し、ひかるはふと、先ほどユーマとのお別れを受け入れようとした理由を打ち明けます。
「好きだったら、ユーマのこと、私たちだけで決めていいのかなって」
その一言で、孤独を感じ、困惑していたララの心は平静を取り戻します。
数日前、ララがユーマのためを思ってオルゴールの旋律を歌ってあげたのと同じ構図です。
周りの気持ちがわからないから不安になるんです。周りにたくさんの人がいても、いいえ、たくさんの人がいるからこそ、この思いを抱いているのは自分だけかもしれないと焦燥するんです。まるでひとりぼっちになったような気分になるんです。
だからこそ、そういう子にははっきり教えてあげなければなりません。
「あなたはひとりじゃないよ」と。
だからこそ、ひかるとララはもう一度ユーマに言葉を届けなければなりません。
「ユーマはきっと宇宙に帰りたかったんだルン。それを私が――」
伝えようとする側にも不安はあります。だって、ユーマは言葉を話してくれないから。本当は自分が想像していたのとは違った思いを抱いているかもしれない。自分が一方的に友達だと思っていただけで、自分だけが楽しいと思っていただけで、本当は逆に迷惑をかけていたのかもしれない。それは悲しい。それはイヤだ。だけど・・・。
悲しい思いを抱えつつ、危険な星になってしまったユーマの内部に飛び込んだひかるとララが見たものは――、見覚えのある想い出たちでした。
「どう、ユーマ。地球だってすごいでしょ」
ナスカの地上絵。ギアナ高地。エンゼルフォール。ウユニ塩湖。ヤスール火山。マラカイボの灯台。他にもアフリカのサバンナやグレートバリアリーフ、イースター島など、地球にあるたくさんのワンダーを巡って遊んでまわりました。
ひかると、ララと、ユーマと一緒に。
それが、どういうわけかこの危険な星の上にひとつひとつ再現されています。
・・・となると、つまりさっきから宇宙ハンターたちを撃ち落としている雷の正体はマラカイボの灯台でしょうか。一度鳴りだすと10時間ほども止まらず光りつづける、しかも音のない不思議な雷の群れ。
ユーマはひかるたちとの想い出を悪用して周囲を攻撃しているのでしょうか。
そういう悪い子になってしまったんでしょうか。
いいえ。たぶん違うと思います。
アクティブセンサーというものをご存じでしょうか? 宇宙ハンターが地球で使い、たくさんの人々を昏倒させた装置のことです。
アクティブセンサーは光線や音波を飛ばし、それが何か物質にぶつかって反射してくる様子を測定することで、周囲の地形や物質を探査します。これによって、たとえば防犯目的なら人がいないはずの時間に動きまわる不審者を見つけたり、たとえば漁業でなら暗い海を泳ぎまわっている魚群を見つけたりします。
あくまで探査のための装置なので基本的には無害なのですが、より遠くまで調べたり、より正確に調べたりしたい場合、光線や音波を強力なものにする必要があります。ですが、あまりに強すぎる光や音は、ときに生物にとって有害になることがあるんです。
宇宙ハンターはあくまでスタードロップを探査するためにセンサーを使っていました。ただ、周りの迷惑を顧みない人物だったため平然と有害なレベルの光線だか音波だかを飛ばしただけであって。
“危険な星”になったユーマが今していることは、おそらくそれと同じです。
彼も探しているんです。想い出の雷を活用して。周囲に数えきれないほど集まってしまった人たちのなかから、たったふたりの友達を。
雷に打たれたひかるとララは、星の核につながっているといわれるヤスール火山の火口へと落ちていきます。
歌が届く理由
当初ユーマに避けられていたララは、彼が気に入っていたオルゴールの旋律を歌うことで、彼と仲よくできるようになりました。
たまたまユーマが歌を好む生物だったから、という理由ではきっとありません。何より嬉しかったんでしょう。自分のために、自分が興味を持ったものから聞こえた旋律を歌って聞かせようとしてくれた、その好意が。
もうひとりの友達であるひかるはユーマを恐れず、彼を安心させるために優しく両手で包んでくれました。それと同じことを、ララは歌でしてあげたんです。
だからユーマの心に歌が届きます。
だからユーマにとって歌は友情の証しとして認識されます。
そして、だからユーマは歌うんです。自分もひかるやララを友達だと思っているから。その好意を自分もふたりに伝えたいと思っているから。
大好きなララやひかるのマネをして、ふたりみたいに好意を表現しているんです。
思い出でできたユーマの星で、プリキュアたちはオルゴールのなかからユーマのための歌を歌います。
ひょっとしたら、最初はただ自分に似ている飾りが気になっていただけなのかもしれません。もちろん最初から旋律も気に入っていたのかもしれません。
どちらにせよ、ユーマはララやひかるがその旋律を歌ってくれたことで、オルゴールとその旋律をますます大切なものとして抱きかかえることになりました。何の変哲もない小さなオルゴールのなかには、ユーマが友達ふたりと過ごした日々の想い出があふれんばかりに詰まっています。
プリキュアたちが、ひかるやララが自分のために歌ってくれているのを見つけたなら、もちろんユーマも一緒になって歌を歌うでしょう。ひかるやララ、大好きな友達のために。
いつか叶える夢
ユーマはスタードロップ――超新星爆発によって生まれた星の種です。いつかは惑星になるんだそうです。
いくら地球に大好きな友達ができたとしても、いつまでも一緒にいることは叶いません。
お別れは必然です。それを受け入れなければなりません。どうにかして心に整理をつけなければなりません。
宇宙はあまりに広すぎて、星はあまりに多すぎて、きっと一度お別れしたら二度と会えなくなるでしょうけれど。
「ルン。これはきっと、夢ルン。ね。そうルン、ユーマ」
だから、ユーマは友達との想い出を宇宙へ持ち帰ることにしました。
「これはいつかユーマがなりたい未来のイメージ。ユーマの夢ルン」
楽しかった日々を胸に刻んでおけば、幸せのかたちを遠い空の向こうにも再現すれば、きっと、離れていても、離れはしない。
スタードロップは近くにいる人の心の影響を受けるんだそうです。
悪い人の近くにいたら悪意ある星に、だったらその反対に、いい人の近くにいたら優しい星に。
別に、スタードロップじゃなくてもどこにでもありふれている話ですね。たくさん愛された子は優しい人に育ち、不幸な生まれの子はときどき悲しいことをしてしまう。もちろん、みんながみんなそうなるわけじゃないけれど。
ユーマにとって、地球は最初恐いところでした。油断するとすぐ食べられそうになります。仲間はいません。味方もいません。自分の身は自分で守らなきゃいけない、そんな気がしていました。
けれど、まもなく味方になってくれる人たちと出会うことができました。体をトゲトゲさせなくてもいいんだって、安心していいんだって、教えてもらえました。恐いばかりだった地球の風景が、なんだか楽しく、美しく見えるようになっていきました。
ひかるやララはスタードロップではありません。本来ユーマの仲間ではありません。けれど、ふたりはユーマに優しくしてくれました。歌ってくれました。遊んでくれました。泣いてくれました。必死に守ってもくれました。
だから、ユーマにとっての地球は、今となっては、とてもステキなところです。
同じものを見ているはずなのに、ひかるたちと友達になる前と後では、地球が全然違うもののように変わって見えました。いいえ。変わったのはユーマです。ひかるたちと出会って、ユーマの世界観は大きく変わったんです。
想い出のクワンソウ咲き誇る夢の野に姿を見せたユーマは、ちょうどひかるとララの見た目を重ねたような姿になっていました。
その姿で、ユーマは嬉しそうにふたりに向かって微笑みます。
新しい夢ができました。やりたいことができました。
どこか遠くの宇宙で、この幸せだった想い出を自分の星の上に再現しなければなりません。
まずは他ならぬ自分自身のために。けれど、それがうまくできたらひかるとララもきっと喜んでくれるでしょう。星に生まれてくる新しい生命たちも、みんなきっと。
そうなればきっと、自分ひとりのために頑張るよりももっともっと幸せになれるでしょう。
そういうことをユーマは知っています。だって、大好きなひかるやララがそうだったから。
だから、ユーマは大好きな友達ふたりとここでお別れしなければなりません。
だけど、これはけっして誰かに強制された悲しいお別れなどではありません。
自分で決めた、輝かしい未来へつながる嬉しい「またね」です。
「『わくわく』はどこから来るの? ときめく思いが連れてくる。『ときめき』は大事、大好き。なくしたくない。抱きしめたい」(挿入歌『Twinkle Stars』)
そして、満天の星空のなかで
たくさんの人たちと出会いました。
いい人たちもいました。悪い人たちもいました。ひかるとララとですらそれぞれ全然違う性格をしていました。映画開始直後から延々単独行動して、やっと合流&変身したと思った直後「じゃ、あの大きいのは私が」と、また単独行動したがるウルトラマイペースガールまでいました。(ものすごくツッコミたかった・・・!)
夜空の星々がそれぞれ違う色や大きさをしているように、人もみんな全然違っていました。それも星の数ほどたくさんいました。そんな多様すぎるくらい多様な人たちのなかで、ユーマがひかるとララに出会えたのは、きっとそれほど稀少な確率だったのでしょう。
・・・だったら、むしろまた会えるかもしれない。
だって、こんなにたくさんある星々のなかで、それでもひかるとララはユーマを見つけてくれたんですから。
だって、こんなにたくさんいる人たちのなかで、それでもユーマはひかるとララを見つけられたんですから。
「これはきっと道標ルン」
無限の可能性のなかで、それでもただひとつの奇跡と巡り会う絆。そういう不思議な結びつきで、ひかるたちとユーマはつながっていたのかもしれません。
そういう夢を、信じます。だって、やっぱり会いたいじゃないですか。いくら自分で決めたお別れだとしても。離れていても離れはしないといっても。友達なんですから。大好きなんですから。
だから、「またね」。
「心ならひとつ。さよならはさよならじゃない。We’re Twinkle Stars!!」(挿入歌『Twinkle Stars』)
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