幻滅する、ということについて。

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 あるいは失望するということについて。

 落胆するということについて。

 ガッカリするということについて。

 父親を、もしくは母親を、心の底から嫌いになったことがあるでしょうか?
 たぶん、大抵の人が思春期のうちに一度や二度経験したことがあると思うのですが。
 あれから何歳か歳を取ったあなたに聞きます。

 あなたのお父さんは、お母さんは、そこまで嫌われるのも致し方ないクソ野郎どもだったでしょうか?

 親がお願いを聞いてくれなくて、
 親がちっとも助けてくれなくて、
 親が理不尽に怒鳴りつけてきて、
 そんな経験をして初めて気付けるようになることがあります。

 たとえば、「この人は自分の親であるのと同時に、自分と同じひとりの人間でもあるんだな」
 ・・・なんて。

 好きな人の顔を思い浮かべてください。
 今度はなるべく身近な人じゃなく。テレビタレントだったり、アニメのヒーローだったり、歴史上の偉人だったり、そういうの。
 ひとりじゃなくて構いません。むしろたくさん思い浮かべてくれたほうが、これから(最初から)ドヤ顔で語ろうとしている私にとっては都合がいいかもしれない。

 あなたが思い浮かべたその人は、麻薬を吸って逮捕されるような人でしょうか?
 あなたが思い浮かべたその人は、不倫をして裁判にかけられるような人でしょうか?
 あなたが思い浮かべたその人は、身近な人を傷つけてヘラヘラ笑っているような人でしょうか?

 何を根拠にそんなこと信じているのですか?

 きっとその人は素晴らしい人なのでしょう。
 いるだけで場の空気が変わるような面白い人なのかもしれません。誰にも真似できない卓越した技術の持ち主なのかもしれません。とてつもない偉業を成し遂げた人なのかもしれません。単純に誰からも愛される天性の魅力の持ち主なのかもしれません。すさまじい努力家かもしれません。深い人生哲学を持っているのかもしれません。高潔な態度で多くの人に範を示してきたのかもしれません。

 ですが、そんなもの彼らが一切間違ったことをしていないという保証にはなりません。
 いいかげん散々見てきたでしょう。麻薬を吸ってしまった人。不倫をしてしまった人。暴力ざた。ハラスメント。暴言。いろいろな過ちによって、普通の人の何倍もの社会的制裁を受け、そして過去の栄光全てを失った著名人たち。「まさかあの人が!?」と派手に騒がれたたくさんの人々。
 何を根拠に、あなたは他人の清廉潔白たることを信じているのですか?

 私たちが見ているものは常に虚像です。

 断じてその人そのものではありません。私の目に映し、私の脳で解釈した、私にとってのその人でしかありません。
 知らないことがたくさんあります。推測で補完するしかない事柄がたくさんあります。「この人はこういう人だ」という思い込みもたくさんあります。
 主観を完全に排除して純粋な真実だけを抽出することは不可能です。“客観的”といわれる情報であっても、それはあくまでどこかの誰かが編纂したものであり、従って誰かの主観に縛られているのですから。ましてやそもそもその情報を、結局私たちは自分の目と脳を通して受け取るしかないのですから。
 私たちは誰を見るときも、実際にはその人そのものではなく、自分の主観のなかにつくった勝手な虚像を見つめています。
 私たちの知っている“その人”は、実際の“その人”とは別人です。

 これまでもいろんな感想文でちょくちょく書いてきましたが、そういう理由で、私はヒーローというものが嫌いです。
 アイドルだったり、スポーツ選手だったり、著名な実業家だったり、歴史上の偉人だったり、とにかくそういう大勢に名を知られ、好かれていたり尊敬されていたりするもの全部が嫌いです。
 どうしてもかわいそうだと思ってしまうから。
 ファンが100人いれば100通りの虚像を押しつけられ、それら全てに適うふるまいが求められ、そしてひとたびいずれかとの解釈違いを起こすとたちまち大きなバッシングにつながってしまう。
 本当ならそこまでされなきゃいけないような人でもないのに。ただ、有名だというだけで。好かれていたというだけで。ひたすら理不尽なことに。

 「幻滅する」という言葉があります。
 「失望する」という言葉があります。
 「落胆する」という言葉があります。
 「ガッカリする」という言葉があります。
 全部、“する”のは私たちです。虚像を裏切った誰かが“した”のではありません。
 たとえ発端がその誰かのふるまいにあったとしても、幻滅したのは、失望したのは、落胆したのは、ガッカリしたのは、あくまで私たちです。原因は私たちの主観にこそあります。他人に責任を押しつけるな。

 私の好きな人は、きっと麻薬を吸って逮捕されるような人じゃありません。
 私の好きな人は、きっと不倫をして裁判にかけられるような人じゃありません。
 私の好きな人は、絶対に身近な人を傷つけてヘラヘラ笑っていられる人じゃありません。

 もしかしたら私が誤解しているのかもしれないけれど、それなら間違っていたのは私です。誤解していたことへの責任を取るべきはあくまで私です。場合によっては彼らにも取るべき社会的責任があるかもしれませんが、私が私に対して取るべき責任はそれと無関係に発生します。
 私は私の責任のもと、私自身の目と脳を通して見つめた人を心から愛したいと望みます。

 父親を、もしくは母親を、心の底から嫌いになったことがあるでしょうか?
 たぶん、大抵の人が思春期のうちに一度や二度経験したことがあると思うのですが。
 あれから何歳か歳を取って、あのころの両親と自分の姿をふり返ることができるようになった私は、今ではこう思うようになりました。

 「甘ったれんな」
 お前は自分の主観と相手の実際との齟齬に気付いて、虚像を押しつけていたことを自覚して、そうして少しは自立した大人になっていくんだ。

 ・・・とまあ、たまーにこんな感じで説教臭い文章を書き殴りたくなる日もあるのですよ。(というか普段のブログ記事も似たようなものか)

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    コメント

    1. 匿名 より:

      こんばんは。きっと何かを書いてくれているだろうと思って来ました。
      私も私の気持ちを少しだけ書かせてもらいますね。

      正直言うと、少しですが失望しました。色々なものや色々な人に。
      でも、決して嫌いにはなっていません。
      今までたくさんのエンタメを受け取ってきたからです。
      「エンターテイナーは舞台の裏を見せてはいけない。」私はこの意見に賛同しますがあなたはこの言葉が嫌いかもしれない。
      しかしその矜持を捨てざるを得なくなったことを誰が責められるのでしょうか。何を責めろと言うのでしょうか。

      私が愛してきたのは彼女らの作った虚像だったのかもしれない。でもそれでいいんです。少なくとも私が経験させてもらったあれこれは全て真実だ。
      これからもその真実を愛していこうと思います。

      • 疲ぃ より:

         ステキなコメントありがとうございます。

         お返事を考えていたら予想外に長くなっちゃったので記事化しました。
        楽しい、はどこにあるのか。

      • 疲ぃ より:

         追伸。

         恥ずかしながらニブい人間なもので、もうひとつお話ししなきゃいけなかったことに一晩経って今さら気付きました。

         エンターテイナーは舞台の裏を見せないでいるべきです。それは舞台に立とうとする人間にとって根源的な矜持です。
         けれど、残念ながら彼女たちの実体は人間です。都合のいい万能ヒーローなどではありません。だからファンや周りの人間との齟齬はどうしても起きてしまいます。自分ですらカッコ悪いと思う失敗も、ときにはしてしまうでしょう。
         舞台の上にいるのはどいつもこいつも不完全な未熟者ばかり。それが現実ですよ。

         それでも、私はまだ彼女たちの描く幻想を見ていたい。

         だって“私が”彼女たちを好きなんだから。“私が”彼女たちと楽しむために来ているんだから。
         ちょっとやそっと見たくないものを見せられたくらいで挫けるものか。私は私が最大限楽しむためにここにいるんだ。私は私が最大限楽しむために、彼女たちの怒りも涙も責めはしない。
         舞台人とお客さんは協同関係です。あちらの不出来はこちらで補いましょう。
         だから、彼女たちには立ち止まらずに、ずっと楽しい幻想を描いてほしい。

         遺憾ながら全てのお客さんが私のような考えかたをしているわけではありません。エンターテイナーを志すならどうしても人より多く理不尽な要求を押しつけられてしまうでしょう。失敗を過剰に批難する声も止むことはないでしょう。
         それでも忘れないでください。
         彼女の声は私に届いています。舞台がどんなに荒れ果てようと、私はお客さんなりの矜持に則って、その声の聞こえる席を探しながら彼女を待ちつづけると約束します。なんなら私からも声を発しつづけましょう。舞台を邪魔しない程度に。

         私は自分の“好き”を諦めません。

        • 匿名 より:

          ありがとうございます。

          決して思い出を黒歴史にはしないし、
          がんばる姿を見たら精一杯楽しみます。

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