ポッピンQ 感想 明日を迎えるために、昨日を終わらせる物語。

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On your marks. ―― Set.

 おそらく制作途中でその後の商業展開が決定したんでしょうね。言ってしまえばげんなりする出来の脚本です。語られなければいけない背景設定があまりにも多く、またキャラクター造形も、中心テーマから派生させて5人それぞれに切り口の異なる個別テーマを与えるプリキュア方式になっています。
 要するにどう頑張っても95分では尺が全く足りません。1年アニメ向きです。従って序盤に提示される各キャラクターの課題もほとんど解決されません。主人公・小湊伊純のものが多少進行する程度でしょうか。このあたりは4月にスタートするらしい新展開に期待するべきでしょうね。人間もポッピン族も大変魅力的なキャラクターぞろいなので今から楽しみです。個人的には柔道家のあさひと巫女のレミィが特にお気に入り。プリキュア伝統のあざとかわいさが詰まってます。

 ではこの映画は見るところのない駄作なのかというと決してそんなことはなくて、この映画は単体で完結しない物語なのかというとこれまたあながちそうでもありません。なぜならこの映画は「卒業」を描く物語だからです。
 あなたもご存じの通り、卒業はゴールではありません。卒業式を終えたからって何かが変わるわけではありません。卒業証書1枚で明日からいきなり大人になれるわけではありません。卒業は単なる一区切りです。その日までに何かを成さなければいけないなんて類のものではないのです。だから伊純たち5人の課題は具体的な解決にまで至りません。
 けれど、区切りです。嫌いだった昨日の自分を終わらせ、明日の自分を好きになるきっかけには使えます。言うなればスターティングブロックのようなものですね。

 伊純は陸上競技大会で友達に負けたことを心残りにしていました。苦い思い出を雪ぐために卒業ギリギリまで部活動を続け、自己ベスト更新に固執していました。ケガがなければあのとき自分が勝っていたんだと証明するために。
 けれどそれぞれ心残りを抱えた似たもの同士である仲間たちと出会い、慣れないダンス練習を共にしていく中で、伊純は自分の心残りの正体を見つめ直していくことになります。
 本当は、少なくとも気持ちのうえでは、勝つこと自体にさほどの意味はなかったんですよね。だって伊純を追い立てていたものの本質は後悔。大会があったあの日、ケガをしたと偽ってまで自分の負けを認められなかった情けなさ、素直に友達を祝福できなかった不甲斐なさこそが彼女の心残りだったんですから。
 もしもあの日をやり直して自分が勝ったことにできるなら。時間の理を超えた誘惑に魅力を感じないといえば嘘になります。けれど、そんな大それたことをしなくたって心残りを取り除くことはできるんです。自分の心残りの正体を正しく見定められているのなら。
 あの日素直に負けを認められなかったなら、いつか納得できる走りをすればいいんです。あの日友達を祝福できなかったなら、また再戦を約束すればいいんです。過去をやり直す必要なんてありません。それは決してあの日にしかできないことではなくて、いつかの未来にまた挑戦できることなんですから。

 この映画が描く物語はたったそれだけ。悪い言い方をするなら問題の先送りでしかありません。けれど、先送りにできるって気付きはとてもステキなものなんです。
 だって、自分を嫌いにならないで済むから。取り返しのつかない後悔は永遠にあなたの誇りを傷つけますが、いつかまた挑戦できる負債はあなたがより大きく成長するための目標にしかなりません。
 子どもとしての人生と大人としての人生は連続しています。中学校を卒業してほんの2週間で高校生になれちゃうように。何も中学校で抱えた心残りは必ずしも中学生のうちに片付けなきゃいけないものではありません。高校でも、大学でも、社会人になってからでも、いくらでも取り返しはつきます。あなたの全ての人生は連続しているのですから。
 だから、卒業という区切りのいい機会に、あなた自身の嫌いなところを余すことなく全部拾い上げて次の区切りまでの課題に変えちゃいましょう。たったそれだけであなたは今までよりもずっと自分のことが好きになれるはずです。いわゆる高校デビューってヤツですな。(違う)

 クラウチングスタート。オンユアマーク、レディ。嫌な思い出なんて足蹴にしてしまえ。スターティングブロックを蹴り出す勢いが強くなればなるほど、明日のあなたは自己ベストを更新し続けられるのですから。

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