痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。 感想 現実にはありえないゲームで遊べる彼女をうらやましく思う。

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私は普通にプレイしてるだけなんだけどなあ。

 2000年代前半。『ファイナルファンタジー11』や『ラグナロクオンライン』、『メイプルストーリー』などのMMORPGが広く流行していたあの時期。
 勇者になりきって魔王を倒すオフラインRPGにいいかげん飽き飽きしていたゲーマーの一部は、MMORPGという全く新しいゲームにいくつかの夢を見ていました。
 「世界を救う勇者以外のロールを演じてみたい」「ファンタジーな世界で日常生活してみたい」「もっと自分らしく、与えられた遊び以外をしてみたい」。
 オフラインのRPGと違い、MMORPGで出会う登場キャラクターは人間が操作します。そこに期待していました。フラグが立っていなければ何をしても同じ反応しか返してくれないNPCと違って、中身が人間なら柔軟な反応をくれるはず。人間同士だからこそ描ける自由なイベントと無限のドラマ。きっとMMORPGならコンピュータの制約に縛られない、あらゆる意味で理想的なRPG体験ができるんだと。

 全然そんなことなかったんですけどね。
 実際のところ、人間の入ったキャラクターはNPCよりはるかにつまらない存在でした。なにせ彼ら、ゲーム世界の雰囲気ぶち壊しな話ばっかりしていますし。他人がいきなり話しかけてもろくな反応を返してくれませんし。いざ関わりあいを持ったとしても効率重視で機械みたいなルーチンワークばかりしていますし。
 MMORPGの世界にいるのはあくまでゲームプレイヤーのアバターであって、私と同じ世界を生きてくれるゲームキャラクターではありませんでした。

 「世界を救う勇者以外のロールを演じてみたい」「ファンタジーな世界で日常生活してみたい」「もっと自分らしく、与えられた遊び以外をしてみたい」。
 そんな夢を叶えてくれる理想的なRPGは、現実にはむしろオンライン上にこそ存在しません。

 『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』は、そういう現実にはありえない“理想的な”MMORPGを描いた物語です。(※ というか、オンラインゲームを題材にしたアニメは大抵そういう物語ですね)
 まず舞台となるNew World Online自体のゲームシステムが異様に柔軟で、プレイヤーがどんな変なことをしてみても、スキル取得というかたちでいちいちリアクションを返してくれます。主人公のメイプルがこのゲームを気に入ったのはまさにそういうところでした。
 そりゃこれだけ細やかにプレイングひとつひとつの意義を与えてくれるならソロでも楽しいわ。現実のRPGはここまで柔軟になれないからこそMMORPGに期待が向けられた時期があったわけで。開発会社のマンパワーどうなってんだ。
 また、プレイヤーひとりひとりのふるまいも妙にNPC的。さすがに知らない人に話しかけられて戸惑ったり、メタな発言を含んだりすることはありますが、誰もゲームの雰囲気を壊すようなことはしません。クロムのように他のプレイヤーキャラに興味を持った人はそっと見守るだけに留めますし、ペインのように未知のスキルで理不尽に倒された人も運営に抗議したりせず素直に負けを認めます。所属ギルドで一兵卒扱いされている人たちですら、文句のひとつも言わず統一装備を身に纏い、ノリノリで蹴散らされます。
 ゲーマー全員にこれが期待できるのなら、今ごろ全てのRPGはMMORPGに取って代わられていたことでしょう。現実のMMORPGはRPGのくせにとにかくロールプレイさせてくれないゲームでした。Leeroy Jenkinsくらいの極まったツワモノならまた別なのかもしれませんが。

 じゃあ、ゲーム世界に閉じこめられて嫌でも本気でゲームと向きあわなければならない、みたいな(この手のアニメによくある)状況がRPG好きのゲーマーにとって理想的かというと、それもまた違うんですよね。
 そういう状況下で人々がふるまうのは生身の自分の姿です。ゲームキャラクターではありません。ゲームの世界で生きている、みたいな感覚はちっとも得られず、むしろゲーム世界が完全に現実に置き換わってしまうでしょう。
 そういうとき、たとえば炎帝ノ国のミィみたいないかにもゲーム的な口調で発言したら、「ふざけてる場合か!」と怒鳴られて終わりでしょう。それは私たちの好きなRPG世界ではありません。
 これはゲームだ、と割り切って考えられるからこそ、自由気ままに“ゲーム世界に暮らすもうひとりの私”のロールプレイに浸る遊びができるんです。それこそ「痛いのは嫌」なんです。本当に痛かったらロールプレイゲームにならないんです。

 現在、どうもVR技術の発展によってMMORPGが再流行することを夢見る人たちが少なからずいるようです。それこそこの『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』のように、そういった新しいゲームで遊ぶ物語がいくつもつくられています。
 ですが、おそらく大きく流行ることはないでしょう。いくら映像や操作性がリアルになったとしても、それでゲーマーが衆人環視下でロールプレイを楽しむようになるわけではないからです。私たちが気兼ねなくオンラインでRPGを楽しめるようになるためには、このアニメで描かれたような異様に出来のいいゲームシステムと、プレイヤー自身のロールプレイへの理解(あるいは寛容性)が必要です。
 だから、こんな“理想的な”MMORPGは、現実にはありえない。

 このアニメの製作スタッフ、ないし原作者は、きっとRPGが好きな人たちなんでしょうね。15年前はMMORPGに対して私と同じ夢を見ていたのかもしれません。メイプルたちが楽しそうに活躍する描写ひとつひとつに、いつかこういうゲームを遊んでみたい、という愛情というか、羨望のようなものが込められているように感じました。(※ 実現したらしたでひどいゲームバランスになっていそうですけどね)
 RPGが好きな人ほど、きっとメイプルたちの楽しそうな笑顔が愛おしく思えたはず。

 「今のメイプルはこのゲームの看板プレイヤーだ。メイプルを見て参入してくるものも増えてるし、メイプルに対抗するためにスキル集めやレベル上げに精を出すものも多い。今さらメイプルを弱くしても誰も喜ばないだろう」
 「これからは手を出さない感じか?」
 「ああ。見守ろう。無理に弱体化を考えなければかわいいプレイヤーだしな」
 「ひとつ予想してみるか。お題は『今のメイプルがどんな変なことをしているか』」
(第12話)

 メイプルは普通にゲームを楽しんだ結果たまたまこうなっただけだといいます。ハタから見ている私からしても、本当にそのとおりだったと思います。全てはあんな条件であんな強力なレアスキルの数々を設定した運営が悪い。あとそれに気付かなかったメイプル以外のプレイヤーたちの勘も悪い。
 けれど、メイプルがしていたような普通の遊びかたを許容するRPGは、実際にはまだ存在していません。だからみんなメイプルのほうがおかしいんだとツッコミます。
 いつか製作されるといいですね。世界中に特性:【メイプル】を持つプレイヤーが量産されてしまうような、そんなイカれたMMORPG。
 RPGはまだまだゲーマーが本当にやってみたい“普通”を実現できていませんよ。

 そういう、バカにしてるんだか愛おしいんだかよくわからない感情をこのアニメに抱きつつ、いつ来るのか知らないアニメ2期をのんびり待ちたいと思います。

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