メリア。ユミア様であれば、今の私を、私たちを見てこう叱責されただろう――。
(主観的)あらすじ
霧乃王が討伐され、皇都奪還は成りました。巨神肩の人々は諸手を振って英雄たちの凱旋を迎え、瞳に光を灯して賑やかに笑いあいます。明日はきっと良い日になるでしょう。何の根拠もなくそう信じられる日々が、これからずっと続いていきます。
結局のところ、あの空間の裂け目は何だったんでしょうね。世界外からの干渉となると『ゼノブレイドクロス』の惑星ミラを真っ先に思いだしますが、何か関係があるのでしょうか。そういえばあの世界、何の説明もなくテレシアが存在していましたし。
まあ、そのあたりはこの物語において些末なお話です。ぶっちゃけ民を苦しめる脅威さえ配置できたら細かい設定なんざどうでもいい。モノリスソフトのことなのでどうせ趣味に走った凝った裏設定はあるのでしょうが、あえてここで語る必要もなし。必要があれば、いつかまた遠くない未来に、別の物語の一節として語られることもあるでしょう。
メリアはハイエンターたちに希望を示しました。
絶望の霧のなかを惑う人々に、それでも支えあいながら前を見ることを教え、自らも理想を成しきれない不甲斐なさに歯がみしながら、なおも未来を信じつづけました。あとはどうしようもない閉塞感をもたらした元凶さえ取り除けば。
「守れたね、未来」
「――ああ」
「行くぞ」
「――ああ」
それで未来はつながります。
つながる未来
「もし巨神肩に皇都があって、住んでいる人がいるなら――、メリアは会いたくない?」
そもそもこの物語は誰かを救うために紡がれはじめたのではありませんでした。初めはただ、メリアの個人的な郷愁を満足させるための小旅行の予定でした。
たまたまそこに困っている人々がいて、打ち倒すべき世界の危機が立ち塞がっていただけであって。
これは小さな小さな物語。売る人次第ではフルリメイクと謳っていたかもしれないリマスターバージョンのゲームソフトに、たかだかプレイ時間20時間程度のオマケとして添付された追加ストーリーです。
「私は思い違いをしていた。大戦が終わり、平和が訪れ、道半ばとはいえ復興も進み、皆笑っているものと思っていた。そう。ここの者たちも平和を享受しているものと思っていた。だが――、そうではなかった。光を求める者。反目しあう者。未だ笑えぬ者たちがいるというのに、私はのうのうと――!」
そう。メリアは当初思い違いをしていました。
これはそんな大それた、為政者たらんとする者の襟を正すための視野を広く持つ物語ではありません。
「のうのうとなんてしていなかったよ。コロニー9のハイエンターのため、いや、残された全ての人たちのため、メリアは昼夜を惜しんでダンバンさんや御玉さんたちと指揮を執っていた。だから皆の笑顔があるんだ」
そうではなく、これはあくまでどこかの誰かにささやかな笑顔をもたらすためだけに紡がれた物語。
世界を救い、人々の平和な日常を取り戻した自覚があるくせに、なぜか自分のことは棚上げしていた少女のため、希望とは何なのか考える時間を与えるための物語。
「父上や兄上が望んだ未来とは何だったのだろうな」
「そんなの未来視が使えなくたってわかるさ。――メリアが幸せでありますように、さ」
ほんの少し考えてみれば、その答えはとても簡単なものでした。
私は愛されていた。私は幸せを願われていた。だから今がある。
かつて、彼らは未来に希望を夢見ていました。希望ある未来に愛するメリアを送り届けるため、彼らは彼らにできるあらゆる努力を行いました。
「答えを見つけられないことが罪なのではない。答えに辿りつこうとする歩みを止めてしまうことが罪なのだ」
だからこそ、メリアは今、ここにいます。
誰かに望まれたおかげで、ここにこうして立っていられます。
「この研究が未来? 勝手に滅んだ種の再生が未来など・・・。ハイエンターの未来は我々です! ハイエンターは須く混血であり、混血こそがハイエンターの真の姿!」
「祖先がいなければ我らが生まれてくることはなかったのだぞ!」
後ろを振りかえってみれば、そこには未来を繋ごうとする人々の切なる祈りが満ちていました。
愛する彼らと同じことをしましょう。
答えは、たったそれだけのことでした。
「――守りたかった。どうしても守りたかったのだ」
全てが望みどおりに進むわけではありません。どれほどの努力を行おうとも無為に帰そうとする理不尽な現実はそこかしこに存在します。それこそ、自身は未来へ辿り着くことが叶わなかった父や兄のように。
だとしても。
「見誤るな、マクシス。今大事なのは、そなたたちが守ってきた命が再び危機にさらされているということだ」
どんなに苦しい境遇に置かれたとしても、己に望みを叶える資格が無いように思えたとしても、それでも、諦めるべきではない。
だって、私たちはきっと生きているかぎり自分の幸せを望むだろうし、そしてきっと、他の誰かも私の幸せを願ってくれている。私たちはかつて誰かの祈りによって守られていて、今も誰かの思いやりによって支えられていて。あるいは私も誰かを守ったことがあり、誰かを守ろうとしているかもしれない。
だとしたら、私がこれから未来に夢見る希望もまた、きっと私ひとりだけのものじゃない。
「私の心がそうしたいと告げているのだ。ただそれだけだ。それが理由であり、私の出した答えだ」
だから。
“ハイエンターの希望”たる少女が胸に灯す希望は同胞たち全ての希望となり、少女が前を見て歩むならば同胞たち全てが同じ道を歩みはじめるでしょう。
これはそんな、小さな小さな物語。
それぞれが自分の幸福をつかむために、過去から現在、現在から未来へとつながっていく、たくさんの人々の描いた希望に寄りそって、お互いの幸福を叶えていく――。そんな、どこにでもあるありふれた物語でした。
メリアは幸せに生きるでしょう。
彼女はこれまでも、今も、そしてこれからも、たくさんの人に幸福を祈られるのですから。
たくさんの人の幸福を望みつづけるのですから。
誰かのために。私のために。
それで未来はつながります。
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