ううん。ラインの言うとおりだと思うわ。もう立ち止まって悩むのはうんざりだもの。さあ、行きましょ。
(主観的)あらすじ
攫われたジュジュを助けるべく、シュルクたちはコロニー6へつながる地下坑道を進みます。
途中、反攻の機を窺って潜んでいた防衛団長・オダマと合流。捕らえられた人々が集められる場所の情報を得、また、カルナの婚約者であるガドが戦闘中行方不明になったことを知りました。落ち着かない気持ちを抑えながら一行は奥へ。
シュルクは再び未来視を見ます。オダマが死ぬ瞬間。それも、未来視に見た彼はガドとジュジュの仇を討つと言っていました。シュルクの心に迷いが生まれます。これはつまり、ジュジュの救出は間に合わないという意味ではないのか。このまま奥に進んでも無意味にオダマの命を散らすだけではないのか。
しかし、シュルクがどんなに制止しようとしてもオダマは足を止めません。彼には彼の意志と信念があり、半可な言葉ではその思いを曲げることができそうにありませんでした。
ついに顔付きの元へたどり着いたシュルクたち。やはりモナドは通じないながら、シュルクたちとオダマは連携して褐色の顔付きを出し抜き、ジュジュを救出します。未来はまたひとつ変わりました。
けれど未来視に見た光景はこれから。オダマはガドの仇を討つとつぶやいて顔付きを灼熱のエーテル流に叩き落とし、そして、道連れとして共に引きずり込まれます。望まない未来を変えるべくシュルクは先回りしてクレーン車で救出しようと試みますが、それでもあと一歩のところで間に合いません。
やはり僕の力で未来は変えられないのか――。シュルクが絶望に顔をうつむかせる隣で、ラインが駆けだします。
ラインもまた、事前にシュルクから聞いていた未来視の内容から大一番がこの瞬間だと気付いていたのです。間一髪のところで奈落へ落ち行くオダマの手を捉え、引き上げることに成功するのでした。
「な。俺たちに話してよかったろ。諦めなきゃなんとかなるんだ」
ジュジュを救出し、彼の願いだった仇討ちも完遂して地上へ戻ったシュルクたち。
そこには――、コロニー9を燃やし、フィオルンを殺した憎い仇、黒い顔付きが待ち受けているのでした。
シュルクに未来は変えられない
「なぜオダマさんはあんな言葉を――? 『仇は取る』・・・まさか、ジュジュたちはもう死んでいる? もしくは殺されて――。それを知ったからオダマさんは・・・。だとしたら、意味があるのか? この先に行くことに」
意味は無いでしょう。
もし、未来を変えているのがモナドの力だとしたら。
今モナドが見せた未来視はオダマの死ぬ瞬間。
これまで変えてきた未来は全てシュルクが直接未来視で見た光景ばかりでした。だとしたら、未来を変えることで救うことができるのは今回もオダマだけ。ジュジュや、カルナの婚約者であるガドを救うことは不可能だとこれまでの経験から予測できます。
自分に力があるからではなく、たまたまモナドの力を使えているだけだと自己評価しているシュルクは、研究者らしい論理的な思考に基づいてそう解釈します。
前提として。もし、未来を変えているのが本当にモナドの力によるものだとしたら。
――この先に行くことに意味は無い。
「駄目だ!」
だとしたら、未来を変えるための分岐点はまさに今この瞬間。
救えるのはオダマただひとり。ジュジュの命さえ諦めるなら未来を変える方法は簡単です。そもそもオダマを戦いの場へ連れていかなければいい。
「黙れ!! 悠長なことを言うな! お前はやつらの何を知っている!」
ただし、頼りのモナドは人語を話すことがなく、オダマを説得するにはシュルク自身の力でどうにかするしかないのだけれど。そして、モナドと違ってシュルクには大した力が無いのだけれど。
未来を変えようとしたシュルクのささやかな努力は、いたずらにオダマを怒らせるばかりで失敗に終わりました。
やはり、シュルクの力では未来は変えられないようです。モナドの力を借りなければ。
「まったく。モナドが使えて未来のことがわかるってのに、ほんとに不器用だな、お前は」
人の気も知らないで、ラインが呆れたような物言いをします。
「お前は不器用だ。だから俺たちがいる。ビジョンを見たら俺たちに相談しろ。ひとりで抱えこむのはもう無しだ」
安易に相談できない内容の未来視だからこそ、シュルクはひとりで行動しようとしてきたんです。巨神脚のときも、今回も。
巨神脚のときはカルナがジュジュとともに危険に晒される未来が見えていました。ですが、それを理由にカルナを強く止めるわけにもいきませんでした。そもそも当のカルナが納得してくれないでしょう。2人の命の危機に際して片方だけを救おうとするだなんて、そんなの命の選別のようなものです。
今回のオダマの件もそう。ジュジュ救出を先送りにすることでオダマだけでも救おうとした、だなんて知られたらどうなるでしょうか。オダマやラインたちに愛想を尽かされるだけで、どのみち説得には失敗していたでしょうとも。
だから、言えませんでした。これからも言えないでしょう。
言ったところで未来を変えられそうにないから。
シュルクも、ラインも、しょせん人間です。神剣モナドとは違う。
「望まない未来視を見たなら未来を変えちまえばいい。だろ? ・・・声が小さいぞ、声が!」
ただ、心強くはありました。
これもまた、シュルクが自分の力で未来を変えられるとは信じられずにいるからこそ。
ラインと一緒なら未来を変えられるかといえばそれはさておき、自分が孤独じゃないというだけでも心持ちは少し違いました。
「うん、そうだ。望まない未来なら変えればいい。それに僕はまだジュジュたちが死ぬ未来視は見ていない。希望は――、あるはずだ」
根拠なんて全然無い儚い希望だけれど、無いよりはずっと心が明るくなります。
未来を変えるのは俺たちだ
いいえ。
未来を変える力を持つのはけっしてモナドなどではありません。
顔付きの機神兵に対して何の力も振るえないナマクラごときに未来を変えることはできません。
「望まない未来視を見たなら未来を変えちまえばいい」
もし、モナドに頼れなくても未来を変えなければならないのなら。
もし、それでも未来を変えられる可能性がまだあるとしたら。
「未来を、変える――。そうか! あれなら!」
シュルクが本当に信じるべきはモナドではなく人の力で、
本当に未来を変えうる可能性を秘めているのは人の意志です。
モナドを手にすることで未来を変えられるようになったのは、単に今のシュルクにはまだ力が足りていないというだけ。
「嘘だ! 変えたはずだ! オダマさん!」
そしてモナドが通用せず、シュルクの独力ではやはり未来を変えられないとなれば、そのときは――。
「間に合ったぜ! ――感謝するならシュルクと未来視にな。このエーテル流を見たときピンと来たぜ。『ここだな』ってよ」
そのときは自分以外の人の力を頼ればいい。かのナマクラに頼るのと同じように。
根拠なんて全然無い儚い希望だとしても、希望は希望です。
「それはたぶん、あなたが何もしないより何かしているほうがいいって言ったから。だから私も何かしてみようって気持ちになれたんだと思う。1でなくてもいいじゃない。たとえそれがごくわずかでも、何度も繰り返せば1になるでしょ? それは・・・、ゼロじゃないもの」(『ゼノギアス』より)
未来は変えられました。
シュルクやライン。神剣モナドと比べるとずいぶんと見劣りする、人間の力によって。
シュルクに未来は変えられない、なんてことは無い。
「な。俺たちに話してよかったろ。諦めなきゃなんとかなるんだ」
「うん。ほんとだ――」
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