
だから、そういうふうに生まれたんじゃなくて――、経験して、変わったんだと思う。

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(主観的)あらすじ
そういえばアスミには家がありませんでした。ついでに思いつくかぎりありとあらゆる常識もありませんでした。・・・というわけで、しばらくのどかが傍で面倒を見ることにしました。のどかの家に居候するのならラテとも一緒にいられます。
のどかにたくさん迷惑をかけて、たくさん困らせてしまいながら、アスミはひとつ疑問を持ちます。のどかはどうしてこんなにも世話を焼いてくれるんだろう?
アスミは生まれながらにラテを守る使命を持っていました。だからラテを守りたいと思います。だけど、のどかはそうじゃないはずです。アスミのために生まれてきたはずじゃないはずです。じゃあ、どうして?
のどかはそれを、いろんな人に助けてもらったからだと説明します。そういうふうに生まれたから今の自分があるんじゃない、生まれたあとに出会いがあって、その経験のおかげで自分は変われたんだと。
メガビョーゲン出現。ビョーゲンズの幹部が何かしたのか、今回も強敵になっています。
戦いのさなか、ピンチに追い込まれるのどかの姿を見て、とっさにアスミの体が動きました。どうしてでしょう、のどかに助けてもらった瞬間のことが頭のなかをよぎりました。
自分が変わったんだという実感はまだありません。けれど、のどかの言っていたことはアスミにとっても本当でした。だとしたら、のどかがいつも新しい経験を楽しみにしているように、アスミにも楽しいことが待っているかもしれません。
今回メガビョーゲンの元となった花はマリーゴールド。その名のとおり聖母マリアの祭日を年間通して咲き祝う花でありながら、一方で「嫉妬」「絶望」「悲嘆」などとやたらめったら縁起の悪い花言葉ばかり託されている一面もあります。これはキリスト教圏において、黄色がイエスを裏切った使徒・ユダを象徴する色とされているためです。お母さんだったり裏切り者だったり忙しいな!
実はこの花自体は南米原産で、ヨーロッパに入ってきたのは当然ながら大航海時代以降。つまりキリスト教の成立とは何ら関わりのない無関係な花だったりします。開花期間やら色やらを見た人間が色々と連想し、後から諸々の意味を好き勝手結びつけていったわけですね。
マリーゴールドの花はただ、生まれたから咲いているだけなのに。
生まれながらに何らかの役目を背負っている人なんてそうそういるものではありません。反対に、生まれつきそういうものを持っている存在といえばそれは機械。道具。あるいはロボット。あれらは人間が何らかの目的を望むからこそこの世に生み出される存在です。
アスミは・・・、その意味では、生物というより機械に近い存在かもしれませんね。地球という造物主がテアティーヌ様の願いを叶えるためだけに製作したスピリットオブオートマタ。
けれど、ちょっと待って。
ところで地球上に生きる全人類のうち結構な割合の人たちは宗教を信仰しています。神様を信じています。彼らの教義では、私たちは造物主の意志によって生まれ、造物主が望んだからこそこうして生きていられるんだそうですよ。
だとしたら、私たちもまた、アスミと同じ機械的な存在なのかもしれませんね。何のために生まれてきたのか教えられていないだけで。
そんな私たちは、じゃあ、何のために生きていますか?
神様のために生きていますか?
それとも何の意味もなく生きていますか?
きっとどちらでもないと思います。だって、たとえば私なんか生きる意味に悩んでいた思春期、めちゃくちゃ死にたくなりましたもん。それが結局死んでいないってことは、きっと何となくでも私なりに生きる理由があったからなんだと思います。アスミと違って造物主から生きる理由を指示されたわけでもないのにね。
私たちは何の使命も与えられずにただ生まれた生物なのかもしれません。
もしかしたら神様から何らかの使命を押しつけられた機械なのかもしれません。
けれど、どちらにせよ関係ない。
生まれつきの使命があろうとなかろうと、それでも私たちはこうしてちゃーんと生きています。
それは、じゃあ、どうして?
「どうしてですか?」
「アスミちゃん。あれは信号っていってね、みんながぶつからないようにルールが決まってるの。青は進んでもいい。黄色は注意。赤は止まれ」
「どうしてですか?」
「え? ――なんで“止まれ”が赤なんだろう。青っていうけど緑だし」
いわれてみればよくわからないでいること、たくさんあります。
わからないけど何となく従っていて、それで何となくうまくまわっているもの、私たちの身のまわりにはたくさんあります。
突き詰めて調べたら信号の色がどうして青黄色赤なのか、そういうふうに決まった歴史はちゃんとあります。交通法規も法律としてきちんと明文化されています。けれど、普通の人はいちいちそんなものに目を通していません。それでも社会は何となくでまわっています。
「そうではなく。どうしてのどかは私のために尽くしてくれるのですか? プリキュアだからですか?」
アスミが不思議なことを問いかけます。
たぶん、こんなの誰でも簡単に答えられることでしょう。けれどその一方で、どんな答えを返したとしても自分自身なかなかしっくり来ない質問でもあることでしょう。それこそ、「赤は止まれ」を説明するときのように。
今話は“当たり前”を考えてみる物語です。
私たちが当たり前のことだと思っているあれやこれや、アスミはことごとく知りません。
“当たり前”をルールとして教えるだけなら簡単です。アスミは食べものを食べたことがないそうですが、人間に食事を取る習慣があることは理解できます。アスミには体を清潔にする理由がわかりませんが、教えられたらお風呂に入ることもできます。アスミは疲れというものを知りませんが、寝たほうがいいと教えられたら一緒に眠ることができます。今日みたいにのどかが付きっきりでひとつひとつ“当たり前”を教えてあげたら、そんなに遠くないうち人間界の常識を一通り習得することができるでしょう。
でも、どうしてそれが当たり前なの?
アスミが人間の生活習慣をマネることには理由があります。そうしないとラテと一緒にいられませんし。
信号のルールを覚えることも必要なことです。そうじゃないとラテを危険な目にあわせてしまいかねません。
のどかが教えてくれるひとつひとつ、アスミにとってはどれもありがたいことばかり。アスミにはこれら常識を学ぶべき必然性があります。ラテを守るため、これは“当たり前”のことです。
けれどのどかは違います。
のどかはアスミと違ってラテを守る使命を負っているわけじゃありません。ましてただラテを守るための存在でしかないアスミに尽くす使命なんてありうるはずもありません。
じゃあプリキュアだから? それも違います。プリキュアの使命は地球のお手当てです。ラテやアスミは関係ありません。
「疲れているのに色々お世話をしてくれたり、私のためにケガまでして、それでも笑顔で説明してくれたり。のどかはそういうふうに生まれてきたのですか? 私がラテをお守りするために生まれたように」
他にも、のどかはアスミのために両親にウソまでついてくれました。本当はそういうのしたくないはずなのに。アスミが遠慮して家を出ようとしても引き留めてくれました。絶対、迷惑でしかないはずなのに。
そこまでしてくれる理由が使命じゃないのなら、それはいったいどうして?
のどかがそういうことをする理由、何となくなら誰にでもわかると思います。
けれどこれを言葉にしようとするとなかなか大変。理由をつけて、誰かに納得してもらおうとするのならさらにものすごーく大変なことになります。だって、これは“当たり前”のことだからです。いつもは何となくで捉えていて、しっかり考えてみる機会がなかなかないことだからです。
ちなみに、この手のストーリーによくある展開として「喜ぶ顔が見たいから」という説明のしかたもあるはずですが、今話はご丁寧にこの言い分を潰しています。
アスミはどんな親切を受けても喜びません。そもそも感情というものが未成熟なこの0歳児は、のどかの言うことを素直に聞きこそすれ、「ありがとう」とか「嬉しい」とか、そういう言葉は一切口にしません。表情筋もろくすっぽ動きません。情緒レベルでの“当たり前”すらまだ身についていません。
アスミがそういう態度でいるものですから、のどかは何となくでやっている親切の理由を、そういう定番のごまかしで流させてもらえません。ええ。仮にのどかが「喜ぶ顔が見たいから」と説明したらそれはごまかしです。のどかがここまで周りの人に親切な理由はそういうものじゃないわけですからね。
「・・・ううん。違うと思う」
困惑します。
言葉に詰まります。
自分のなかの“当たり前”を説明するのはとても難しいことです。
それでもきちんと自分なりの言葉にできたのどかは立派な子ですね。
「私ね、いろんな人にたくさん助けてもらって、今、こうやって元気でいられるの。それで、私もいろんな人を助けたいって思うようになったのね。だから、そういうふうに生まれたんじゃなくて――、経験して、変わったんだと思う」
目の前の人に語っているのか自分のなかに問いかけているのかよくわからないつぶやきの果てに――。
のどかが周りの人に親切なのは、入院中にたくさんの人に助けてもらったから。その恩返しとしての気持ちが大きい。この子の場合はけっして相手に喜んでほしくて人助けしているわけじゃありません。たとえ喜んでもらえる保証がなくても手助けしたいという気概がこの子にはあります。ここまでは彼女も普段からよく考えていて、自分のなかで元々ある程度まで言語化できていた話。
けれど、この言葉はアスミが欲しがっている答えとは違います。だってこれはのどかだけの、のどかにしか意味がない、個人的な動機だからです。アスミは「どうしてですか?」と聞いてきました。つまり、彼女はその質問に対する答えが何かしら自分にとって意義あるものだと直感して訊ねています。これに対してのどかにしか関係のないことを話しても意味がありません。もっと一般化しなければ。アスミにも響く表現に変換しなければ。
ブツブツとつぶやいているうちに、ぱっと、のどかの表情が明るくなります。
そう。私は変わったんだ!
今回の親切を通して、実はそれこそがアスミに伝えたかったこと。
このときのどかも自分自身が気付いていなかったアスミへの思いを、初めて自覚します。
当たり前の裏側に
「・・・嫌。だって、ここを離れている間に取り返しがつかなくなっちゃったらどうするの? このステキな作品たちは? つくった人の――長良さんの思いは? 私は絶対守りたい! ここを離れたくない!」(第10話)
のどかが人助けをする理由には、入院中に体験したたくさんの人たちの善意に対する憧れが強くあります。彼らはただの患者、何もお返しのできない無力なのどかのために、惜しみなく自分の力と優しさを注いでくれました。
だから、のどかが親切を行う対象も不特定多数。必ずしもお礼を言ってもらえるとは限らず、喜んでくれる顔を見られるとも限らず、コストとリターンのバランスガン無視で、それでも躊躇なくどんな人にでもひたすら優しくあろうと努力します。
「本当に助けようって思うなら、目の前のことだけじゃダメなんだよね・・・」
「グレースは一生懸命だったラビ。そういうこともあるラビ」
「ラビリン。また私が間違えそうになったら、そのときはまたちゃんと言ってね」(第10話)
そういう子ですが、実はけっして独りよがりではありません。相手に全く一切何のリターンも求めていないわけではありません。
のどかの親切には“喜ぶ顔を見る”必要はありません。
ただし、“喜んでほしい”とは思っているんです。
ものっすごい細かい話っぽく見えますが、実は彼女を理解するうえではこの微妙なニュアンスこそが重要です。私も今話でやっと彼女の行動原理に納得できた気がします。
「あなたたち、なんでこんなひどいことするの!?」
「ひどい? 何が」
「地球を病気にしてみんなを苦しめることだよ!」
「決まってるだろ。俺はそのほうが居心地いいからさ」
「自分さえよければいいの!?」
「いいけど?」(第6話)
誰かに優しくするからには相手に喜んでほしい。笑顔や感謝の言葉はもらえなくていいから。それでも自分のしたことをどこかでそっと喜んでいてほしい。
だからこそ、誰にでも優しいはずののどかが、ビョーゲンズに対してだけは優しくなることができません。
彼らはどうやら根本的な価値観からのどかと違っていて、のどかが優しいことだと思うことをそのまま優しい行為として受け取ってくれそうにないからです。
翻って、アスミ。
「ラテ。おケガは? ――よかった。ご無事ですね」
「アスミちゃんがしっかり抱えててくれたおかげだね」
それまでどんなに世話を焼いてもらっても無表情だったアスミが、このシーンでだけはっきり表情を歪ませているの、いいですよね。
今のアスミにとって大切なのはラテを守ることだけです。自分がどんな目にあっても、たとえば風のエレメントパワーを失ったり、ひとり野宿生活をしたりすることになったとしても、彼女は一向に気にしません。だからのどかの自分に対するお節介にもある種の無関心を通してきました。自分の非常識さがラテを危険に晒した事実を目の当たりにして初めて、彼女は心からショックを受けます。のどかの親切が本当の意味で身に染みます。
アスミもたいがい普通の人間とは価値観を共有できない子です。人間はあそこまで自分に無関心になることはできません。
その点、のどか視点でのこの子はある意味ビョーゲンズに近い存在に見えそうなもの。けれど実際ののどかは彼女をそういうふうに見ません。
「理解できませんわ。お守りするなら連れ帰るべきでしょう」
「テアティーヌ様の願いから生まれたのに何でわからないラビ!」
「待って、やめて! 落ち着いて! ――本当にわからないんだよ、精霊さん」(第20話)
むしろ、出会ってすぐの頃から積極的に彼女を理解しようとしてきました。ちゃんと話しあえばわかりあえると信じていました。
彼女のラテを大切に思う気持ちが理解できたからでしょう。
他にどんなにたくさん価値観の相違があったとしても、その一点だけはのどかにも理解できる。その一点から、彼女を理解したいと思える。
だからのどかはアスミの問いかけに答えました。
「どうしてですか?」
「経験して、変わったんだと思う」
今ののどかにとってアスミの考えることはまだまだわからないことだらけ。でも、わかりたいと思う。わかるようになりたいと思う。
そして。
今のアスミものどかの考えていることはまだまだ理解できていなさそう。でも、理解してほしいと思う。いつか理解できると信じてる。
私もあなたも、変われるはずだ。
だから優しくできるんだ。
今ここに、当たり前にあるもの
「ちぇー。せっかく人手が増えたと思ったのに」
「ふん。誰かが増えようが減ろうが、俺のやることは変わらない」
バテテモーダが浄化されても感情の面では少しも思うところのない様子のダルイゼン。
のどかが彼のことを理解できるようになるにはまだまだ時間がかかりそうですね。彼は今のところ人とのつながりに価値を見出しておらず、すなわちのどかが変わるきっかけとなったものと同じ経験を得ることができそうにありませんから。
一方でアスミはのどかと近似の経験を得ることができました。
アスミはラテを守るために生まれ、何よりもラテの身の安全を優先するちょっと独特な価値観を持っていました。
けれど、アスミとのどかたちの違いなんて実はその程度のもの。
「体が自然と動いていました。少しわかったような気がします。お返しに人を助けたいという気持ち」
アスミは自分への親切にはちょっとニブいですが、そのぶんラテを助けてもらえたのなら、普通の人間と同じだけ嬉しい気持ちになれます。多少価値観が違っていても、多少の違いをすりあわせることさえできれば、彼女はのどかたちと同じ経験から同じ感情を学ぶことができます。
かつて、のどかは入院中に出会った優しいお医者さんたちに出会い、憧れ、変わることができました。
アスミものどかたちと出会ったことで、これから変わっていくのでしょう。
「――このような経験も、いつか私に何か変化をもたらすのでしょうか」
「うん。きっと。私も新しいこと経験するの、すごく楽しみ」
信じます。楽観します。
だって、これまでののどかの経験上、こういうのは絶対にステキなことなんですから。
今日、アスミが自分と似た経験をして、同じような感情を共有できたんですから。
お互いが変わっていけた先にはきっと、これまでよりもっとたくさんの人に優しくなれる未来が待ってる。
「そうですか」
いつも無感情だったアスミが小さく笑います。
変われることを、のどかと一緒に楽しみにしてくれます。
のどかにとって当たり前のことを、アスミも当たり前に信じてくれています。
だったら、明日も絶対ステキな日になるでしょう。
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