ヒーリングっどプリキュア 第25話感想 さよならしても失われないもの。

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バイバイ。ありがとペエ、りり。

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(主観的)あらすじ

 ペギタンがいなくなってしまいました。
 ちゆにカッコいいって言われたいのに臆病な自分に嫌気がさして家を抜け出したところを、近所の小学生に拾われてしまったのです。

 ペギタンを拾った小学生・りりちゃんはいつもひとりぼっちでした。お母さんは毎日遅くまで仕事で帰って来なく、学校でも転校してきたばかりで友達がいないのです。内気なリリちゃんにとって、いつでも傍にいてくれるペギタンはかけがえのない心の支えになるのでした。
 りりちゃんを放って家に帰るわけにもいかず、ペギタンは葛藤します。
 そうしているうちにペギタンはりりちゃんのクラスメイトのイジワルな男子に捕まってしまいます。ペギタンをどうしても助けたくて、勇気をふりしぼって声をあげるりりちゃん。その勇気をきっかけに、りりちゃんにはクラスに新しい友達ができるのでした。

 やがてちゆがペギタンの居場所をつきとめてくれて、そろそろりりちゃんとのお別れの時間。
 せっかく仲よくなれたペギタンと離ればなれになりたくなくて、りりちゃんはペギタンを部屋に閉じこめてしまいます。窓の外には恐いドーベルマンが何匹も。
 ですが、ペギタンもまたりりちゃんに勇気をもらっていました。今のりりちゃんならもうひとりじゃない。そして、りりちゃんが変われたように、ペギタンも臆病な自分を変えてみたいと思うようになったのです。
 ドーベルマンの頭の上を跳び越えてちゆのもとへと帰るペギタン。

 翌日、ひとりで家事をしていたりりちゃんのところにお客さんが訪れました。
 もちろんペギタンとちゆです。友達として、これからもときどき遊びに来ると約束するのでした。

 脚本の金月龍之介さん、どこかで見た名前だと思ったら初期テイルズオブシリーズのドラマCDの脚本を書いていたかたですね。懐かしい。平易な表現で構成されたシナリオ運びのなかにふと混じる、詩的で苦みのある人間模様が大好きで、もう何度も何度も聴き込んでいました。『テイルズオブエターニア Labyrinth ~forget-me-not~』は至上の名作。
 ちなみにちゆが「空を泳いでみたい」と語った第8話も金月さんの担当回です。ああいうノリの作家さんです。今話もりりちゃんが謝りながらペギタンを閉じこめるシーンにはやはり胸を締めつけられる苦みがありましたね。

 ちなみに、ご都合主義にもほどがある謎のドーベルマン放し飼い。ああいうのもこの作家さんの芸風です。どうでもいいディテールはとことんどうでもよく描くタイプ。プリキュアシリーズ自体元々そういうところがあるけれども。

パートナーは広がっていく

 「りり。ごめんペエ。パートナーが僕を待ってるペエ。でも泣かないで。りりはもうひとりぼっちじゃないペエ。それに、僕を助けてくれたあの勇気があれば、もう何だってできるペエ。――りり。僕も勇気を出すペエ!」

 『ヒーリングっどプリキュア』は、ひとりではやりたいことひとつできない無力な子どもたちが、パートナーと力を貸しあってお互いのやりたかったことを実現していく物語です。人間と妖精とで、プリキュア同士で、のどかたちは協力しあっていくつもの障害を乗り越えてきました。
 風鈴アスミ。最近も新しい出会いがありました。彼女は初め、全然こちらの気持ちをわかってくれない困った子でしたが、やがて思いは通じあい、信頼しあえる頼もしい仲間のひとりとして輪に加わってくれるようになりました。

 物語は拡張していきます。

 私たちが助けあえるのは、心を通じあわせ力を貸しあえるのは、けっして特定の誰かとの間だけに限った話ではありません。
 たくさんのみんなに優しくできる自分でありたいと思います。
 何を考えているのかわからない他人を理解したいと思います。
 なぜならそれは、新しくつないだ絆が、またひとつ私に力を貸してくれるから。

 今話はそういう物語です。
 ちゆのパートナーであるはずのペギタン。けれど彼はりりちゃんと出会い、共鳴し、お互いに勇気を引き出しあいました。ちゆがいないところでも強くなることができました。
 パートナーシップはけっして1対1の閉じた関係性などではなく、むしろ大切な絆を軸に、ますます外へ向かって拡張していきます。

 「ごめんね。・・・ごめんね。でも、ジョセフィーヌとさよならするなんて嫌だよ!」

 「ペギタン! どこなの!?」

 子どもはいつか大人へと変わっていくもので、自分自身が変わっていく以上、いつまでも特定の誰かと一緒にいられるとは限りません。
 私とあなたとはたとえどんな絆をつないだとて結局他人でしかなく、生涯にわたってずっと一緒にいられるだなんてありえません。
 それでも私たちは絆を結びつづけます。誰かと出会うたび友達になろうとしつづけます。

 「あのとき、あなたの励ましてくれる声が聞こえたような気がしたの。ありがとう、ジョセフィーヌ。だーい好き!」

 なぜなら、いつかお別れすることになるかもしれないあなたとの絆は、その運命なんか関係なしに、私の過去・現在・未来、きっとずっと力を貸してくれるから。

 今話はそういう物語です。
 パートナー以外ともパートナーになれる物語。パートナーという関係性が外へと広がっていく物語。

だって、私じゃ私になれないから

 今話はいつもよりシンプルなつくりなので言及しておくべきことといえばこのくらいなのですが、せっかく痛みの描写が秀逸なわけですし、もうちょっと語ります。

 「へ、平気ペエ。全然恐くなかったペエ。犬のCGがイマイチペエ。いきなりババーンって大きい音を出すのは怖いんじゃなくてびっくりなだけペエ。それにそれに――」
 「うふふ。かわいい」
 「ガーン!!」

 ちゆは人の気持ちに対する読解力はあるくせにひたすら空気を読めない子です。他人に合わせるよりも自分のやりたいことを優先する気質だからですね。本人も重々自覚しているはずなのですが、どうやら自分でもどうにもできないようです。そもそも別に悪いことじゃありません。
 ペギタンが何に傷ついて家を出て行ったのか即座に察せてしまうのがこの子の不幸。なにせこの子は原因だけ理解できても自分のなかに解決手段を持ちあわせていません。最近はそれでも1対1でじっくり話し込むことで相手の言葉から解決方法を引き出すことを覚えたのですが、今回はペギタンと話しあう機会すら与えられませんでした。
 ひたすらペギタンを探しつづけるしかできず、ひとりでは自分の気持ちを落ち着かせることもできず、友達に苦しい胸の内を吐き出すことすらできず、耐えて耐えて、泣きたくなるくらい心配してやっと再会できたのに、そのくせ第一声でどんなことを話そうとか全然考えていなかったイノシシ思考っぷり。結局仲直りのやりとりは全部ペギタン主導になってやんの。
 つくづく、このどうしようもない不器用さがたまらなく愛おしくなる子ですね。

 「りり。・・・ごめんね。もっと一緒にいてあげたいんだけど。新しい学校、慣れた? お友達、早くできるといいね」

 家に帰るとまず小学生の娘がつくった晩ご飯がお出迎えっていうのが、親からしたら破壊力バツグンですよね。
 見たところまだ小学校低学年か中学年くらいでしょうに、あんなつけ合わせまで手の込んだポークソテーをつくることができるだなんて。いったいどんな育てかたをしたらこんな子が育つのか。・・・あ、育ててないや。――ってなる。私ならあんな食卓を見た瞬間、今の仕事を辞めることを考えて、それじゃ満足に食べさせてやることができない現実との板挟みに絶望する。
 寝ている娘にかけてやる言葉がまたね。転入して何日目か知りませんが、完全に友達がいないことを確信してますもんね。そりゃそうですよね。ひとりの時間を持てあまして、しかも縋る相手が母親しかいないからこそ、あれだけ料理に手をかける習慣がついたわけですしね。というか、小学生が友達ひとりいない学校生活に慣れるわけがないですしね。ほとんど自傷行為みたいな独り言ですよね。

 「やめて! 私のペンギンなの。痛そうにしてるでしょ。放してあげて!」
 「なんだよいきなり」
 「転校生のくせに生意気だぞ」

 せっかく勇気を出してもそれだけでは解決しないのが『ヒーリングっどプリキュア』。まあ普段話さない子がいきなりこういう噛みつきかたしてきたらイラッときますよね。
 その意味でもりりちゃんは本当に無力。内気でコミュニケーション経験が足りていない子がいきなりうまく立ちまわれるわけもなし。でも、だからこそ助けてくれる誰かが本当に頼もしく思えますし、自分もあんな感じで強くなりたいと願います。
 今話はペギタンといい、りりちゃんといい、りりちゃんのお母さんといい、ちゆといい、主要登場人物みんな無力で、みんな痛い思いをしています。

 「ごめんね。・・・ごめんね。でも、ジョセフィーヌとさよならするなんて嫌だよ!」

 “元の飼い主”に声をかけられて強奪、逃走、あげく監禁。小学生だてらになかなか見苦しいことをしています。しかも当のペギタンは明らかに帰りたがっているわけで。
 こんなことをしても意味がないってわかりきっています。こんなことをした時点で元の関係に戻れないこともわかりきっています。だからこその、ドアを閉めた瞬間に見せる必死の形相。この先に幸せな明日なんて来ない。わかっています。だけど、仮にペギタンを諦めたところでどうせ明日なんて無い。袋小路に追い詰められた窮鼠。
 今日はクラスの子と初めて楽しくお喋りできた。だけどそれもペギタンがいてくれたからこそ。きっかけをつくってくれたのはペギタン。みんなが興味を持ってくれたのもペギタン。どれも私じゃない。私はむしろ何もできなかった。無力だった。だからどうせ、明日からはもう友達じゃない。
 徒労。絶望。そして自分への失望。もうこれ以上自分じゃどうしようもできない。きっと救われない。だって私はひとりぼっちだから。私が私を救えないのなら、私を救ってくれる人なんて他に誰もいない。だから、もう絶対に、私は私の思う私になれない。

 自分ひとりの力で自分を変えることができるものなら最初から変わっています。最初から変わりたいと思っていて、最初から今と同じだけの力を持っていたわけですから。意欲にも実力にも変化がないのにどうして結果だけ都合よく変わるものか。

 「泣かないで。りりはもうひとりぼっちじゃないペエ」

 だからこそ、りりちゃんが聞いた“幻聴”は希望たりえました。
 自分ひとりじゃもう明らかに八方塞がりだったところに、自分はひとりじゃないと言ってもらえたから。

 「今度一緒に行こう!」「うん!」「じゃあね!」
 「・・・あ。また明日!」

 果たして、本当に明日はやって来ました。昨日の友達は今日も友達でした。
 ペギタンが繋いでくれた新しい友達との絆は、ペギタンがいなくなったあともちゃんと残っていました。
 ずっと友達がほしかったりりちゃんは、ペギタンと出会ったことで、友達のいるりりちゃんに変われました。ペギタンがいなくなってからもこの魔法は解けません。

 今話はそういう物語で、『ヒーリングっどプリキュア』とはそもそもそういう物語。
 なりたい自分にすらなりきれなかった無力な子どもたちは、自分以外の力を借りることで自己実現を果たしました。プリキュアになりました。パートナーから借りた力は、しかし仮初めの力ではなく、何があっても失われることなく自分のものとなっていく。
 ならばこそ、パートナー以外との出会いも絆もきっと、あなたがなりたいあなたになるための力となってくれることでしょう。

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    コメント

    1. ピンク より:

      犬はあまりにも都合よく描いたせいか、「りりちゃんの家に何匹も飼われてる」と勘違いする視聴者もいたとかいないとか。
      鍵を持ち歩くのではなく外のポストに入れる行為も、よっぽど田舎じゃないと今時ないのでは。

      ペギタンがりりちゃんの事情を知った上でわざわざ見捨てる子じゃないと、信じてはいましたが、いざ見せられると心を打たれました。
      なによりペギタン自身がすこやか市に来たばかりの頃、人間を怖がりながらもパートナーを内心渇望してたわけですしね。
      これからはちゆも交え、もっと素敵なお友達になれることでしょう。

      次回は避けられてる側の誕生日なら定番の前振りですが、案外違う何かだったり?

      • 匿名 より:

        アスミの誕生日は約1年後なので、一体なんでしょうね?

        予想できなくて気になります。

        • 疲ぃ より:

           世のなか1ヶ月記念日とかサラダ記念日とか色々あるので全然予想つかないですね。どうやらアスミのための催しなのは確かなようですが。
           個として自立してきた今のアスミが自分のためのお祝いに対してどんなリアクションをするのか楽しみです。

      • 疲ぃ より:

         正直ちょっと思いましたw >りりちゃん家の飼い犬
         母子家庭でドーベルマンなんて飼えるわけないし、よく見ると間にブロック塀もあるんですけどね。
         ペギタンあのまま帰るつもりだったので鍵はしゃーない。問題はりりちゃんが見つけられるかどうかと、牛乳の配達ボックスは配達員さんが中を覗くのでかえって危ないのでは? ってことですね。
         というか今どき牛乳の配達ボックスこそ田舎でもご年配の家でしか見たことないっス。

         ペギタンは見捨てないでしょうし、シリーズおなじみ「離れていても離れはしない」論で解決するところまでは予想できていましたが、ペギタンのおかげで勇気を出せたことを理由にペギタンとお別れしてももう大丈夫って理屈に持っていったのが面白かったです。
         見ようによっては皮肉めいた構図ですが、ペギタンが自分で強くなれることを実証してみせてくれたおかげで爽やかなテイストに仕上がっていました。

    2. 東堂伊豆守 より:

      隣の家がドーベルマンを多頭飼育していて、窓を開けるとドーベルマンが吠えかかってくるアパート……って私なら絶対住みたくないんですが。ご近所トラブルとかになってないんかね?
      ところで、仮にも主君のラテ様を警察犬代わりにすることに何の躊躇も感じてないらしい不心得者の臣下ラビリン。さすがのラテ様も少々ムッとした表情を浮かべていらっしゃいましたが、ガラス美術館で「ラテ様がいればビョーゲンズが現れてもすぐ分かるラビ」などとラビリンがほざいたときには、ラテ様、実に良い笑顔で「ワン!」と応じていらっしゃいまして。
      どうやらビョーゲンズ探知カナリアという”ヒーリングガーデン王族のノブレス・オブリージュ”には誇りをもって臨まれている一方、警察犬の代わり扱いはいささか不愉快なご様子。ーーーーーー何にせよラビリンはそろそろ態度を改めんとラテ様かアスミ氏に「最後の時です。きよめられなさい」されると思うんですが……もっとも、マッサージとかブラッシングとかしたり、フラフープ芸をやって見せたり、いつもラテ様のお側にいて甲斐甲斐しくお世話してきたのも他ならぬラビリンで、それだけにラテ様とは割と気安い関係になっているのかもしれんなぁ、とかなんとか(まさか日頃の鬱憤ばらしでチョイチョイ犬畜生扱いするとかじゃないよね?)。

      • 疲ぃ より:

         まあ、アパート住みは町内会での発言力無いも同然ですし、なんなら割と自由に引っ越せますから。中見するときは部屋だけじゃなく周辺環境までチェックしましょう。どっちかというとあの吠え癖を放置していて警察案件にならないのかが心配です。夜中に遠吠えまでしよって。

         ラテは警察犬呼びされてキリッとしたんですよ、きっと。ロールプレイってヤツです。あの子の鼻の良さが生かされたのって、のどかの学校に来たり、お母さんの仕事場に行ったときくらいだったような気がするので、案外本人も誇りに思っているのかもしれません。悪びれないともいう。
         そもそもラテが礼儀を気にするような子だったらテアティーヌ様も新米ばかりお付きに選ばないですよ、さすがに。(※ プリキュア世界の女王様にそのへんの深慮を期待できるかどうかは議論の余地あり)

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