キラキラプリキュアアラモード第28話感想 「大好き」に素直になることを怖がらないで。

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(主観的)あらすじ

 尊敬するスイーツ博士に助手として招かれ、ひまりが巨大スポンジケーキづくりに挑戦することになりました。緊張しいの彼女は最初ガタガタでしたが、ケーキづくりを進めるにつれて次第に調子が出てきて、自分から工夫を提案したり焼成時間を見極めたりと、立派に助手としての務めを果たすことができました。
 ただし焼き上がり自体は惜しくも失敗。自分のせいだと落ち込むひまりでしたが、博士はむしろここまでできたのはひまりのスイーツへの愛情のおかげだと讃えます。観客からも拍手喝采。実験は大成功です。
 キラキラルを奪いに来たグレイブに無力をそしられますが、いいえ、ひまりは自分がちゃんとできることを知っていますし、ならば戦いに負けることもありません。

 かわいいかわいいひまり回。ぼちぼち映画製作が佳境に入ってきたのか作画枚数も演出も省エネ仕様ですが、なあにそれがどうした、青山作画のひまりこそ最高にかわいい!
 ひまりの何がかわいいって、この子ってば見た目に反して勇気たっぷりの人なんですよね。引っ込み思案のくせに妥協したくないところでは絶対に諦めないし、興味のあることなら絶対に名乗りを上げる。そのひたむきさ、健気さこそが彼女の魅力です。顔を真っ赤にしながら、いざ、大舞台へ!

スイーツを科学してみる。(大ウソ)

 実際のところ今回の巨大スポンジケーキは無謀です。
 日本のスポンジケーキは割とローカルなスイーツ文化なのでなかなか比較できるものはないのですが、例えば似たようなところで、ギネス記録の巨大カップケーキでも↓こんなものです。

 このカップケーキの大きさは直径142cm、高さ91cm、重量1.17トン(クリーム含む)。・・・思ったより大っきいな!
 しかしこれですら今回の巨大スポンジケーキの比ではありません。焼き型の高さが小柄な成人男性の首くらいまであるので、低めに見積もっても高さ140cm程度。一般的なケーキ型の寸法なら直径は高さのだいたい2.5倍ほどですので、なんと直径350cm!
 容積比で軽く9倍を越えますね。スポンジだけで。ということはざっと10トンくらい? アジアゾウ2頭分・・・だと。

 ここまでくると例えどんなケーキ材料を使ってもとても自重を支えられないでしょう。必要なのは特製オーブンではなく重力遮断装置(ケイバーライト)です。あるいは会場を月面にでも移すべき。
 立花先生は何を思ってこんな無謀に挑んだんでしょうね。確かにフィールドワーク系の学者さんって、往々にして理論上不可能なことも実地で確かめようとするきらいがありますけど。

 まあ要するに何を言いたいのかといえばつまり、一時的にでもふくらませきったひまりマジすげー。

知性のプリキュア

 この子、自分の当番回以外ではあんまり前に出たがらないので、今一度どういう子だったかおさらいしましょう。
 ひまりはスイーツが大好きな子です。それも「どうしてプリンはまん丸なのかなあ?」みたいなスイーツの不思議・・・普通の人があまり興味を持たない科学的知識に特に興味が向く子です。
 興味の方向性が独特なため、いちかと出会うまではうまく友達をつくることができませんでした。トコトン、本当にスイーツのことが大好きなんですね。それはそれとして別の分野にも興味を向けられたら友達とも話を合わせられたんでしょうが、なにぶん頭の中がスイーツでいっぱいなもので、スイーツ以外ではちっとも話を合わせられないオタク気質でした。
 すなわち、スイーツについて学ぶことこそがひまりにとっての「大好き」のかたちでした。元々は。

 けれど同時に彼女はいちかたちと同じプリキュアでもあります。今作キラキラプリキュアアラモードのプリキュアたちは「大好き」を自分だけのものとして自己完結せず、周りのみんなにその思いを伝えて増幅させようとします。
 例えばキラキラパティスリーでは、スイーツにたくさんの「大好き」の思いを込めてお客さんに提供していて、その「大好き」を受け取ったお客さんの心により大きな「大好き」を育む一助となっています。
 育った「大好き」はお客さん自身が笑顔になるために使われるかもしれませんし、回り回っていちかたちを笑顔にしてくれることもあります。返ってきた「大好き」には最初スイーツに込めたものに加えてお客さんの「大好き」まで込められていて、いちかたちはそれを原動力としてまたお客さんたちに「大好き」を伝えていきます。「大好き」がたくさんの人の間を循環してどんどん大きくなっていくのが今作の物語です。

 ひまりの場合の「大好き」の伝え方は、これもまたスイーツの知識でした。
 自分がスイーツについて不思議を感じ、知識を深めてより親しんでいった「大好き」のかたちをそのまま周りのみんなにも体感してほしいと彼女は考えます。
 緊張しいで恥ずかしがり屋な気質のせいでなかなかうまくいきませんが、それでも商店街のPRレポーターの話があったときなんかは自ら立候補するくらいに彼女は積極的です。
 スイーツの不思議とそれを紐解く知識、そして知ったからこそスイーツがよりおいしくなる幸せ。前回の当番回でそれを女の子に伝えられた手応えを噛み締め、ひまりは知識によって「大好き」を運ぶプリキュアとして着実に成長しつつあります。

 今話の大舞台はまさにその拡張としての位置づけになります。
 スイーツの知識を通して「大好き」を届けるひまりは、必然、それを成すためにたくさんの人の注目を浴びなければならない立ち位置にいます。本当なら尻込みなんてしていられませんし、しません。
 いざ舞台に立ってみて彼女は理解します。肩書きこそ助手ですが、ここでは自分の知識を求められているんだと。

一歩目の勇気

 「お、温度が! あ、あの・・・」
 一般に、タンパク質は40度くらいから変質をはじめます。(だから40度以上の発熱を伴う風邪が命に関わるんです) 鶏卵が目に見えて固まりはじめるのは58度からなんですが、スイーツづくりに使うなら40度でもすでに大問題なんですよね。
 ひまりはそれを知っていました。だから語りが止まらず過熱に気付けない博士に代わって、自ら知識を行使したわけです。なけなしの勇気をふりしぼって。
 「お、お湯を外してくださーい!」

 ひまりのスイーツの知識は自分も他人もみんな幸せにするものです。なにせそこには彼女の「大好き」がたくさん込められていますから。
 けれど周りに伝えられなきゃせっかくの知識も無力です。小さな頃のひまりはそのせいで悲しい思いをしてきました。「大好き」を笑顔に変えられませんでした。
 タンパク質の変質温度と同様に、彼女は知っています。本当はとっくに知っています。「大好き」を伝える、勇気の大切さを。
 ここらへんイザというときしれっと乗り越えられるからひまりはステキ。私この子のこういうところ好きなんですよね。(そしてまあ・・・劇中の活躍的にはちょっと地味になっちゃう一因でもある)

 「卵です。卵を温めると粘り気が弱くなって泡立てやすくなるんですよね」
 「せ、先生、あの、牛乳を少し多めに入れませんか? 大きいスポンジだと端がパサパサすると思うんです」
 「通常18cm型で30分の焼き時間。さらに熱伝導率を考えて・・・」
 「待ってください! あと1分です! ――今です!」

 一歩目さえ踏み出してしまえればあとはひまりの独壇場。ひまりは勇気の大切さを自覚する、勇気のプリキュアです。最初さえ乗り越えられればあとはずっと強い心で戦える子なんです。

 ・・・けれど、せっかくひまりの知識をフル活用してつくったスポンジケーキは残念ながら崩れてしまいます。
 先にも書いたとおり、この挑戦はそもそもすこぶる無謀なもので、決してひまりにミスがあったわけではありません。立花先生も(ピントはズレていますが)最初の計画に甘さがあったことを考察しています。知識あるひまりなら冷静になりさえすれば理解できそうなものですけどね。
 けれどひまりは自分を責めてしまうんです。どうしても。
 「ごめんなさい。ごめんなさい。きっと私のせいです。もっとうまくやっていれば。私なんて。私なんて・・・」

 それは勇気ある彼女がイザというときまで勇気を出せない原因。
 これまでずっと彼女から「大好き」を発揮する機会を奪い続けてきた病巣。
 「私なんて」
 ひまりはそろそろそれを克服しなければいけません。

イノセント

 「ひまり君。スポンジがおいしそうにふくらむのに一番大事なのは何じゃと思う?」
 せっかく助手に誘われても「私なんかが」と自分を卑下してしまうひまりに対して、立花先生はひとつ不思議な謎かけをしました。スポンジがふくらむからって、それが助手の件とどう関係するというんでしょう。
 けれど少なくともひまりの心を繋ぎとめるには良い謎かけです。スイーツの不思議への興味が尽きない彼女が、その答えに興味を持たないはずがありませんから。
 ・・・それはいいとして、はて、ところでその真意は?

 「ひまり君。スポンジがおいしそうにふくらむのに一番大事なのは何じゃ?」
 スポンジケーキを崩して「私なんて」と自己卑下するひまりに対して、立花先生はもう一度謎かけをします。
 その答えは「泡立てた気泡を潰さないように・・・」「オーブンの温度を・・・」スイーツの知識ではありません。立花先生はすでにひまりの知識を高く評価しています。今さらそんなことを確認するはずがありません。
 答えはごくごく簡単なこと。
 「それはの、つくり手の思いじゃ」

 キラキラパティスリーでいつもしていることです。
 スイーツに「大好き」を乗せてお客さんに届けること。
 「大好き」の循環をつくるための最初の一歩。

 ひまりのスイーツの知識は自分も他人もみんな幸せにするものです。けれどみんなを笑顔にしているのは知識そのものが役に立つからではありません。
 その知識には、ひまりの「大好き」の思いがいっぱい込められているからなんです。
 「懸命に知識を学び、勇気をもって焼き時間を見極める。君のスイーツへの強い好奇心があれだけ大きなスポンジケーキをここまでふくらませることができたんじゃよ」
 第13話、ひまりはとある女の子にチュロスの星形の秘密を教えてあげましたが、それはチュロスを味わうために役立つ知識というわけではありませんでした。そんな豆知識、別に食べる側にとっては知らなければ知らないでもいいこと。けれど、それでも、その知識を学んだ女の子は知る前よりさらに美味しくチュロスを食べることができたんです。
 それはなぜか。
 そう、それは、あなたの「大好き」を受け取ったからです。

 スポンジケーキは潰れてしまいました。
 だからどうした。そもそも科学に失敗はつきものです。
 だからどうした。そもそもスイーツづくりに失敗はつきものです。
 そんなことよりもずっと大事な、ずっとステキなものを、あなたは持っています。私たちに伝えてくれています。

 周りをよく見てください。
 この拍手喝采を。みんなの笑顔を。
 これこそが今日あなたがしてみせたこと。
 あなたはこんなにもたくさんの人を笑顔にしてみせました。こんなにもたくさんの人に「大好き」を伝えてくれました。
 それに勝る「大事なこと」なんてあるものか。
 「有栖川ひまり君。あの拍手は君への拍手じゃ。実験は大成功じゃよ。さあ、胸を張って観客に笑顔で応えるんじゃ」

 ひまりがイザというときまで勇気を出せないのは自分に自信がないことが原因です。
 彼女は自分にできることを過小評価しています。
 本当はこんなにもすごいことができるのに、本当はこんなにもすごいことをせずにはいられないくせに、「私なんかが」と根拠もへったくれもない自己卑下のせいで尻込みしてしまう。そんなのあまりにももったいないじゃないですか。
 ひまりには知識があります。
 ひまりには勇気があります。
 ひまりには「大好き」があります。
 だったら、その輝かしい持ち物を素直にひけらかしてしまえ!

 ハピネスチャージプリキュア!の後半戦は「イノセントな思い」がキーワードになっていました。
 人助けがしたい。誰かに褒められたい。おいしくご飯を食べてほしい。もどかしい思いを伝えたい。自分の表面に見えている欲求の、その根源とは、自分の中の最もイノセントな思いとはいったい何か。
 それを自覚すれば、人はもっと強くなれる。

 「私、できます! 私はできます! いえ、私だからこそできることがあるんです!」
 ひまりにはスイーツの知識をみんなに伝えたいという強い思いがあります。「大好き」を伝えたいという強い思いがあります。だったら、「私なんかが」だなんて尻込みしているヒマはないじゃないですか。
 本当のひまりは尻込みなんてしていられませんし、しないんです。
 ひまりは知性と勇気のプリキュアなんですから。

今週のアニマルスイーツ

 ひよこケーキポップ。難易度星2つ。
 私こういうのはつくったことがないなあ。

 要は使えなくなったスポンジケーキを再活用するアイディアですよね。割れたクッキーをタルトにするとか、古くなったパンをラスクにするとか、スポンジケーキの端材をトライフルにするとか、そういう類の。
 再活用向けのレシピなのにそれ自体おいしくて、むしろそっち目当てでつくりたくなっちゃうのもスイーツづくりのあるあるですよね。

蛇足

立花先生のメモ

190 カラメル
180 カラメルソース
165 べっこうあめ
145 ドロップ
140 タフィー
120 キャラメル
107 フォンダン
100 シロップ

 左の数字は糖の加熱温度を示しています。ひとつだけ107度と半端な数字なのが気になりますが・・・。
 カラメルは糖が完全に変化しきったもので、黒くて苦くて粘っこい物質です。もっぱら着香や着色に使われますね。つくった後の鍋を洗うときはお湯を沸かしてじっくり煮溶かしましょう。
 カラメルソース。カラメル化には段階があるので、ここでいうのはプリンに使える程度の粘度や甘みが残った状態のことだと思われます。
 べっこう飴はカラメル化が始まったくらいの温度でつくられます。あのほんのりとした香味がイイですよね。滋味。
 ドロップは普通のアメのことですね。カラメル化もしない砂糖そのものの甘み。余計な風味がないので果汁等の風味がストレートに乗ります。
 タフィーは要するにクランチキャンディーです。大抵は砕いたナッツを混ぜてつくられます。
 ここでいうキャラメルはまあ、よく知られているソフトキャンディのことですね。ヌガーともいいます。銀歯泥棒。
 フォンダンはシナモンロールとかにかかっている白くて柔らかい糖衣のことです。温かいチョコレートケーキの中に仕込んだフォンダンショコラも有名ですね。
 シロップはそのままシロップ。実は単なる水溶液ではありません。トロみがあるのは糖の化学変化のたまものです。

シエルが持ってきた雑誌の見出し

キラ星シエル2万字インタビュー ――若き天才がCiel de reveに懸ける夢――

 2万字って元ネタはロキノンでしょうか。
 「reve」はフランス語で「夢」のこと。つまりこの店名は「夢のシエル」ということになりますね。もっというと「ciel」は「空」なので、「夢の空」。シエルのイメージにぴったりのかわいい名前です。
 それにしてもこの子新聞やら雑誌やらさりげなくマスメディアに強いですよね。

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