ここにあなたの夢と希望があって?
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(主観的)あらすじ
シエルが勤めていたパリのお店からオーナーさんがやってきました。シエルを連れ帰りたいようです。「才能ある者は最高のステージに立つべき」 彼女はそう主張します。
いちご坂に残りたいシエルはこの町の良いところをたくさんアピールしますが、どれもオーナーさんには理解されません。いちご坂のような小さな町ではパリのように才能ある者たちに混じってしのぎを削ることができないからです。この町ではシエルは夢を叶えられない。オーナーさんはそう考えています。
いちご坂を離れたくないけれど、オーナーには恩があるし彼女の言うことももっともです。シエルは悩みます。ですかビブリーの助言によって答えを見つけます。「やりたいようにやりなさいよ。あんたの夢なんだから」
シエルはスイーツをつくりはじめます。いちご坂をイメージしたハムスターパンプキンプリン。けれどそれには同時に、フランス人であるオーナーさんを思ってフランス産のバターも使われていました。それがシエルの答えです。シエルはパティシエとしてもっと高みに羽ばたくため、これからもいちご坂で、食べる人のことを思ってつくるスイーツを学びつづけます。
悪意との戦いは一旦お休みして、今話はプリキュア史上初の映画連動回、かつシエル当番回。シエル加入にまつわる一連のエピソードのときも思いましたが、やっぱり才能の話は難しいです。私、そういう分野からは基本逃げまわってましたし。まず耳が痛いし思考を切り替えないと感想を書くのも一苦労。記事タイトルからどうしても「才能」の文言を抜けなくてゲロ吐きそう。
けれど、こういう世界、こういう価値観が存在することだけはどうか心に留めておいてください。特に、もしあなたが年若い人であるならば。
才能 (いつぞやと言ってることが違う)
「それが何? それがパリよりも価値があるとでも? ――天才だから。才能のある者は最高のステージに立つべき。それがパリにはある」
オーナーさんの言うことはいちいち苛烈ですが、しかしこれこそが西ヨーロッパにおける伝統的な「才能」観だと聞きます。(いきなり伝聞)
才能ある者はその才能を磨く義務がある。
富める者は才能を支援する義務がある。
なぜならそれを怠ることは、すべての才能なき人々に対する侮辱だから。
私はそもそも生まれついての才能なんてないと考える人間なので、正直なところこの考え方はあんまり好きじゃありません。
でも、まあ、そのくせ、幼い頃から自覚的 / 無自覚的に修練を積んできて、気づいたときには私なんかと全然スタート地点が違っていた人に対しては・・・やっぱりちょっと嫉妬しちゃうんですよね。そういう人たちがちゃらんぽらんにしているのを見ると腹も立ちます。
まあ、人間なにかしら取り得はあるものですから、もしかしたら私に対してそういう感情を持った人もいたのかもしれませんけどね。
知らない。なんにせよ私は結局努力しませんでした。
シエルは夢と希望のプリキュア。ことパティシエを目指すことに関してはピカリオを絶望させてしまうほどに、圧倒的な才能の輝きを放つ女の子です。
かつては彼女もまた、いちかという異質な存在に出会い、自分の才能ではたどり着けない境地があると絶望したこともありました。
けれどピカリオの手でその境地への架け橋を提示され、彼からもらった翼を背に、絶望の泥から這い上がってきたのでした。
シエルは今も自分の店で才能を磨きつづけています。
ピカリオから受けた支援を胸に抱いて。
けれどそれはそれ、これはこれ。
あなたがもし特定の分野で自分の才能を高めたいと願うのならば、環境にはどうしても優劣が生じます。
「歴史あるスイーツの都・パリ。超一流のパティシエたちがしのぎを削る、スイーツの中心地」
ある一定以上のレベルの才能の世界って意外と脳筋です。小手先のテクニックなんてライバルたちもみんな当然のように修めていますから。結局のところ才能を磨くためには、たくさんの優れたライバルたちとぶつかりあうしかありません。
オーナーさん、今回は「パリの方がすごい」の一点張りで何を言われてもつっぱねていましたが、実際そのとおりなんです。優れたライバルが多いこと以上に恵まれたことはありません。もしもパリにその一点しか取り得がなかったとしても、そのただ一点だけであらゆる環境に優越することでしょう。あなたが才能を持つ者ならば、絶対に。
だから、いちかたちがどれだけいちご坂の良いところを並べ立てたって意味がないんです。
パリこそが最高の環境なんですから。
「シエルのおかげでパリは活気づき、その経済効果は計り知れない」
「あなたがいないおかげでどれだけの損失が出ているか」
オーナーさんは物言いこそ苛烈ですが、誰よりもシエルの才能を高く評価してくれています。
「ここにあなたの夢と希望があって?」
誰よりも真摯にシエルの才能を思いやってくれています。
「mon tresor」 シエルとオーナーさんのお店の名は、「私の宝物」。
今回真摯じゃなかったのはむしろシエルの方でした。
「とにかく、パリには戻らないから! それにいちご坂はとってもいい町よ。パリにも負けないくらい」
オーナーさんの説得に対して、明確な根拠を添えずにただ反発しただけなんですから。
ここじゃなきゃいけない理由
そう。シエルはオーナーさんに反論する言葉を持ちません。
頭ではわかっています。オーナーさんの言っていることは正しいって。
けれどなにやら感情と直観が反発するんです。
だったら。
今回すべきことはオーナーさんの説得ではなく、自分への内省ですね。
オーナーさんは最初に核心的な論点を提示しました。
「ここにあなたの夢と希望があって?」
シエルはそれを肯定も否定もせず、あえて論点をずらして反発しました。
「いちご坂はとってもいい町よ。パリにも負けないくらい」
夢と希望はシエルにとって何よりも大切なものです。一流のパティシエになるのは昔からの夢でしたし、今となっては、一度絶望させ、支援までしてもらっているピカリオに対する責任すら負っています。「夢と希望」が論点の核心であることに関してシエルは絶対に否定できません。
ですがその一方で、「夢と希望」という論点においていちご坂にこだわらなければいけない理由が何かあるはずなんです。シエルはそれを直観しています。だからこそ「いちご坂はとってもいい町」という反論になっていない反発が口をついたんです。うまく言語化できていないだけで。
考えましょう。
考えるべきです。
それを言葉にすることは、オーナーさんのみならずあなたにとっても、きっと絶対に良いことです。
あなたの翼は自由だけれど、だからこそどこへ向かって羽ばたくべきかをきちんと見定めなければ、望む未来にはたどり着けませんから。
「ねえ、シエル。シエルの本当の夢って、何?」
考えることはそれだけです。
「やりたいようにやりなさいよ。あんたの夢なんだから。他人なんて関係ないでしょう」
オーナーさんへの恩とか、いちご坂への愛着とか、そういうものはこの際どうでもいい。そんなものはむしろ自分の才能を磨くことの邪魔でしかない。
それらを除いた先に答えはある。
「何かを得るためには何かを捨てなければならない」
プリキュアにあるまじきセリフですが、困ったことに今この瞬間に限っていうなら真理です。
思考を純化させましょう。
考えるべきはただ一点。
あなたはこの場所に、いったい何を求めているんですか?
他山の石以て玉を攻むべし
シエルは知っています。本当はとっくに知っています。
自分がいちご坂に何を求めているのかを。
いつかの養蜂場で見たもの。いちご山の地下で思い知ったもの。絶望させられたもの。
「キラリンにはいちかみたいな力はないキラ。気持ちを受け止めて、キラキラにして返す力・・・」
彼女はこのいちご坂で、今まで知ることのなかった全く異質な才能を目撃したのでした。
言語化が成ったならばするべきことは決まっています。
パティシエの言葉はいつもスイーツのかたちをしています。
ハムスターパンプキンプリン。
シエルだけでなく、いちかたちのアイディアも盛り込まれたスイーツ。
小さいけどみんな優しいいちご坂の町をイメージしたスイーツ。
シエルの才能の本領・アシェットデセールではなく、キラキラパティスリー向けのスイーツ。
そして、フランス産のバターを使った、フランス人であるオーナーさんへの思いがいっぱい詰まったスイーツ。
「いちかに教わったのよ。相手のことを思う大切さをね」
デコレーションで表現するいちかと違って、素材で表現するあたりがなんともシエルらしいですね。
「『大好き』が一番のマストアイテム」です。パリで他のパティシエたちと切磋琢磨することも必要でしょう。才能ある者は最高のステージに立つべきだというのは真理でしょう。けれど、それ以外にだって大切なものはある。
いちかはパリのパティシエたちと比べたらまだまだ見劣りするひよっこでしょうが、それでも彼女にはシエルがパリでは学べなかった特別な力があります。
誰かの「大好き」を受けとめる感受性。そしてその「大好き」をスイーツにめいっぱい載せて返す優しさ。
それが「才能」と呼べるほど大仰なものかどうかはわかりません。けれどそれは確かに今までのシエルにはなかったもので、そしてシエルの才能を今までにないかたちで磨き上げてくれるかけがえのないものでした。
シエルがいちご坂に求めているもの。
それはいちかです。
いちかの考え方を学び、いちかを育てた町の姿を学び、いちかと一緒に過ごす日々を学び、そしていつか、いちかの持つ特別な力をパリに持ち込んでやるんです。
きっとステキなことが起こるでしょう。きっとシエルはある一点においてパリの誰にも負けない絶対的な才能を奮うんです。そしてパリのパティシエたちがこぞって彼女のスイーツから新しい概念を学ぶんです。そのおかげでパリのスイーツ全部がまた少しおいしくなるんです。やがてはパリで学んだパティシエたちがその成果を地元に持ち帰り、世界中のスイーツがおいしくなるんです。
いちご坂で学んだシエルのスイーツを通して、いちかの「大好き」が世界中にまで波及するんですよ。
スイーツのセーヌ川がまた長くなりますね。
「私はパティシエとしてもっと高みに羽ばたいてみせる!」
だから、シエルがいちご坂で学ぶことは才能ある者の義務に合致します。
それはいつか才能ある者 / ない者に関わらず、世界中あらゆる人の利益につながることでしょう。
シエルにしか描けないステキな夢です。
パトロンとして納得しないわけにはいきませんとも。
キラキラプリキュアアラモードはバラバラの個性を持つ6人の女の子の物語です。
スイーツづくりが得意な子、そこまででもないけど大好きな子、そもそももっと別のところに興味がある子、いろんな子が一緒に仲よくスイーツをつくっています。
彼女たちはそれぞれに、それぞれの個性を様々な方向から磨く他山の石です。スイーツの本場・パリのようにみんな揃って同じ方向を向いたライバル同士ではないけれど、だからこそお互い学ぶことだってあるんです。
あなたの夢は何ですか?
あなたがいるところは、あなたの才能にとって一番の環境ですか?
それはまあ、辛くて厳しくて、いっつも努力し続けなきゃいけない苛烈な世界で、とてもとても誰にでも望めることじゃないんですけどね。
ですが、もしよろしければ、私はあなたが大成することを祈りましょう。
それはあなたを幸せにするでしょうし、ついでに私の幸せにもつながることですから。
この世界の「大好き」は循環しています。
今週のアニマルスイーツ
ハムスターパンプキンプリン。難易度星2つ。
見た目手間がかかってそうで、実際それなりにメンドクサイはずですが、意外と難易度は低め。まあカボチャのくりぬきさえうまくいけば、あとは失敗の少ないプリンとスイートパンプキンをつくるだけですからね。
坊ちゃんカボチャはこの時期なら道の駅やスーパーの地場野菜コーナーを回れば見つかるんじゃないでしょうか。近年核家族化が進んだ影響で人気が拡大しています。そんなに珍しい野菜じゃないはずです。
フランス産バターを使うのが物語の重要ポイントなのにシエルが思いついたのはプリンの部分かよ。プリンってバター使わないじゃん。・・・と思ってレシピを見たら、きっちりプリン生地にもバターを加えてありました。
おみそれしました。
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