
私はたくさんのスイーツでたくさんの人に出会ってきた。私は――ひとりじゃない!

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(主観的)あらすじ
「最近変わったよね」といわれるようになったひまりは、いきおい、スイーツ番組のオーディションに挑戦することを決めました。尊敬する立花先生も「ひまりちゃんらしく」挑戦するのはいいことだ、と背中を押してくれます。
ところが、そのオーディションはどうやらひまりが想像していたものとは少し違っていたようです。番組アシスタントの募集と聞いていたのですが、実際には新人アイドルを期待されていたようです。ひまりの評価は散々でした。場の空気に構わずいつもどおり大好きなスイーツの知識を熱心に語る彼女は、いつかと同じに「その話、要るのかな」と拒絶されてしまいます。
昔の自分が好きになれず、変わりたいと、変われたと思っていたのに、結局何も変われていなかった。そんな現実を目の当たりにしてひまりは大いに嘆きます。けれど現実といえば、彼女が辿ってきた過去の道のりにはもうひとつ、別の現実もあったのでした。「私はたくさんのスイーツでたくさんの人と出会ってきた。私は――ひとりじゃない!」
ひまりはありのままの今の自分を肯定します。期せずもう一度オーディションを受け直すチャンスを得ましたが、そこでも相変わらずひまりはひまりのまま、熱心にスイーツの知識を語ってみせるのでした。ひまりはそんな自分とスイーツが大好きです。
どんな物語においても通用する普遍的な強さというものがひとつだけ存在します。頑固、あるいはマイペースと呼ばれる精神性。つまりは周りがどうあれ私は私だと言ってはばからない、確固たる自己愛です。誰の干渉も受けつけないのですから当然どこに行っても絶対無敵。
有栖川ひまりというキャラクターは初めからそういう無敵の強さを確立していました。それにも関わらず彼女が引っ込み思案を演じていたのは、一種の傲慢とも取れるその自己愛を発揮することに遠慮を覚えていただけに過ぎません。彼女に欠けていたものは最初から最後までたったひとつ、小さな勇気ひとかけら。
コンプレックスはいずこに
「ねえ有栖川さん。これやってみない?」
「スイーツ番組、アシスタントオーディション?」
「え、ひまりん応募するの!?」
「・・・はい! 私、挑戦してみます!」
そこであっさり挑戦することを選んでしまえる自分の非常識さにいいかげん気づけ。
まともな引っ込み思案ならもうちょっと段取り踏んでヨイショエネルギーを蓄えてから、“仕方なく”“場の空気に流されて”“ちょっと困り顔で”応募するものですよ。ひまりの笑顔、超カワイイ!
「有栖川さん、最近変わったよね。前は・・・なんていうかちょっと話しかけづらかったけど、今は全然そんなことないもの」
「そうそう」
比較的付きあいの浅いクラスメイトたちは、ひまりが変わったと言います。
「そんなに変わったかな、ひまりん」
「うーん」
けれど彼女をよく知るいちかたちには、ひまりが変わったという認識がありません。
このひまりの二面性はどこから来るものでしょうか、というのが今回のお話。
「私、先生のようにスイーツの素晴らしさをたくさんの人に伝えたいんです。そのためにも臆病な自分を変えなきゃと思って」
引っ込み思案な自分が好きじゃなかったひまりはクラスメイトに「変わった」と言われて舞いあがり、この調子で自分を変えてしまえるようにと乾坤一擲の思いでオーディションに挑戦してみました。
ですが、それを聞いた立花先生はどういうわけかひまりの自己認識とは違う見かたをします。
「そうじゃな・・・。まあ、何でも挑戦するのはいいことじゃ。ひまり君“らしく”な」
なんとも歯切れの悪い言い方。
だって立花先生の知るひまりはとても引っ込み思案には見えませんもの。
「お、お湯を外してくださーい!」
「せ、先生、あの、牛乳を少し多めに入れませんか?」
「待ってください! あと1分です! ――今です!」
敬愛する大先生に向かって堂々と意見を言える「引っ込み思案」がどこの世界にいるものか。
立花先生からしたらテレビ番組のオーディションに応募するなんてこと、むしろ「ひまり君らしい」としか思えません。
実際、ひまりがオーディションで失敗した原因は引っ込み思案によるものではありません。
「あの! このホイップは何に使うものでしょうか? 生地全体に塗るためでしょうか? それともスイーツをデコレーションするためでしょうか? 用途によって泡立て具合が変わるんです! そもそもホイップをするならきちんと氷を当てて冷やさないと! 本当に美味しいスイーツのためにはきちんと科学に基づいてつくらなくては――」
単に期待されていたモノと提出したモノのミスマッチ。求められていたものがスイーツへの情熱ではなくテレビ映えするアイドル性だっただけ。
むしろひまりは審査員がドン引くくらい前へ前へとアグレッシブにアピールしまくっていました。いったいどこが「引っ込み思案」なのか。
「その話、要るか?」
「その話、要るのかな?」
そもそも順序が逆なんです。
ひまりは引っ込み思案だから今の自分になってしまったのではありません。
昔も今も変わらない押せ押せなひまりだからこそ、誰かに拒絶されることを怖れて引っ込み思案になってしまったんです。
そこを、彼女は自覚していません。
気づいているでしょうか。初めは自分が好きじゃない理由を「引っ込み思案だから」としていたくせに、途中から「失敗ばかりだから」にすり替えてしまっていることを。
ひまりの自己分析は常に破綻しています。その場その場にあわせて都合よく自分のダメなところ探しをしているだけで、彼女は自分で自分のどこが嫌いなのかを正しく理解できていません。初めから「自分が好きではない」という前提ありきで、その理由をテキトーに後付けしているだけなんです。
「スイーツは科学です。分量を量って正しくつくれば失敗しない。だから好き。でも友達の気持ちは私には量れません」
いいえ。あなたが本当に量れずにいるものは、何よりもまずあなた自身の心です。
誰が知るあなたらしさ
自分のことを一番よく知っているのは結局自分自身。
・・・なんてよくいいますが、そんなもの時と場合に依りけりですよ。しょせんどこかから借りてきた言葉、どんな名文句であろうとあなたを100%適切に言い表すことなどできはしません。
ちなみに↑のような論構成を“矛盾”といいます。結局自分と他人のどっちが正しいのよ。
「フフフフフ。あなたの心は脆そうだ」
というわけで(どういうわけだ)、ひまりみたいな子の自己申告をいちいち真に受けるから毎回道化に甘んじちゃうんですよ、エリシオさん。これまでの物語を見ていたらひまりの心が脆いだなんて思えるわけがないでしょうに。
ひまりのひまりらしさをひまり以上によく知っている人がいます。
いちかです。
「ひまりんは前からずうっとひまりんだよ。大好きなスイーツに一生懸命で、だからこそ人にもスイーツにも優しいひまりんで。ひまりんのいいところはね、変わらないままだと思うよ」
クラスメイトたちが「最近変わったよね」と言ってくれて、ひまり自身もその気になっていた、最近のひまりの良いところ。積極性だとか、人当たりのよさだとか、たぶんそのへん。
けれど、いちかは「変わらない」と言い切ります。クラスメイトたちがひまりを褒めてくれたことを否定するわけではありません。いちかもひまりの良さはよく知っています。知ったうえで、それらひまりの良いところも全部、最初からあったよと言うわけです。
ひまりのひまりらしさをひまり以上によく知っている人がいます。
あきらです。ゆかりです。シエルです。あおいです。
彼女たちもいちかに続いて、口々にひまりのひまりらしさを肯定してくれます。
ひまりのひまりらしさをひまり以上によく知っている人がいます。
立花先生です。
「そうじゃな・・・。まあ、何でも挑戦するのはいいことじゃ。ひまり君“らしく”な。うむ、そのノートのように」
「そのノートはひまり君の知性と努力の結晶じゃな」
彼は、ひまりが自分では変われたからこそ挑戦できたと思っていたオーディションの話を、最初から「ひまりらしい」と思ってくれていました。昔からずっと書いてきたスイーツノートに見て取れるひまりらしさは今も変わっていない、と。
ひまりのひまりらしさをひまり以上によく知っている人がいます。
他にもまだまだたくさん。
「いちかちゃんと一緒につくったバケツプリン。女の子に形のワケを伝えられたチュロス。立花先生のイベントでつくったケーキポップ。キラパティみんなでつくったスイーツの数々。いっぱい、いっぱいレシピがある。私はたくさんのスイーツでたくさんの人に出会ってきた。私は――ひとりじゃない!」
ひまりがスイーツを通じて出会ってきた人たちみんな、そのときそのときのひまりらしさを大好きになってくれました。ひまりが自分では変われたと思っていた、それよりも以前のひまりであっても。
それらの出会いをつくったのは、そう、いつだってひまりです。この子はいつだって自分から手を挙げて、いつだって自分から新しいことに挑戦してきました。何が「引っ込み思案」だ。何が「失敗ばかり」だ。
知らなかったのはひまりだけ。あと彼女の嘆きを真に受けちゃったエリシオだけ。
キラキラプリキュアアラモードの戦いは大いなる物量戦です。
たとえあなたには気づけないことであっても、他の誰かがあなたに代わって気づいてくれる。教えてくれる。あなたの瞳を曇らす心の闇は、あなたが「大好き」を通じてつないできたすべての人が、あなたに代わって晴らしてくれる。
あなたは必ずしも変わることにこだわらなくていいんです。大いなる物量戦の要はバラバラの個性。あなたはあなたらしくあればいい。「大好き」なものを大好きでいてくれればいい。だって、そんなあなたをこそ、私たちは大好きになったんですから。
絶対無敵の自由人
「はい。きっとまた失敗すると思います。でも私だから仕方ないんです」
「私は自分を変えられなかった。でも、全部変える必要なんてなかった」
「私は私のままで、それでもスイーツがあれば、これからも新しい出会いが待ってる!」
見よ、この傍若無人。失敗も不得手も全部ひっくるめて、まるごと自分の個性として肯定してしまいます。
元よりひまりという子はずっとこういう子でした。
「その話、要るか?」
トラウマになるくらいキツい言葉を投げかけられたにもかかわらず、ひまりはその後もみんなが好むテレビやアイドルの話題に迎合しようとせず、ひたすら自分の大好きなスイーツの知識にばかりのめり込んでいきました。
「その話、要るのかな?」
控え室の様子を見てアイドル性を期待されていたと理解したはずでしょうに、この子ってばいざオーディションが始まっても、熱くなる以前からそもそもスイーツ語り以外しようともしていませんでした。
ひまりの考え方は今も昔も一度たりとも変わったことがありません。クラスメイトに心ない言葉をぶつけられようと、ジュリオに諦めろとそそのかされようと、グレイブに無力をそしられようと、ディアブルに惑わされた大人たちの悪意を浴びようと、臆することはあっても自分のやりたいことだけは断固として曲げませんでした。
「スイーツは科学です。分量を量って正しくつくれば失敗しない。だから好き。でも友達の気持ちは私には量れません」
そもそもこの子は量る気がないんです。ひたすら自分が大好きなことだけやって、その「大好き」のパワーに惹かれて周りのみんなの方からこっちに来てくれるのをじっと待つ。そういう子です。
じゃあそんな傲慢気質な子がどうして今まで引っ込み思案のフリをしていたのかといえば。
「スイーツが大好きな気持ちと、ほんの少しの勇気があれば、私はきっと前に進んでいけます!」
それは単に、周りの人に自分の好き勝手を押しつける勇気がなかったから。
だから自分の内心だけで完結できる領分では決して折れないくせに、少しでも他人を巻き込んでしまう領分になるとすぐに引いてしまう。傲慢であると同時に臆病なんです。
自分を好きになれない理由がコロコロ変わってしまうのも当然です。だってこの子、本当は自分のことが大好きなんですから。他のどんな人の言葉にも耳を貸さないくらい、自分の考え方が大好きなんですから。でもそれじゃあ周りの人に迷惑をかけてしまうなということで、テキトーに言い訳をつくって自重してきただけなんです。
そんな気質を、ひまりは自覚していませんでした。
けれど今回、彼女はありのままの自分らしさを大好きでいてくれる人たちの存在を認知しました。
自分の好きなようにやっても周りのみんなに受け入れてもらえる場合があることを理解しました。
自分の好きなようにやることが周りのみんなを幸せにする場合すらあることを理解しました。
ひまりには勇気が少しだけ足りていませんでした。周りのみんながありのままの自分を大好きでいてくれると信じるための、ほんのひとかけらの勇気が。
もちろんこのやり方ではまた失敗することもあるでしょう。自分の我を押し通そうとする限り、誰かと衝突する可能性を回避することはできません。
それでも、失敗上等。だからといってこのやり方で全部失敗するとも思ってないし、このやり方で失敗してもへこたれる気なんてないし、このやり方でいつかは全部うまくいくと信じてるから。
私は私。私は私のやり方が「大好き」だ。
「これから先、自分がどんなスイーツノートを書いていくのか、今とってもワクワクしているんです」
私は私を信じてる。みんなが大好きでいてくれる私の好き勝手が、いつかとってもステキなものをつくりだせると信じてる。
「スイーツと、スイーツが好きな今の私が、大好きです!」
私は私を信じてる。みんなが大好きでいてくれる私の好き勝手が、私と私の「大好き」をもっとステキにしてくれると信じてる。
「お菓子はミラクル、笑顔キラキラル。みんなの気持ちが今ひとつになる!」
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