いいかぁ、レックス。お前の戦を、戦えー!!
少年の日の崩壊。
戦争と死を忌避する少年が尊敬した戦争屋は、少年の目の前でその太い生涯を綴じました。
(主観的)あらすじ
楽園へ至る手がかりを求めてインヴィディア烈王国の首都にたどり着いたレックスたちは、そこでイーラによる襲撃を受けます。
敵の力はきわめて強大で、レックスたちではとても歯が立ちません。レックスたちの力不足は代償として歴戦のヴァンダムの命を支払うことになります。尊敬する人を殺されたレックスは怒りに我を忘れ、無謀にも敵に向かって突進しますが――その瞬間、ホムラのなかで眠っていた天の聖杯の真の人格・ヒカリが目を覚ますのでした。
感想
「一人前のドライバーはブレイドを守るんだろ? ならオレはホムラを守ってみせる」
「口で言うほど簡単なこっちゃないぞ」
「ヴァンダムさん。オレさ、この命をくれたホムラのために二度と死なないって決めたんだ。だから絶対に死なない。そして必ず楽園に行ってみせる。ホムラと一緒にね」
「レックス、お前――」
高潔な理想を掲げるレックスに、あの日の戦争屋は何か言葉を投げかけようとしていました。
今となってはその内容を知ることはできませんが・・・あのときの彼の口調はどこか厳めしく、重たいものだったように思います。
「逃げろ。ホムラを連れてサッサと逃げやがれ」
戦争屋は最後の最後まで子どもたちを守るために戦争しました。
「見ただろう、王都を。スペルビアに攻め入るための船、武器、兵士。生きるのに精一杯な連中を。実に滑稽な姿じゃないか。今じゃ世界のどこにもあんなものがうじゃうじゃある」
どうやらレックスと同じく戦争を憎み、そのために人類の滅亡を標榜している様子のイーラたちと真っ向から対峙して、戦争屋は愛すべき子どもたちを守る戦争のあり方を示しました。
“守る”というのは簡単なことじゃありません。だってそれは誰かと衝突するときに初めて生じる概念で、すなわち“守る”とは“戦争”です。どんな形であれ、何かを“守る”という行為は必然として他の誰かの意志を阻害する“戦争”でもあるわけです。
ときには生命のやりとりが生じることもあるでしょう。誰かが武力でもって奪おうとする存在を守ろうと思うのならば、なおさら。誰かの命がけの奪取を阻害するからには、こちらも命を懸けなければなりません。
「ホムラを守る」
少年は自分の口から出たその言葉の意味を一面的にしか捉えていませんでした。
“守る”とは“戦争”であり、それゆえに場合によっては“死”をも生み出すものでした。
レックス少年がずっと忌避してきたふたつ。
まっすぐ芯が通っているように見えた少年の理想は、別の視点から見下ろすとふたつにもみっつにも途切れて分かたれていました。
ヴァンダムはレックスたちを“守って”、“戦い”、そして“死”にました。
戦争屋ヴァンダムはその死をもってレックスの青臭い思想に矛盾を突きつけました。
そして、そのうえで守ってくれました。
その高潔さをなおも愛してくれました。
「レックス――。死なないんだろ。死ねないんだろ。ならこんなところにいるんじゃねぇっ! 生きて、生き延びて、楽園に行くんだぁぁっ!!」
「いいかぁ、レックス。お前の戦を、戦えー!!」
高潔な理想を無邪気に信じきっていたレックスの、少年だった日の崩壊。
戦争と死を忌避していた心優しい少年は、心優しいがゆえに戦争と死の世界へと身を投じることになります。
ある意味では今話が本当の物語の序章。
真っ直ぐだった少年は自ら望んで矛盾をはらみ、いっそう魅力的な主人公へと成長していきます。
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