お前、俺に言ったよな! 「自分さえよければいいのか」って! 結局お前も同じじゃん!!
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(主観的)あらすじ
すこやか市侵略を開始したキンググアイワルを追って、街中のメガビョーゲンを浄化してまわるのどかたち。けれどギガビョーゲンとキンググアイワル、そして続々合流してくるダルイゼンやシンドイーネの猛攻によって絶体絶命のピンチに。
しかし、プリキュアにトドメを刺さんとするまさにその瞬間、キンググアイワルは食われました。
虚空に突如出現した闇の塊。その正体は真の姿を現したキングビョーゲンでした。キングビョーゲンは自らの力を取り戻すため、部下たちに進化を促し、始めから食らうつもりでいたのです。
キングビョーゲンの目論見を知り、ひどく動揺するダルイゼン。
キングビョーゲンは残りの部下を食うつもりかビョーゲンキングダムへ戻り、戦いは一時仕切り直しになりました。
のどかたちもそれぞれの家に帰り、家族の愛情を改めて噛みしめます。
束の間の日常に戻ろうとしていたのどか。
けれど、そこに傷ついたダルイゼンが現れ、「助けてくれ」と呪うように要求してくるのでした。
グッバイ、キングダルイゼン。
およそ1.5話分の活躍。予想よりはだいぶ長生きでした。下剋上直後のアバンしか保たなかったオッサンとか、5分かからず背中から撃たれたオッサンとか、あの辺のゴッドスピードよりはだいぶマシ。
彼だけ進化するときの葛藤がありませんでしたし、他にやり残したようなこと(=フラグ)も特になかったはずなので、出番はこれでおしまいでしょうか。あとはキングビョーゲンを倒したあと復活できるかどうかってくらい。
気のいい人だったんですけどね。もし人間と共存する道が見つかったら、特に何のわだかまりもなくしれっと仲よくしてくれることでしょう。
さて、そんなことはともかく。
いよいよ物語序盤からずっと宿題になっていたのどかの自己矛盾と向きあうときが来ました。
のどかはみんなに優しくありたい子です。
彼女が理想としているのはお医者さんが患者に向けるような無制限のいたわりで、しかも彼女はその対象を“患者”などと限定することなく、周りにいる人全てに分け隔てなく向けようととしています。だいぶ無茶なことを本気で実現しようとがんばっています。
だとしたら、です。
のどかは、ビョーゲンズにすらも優しくならなければなりません。
いつもあれだけ近くにいるのに、どうして彼らにだけ優しくできないのか。
どうして彼らと対峙するときだけ都合よく自分の理想を曲げてしまうのか。
ずっと見えないふりをしてきました。
「彼らはひどいことをしている」という大義名分を傘に、彼らにだけ憎しみの感情を抱くことを自分に許してしまっていました。
彼らが地球のみんなと仲よくしようとしないからといって、自分のほうも彼らを理解しようとしてきませんでした。
それは、“正義”であって“優しさ”ではありません。
「助けてくれ」
ダルイゼンが助けを求めてきました。
無様に。醜く。ひどく自分勝手に。ふてぶてしく。一方的に。同情の念なんて湧きようがない、助けるのが当然だとでもいわんばかりの、ただただ憎悪を刺激するばかりの態度で。のどかが密かに抱えてきた自己矛盾を的確に突いてきました。
あんな人にまで優しくしなければならないのでしょうか?
そのとおりです。
だって、そういうありかたこそが、のどか自身が理想に思い描いた自分らしさなんですから。
「ひなたちゃんらしい。でもそれ、本当に正夢になるといいね」
「え、さすがに困るよ。置く場所無いし。タピオカ1000年分」
「そこじゃないよ」
「ダルイゼンたちの話」(第38話)
正夢にできるといいですね。
優しい子
「のどか。大丈夫ラビ? プリキュアやっているせいでお母さんたち心配させたラビ」
「うん。でもお手当てをやめるわけにはいかないよ。キングビョーゲンも復活したし、私たちの世界をビョーゲンキングダムみたいにされたら嫌だもん」
のどかの戦いはけっして自己犠牲的ではありません。
地球のみんなを守るための戦いですし、そのための努力を一切惜しまないつもりではいますが、あくまでこれは自分がやりたくてやっていることです。
“私たちの”世界を守りたい。
のどかがみんなのためにここまでがんばれるのは、のどか自身がそういうことのできる自分でありたいと願っているから。
「お願い、ラビリン。私は運動得意じゃないけど、お手当てだけは、プリキュアだけは、何があってもがんばるから! 苦しむ地球をラビリンと一緒に助けたい! これが今、私の一番やりたいことなの!」(第2話)
ずっと願っていました。
ずっとずっと、今の自分では叶えられない大きすぎる理想を叶えたいと、叶えさせてほしいと、願いつづけてきました。
今の自分じゃ怪物を追い払えない。
今の自分じゃ仔犬一匹救えない。
自分が弱っちいことを承知のうえで、それでも諦められませんでした。
「ねえ。あなた、運動が苦手なんじゃなくて、あまりやったことがないんじゃないの? なんとなく。どれだけ動いたらどれだけ疲れるかとか、自分でわかってないように見えて」(第2話)
気持ちだけではどうにもできない現実があることを知っていました。
「のどか! あんな格好意味ないのわかってるラビ! なんで逃げないラビ!」(第2話)
自己犠牲の精神では周りに心配をかけてしまうだけの現実があることを知っていました。
「ごめん! 本当にごめん! ・・・ダメダメだよね。のどかっちが辛かったのに全然気付かないで。もう! 私ってばつい周りが見えなくなるっていうか。ひとりでどんどん突っ走っちゃって。――これ飲んで落ち着いたら帰ろ。ね、そうしよ」(第9話)
「グレース。どうして焦るのです。自分でも焦っているって気付いているのでしょう?」(第29話)
「帰ってるの!? ――よかった、無事で」
「探したんだぞ。帰ってくる途中で何かあったんじゃないかって。もしかしたら怪物に食べられたんじゃないか。逃げる途中でまた倒れたんじゃないかって」
自分が無理をすると悲しむ人が大勢いることを、のどかは知っています。
だから、みんなを守りたいと願っていても、そのために自分を犠牲にすることはできません。
「諦めなきゃいいんだよ。みんな、見捨てるつもりで花のエレメントさんを最後にしたわけじゃないでしょ。全部のエレメントさんを助けたい気持ちは変わらないでしょ。だったら、どんなに難しくてもお手当をつづける。それしかないんだよ」(第11話)
自分を犠牲にすることなく、だからといって妥協することなく、足りないところは不断の努力で埋めてどうにかする! 誰にも心配はかけさせない!
それが今ののどかのありかた。
だって、のどかが優しいのと同じくらい、みんなも優しいから。
優しいみんなを傷つけない優しい人になるためにこそ、のどかは自己犠牲とは見られないかたちの努力によって、地道に強くなろうと願います。
「シンドイーネらがメガパーツで進化を見せたときから密かに計画は進んでいた。少しずつ地球を蝕み力を蓄えるよりも、進化したしもべを取り込んだほうが、我の復活への近道であると」
「ひどい・・・。自分の仲間をそんなふうに・・・」
だから、自分の目的のため誰かを傷つけて平然としているキングビョーゲンの考えかたは、絶対に認められません。
自分も他人も犠牲になんてできない。
だって、それらはどちらにしたって同じ意味なんだから。
のどかは優しい子です。
ひどい人
「助けてくれ・・・。このままじゃ俺は俺じゃなくなる。消えてなくなる。頼む。キュアグレース。お前のなかに俺を匿ってくれ。お前は俺を育てた宿主だ。お前のなかならきっとこの傷は癒える。キングビョーゲンに見つからずに回復できる。頼む、助けてくれ。キュアグレース」
ひどい懇願もあったもの。ダルイゼンの要求は相互扶助ではなく、一方的な略奪です。相手の都合なんてまるで考えていないし、相手への思いやりも微塵もありません。
その無理筋が通ってしまう道理を、ダルイゼンは知っていました。
「お前、俺に言ったよな! 『自分さえよければいいのか』って! 結局お前も同じじゃん!!」
そうですとも。
のどかは優しい子。優しくありたくてがんばっている子。誰にも分け隔てなく。
のどかが本当に優しい子であるためにはダルイゼンを助けなければなりません。
そもそもこれまでがおかしかったんです。
この優しい子が、ビョーゲンズに、ダルイゼンに対峙するときだけ、どうしてあんな苛烈な目で睨みつけなければならなかったのか。
ダルイゼンはひどい人です。
「あなたたち、なんでこんなひどいことするの!?」
「ひどい? 何が」
「地球を病気にしてみんなを苦しめることだよ!」
「決まってるだろ。俺はそのほうが居心地いいからさ」
「自分さえよければいいの!?」
「いいけど?」(第6話)
この人は心の底から他人を思いやる必要なんてないと考えています。
「思いだしたよ。俺を育てたのは、キュアグレース、お前だって。メガビョーゲンの一部だった俺はお前のなかで成長してこの姿になったのさ。まったく面白い。ますます気に入ったよ、キュアグレース」(第28話)
しかも最近では、のどかを積極的に傷つけることを自分の喜びにしているきらいさえあります。
そういう人。
のどかには考えかたが理解できないし、理解したくもない、おぞましい相手。憎んでしまうのも仕方ない相手。
それでも、のどかは彼を助けなければなりません。
のどかは優しい子になりたいのだから。
「自分さえよければいい」なんて絶対に思っていないのだから。
だって、きっと後悔します。
「だったら! どうして毎日ここに来てるんですか。約束を信じてるからでしょう。永遠の友情を信じてるからでしょう!?」(第16話)
可能性を否定して、わかりあうことを諦めてしまうのは。
「何だろ。体調悪いわけじゃないのに、こんな気持ち初めて。・・・初めて? そっか。私、初めてお友だちとケンカしたんだ」(第15話)
傷ついた誰かを放っておいて、それで自分の胸まで痛くなることをガマンしてしまうのは。
のどかは優しい子で、優しくありたいとがんばっている子で、自分も他人も犠牲にできない子だから。
誰かと戦わなきゃいけない、なんてそもそも間違っていたんです。
誰かを傷つけなきゃいけない、なんてそんな自分を許せる子じゃなかったんです。
たとえどんな理由があろうとも。
たとえ相手がどんなにひどい人であったとしても。
「あなたにはわからないかもしれない。だけど私たちは、助けあったり、支えあったり、そうやって生きてるんだよ!」(第33話)
ずっと、目の前にいるのが生きた“誰か”であるという事実を、見ないフリしてきました。
終わるモラトリアム
「助けてくれ・・・。このままじゃ俺は俺じゃなくなる。消えてなくなる。頼む。キュアグレース。お前のなかに俺を匿ってくれ。お前は俺を育てた宿主だ。お前のなかならきっとこの傷は癒える。キングビョーゲンに見つからずに回復できる。頼む、助けてくれ。キュアグレース」
だからといって、ダルイゼンの要求をそのまま受け入れるわけにはいきません。
ダルイゼンを体内に匿うということはつまり、あのときの病気が再発してしまうという意味でしょう。
きっとお父さんお母さんがまた悲しみます。
ラビリンや、ちゆ、ひなた、アスミたちも。
それはできません。
のどかが自分を犠牲にしたら、みんなも一緒に犠牲になります。
だけど、このままではダルイゼンが消えてしまうことでしょう。
ひどい人で、弱っている今ですら思いやりのカケラもなくて、ここで助けたところでわかりあえる日なんて来ないかもしれないけれど。
今助けてあげないとこの人の命は確実に失われます。
2択です。
どちらも選べないでしょうが、でも、どちらかを選ぶしかありません。
自己矛盾を宿題にしておける時間は終わりました。
「・・・嫌。だって、ここを離れている間に取り返しがつかなくなっちゃったらどうするの? このステキな作品たちは? つくった人の――長良さんの思いは? 私は絶対守りたい! ここを離れたくない!」(第10話)
選びたくなくても、選ばなければなりません。選ばなかったらきっと後悔します。
――選んでも、どうせ後悔することになるでしょうけれど。
ここは取り返しのつかない分岐点です。
どうしますか?
自分を犠牲にしてまたみんなを悲しませるか。
それとも、ダルイゼンを見捨てて叶えたかった理想を諦めるか。
のどかは――、逃げだしました。
2択しかない取り返しのつかない選択肢は、無事、片方だけ選ばれました。
ちなみに、のどかの理想のモデルとなった人はこんなときどちらを選んでいましたっけ?
「ごめんね、今すぐに君を治してあげることができなくて。でもぼくたちは諦めない。だからのどかちゃんにも諦めずに戦ってほしい」(第11話)
そうそう。あの人はのどかと違う選択をしていましたね。
「目の前で小さな子がこんなに苦しんでいるのに何もしてあげられない。自分は医者なのに、なんて無力なんだろうって、ぼくは自分の不甲斐なさにすごく落ち込んでね。やがて君は自分で元気になって退院していって、結局ぼくは最後まで何もしてあげられなかった」(第33話)
――いいえ。同じ選択、だったのかもしれません。
これ、あなたはどっちだったと思いますか?
コメント
今回のラスト、「花寺のどかVSダルイゼン」ではなく、「花寺のどかの理想VS花寺のどかの生存本能」という構図にしてーーーーーー実は「花寺のどかVSキングビョーゲン」の頂上決戦第一幕だったのではないかと思います。
キングビョーゲンとは何者で、何が目的なのか。今まで今一つ見えてこないところがあったんですが……もしかすると、「命」「生き物」「生きること」が如何に矛盾に満ち、身勝手で、愚かで醜いものであるのかを暴きたて、嘲笑し愚弄してやることが目的だったのかもしれません。
で、キングビョーゲンに復活後第一のターゲットとされたのが花寺のどかで、ダルイゼンにプレッシャーをかけてのどかの許に駆け込むように仕向け、ダルイゼンを(キングの狙いどおりに)拒絶してしまった彼女の中にある矛盾=生き物ゆえの身勝手さを暴きたてて嘲笑ってみせた、と。
そしてこの嘲笑は究極的に、のどか達人間をパートナーとするヒーリングアニマル……の総元締で、容姿・思想ともにキングビョーゲンと“表裏”の関係にあるらしきテアティーヌに向けられたもの、だと思えるんですよね。
プリキュア(をはじめとする人間)は歯牙にもかけず、ヒーリングアニマルも基本的に小馬鹿にしているキングビョーゲンが、唯一異常な執着心をみせていた相手・テアティーヌ(フウには“テアティーヌのパートナー”だから執着していた印象)。その彼女を物理的にだけではなく、思想的にも叩きのめしてやるべく仕掛けられた、遠大な(回りくどい)当てこすり。
それでは、テアティーヌの方は人間(生き物)を信頼していたのかというと……「ヒーリングアニマルの事は秘密にしておかなければならない」と指示するあたり、基本的には信頼してなかったんでしょうね。「心の肉球がキュンときた人間」という例外を除いては。
ーーーーーーとまあ、ここまで並べ立ててきた憶測が合っているんだとすると、のどか達“生き物自身”が「生き物は(なんだかんだ欠陥はあっても)信頼に足る存在なんだ」と証明出来れば、キングビョーゲンVSテアティーヌの“思想戦”に決着をつけ、両者の果てなき消耗戦に終止符を打てるのではないか……などと思うわけですが、さて。
キングビョーゲンさん、今のところ地球を蝕むこと云々に特定の思想を見せていないので、私は“冷酷な人”というキャラクター像で認識しています。
“優しい子”ののどかとは対立しますが、せいぜいラテへの親心以くらいのもので特にそういうキャラクターイメージがついていないテアティーヌ様との対立軸はまだ見えないなあと。だからキングビョーゲンとテアティーヌ様がビジュアル的に似ている件については、私としては保留ですね。これから肉付けされていく伏線かもしれませんし、深い意味のない死に設定かもしれない。
のどかは、まあ、色々経験しながらもまだまだ自己犠牲精神が強すぎる献身的な子なので、ダルイゼンへの嫌悪がなければあのシーンでは手を取ってあげてしまっていたかもしれませんね。
あれだけ清々しく身勝手を肯定しといて、他人の優しさだけアテにするのは最低でしょう……。
いや、身勝手だからこそアテにするんですかね??
ともかく難しい問題をぶち込んできたものです。
最低とは言いましたが、流石にあんな顔見せられた後で見捨てるんじゃ心象悪いですし(のどかが逃げたのを否定する意図は無いです)
ていうか、そもそも割と広い領地があるのに人間界を侵略する理由があるのか疑問なんですけど。
あの誰が見ても最低なタカリ行為相手だからこそ、のどかの優しさの価値が問われるところですね。
あれをあっさり受け入れたらそれはそれで視聴者からの心証が悪くなると思います。社会的にはたぶん、やっちゃいけない類いの優しさです。
だけどのどかはあくまで優しくありたい子。冷たく切り捨てるなんてありえない。ここでどういうかたちの優しさを示せるかが問題になってきます。
ビョーゲンズという存在としては数を多くした方がいいはず、なのにキングビョーゲンは同族を吸収して数を減らすという強行手段を使いました。やはりキングビョーゲンはビョーゲンズの未来を潰す鬼教官のようですね。。
キングビョーゲンもダルイゼンも自分勝手という点では同じです。しかし、テラビョーゲンを生み出し数を増やそうとしたダルイゼンと自分を復活させるために数を減らしたキングビョーゲンでは真逆。最終的に地球を蝕めればどちらも同じではあるんでしょうけどね。
最もキングビョーゲンの指針に従っていたのはダルイゼンでした。真面目に蝕み、増やそうとしました。キングビョーゲンと同じように自分勝手に。30話くらいまでは表面上ではズレはなかったんですけどね。シンドイーネの進化を見たことで「自分達」ではなく「自分」こそ強くなるべきと思ってしまったようですね。
ダルイゼンにとっては親に裏切られたようなものかもしれませんね。
もっといえば初期のダルイゼンには特定の思想というものがありませんでした。何にもこだわらないからキングビョーゲンとの間に軋轢もなく、従順な手足として活動できてきました。
今は違います。ビョーゲンズ全体の目的とは関係なく、明らかに個人としてのどかに執着しています。のどかの思想に苛立ってもいます。だからキングビョーゲンと噛みあわない。
「お前の望みはビョーゲンズとして生きやすい星を得ることであろう?」じゃねーんですよ。今となっては。
キングビョーゲンがダルイゼンたちを裏切ったのと同じように、ダルイゼンもまた、胸の内ではとっくにキングビョーゲンを裏切っていました。