オッドタクシー 第7話感想 夢見る四十路の青二才。

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信じるわけねえだろ! でも話は聞いてやる。悪を懲らしめるためだからな。

「トリック・オア・トリート」

気になったポイント

承認欲求の強いチキン

 ビビって大学に来なくなった以上に、そもそも配信者として生計立てられそうだと思ったから単位も就活もぶん投げただけじゃなかろうか。ドブの件が終息した次に何のネタで食いつなぐつもりか考えている様子もなかったけれど。

小戸川宅

 一軒家を改築した借家だと思われるが、そういえば2階に住んでいる人は押し入れの件やら発砲事件やらに何も言ってこないのだろうか? 郵便受けが2つあるということは別世帯のはず。・・・まあ、借り手が付いていない可能性も充分にあるが。

押し入れの住人

 もし正体がノラネコその他の生きものだったとしたら、すぐ傍で銃声を聞いて興奮していないのは不自然では?
 撃ち込まれてからどのくらい時間経過したのか不明なため、ひとしきり暴れて落ち着いたあとの可能性もあるが。

大門弟の直通電話番号

 人と会う仕事なんだから名刺くらいつくっときなよ。公務員で下っ端だと案外支給されないから自前で用意しなきゃいけないのはわかるけれど。こういう用意の悪さひとつ取っても、普段いかに兄頼りで暮らしてきたのか察せられる。

白川とドブの関係

 白川の性格ならドブに関係を絶たれてもむしろ自分から執着しにいきそうなものだけれど、はたして。小戸川はドブと違って束縛してくれるタイプの男性じゃないし。ドブのほうは小戸川との約束が満了する前に手放しているあたり、最初から白川に対する執着が薄かったんだろう。
 ただ、雰囲気的にはすっかり心を入れ替えて主人公の味方になる流れなのよね。

脳のCT写真

 剛力先生、柿花の腰痛も見ているしやっぱり神経科なのね。精神科じゃなく。
 ちなみに診療録によると、小戸川が何かを訴えたからCTを撮影したとある。神経科なのでドイツ語のはずだが、筆記体のAdunssin?に該当しそうな単語が思いつかない。筆記体苦手・・・。

美人局

 今回は小戸川に仕掛ける罠として使い道がありそうだけれど、普段はこの美人局でどうやって稼いでいるんだろう? 焦げ付いた債務しか持ってない男なんていくら叩いても血しぶきしか出ないだろうに。

「Time is money じゃねえのかよマネージャー。早いとこ来ねえとアイツの二の舞。そう、この前。It’s a 倉庫の前」

 東京湾から上がった女性の水死体の件だと思われる。Deathを自称するヤノのこと、止める人がいないと死ぬまで暴力を振るいつづけるという意味か。
 山本マネージャーにとってコロシだけは止めてほしかった人物? となると消去法で三矢っぽく思えるが、何やらかしたらリンチされるハメになるのか。練馬の女子高生と入れ替わる件を告発でもしようとした? アイドルになる夢が摘まれるからとかそういう理由で。

夢から醒めた夜

 「わかってるよ! それでも、夢見たいんだよ!」(第3話)

 クソッタレな現実を変えうる可能性があるとしたら、それを持つのはきっと夢だけです。

 人は夢を持つから与えられた現実に満足しないんです。
 人は夢を持つから目の前の現実を変えたいと思えるんです。
 人は夢を持つから、成長できるんです。

 「ヤノの説くことは悉く実体を伴う暴力。まだprologue。準備はいいかい? 次のstage。具合はどうだい? 柿花英二」

 夢には現実を変えうる可能性があります。けれど夢自体に大した力はありません。夢見るだけでは夢は叶いません。
 力をつけるのは己自身。現実を変えようとする努力を伴わなければ。

 耽溺する。

 「正直なところ、最近のゲームは好きではない。ゲームとは現実から逃避するもののはずだからだ。仲間がいれば有利だったり、金や時間があれば有利だったり、それじゃまるで現実じゃないか」(第4話)

 夢を現実からの逃避先と勘違いするならば、ぬるま湯に浸かったままきっといつか溺死します。

 「――いや、俺たちだ! これを見てるお前もだ! 俺たちでドブを捕まえるんだ! 俺は明星大学の樺沢太一! 逃げも隠れもしない。俺が矢面に立つ。だからどんな情報でもいい、協力してくれ! 罪には罰を! 俺たちで悪を倒す! 正義は必ず勝つ!!」(第5話)

 幾多のインターネット正義マンに夢を与えた若者がいました。
 樺沢太一。彼が成功したのは、多くの人が心の底で求めていた夢を提供できたからです。

 すなわち。
 絶対に安全に、しかも良心の呵責もなく、多くの仲間とともに、楽しく気持ちよく誰かを傷つけられる。そんな夢。

 彼らは勇ましく吠える樺沢の姿に甘い夢を見ました。

 彼に着いていけば、このクソみたいな現実を変えることができると。
 正義のヒーローがおらず、悪党とクズばかりがでかい顔してのさばっている世のなかに、自分たちだけが正義を示すことができる。
 失敗してもリスクはゼロ。恨みが自分に向くことはない。恥をかかされる恐れすらない。何やらかしても全部あの樺沢とかいうインフルエンサー気取りが守ってくれる。
 誰もが本当はやってみたいと思っていたことを、けれど失敗したときのことを考えて自重していたことを、ちょっと樺沢をおだてて矢面に立たせるだけで安全に好き放題できる。
 これまでは仲間がいなかったから正義を執行できなかった。金や時間がないから正義を実現できる確信を得られなかった。だから持たざる者の俺たちは仕方なく諦めていた。
 けれど、失敗してもいいのなら。リスクを考えなくていいのなら。失うものがないのなら。いざというとき全部樺沢のせいにして逃げられるのなら、無力な自分たちにも世直しができる。

 そんな、甘ったれた夢を見ました。

 「誰だよてめえ。――ドブ!? おい、本物かよ・・・。知ってるかおい。お前捕まえたら樺沢様から100万円もらえるんだ。賞金首だぞ、おい! おい! 近寄るな! 撃つぞ!!」

 違う。
 彼らに正義を為す権利はない。

 違う。
 彼らは責任から逃れられない。

 彼らの求めた正義のヒーロー(哀れなイケニエ)なんてものは現実に存在しませんでした。存在するわけがありませんでした。
 誰が赤の他人のためになんざボランティアで責任を肩代わりしてやるものか。
 自分がやったことの責任すらも負いたくないのがお前たちの基本姿勢だろうに。

 「知らねえじゃねえだろ殺すぞテメエ!」

 「ふざけるのも大概にしろよ、ああ!?」

 現実の暴力を目の当たりにして夢から醒めた樺沢は“仲間”を見捨ててひとりで逃げだしました。

 夢から覚めてしまえば、そこに残るのは現実だけ。
 自分がやったことの責任は自分に返ってくるのが当たり前です。
 痛い目にあわなければならなかったのは、大言壮語をぶちかました口だけ野郎の樺沢ではなく、調子に乗って現実にバカなことをやらかした誰かさんでした。
 もちろん、こうなってしまえば樺沢も求心力を失うはずです。「俺が矢面に立つ」だなんて嘘っぱちだとバレてしまったんですから。

 夢には現実を変えうる可能性があります。けれど夢自体に大した力はありません。夢見るだけでは夢は叶いません。
 力をつけるのは己自身。現実を変えようとする努力を伴わなければ。

夢見る四十路の青二才

 「大門弟。お前は何故警察を志したんだ?」
 「悪を懲らしめるためだ」
 「なんで悪を懲らしめようと考えたんだ? 教えてくれないか」
 「――俺たちの両親はひき逃げ犯に殺された。それも、タクシーにな。悪いやつはオレたちが自分自身の手で捕まえる。兄ちゃんとそう誓ったんだ」

 現実から夢に逃避した者たちが次々溺死していく裏で、我らが主人公たる、いい歳こいて陰キャ高校生みたいな悪態しかつけないオッサンは、見るからに頼りないブラコン男に夢を問います。
 返ってきた答えはこれまたいかにもな青臭いヒーロー願望。現実の厳しさをろくに知らないガキんちょのころから変わることのなかったピュアっピュアな精神性を、小戸川はしかし、信用します。

 夢には現実を変えうる可能性があります。けれど夢自体に大した力はありません。夢見るだけでは夢は叶いません。
 力をつけるのは己自身。現実を変えようとする努力を伴わなければ。

 「・・・やっぱりお前、頭いいんじゃねえのか」

 大門弟は、まがりなりにも警官になる夢を叶えていました。

 この物語の主人公は夢に溺れた柿花でも樺沢でも、まして田中でもなく、あるいは冷たい現実の具現たるドブやヤノでもありません。
 主人公は小戸川です。我らが愛すべき四十路の青二才。
 気に食わないからってドブのようなチンピラにまでケンカを売りにいくアンポンタンで、白川みたいなダメ女の正体を知ってなお見捨てることのできないお人好し。あからさまにダメな夢を見ている柿花の気持ちが少しわかってしまうご同類。知己の剛力先生にはさっさと結婚しろとまで言われてしまいました。
 彼が主人公である以上、いくら夢というものに破滅的な毒性があろうとも、それでも夢見ることの価値は絶対に否定してやるものか。

 青臭い夢もときにはいいものです。
 少なくとも、現実逃避や責任逃れの魂胆見え見えな甘ったれよりはよほどいい。

 「それが本当ならすげえけど――。小戸川。お前も捕まることになるぞ」
 「構わない。悪を懲らしめるためだ」
 「お前・・・、悪の反対じゃん!」
 「“善”とかでいいじゃねえか、それ」
 「・・・すげえ説得力あったけど、ニワカには信じがたい」

 ・・・説得力、いうほどありましたかね?
 一番肝心な小戸川の行動原理が利害関係ブチ抜いた感情論でしたし。私だったら普通に疑う流れですよ。第3話で彼がドブに対してムダにケンカを仕掛けている姿を見ていなければ。
 これで説得されるし、これで説得できると思っている彼らの青臭さときたら。爽やかですね。

 「――そのころはそうだったかもしれない。でも今は、兄ちゃんは悪だ」
 「何を言っているんだ。お前な、たしかに兄ちゃんはオセロやるとき黒を選ぶよ。鬼ごっこのときも鬼をやりたがっていたよ。だからつってな!」
 「お前の兄とドブは仲間なんだ」
 「前も聞いたよ、それ。兄ちゃんに確認したさ。じゃあこう言ったよ。『違う』つってな」
 「それを信じるのか?」
 「当たり前だろ。お前と兄ちゃんどっち信じるつったら決まってんだろ。俺たち何卵生双生児だと思ってんだ。一だぞ!」

 ちなみに。
 たぶんそこまで含意しての話ではないと思うのですが、念のため。

 オセロってどちらかというと後攻(=白石)有利なゲームだといわれているんですが、知っていましたか? 大門弟。

余録:Yano’s lyrics

「痛ってえ。
痛えって言いてえのはこっちだ!
お前この喧噪のなかどこに目ぇつけて歩いてんだ。
戦争なのか? Love me tender?
『優しく愛して』って、うるせえんだ!
なあ。天下の往来。
誰が歩こうと問題はない。
だが結果 all right,
なら成り立たない。
だからこちとら喧嘩商売、
でやってんだこのノータリン!」

意訳:
痛い。あの。私、今、痛いって言いましたよね? この人混みでどこに目をつけてほっつき歩いていらっしゃるんですか? ブッ殺されたいんですか? まさか大目に見てほしいとかふざけたことを言うつもりじゃないですよね? ここは公道ですよ。あなただけの場所じゃないんですよ。何やっても許されるだなんて都合よく考えていたら世のなか回らないんですよ。ちなみにこちとらヤクザ屋さんなんですがね。ノータリンのあなたでも私に何をするべきかわかりますよね?

「・・・は?」

「Hah. 『は?』 それが answer か? 笑かすね、オッサン。
けっして謝らねえ算段なら、
ブチかますぞお前のその脳天に散弾銃! Bang! Bang!
散らばった脳みそ! 右脳! 左脳! 前頭葉! 小脳! 大脳! わかるだろう!?
俺が今欲しいのは、お前の心からの シャ! ザ! イ!!」

意訳:
ははは。まさかの「は?」ですか。人を笑わせるのがお上手ですね。あくまで謝るつもりがないということでしたら脳みそぶちまけますよ。いいかげんわかりますよね? 私はあなたの心からの謝罪を求めているんです。

「こんな人混みでキックボード乗ってるほうが悪いだろ」

「オイオイ! 『キックボード乗ってるほうが悪い』
なんて異口同音な意見はどうよ?
いちいち揉めたくねーよ素人と!
俺たちの間には長い長いシルクロード!
わかりあえない距離知る玄人!
ウンザリしてんんだ一般論!
お前も実ってんなら垂れろよ、頭を!」

意訳:
「キックボードに乗っているほうが悪い」だなんて聞き飽きた一般論をフカさないでくださいな。一応私もプロの端くれですから、素人さん相手に大人げないことはしたくないんですよ。なかなかわかってくださらないのも仕方のないことですがね。でもね。私たちの業界じゃ、あなたが言うような一般論は通用しないんですよ。いい大人なんですから、さっさと頭を下げてはいかがです?

「・・・悪かったよ」

「そう。それでいいんだよ、それで。win-win だろ?
このHalloween Jamboree で one-coin で買える缶コーヒー程度の温もりじゃん?
まるであの頃の下積み時代の coin laundries のように寒みー!
てなわけで、遠回りしたけれども、つまりtonight。
俺が言いたかったのは要するに『謝らないと』。
藪から棒に聞こえるかもだけど、Have a heart.
『悪かったよ』ってお前の思いやり! Yeah!」

意訳:
それでいいんです。謝罪というのは誰にでも簡単にできて、しかもお互い心が温まるものですね。まるでこのパリピ大集合の人混みでも変わらず自販機で買える缶コーヒーのようです。下積み時代は寒さに身を震わせながらよく飲んでいたことを思い出しますよ。さて、ずいぶん長話になってしまいましたが、要するに私が言いたかったのは「ちゃんと謝りましょうね」ってことです。あなたの誠意、たしかに受け取りましたよ。さようなら。

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