どうせ僕たちに世界は変えられないんだ。だから、大丈夫だよ。
「エイリアンズ」
気になったポイント
長良の能力【】
公式サイトでの紹介文によると「どんな能力を発現したのか、現時点では不明」。
学校内の様々な場所で異世界(※ 「この世界」)との接続ポイントを探し当てる能力だと考えられている。ただし、第1話で発見した無人島以外の世界は一様に人類の生存に適さない。実際にはもう少しセカイ系寄りの能力か。
本人の性格と併せて考えるなら、「どこかに行きたいが、自分なんかどこにも行けないと思い込んでいる」というのが彼の本質だろうか。
希の能力【コンパス】
公式サイトでの紹介文によると「どこにいても一点を示す光を見ることができる」「しかしその光は、希以外は見ることができない」。
本人はこの能力が「この世界」からの出口を指し示していると信じているが、実際に検証できているわけではないため真偽不明。
彼女に見えているものが視聴者にすら共有されないのが面白いところ。考えかたといい、謎めいた能力といい、主人公その他の登場人物とは明らかに一線を画している。いかにも正統派のボーイ・ミーツ・ガール ヒロインって感じ。
瑞穂の能力【ニャマゾン】
公式サイトでの紹介文によると「望んだものならなんでも3匹の猫が持ってきてくれる」。
豪邸や札束すら調達できているあたり、取り寄せられる金額やサイズに制限はないらしい。出現地点も自由に決められるようだ。猫関係ねえ。
「誰の助けも借りずに自活できるようになりたい」、それでいてしかも「煩わしいこと抜きで周りから認められたい」というのが本質だろうか。
朝風の能力【スローライト】
公式サイトでの紹介文によると「重力をコントロールできる」というシンプルな能力。
第2話劇中では空を飛んで偵察するために使われた。
おそらくはこの手の能力の定番として「何にも縛られず自由でありたい」という思いが具現化したものだろう。
ラジダニの能力【ポケコン】
公式サイトでの紹介文によると「プログラムを実世界に反映させられる」とのこと。
劇中では、四角い謎の光源や『スーパーマリオブラザーズ』のアイテムブロックを模した変身アイテム、仮想通貨HYO-RYU-COINなどをこの能力で開発している。
説明だけ読んでもピンとこないが、要するに彼がプログラムを記述可能な範囲でなら、物理的な材料も計算資源も一切必要とせずシステムを具象化できるということだろうか。必要なら物質として出現させることもできるし、あえて物質ではないアプリケーションとしても実装できると。好奇心の強い人間にとってはこんなに楽しい能力も他にないだろう。
それにしても管理リソースどころか信用や資本すらなく、新造の仮想通貨だけで交換経済を実現させた手腕はすごい。名目的な取引履歴さえ証明できれば貨幣価値なんてどうでもいい、おままごとみたいなシステムだけで事足りる状況だったとはいえ。
明星の能力【Hope】
公式サイトでの紹介文によると「イメージを具現化できる」。
自分で考えた都合のいいイメージを相手に見せているのか、相手の頭のなかに元々あったイメージを投影しているのかは今のところまだはっきりしない。おそらくは後者か。いずれにせよ、誰かを精神的に追い詰めるためにばかりこの能力は活用される。
以前から政治力が達者で暗躍することを好む生徒だった様子。この能力を獲得するに至った精神性は「他人を自分の思うとおりに操りたい」といったところか。
ポニーの能力【スイッチ】
公式サイトでの紹介文によると「触れたモノを入れ替えることができる」。
2つのモノの空間的座標を交換することができる。対象は空き缶でも人間でも何でもいい。第1話での描写を見るかぎり、実際には触れる必要すらなく自由に発動できる様子。もしくは自分自身を対象に含むことができ、なおかつ入れ替える片方にだけ触れていられればいい、ということか。
スイッチというより、チェスのキャスリングと同じと捉えたほうがわかりやすいか。「自分の目的のためなら他人を犠牲にすることも厭わない」という精神性がこの能力の本質だと思われる。
校舎の世界のルール
生徒会役員に「校則違反者に罰を与える能力」、不良生徒たちに「校舎を自由に荒らせる能力」が、個人の固有能力と別に付与されていた。
また、校舎内は時間が固定されていて、何が起きてもすぐに元どおりになる仕組みらしい。ケガをしても元どおり。電気水道使い放題。災害備蓄食料食べ放題。
その一方で、現在は校舎の大部分が沈没中。これはいくら時間が経過しても回復されず浸水が広がっていくばかりのようだ。
つまるところ、「生徒たち全員の立場を漂流時点のままで固定化させたい」という意志が世界のルールに反映されているように感じられる。生徒会役員と不良生徒たち双方を増長させる能力設定はもちろんのこと、その他大勢の一般生徒たちは無能力とされていたことも重要なポイント。無力な彼らは現状を変えることができず、流されたまま惰性で生きることを“許容される”。
・・・あの世界つくったの長良だろ。他の「この世界」と同じく、最終的にここも人類の生存に適さない環境になっているし。
無人島の世界のルール
自分の所有物以外の物品を手元に置いていると、その物品が青い炎を上げて自然発火する。この炎は熱いだけで人間の身体に危害を与えず、一方で個人所有の物品以外や自然環境には当たり前に燃え移る。
また、校舎内とはサイクルが違っているようではあるが、こちらでも引きつづきケガが治ったり時間が巻き戻ったりしている様子。
今のところ、「この世界」のなかでは唯一人類の生存に適している。
「個人の権利は理不尽に脅かされるべきものではない」とかそのあたりがこの世界の根幹思想だろうか。校舎の世界よりはだいぶ態度が軟化している印象。というか、「これは個人的なエゴではなく客観的事実だ」みたいな突き放した価値観(言い訳)が介在しているようにも感じられる。
ここだけ例外的に人類が生存できる環境になっているのと併せて考えると、この世界のルールを決めた人物は、この世界の支配者が自分以外の誰かだと思い込んでいるように思える。
ぱっと見だと校舎の外の世界を最初に観測したのは希っぽい雰囲気でもあったしね。
天恵と甘え
「甘えてるんだよ。あの子も、この世界も」
それを言ったらオシマイよ。
この物語の主人公は高校3年生。他の登場人物たちもせいぜい1~2歳しか離れていない高校生たちです。
高校を卒業したら大人扱いされてしまう。モラトリアムの終わりを意識せざるをえない。そんなティーンエイジャーたち。
もっとも、現実的には大半が向こう4年間ほどまだまだ大人の庇護下で暮らしていけるわけですが。でも、迷えるガキンチョどもはそんなヌルい世界の常識を知りません。自分が今まさに崖っぷちに立たされている心地でいます。
どうよ? あなたはどうでした?
私はめっちゃビビってました。
どうやったら誰の力も借りずにひとりで生活できるんだろう?
これまで親がやってくれた諸々の手続き、ぶっつけ本番で全部できるようになるんだろうか?
学校のなかですら面倒くさい人間関係、厳しいと聞く社会に出たらどんだけ理不尽になるのやら?
「・・・あの子はまだ何も知らないから。ひとりじゃ生きてけないんだから。・・・私が、一緒に――」
呟く瑞穂の左手薬指にはエンゲージリング。
これはあくまでとらの話。飼い猫の話。だけど他人事じゃない。自分にも身に覚えはある。
そうとも。“私は”まだ何も知らない。ひとりじゃ生きてけない。
なのに、結婚してくれるはずだった先生は自分を見捨てて蒸発してしまった。
「先生は知っているのかな? 君が資料室のwi-fiを遣い、同級生を中傷してるってこと」
「・・・先生は関係ない」
「君がそう言っても、先生には責任がある。まずは生徒会長に謝ってもらえないか」
誹謗中傷。悪評。濡れ衣。もしくは自業自得。だけど理不尽。ちょっと意地張って、ちょっと間違えてしまっただけなのに。なにもそこまでしなくてもいいじゃん。なんで私だけこんな目に。
まだ高校生です。普通ならまだ親の庇護下にいて許される年齢。
ちょっと背伸びして婚約することになったけれど、結婚相手はちゃんと年上の大人の人でした。まだ守ってもらえると思っていました。思い込んでいました。
「そうやってまた大事なものを見捨てるんだ。簡単なことなのに。たった一言――、そうすれば、先生もいなくならずに済んだのに」
子どもにだけ許される意地を張って、子どものままでいられる権利を失って、そうして現在に至る。
「君が火事の犯人?」
違う。
だけど信じてもらえるかはわからない。たぶん信じてもらえない。
だって、私はみんなと違う。私には守ってくれる人がもういない。無条件に信じてくれて、無条件に味方になってくれる人がいない。
そして、私には信用がない。誰かに守ってもらえないだけでなく、自分の身を自分で守る手段も持っていない。
私は子どもじゃなくて、それでいて大人にふさわしい力もない。
大人よりも、子どもよりも、私は弱い。
漂流とともに与えられた能力は、瑞穂にとってこれ以上なく都合のいいものでした。
望んだものを何でも好きなだけ手に入れられる能力。
学校内に味方がいない瑞穂にとって、生活の全てを自己完結できることこそが今この状況下での最重要事項。
それ以上のことなんて望む必要もありません。
そうです。
それなのに、彼女は自分の能力で調達した物資を、他の生徒たちに分け与えてしまいました。
その結果が今回の騒動。恩知らずにも、彼らはまたしても瑞穂の罪を糾弾しにやって来ました。
瑞穂が自分の能力を自分のためだけに使っていれば、こんなことは起こりえませんでした。
どうせ元々が敵だらけなんです。多少恵んでやったところで恩がどうとか期待するだけ無駄。
そんなのわかっていたはずなのに、瑞穂はせっかくの都合のいい能力をわざわざ無益なことのために使ってしまっていました。
「でもさ。彼女も自分が犯人じゃないってわかっているはずなんだけど。違うなら違うってはっきり言えばいいのに」
「甘えてるんだよ。あの子も、この世界も」
「・・・あの子はまだ何も知らないから。ひとりじゃ生きてけないんだから。・・・私が、一緒に――」
どうして、と問われるなら、それはただただ正しい判断ができなかったからというほかありません。
今の自分の状況、立場。それぞれの行動によって得られる利益と不利益の予想。自分にとっての最善を掴むために些末事を切り捨てる果断さ。冷静さ。あるいは勇気。覚悟。自己責任意識。・・・そういう総合的な観点から判断すべきことを判断しきれませんでした。
どっちつかず、誰も得しない、中途半端で甘ったれた判断しかできませんでした。
間違ってしまったあとのリカバリすらまともにできませんでした。あの日と同じに。くだらない、わかりきっていた失敗をまた繰り返しました。
結局、高校生はまだまだ子どもでしかないのかもしれません。
自分らしく
「あの日も同じだった。あの日――。私たちが漂流した日、君は鳥を見殺しにした」
それの何が悪い?
悪いことだってことくらいわかってる。
だけど、このくらい当たり前のことじゃないか。いちいち糾弾されなきゃいけないような話でもないじゃないか。
視線に気付いて、気まずい思いをした覚えはあります。
褒められたことじゃなかったのはわかっています。
だけど――。
「だって、あのときは急いでて。それに、下手に手を出すのはあまりよくないっていうし」
「だから?」
求められているのは弁明じゃないらしい。
「そうだよ。僕は冷たい人間だからわざと見捨てたんだ。こう言えば満足かよ」
「嘘だ」
求められているのは自嘲でもないらしい。
目の前にいるまっすぐな瞳の少女は、ひたすらに面倒くさい少女でした。
論破厨でも、正義マンでもないようでした。
せめてそういうゲスな心性だったなら適当にいなせたのに。
面倒なことに彼女は、レスバしたいわけでも、マウントを取りたいわけでもないようでした。
彼女はただ、まっすぐ、本音を問いたかったようでした。
「あの日言えなかったけど――」
あの日、彼女が長良に言いそびれていたこと。
「いるよね、そういう人。いっつも忙しぶってるやつ。行くところがいっぱいあるみたいな顔してさ、そういうやつに限って結局どこにも行くとこないの。――うん? ねえ、君。本当は――。本当はどこかへ行きたいと思ってる・・・?」(第1話)
これはその続き。
「誰かに見捨てられたことが、誰かを見捨てる理由になるの?」
目の前に立つまっすぐな瞳をした少女は、ただ、長良が本当は自分と同じ、まっすぐな思いを抱いているかもしれないことを信じたかったようでした。
今の自分にどこか悪いところがあると思っているのなら、ごまかそうとせず、開き直ろうとせず、ただ、ただ、自分が本当に悪いと思っていることだけを悪いのだと、あるがままに思っていてほしい。
たとえば瑞穂は最初、自分の罪を認めませんでした。本気で大した罪だと思っていませんでした。
結果、糾弾されました。
たとえば瑞穂は今日、自分の無実を主張しませんでした。どうせ何を言っても信じてもらえないと諦めていました。
結果、糾弾されました。
ぶっちゃけ、希が長良に問いかけているのはそういう類いの話です。
瑞穂が実際にやって大火傷を負ったのとほぼ同じ思考です。
これは子どもの考えかたです。利害ベースで最善を選択しているわけではありません。ただ自分が正しいかどうかだけを問題にして、周りにどう捉えられるかなんてちっとも考えていません。ダメージコントロール、処世術という概念が頭からすっぽり抜け落ちています。
今話はそういうストーリーです。
『サニーボーイ』はどうやらそういう物語のようです。
希というヒロインは、そういう子どもらしいまっすぐさをどこまでも貫き通そうとしている人物です。
だから彼女は異質なんです。
だから彼女がヒロインなんです。
長良をはじめとした普通の高校生は、今のうちに少しでも大人になろうとがんばっていて、希のいうような自分のなかだけの正しさなんてもう諦めようとしているのに。
誰がどう見ても損しかなくて、実際そのせいで不幸になっている子すらいる愚鈍な価値観を、それでも彼女は大切にしつづけるべきなんだと訴えています。
「考えてもしかたないよ。“そういう決まり”なんだから」
「・・・そう思えるやつはいいよな。お前、超能力ある?」
「あるわけないだろ」
「だよな」(第1話)
長良は瀕死の鳥を救おうとしませんでした。
2度もそういう場面に遭遇しておいて、2度とも同じ判断をしました。
そうするのが長良にとって普通で、そうするのが長良のキャラに合っていて、そうするのがきっとどこにも波風立てずに済む選択だったからです。
希以外が相手であれば。
長良たちのように子どもを辞めようとしている高校生たちにとって、前話で描かれた校舎のなかの世界は、実は都合のいい環境でした。楽でした。
立場が固定されていたから。自分の置かれている境遇は仕方のないもので、どうしようもないもので、だから自分にはそれに対する責任がないと信じることができたからです。世界のルールを、未だ大人になりきれていない自分への言い訳に使えたからです。
あそこはたいがい理不尽な世界なはずでしたが、それがあったから、あんな環境でも不満を漏らす一般生徒がほとんどいなかったんです。
「ねえ。君はヒマワリ派? それともタンポポ派? 今いる場所より眩しく見える場所があったら行ってみたくなるか、それとも置かれた場所でじっと眺めつづけるか」
「どっちかというと・・・、タンポポ派、かな?」
「じゃあ私と一緒だ。へへ」(第1話)
希のような子があの世界に魅力を感じず、抜け出そうとするのは当然のことでしょう。
ですが、長良のような子があそこで抜け出す選択をしてみせたことは、もうそれだけで主人公と呼ばれるにふさわしい、特別なことだったんです。
「燃えるのは私のせいじゃない。だけど、お金を降らせて島を燃えさせたのは私。だからそれは――、それだけは謝ります。ごめんなさい。でも、他のことは私のせいじゃないから! 絶対!」
瑞穂は結局自分の感情を優先しました。損得で考えるなら黙っていたほうが誰にとっても都合がよかったはずの話までわざわざひけらかし、それをもって今自分が他のみんなにどういう感情を抱いているのか明確にしました。
大人か子どもかで言うなら間違いなく子どもの思考でしょう。
ですが、今話の顛末を最後まで見届けたあなたは、きっと彼女は“成長した”と感じたものだと思います。
ここまで散々「大人とは自分の本音を隠して、周りの目や損得を優先した判断をするものだ」みたいなことを書いてきましたが、ぶっちゃけ私個人は全然そういうふうに思っていません。あれはティーンエイジャーだったころの私が漠然とイメージしていた大人観です。
“大人になる”っていうのはむしろ、今の瑞穂のようなありかただと思います。
自分に素直で、それでいてその生きかたを周りにも納得させられる。それができるだけの力を持ちたいと願う。さらにそれを本気で実現させようと努力しているならもう間違いない。
大人なんて、頭の中身は子どものころから何も変っていない。
「はい、これ。・・・ありがと。それ、猫のお礼」
「あ、あの。決済しないと。いくら?」
「要らない。それ、私のオゴリだから」
参加者全員に得があるからこそ定められるルール。社会契約。
交換市場を経由しない物品の受け渡しがその後炎上に繋がるかどうか、今の時点ではまだ検証が足りていません。念のため形式だけでも金銭との交換ということにしていたほうが安全ではあります。
だけど、知ったこっちゃない。
それを守るのは今の私らしくない。それを守るのは今の私の感情に反する。
大人こそしょっちゅう気軽におごりおごられするものです。
誰かにモノを贈ってちょっといい気分に浸りたいなってときにいちいち対価が返って来るというのは、なんというか、そう、水を差されたような感じでよろしくない。
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